猫風邪!ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルス〜原因、症状、治療法〜

    動物病院で、自分の猫が猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスと診断された...

    愛猫が猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスと診断されたけど、

    • 病院ではよくわからなかった...
    • 病院では質問しづらかった...
    • 混乱してうまく理解できなかった...
    • もっと詳しく知りたい!

    という事でこの記事に辿りついたのではないでしょうか?

    ネット上にも様々な情報が溢れていますが、そのほとんどが科学的根拠やエビデンス、論文の裏付けが乏しかったり、情報が古かったりします。

    中には無駄に不安を煽るような内容も多く含まれます。

    ネット記事の内容を鵜呑みにするのではなく、

    情報のソースや科学的根拠はあるか?記事を書いている人は信用できるか?など、

    その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。

    例えば...

    • 人に移るの?
    • 治る病気なの?
    • 危ない状態なのか?
    • 治療してしっかり治る?

    これを読んでいるあなたもこんな悩みを持っているのでは?

    結論から言うと、猫の上部気道感染症はキャットフル(Cat flu)と呼ばれ、猫ヘルペスウイルス、猫カリシウイルス、猫クラミジア、気管支敗血症菌が主な原因です。

    これら主要感染因子は単独でも臨床的異常を引き起こします。

    キャットフルのほとんどは猫ヘルペスウイルスと猫力リシウイルスが関与している混合感染が多いです。

    猫ヘルペスウイルス単独感染の場合は、猫ウイルス性鼻気管炎(Feilneviral rhinotracheitis,FVR)と呼ばれてきました。

    食欲不振、発熱、くしゃみ、鼻汁、流涙、眼脂、結膜炎、流涎、発咳、潰瘍性角膜炎などが発現します。

    通常2~3週間で回復するが、一部の猫は、その後に慢性の鼻汁排出や再発性の眼病を呈する続発症期聞がしばらくつづきます。

    そしておそらくすべての猫が、慢性の生涯続く潜伏性ウイルスキャリアとなります。

    この記事では、猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスについてその原因、症状、診断方法、治療法までをまとめました。

    限りなく網羅的にまとめましたので、猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスと診断された飼い主、猫を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。

    ✔︎本記事の信憑性
    この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
    論文発表や学会での表彰経験もあります。

    今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。

    臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!

    記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

    » 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

    ✔︎本記事の内容

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルス〜原因、症状、治療法〜

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの病原体

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの病原体

    ヘルペスウイルス目

    ヘルぺスウイルス科

    アルファヘルぺスウイルス亜科

    バリセロウイルス属

    に分類される猫アルファヘルぺスウイルス1:Felid alρhaherpesvirus 1 (FHV)によります。

    別名、猫ウイルス性鼻気管炎ウイルスFeline viral rhinotracheitis virus(FVRV)と呼ばれます。

    ウイルスゲノムは核内で複製されてカプシドに入れられ、粒子は最終的には細胞質内にて成熟し、エンベロープを獲得して細胞外へ放出されます。

    ヘルペスウイルスは初感染回復後も宿主体内に潜伏感染し、宿主の免疫低下に伴って再活性化します。

    このような潜伏・再出性化を終生繰り返します

    エンベロープの有無

    FHVはエンベロープウイルスなので、有機溶媒系の洗剤や消毒薬で容易に失活します。

    猫の気道感染症:キャットフル

    猫の気道感染症:キャットフル

    猫の上部気道感染症は.、キャットフル(Catflu)と呼ばれます。

    病原体は複合しているが、その中でも一次病原体(primary agent)として重要なのは、

    • 猫エイズウイルス(FIV)
    • 猫カリシウイルス(Feline calici virus:FCV)
    • 猫クラミジア(Chlamydia felis)
    • 気管支敗血症菌(ボルデテラ菌:Bordetella bronchiseρtica)

    の4種です。

    これらの微生物は単独感染でも臨床的異常を起こすが多くの場合、混合感染しています。

    加えてレオウイルス、常在しているマイコプラズマ、ブドウ球菌、レンサ球菌、パスツレラ菌、あるいは大腸菌などの二次感染因子が関与して病状が悪化します。

    猫ヘルペスウイルスと猫カリシウイルスはキャットフルの約80%に関与しています。

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの疫学

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの疫学

    FHV感染症は、飼い猫のいるすべての環境で発生していると考えられます。

    感染源は急性感染猫と潜伏感染キャリア猫の呼吸器分泌物です。

    動物園内のネコ科の展示動物の感染例もあります。

    多くの場合、園内の野良猫が感染源となっています。

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの宿主

    ネコ科動物だけが感受性と考えられているが、時に犬から猫ヘルペスウイルス類似ウイルスが回収されることがあります。

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの感染経路

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの感染経路

    猫ヘルペスウイルスの体外での生残期間が1-2日と短いので、ウイルスが混入している呼吸器分泌物への直接接触による伝播、あるいは空中に飛散した分泌物の吸入により経鼻的に感染するのが主な経路です。

    経口と経結膜による感染経路もあります。

    同室であっても飼育用ケージが数メートル離れていれば、空気伝播する危険性は低いです。

    ウイルス汚染器物を介する間接接触による伝播も起き得ます。

    特に猫同士が接触できるほどの狭い環境内で飼育されている場合は重要です。

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの感染の特徴

    1) FHVは急性感染後、潜伏感染を起こし、ウイルスを生涯にわたって体内にもちつづけます。

    2 )潜伏ウイルスは普段はウイルスとして発現していないため検出はできないが、ストレスを受けるとウイルスが再活性化し気迫粘膜面から排出されます。

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの発症機序

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの発症機序

    鼻腔に侵入したウイルスは気道粘膜に感染し、細胞破壊により上部気道炎を起こします。

    病型

    これまで猫の猫ヘルペスウイルス感染症として、以下の病型が報告されています。

    呼吸器感染型が発生のほとんどを占めており、そのほかの感染型はまれです。

    体温調節ができない新生猫では、血流を介して全身感染を起こすことがあります。

    加齢猫の場合、ウイルス血症を起こすことはほとんどなく、下記の各感染型はそれぞれの部位へのウイルスの直接感染の結果です。

    1. 呼吸器感染型:猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)
    2. 生殖器感染型:膣炎
    3. 眼感染型:角膜潰瘍、角膜炎
    4. 流産型:死・流産(ウイルスの直接作用とは考えられていない)
    5. 神経感染型
    6. 皮膚感染型:潰瘍
    7. 骨感染型:鼻甲介の壊死・骨吸収

    神経への潜伏と再活性化

    急性呼吸器感染の回復には通常2-3週間必要で、一部の猫はその後に慢性の鼻汁排出や再発性の眼病を呈する期間がしばらくつづきます。

    そして、おそらくすべての猫が慢性の生涯つづくウイルスキャリアとなります。

    これは他の動物種に感染するアルファヘルぺスウイルスの場合と同じで、急性感染時にウイルスが粘膜を支配している神経を中枢へ向かって上行し、中枢神経系の三叉神経節などに潜伏感染します。

    ウイルスゲノムは宿主細胞染色体から遊離した環状化エピソーム状態で存在していると思われます。

    その後、ストレスなどを受けると、1週間ほどの間にウイルスは粘膜に向かって神経を下行し神経支配している粘膜細胞で増殖、ウイルスを排出します(再活性化)。

    ウイルスは約10日間排出され、軽い呼吸器病を起こすこともあります。

    血中抗体について

    ウイルス感染後に血中抗体が出現しますが、この抗体と感染防御の関係は明瞭ではありません。

    上部気道粘膜面に分泌される分泌型IgA抗体は感染防御性です。

    移行抗体を保有している子猫や、非経口投与型ワクチン接種により血中抗体を保有している猫が猫ヘルペスウイルスに自然暴露すると、くしゃみなどの軽い呼吸器病を起こして潜伏感染に陥ることがあります。

    この潜伏感染はワクチンを接種をしても取り除くことはできません。

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの臨床症状

    猫ウイルス性鼻気管炎:ヘルペスウイルスの臨床症状

    キャットフルに共通する症状は、2-6日の潜伏期の後、鼻汁、くしゃみ、結膜炎、発熱、食欲不振です。

    猫ヘルペスウイルスに共通してみられる症状は食欲不振、発熱、くしゃみ、鼻汁、流涙、眼脂、結膜炎、流涎です。

    発咳や潰瘍性角膜炎などもみられます。

    これらの症状はFVRに特異的ではありません。

    キャットフルの診断

    キャットフルの診断

    臨床症状

    キャットフルの主要4原因の類症鑑別を示します。

    特徴的な症状発現例では、これによりある程度の鑑別はできます。

    しかし、あくまでも混合感染がない場合のことであり、複雑になったものは鑑別できません。

    病原学的検査

    確定診断は病原学的検査結果によります。

    ウイルス分離、細菌検査、クラミジア検査を行います。

    口腔・咽頭スワブを採取し、検査目的別の運搬用培地に入れて検査機関に依頼します。

    迅速診断:蛍光抗体法、遺伝子検査

    猫ヘルペスウイルスの迅速診断には結膜塗抹標本の蛍光抗体法が適しています。

    専門機関に依頼します。遺伝子検査も可能です。

    血清学的検査

    局所感染症ではあるが、ペア血清を用いた血清学的診断も実験感染例では可能です。

    しかしワクチン抗体や病原体の遍在性のために、猫ヘルペスウイルスと猫カリシウイルスでは難しいです。

    キャットフル:猫風邪の治療

    キャットフル:猫風邪の治療

    組み換えインターフェロン


    国内では猫カリシウイルス感染症の治療薬として、猫組換えインターフェロンが認可されています。

    発病初期の適用が必要です。

    点眼薬

    猫ウイルス性鼻気管炎の潰瘍性角膜炎には抗ヘルペスウイルス点眼薬であるイドクスウリジン(IUDR)軟膏・目薬が有効で、人医療用を転用できます。

    抗菌薬

    気管支敗血症菌やクラミジア菌、マイコプラズマ、さらにはその他の二次感染症には広域抗菌薬が重要です。

    テトラサイクリン、ドキシサイクリン、エンロフロキサシンなどが適しています。

    少なくても1週間は継続投与します。

    抗ウイルス療法

    アミノ酸リジン(lysine)の光学異性体であるL-リジンがFVRや潜伏感染の再活性化などの治療に有効であるという実験成績から、臨床例に経口投与されることがあります。

    リジンそのものには抗ウイルス活性はないものの、ヘルペスウイルスの複製に必要なアルギニンのレベルを下げるはたらきがあるという理由で用いられてきました。

    しかし猫ヘルペスウイルスの場合、リジンはアルギニンの抗抗物質ではないことから、最近の研究ではL-リジンの猫ヘルペスウイルス症例への応用の意義は否定されています。

    また、抗ヘルペスウイルス薬は医学領域で広く研究開発がなされてきており、それらは猫ウイルス性鼻気管炎症例の猫の治療への応用も試みられている。

    その他

    脱水、栄養補給、呼吸改善、気迫粘膜再生促進などを目的とした支持療法と、親身な看護を行います。

    投入療法として、温かく湿気の高い部屋に患猫を入れておくことや、噴霧、蒸気吸入も優れています。

    キャットフルの予防

    キャットフルの予防

    予防接種と衛生管理で予防します。

    ワクチン

    国内で市販されている3種混合ワクチンは猫ヘルペスウイルス、猫カリシウイルス、猫汎白血球減少症ウイルス(FPLV)からなる、非経口投与(注射)型コアワクチンです。

    生ワクチンは、筋肉や皮下といった本来の感染部位である呼吸器粘膜と異なるところへ接種する分には安全性が担保されている、使用制限付き異所接種用ワクチンです。

    ワクチン液が漏れて当該猫や周囲の猫の呼吸器に入ると発病する危険があります。

    「弱毒化してあるのだから大丈夫だろう」と注射用ワクチンを点鼻投与してはならない。

    ワクチンプ口卜コル

    子猫では6~8週齢で接種を開始、2~4週間間隔で16週齢まで接種します。

    6カ月または1年後に再接種(ブースター)し、初回免疫処置の後は感染リスクが低い場合は3年以上の間隔で追加接種を行います。

    感染リスクが高い場合は猫ヘルペスウイルス、猫カリシウイルスに対して年1回の追加接種が推奨されている。

    追加接種には初回免疫処置に用いたワクチンと同じ製剤でなくても構いません。

    ワクチン接種歴が不明の成猫(または16週齢以上の子猫)では通常2~4週間間隔で2回接種し、初回免疫処置の後は

    • 感染リスクが低い場合:3年以上の間隔で追加摂取
    • 感染リスクが高い場合:猫ヘルペスウイルス、猫カリシウイルスに対して年1回の追加接種が推奨されています。

    ワクチンの選択

    国内では3種混合ワクチンにクラミジアワクチンを混合したワクチンや、猫カリシウイルスフラクションを数株に増やしたワクチンも利用できます。

    欧米諸国では、速効性の点鼻投与用3種混合ワクチンや、生クラミジアワクチン、生ボルデテラワクチンも使用できます。

    環境整備

    猫は適切な温度、低湿度、十分な換気(15~20回/1時間)の下で飼育します。

    「ウイルスに感染している場合のワクチン接種の目的とは」

    ワクチン接種によって、潜伏感染は終止できません。

    しかし、ワクチンの追加接種によって回帰発症を防ぐことが期待されるので、ワクチン接種は許容されています。

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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