猫のクッシング症候群は、犬と比較すると発生頻度が著しく低いです。
現れる症状も犬とはやや異なります。
この記事を読めば、猫のクッシング症候群の症状、原因、治療法までがわかります。
限りなく網羅的にまとめましたので、猫のクッシング症候群ついてご存知でない飼い主、また猫を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
猫のクッシング症候群〜症状、原因、治療、費用〜
この記事の目次
猫のクッシング症候群の病因
猫のクッシング症候群のほとんどは下垂体腫瘍による過剰なACTH分泌を原因とします(下垂体性クッシング症候群:PDH)。
猫の副腎腫瘍にはエストロゲンやプロゲステロンを分泌するものが多く、コルチゾールを分泌する副腎腫瘍は少ないです。
猫のクッシング症候群の症状
中~高年齢の猫で認められます。
本疾患の猫のほとんどはインスリン抵抗性の糖尿病を併発しています。
初期の症状は多飲、多尿、高血糖と尿糖陽性であり、皮膚症状は目立たりません。
このため単純な糖尿病と区別することが難しいです。
実際に、症例はまず糖尿病と診断されるが、高単位(例えば1 回投与量が1.5U/kg 以上)のインスリンを投与しても血糖は降下しません。
このインスリン抵抗性からクッシング症候群が疑われることが多いです。
クッシング症候群が進行すると、被毛が粗剛になり、皮膚が脆弱化し、脱毛や線状の裂傷、二次感染が認められるようになります。
さらに、骨格筋が萎縮し、運動が困難になります。
糖尿病の進行に伴って体重が減少し、ケトアシドーシスに陥る症例もいます。
- 起立困難、腹囲膨満、被毛粗剛
- 筋肉の萎縮のための起立不能
- 皮膚は非常に薄く脆弱で、容易に裂傷ができる
- 鼻梁の脱毛や落屑が多い
猫のクッシング症候群の診断
中~高年齢の猫がインスリン抵抗性の糖尿病であり、皮膚の菲薄化、脆弱化、裂傷、被毛粗剛、落屑などが認められれば、まずクッシング症候群を疑います。
糖尿病に甲状腺機能亢進症が併発した猫でも一見似たような状況になりますが、皮膚が高度に脆弱化することはないです。
猫のクッシング症候群の診断法は犬とほぼ同様です。
1) ACTH 刺激試験
合成ACTH を犬の場合の半量(コートロシン0.125 mg/head)筋肉内投与し、30 および60 分後に採血し、血漿コルチゾールを測定します。
健康な猫では、ACTH 投与後の血漿コルチゾール値は、およそ6~12μg/dL であり、15μg/dL を越えれば高値と考えます。
しかし、コルチゾールがピークとなる時間にはかなりの個体差があります。
このため、犬の場合と比較してクリアな結果が得られにくいです。
2) 低用量デキサメタゾン抑制試験(LDDST)
リン酸デキサメタゾン(0.015 mg/kg, IV)し、0、4、8時間後の血漿コルチゾールを測定します。
4または8時間後の血漿コルチゾールが抑制されなければクッシング症候群と診断します。
しかし、猫では入院や採血ストレスで容易に血漿コルチゾールが上昇するので、判定が非常に難しいです。
3) 高用量デキサメタゾン抑制試験(HDDST)
ほとんどの症例が糖尿病であり、HDDST は糖尿病を悪化させる危険性が高いため、行うべきでないです。
4) 腹部エコー
上記のように、猫のクッシング症候群の内分泌検査は難しいため、腹部エコー検査で副腎のサイズを観察するのが診断の早道です。
健康な猫の副腎短径は約3~4 mm だが、PDH の猫では両側副腎が腫大します。
副腎腫瘍または副腎癌によるクッシング症候群の猫(まれ)では片側副腎が腫大します。
猫のクッシング症候群の治療
PDH の場合にはケトコナゾール(5~15mg/kg, BID)を用いた内科的治療を行います。
トリロスタン(デソパン)も使用できますが、犬よりもはるかに高用量(10~15 mg/kg 以上, BID)が必要です。
猫のクッシング症候群の費用
基本的には内服のみでコントロールできます。
1ヶ月3000円〜5000円程度です。
猫のクッシング症候群の予後
猫のクッシング症候群の予後は、治療への反応により様々です。
初期(軽度)であり投薬に反応すれば、糖尿病が消失し皮膚症状も改善します。
治療に反応しない場合は、糖尿病のコントロールが非常に困難となり、予後が悪化します。
重篤な皮膚症状を呈する例は、皮膚感染症のコントロールが難しく、予後も悪いです。
獣医師解説!猫の糖尿病〜症状、原因、治療方法〜
獣医師が解説!猫の糖尿病は、その原因や程度によって無症状からケトアシドーシスにいたる幅広い病態を示します。糖尿病の原因によって治療方針が異なるため、糖尿病の猫では、適切な診断や治療ができれば長期予後は良いです。この記事を読めば、猫の糖尿病の症状、原因、治療法がわかります。
多飲多尿の判断とは?
1日に体重 × 50mL以上の水を飲む場合は注意が必要です。
個体差もありますので、個人的には60ml/kg/day(1日1kgあたり)までは許容範囲な感じがします。
では具体的にどれくらいの量を飲むと、異常なのでしょうか?
確実に病的な多飲としては体重 × 100 ml以上の水を飲む場合、水の飲み過ぎと判断して良いでしょう。
例えば、体重5kgであれば、5×100 = 500mL以上飲むと異常ということになります。
しかし、上記は目安なので、1日に体重1kgあたり80mlであっても、徐々に増加しているのであれば注意が必要です。
飲水量の計測
上記の体重×50mLという値は飲水 + 食事の合計量です。
5kgの犬猫のドライフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
ドライフード
ドライフードの場合は5kg × 50 = 250mL以上で水の飲み過ぎです。
ウェットフード
ウェットフードを与えている場合は、フードに含まれる水分も考慮しなくてはいけません。
5kgの犬猫が1日200gのウェットフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
多くのウェットフードに含まれる水分量はおよそ75%です。
つまり、200g × 0.75 = 150 mLの水分を食事から取っていることになります。
ウェットフードの場合は250mL – 150mL = 100mL以上で水の飲み過ぎということになります。
飲水量の測り方
置き水は飲む以外にも蒸発して減っていきます。
正確に飲水量を測る場合は、蒸発量を考慮に入れた以下の方法で測ると良いです。
通常の水入れの場合
- 同じ形の水入れを2つ用意する
- どちらにも同じ量の水を入れる
- 1つは普段通り自由に飲める場所に置く(A)
- もう1つは隣に飲めないようにして置く(B)
- Bの残りの水の量 – Aの残りの水の量 = 飲んだ水の量
これで正確な飲水量を測ることができます。
ペットボトルに入れるタイプで給水
この場合は、あらかじめ入れる量を計算すれば、蒸発を考える必要はありません。
もちろん体重 × 50 mlを超えていないかをチェックするのも大事ですが、水の飲む量には個体差があります。
1番大事なのは変化(増加傾向、減少傾向)です。
日頃から飲水量を測定しておき、増加していないかどうかチェックするのが良いでしょう。
排尿量の測り方
水を多く飲むということは、「尿の量が増えて喉が渇く」ということです。
多飲:多く水を飲むということは体が水を欲している脱水状態であり、必ず排尿量も増えます。
飲水量以上に排尿すると脱水になりますし、飲水量よりも排尿量が少ないとむくんでしまいます。
なんだか最近水を多く飲むようになったなあと思ったら、飲水量を測ると同時におしっこも確認して見ましょう。
- 量や回数が増えていないか?
- おしっこの色が薄くなっていないか?
また、自宅で簡単に尿検査ができるペーパースティックを使用して、血統、鮮血、pHを測定することも大事です。
ペットシーツを使用している場合、ペットシーツの重さを測ることで尿量を測定することができます。
勝手に飲水量を制限してはいけません
飼い主さんの中には、水を飲み過ぎていると、心配になって飲水を制限してしまう方がいらっしゃいます。
しかしこれはやってはいけません!
なぜなら、水を飲むということはすでに脱水状態にあるため、脱水状態が悪化してしまうから。
水を飲み過ぎてしまう場合は、水を制限せずに早めに動物病院を受診しましょう