獣医師解説!猫の猫汎白血球減少症:パルボウイルス〜原因、症状、治療法〜

動物病院で、自分の猫が猫汎白血球減少症:パルボウイルスと診断された...

愛猫が猫汎白血球減少症:パルボウイルスと診断されたけど、

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結論から言うと、猫汎白血球減少症(Feline panleukopenia) は、移行抗体が消失する3~5カ月齢の子猫に頻発します。

成猫では不顕性感染が多いです。

免疫のない子猫は急性ないし甚急性の経過をとります。

急性の場合、早ければ暴露後2日目にも発熱し、腹痛、元気消失、食欲不振に陥ります。

この1~3日後に嘔吐と下痢が発現します。

発熱時が白血球数減少の極期です。

通常5~7日間の経過で体温が低下し死亡するが、これは腸管粘膜の破壊により腸内細菌が侵襲し、エンドトキシンショックを伴う敗血症とそれに引きつづいて起こる播種性血管内凝固(DIC)が原因です。

この臨床期を耐過すると、中和抗体の産生に伴って回復し始めます。

有効なワクチンにより管理可能な感染症です。

この記事では、猫汎白血球減少症:パルボウイルスについてその原因、症状、診断方法、治療法までをまとめました。

限りなく網羅的にまとめましたので、猫汎白血球減少症:パルボウイルスと診断された飼い主、猫を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。

✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。

今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。

臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!

記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

✔︎本記事の内容

猫の猫汎白血球減少症:パルボウイルス〜原因、症状、治療法〜

猫汎白血球減少症の病原体

猫汎白血球減少症の病原体

パルボウイルス科

パルボウイルス亜科

プロトパルボウイルス属

に分類される肉食獣プロトパルボウイルス1種

Carnivore ρrotoparvovirus 1の中の猫汎白血球減少症ウイルス株(FPLV)によります。

猫は国内で流行しているCPVであるCPV-2aとCPV-2bの両抗原型にも感染し、発病の危険性があります。

猫汎白血球減少症の疫学

猫汎白血球減少症の疫学

感染源は急性感染猫の排地物(嘔吐物、糞便)中のウイルス、およびそれに汚染した器物です。

FPLVは体外における抵抗力が強いウイルスで、室温で何カ月間も感染性を保持し通常の消毒薬では死滅しません。

そのため、1度発生したエリアでは発生が繰り返されることもあることから,殺菌力の強い塩素系の消毒薬やオートクレーブ消毒が必要です。

特に動物病院やペットショップなどでは、ウイルスが混入した糞便でケージや壁、床などが汚染した場合は、念入りな清掃と消毒が必要です。

猫汎白血球減少症の宿主

猫汎白血球減少症の宿主

ネコ科(飼い猫、ライオンなどの野生動物)、イタチ科(ミンク)、アライグマ科動物(アライグマ、ハナグマなど)に感染します。

飼い犬などのイヌ科動物には感染しません。

猫汎白血球減少症の感染経路

猫汎白血球減少症の感染経路

経口によるウイルス暴露後、咽頭や消化管上部リンパ組織でFPLVが増殖し、血液中に侵入するのが主経路です。

CPVと同様に、体外における抵抗性が非常に強いので汚染器物を介する間接接触による伝播も多いです。

ノミやマダニなどの吸血昆虫による機械的伝播も理論上可能です。

猫汎白血球減少症の感染の特徴

猫汎白血球減少症の感染の特徴

1) 経口侵入したウイルスが咽頭や消化管上部のリンパ組織に感染し増殖、そこから血液内に侵入して全身にウイルスが播種されます。

免疫系は即座に反応し抗体を産生し、ウイルスは免疫によって体外へ排除され感染は収束します。

典型的な急性ウイル ス感染症です。

2) パルボウイルスは催奇形性のウイルスであるため、胎盤内感染は様々な病理学的影響を胎子にもたらします。

猫汎白血球減少症の発症機序

猫汎白血球減少症の発症機序

移行抗体は平均すると3~5カ月齢で消失するので、この時期子猫にFPLは頻発します。

成猫では不顕性感染が多いです。

猫汎白血球減少症の胎子・新生子の感染

猫汎白血球減少症の胎子・新生子の感染

潜伏期は4-7日間です。

曝露後の典型的な経過は以下のとおりです。

  • 0-2日目 ウイルスは局所リンパ組織で増殖
  • 3-4日目 ウイルス血症により全身へ播種
  • 4-7日目 臨床症状発現
  • 5-6日日 ウイルス排出最大
  • 5-7日目 中和抗体出現、ウイルス血症は減弱開始
  • 7-10日目  中和抗体最大,その後最低2年間は存続
  • 7-14日日   ウイルス排出は終結

ウイルスは血液中に浮遊しながら全身に播種されますが、ウイルスの複製には宿主細胞側の条件が整う必要があります。

パルボウイルスはゲノムを極力小さくして複製できるように進化してきたウイルスであるため、複製に必要な各種酵素蛋白をコードしている遺伝子を保持していないです。

そのため最低限の遺伝子で複製する工夫をしており、ウイルスDNAゲノムの複製に必要なDNA合成酵素は宿主細胞のものを利用しています。

宿主細胞が分裂する細胞周期S(DNA合成)期に細胞内で増加するDNA合成酵素を自らのDNAゲノム複製に使用します。

つまり分裂している細胞、分裂細胞が多く合まれる臓器がCPVの標的として選択されます。

したがって、感染時に宿主のどの部位がCPVの増殖に好都合なのかが病型を決定します。

下記は犬と猫の感染時年齢と発現することが多い病型です。

妊娠時の感染は胎子死や流産の原因にもなっていることが推定されます。

症候群:病型 動物種 年齢
全身感染症 犬と猫 2~12日齢
白血球減少症 犬と猫 2~4カ月齢
腸炎 犬と猫 4~12カ月齢
小脳形成不全 出生2週間前~生後4週間
心筋炎:急性 3~8週齢
慢性 8週齢以降

FPLVと猫の場合、分娩前後における猫胎子や新生猫の感染では、運動失調症:Ataxiaや胸腺萎縮による免疫機能低下が問題となります。

小脳がほとんど形成されません。

新生猫の場合、開眼前や休息姿勢時には歩行異常を識別するのは難しいです。

罹患猫は自立採食が難しいことから予後不良と判断します。

それ以外の臓器の形成異常や機能障害についても、胎子感染するために起きないという保証はありません。

実際、犬パルボウイルス感染症のように心筋細胞も侵襲され、心筋炎や突発性心筋症につながる危険性が指摘されています。

猫汎白血球減少症のウイルスの標的細胞と二次感染

猫汎白血球減少症のウイルスの標的細胞と二次感染

授乳が開始されて腸内細菌叢が形成されるにつれ、腸陰窩細胞の分裂速度が早まり、FPLVの標的になっていきます。

大腸よりも小腸の方が盛んに分裂増殖しているために侵襲されやすいです。

破壊された腸粘膜は出血し、腸内細菌が粘膜内に侵入・増殖し、グラム陰性腸内細菌のエンドトキシンの作用により、典型的な出血性腸炎を呈します。

常時分裂を繰り返している骨髄や腸間膜リンパ節、パイエル板、脾臓などのリンパ組織は常にウイルスの標的となります。

若齢猫では胸腺も標的となります。

侵された胸腺は萎縮し、リンパ球は枯渇します。

その後、網内系細胞の過形成が起き、骨髄では好中球の減少による機能低下が起こります。

赤血球幹細胞は影響を受けにくいです。

腸内細菌がない猫(無菌猫)を用いた感染実験では発熱、リンパ球減少、好中球減少、胸腺の萎縮などは起きたが、感染から回復しています。

猫や犬がパルボウイルス病で死亡するのはウイルスの直接的傷害よりも、グラム陰性腸内細菌の二次感染によるエンドトキシン血症を伴う敗血症が引き金の「播種性血管内凝固disseminated intravascular coagulation,DIC」によります。

猫汎白血球減少症の感染から回復

感染後、抗体が産生され始めると急速に回復に向かいます。

感染回復後も1-2カ月、糞便や尿中にウイルスが排出されることがあります。

胎盤内感染した猫が生後長期にわたってウイルスを排出する「免疫寛容」もあります。

猫汎白血球減少症の臨床症状

感染後日数
潜伏期は4~6日
甚急性 急性
1 ・沈鬱、低体温
・24時間以内に死亡
2 発熱、腹痛、元気消失、食欲不娠
嘔吐、下痢
3 二峰性の40℃を超える発熱
(第一発熱)
4 白血球減少 (50~3000/μL)
二峰性の40℃を超える発熱
(第二発熱)
5 下痢とそれに伴う脱水、体重減少
6 ・エンドトキシンショック
・敗血症
・DIC
・低体温
7 ・75 ~ 90%が死亡
・これらの時期を耐過すると
中和抗体の産生に伴って回復

潜伏期は4-6日間です。

免疫のない子猫のパルボウイルス感染症の典型例は以下のとおりです。

  1. 急性ないし甚急性の経過をとります。
    甚急性の場合、極度に沈うつ、低体温に陥り、24時間内に急死します。
  2. 急性の場合、早ければ暴露後2日目にも発熱し、腹痛、元気消失、食欲不振に陥ります。
    この1-3日後に嘔吐と下痢が発現します。
  3. 数日間隔の二峰性の40℃を超える発熱を認めることが多いです。
  4. 第二発熱時が白血球数減少の極期で、50-3.000/μLにまで減少します。好中球数の減少が顕著です。
  5. 下痢は病後期に発現しやすいです。
  6. 食欲がなくなり下痢がつづくと、脱水や体重減少が顕著となり衰弱します。
  7. 通常5-7日間の経過で、体温が低下し死亡します。
    幼若齢猫の致死率は75-90%に達します。
    腸管粘膜の破壊により腸内細菌が侵襲し、エンドトキシンショックを伴う敗血症と、それに引きつづいて起こる播種性血管内凝固(DIC)が死亡の原因です。
  8. この時期を耐過すると、中和抗体の産生に伴って回復し始めます。

加齢が進み、特に成猫になると亜急性や不顕性感染をとります。

軽度の白血球減少や発熱がみられるが、数日で治癒します。

腸炎が悪化して死亡することもないです。

猫汎白血球減少症の診断

猫汎白血球減少症の診断

ワクチン接種歴を調べます。

ワクチン接種済の猫の場合には、猫白血病ウイルスの検査を実施します。

まず臨床病理学的に診断します。

ワクチン未接種の特に幼若齢の猫が突然の発熱、食欲・元気消失、嘔吐・下痢などを呈し、白血球数が3,000/μL以下であれば暫定診断可能です。

抗原検査

確定診断は病原学的検査に基づきます。

すべての排地物(特に糞便)中にウイルスが排出され、容易に検出可能です。

国内ではFPLV専用キットが入手できないので、市販のCPV検出用のイムノクロマトキットやELISAキットを用いるといいです。

ただし病後期になると腸管内に「糞便抗体」が産生され、ウイルス粒子を被覆するために抗原検出キットには反応しなくなる危険性があります。

ウイルス分離、遺伝子検査

細胞培養によるウイルス分離やPCR法などは専門機関に依頼します

血清学的検査

血清学的にも診断は可能です。

中和試験や血球凝集抑制試験による抗体の有意上昇の確認、IgM 抗体活性の検出などで実施できます。

猫汎白血球減少症の治療

猫汎白血球減少症の治療

確定診断前から対症療法(補液、輸血、二次感染の防止)を行います。

発病後~5日くらいの間、すなわち血液中に中和抗体が出現し始めるまでをしのぐことができれば、血中抗体の増加に伴い急速に回復が期待できます。

猫のパルボウイルス感染症の治療に「猫組換えインターフェロン」が認可されています。

初期の適用で効果があります。

支持、対症療法で致死率は下がります。

感染性腸炎の基本的な治療

以下に感染性腸炎の治療法の基本

支持-対症療法により致死率は低下します。

  1. 脱水、敗血症、アシドーシス、電解質平衡障害の改善
  2. 消化のよい低脂肪フード(カッテージチーズ/ゆでた鶏肉+米/市販の低脂肪・蛋白フード)を与える。
  3. 抗菌薬、輸液(+デキストロース)は基本的に非経口投与します。
    経口抗菌薬療法は腸内正常細菌叢を破壊するため望ましくないです。
    広域スペクトルの抗菌薬(アンピシリンやゲンタマイシン)を選択します。
  4. 激しい失血、低蛋白血症の場合は、全血あるいは血漿輸血を実施します。
    供血猫は猫コアウイルスに対して高度免疫してあると好ましいです。
  5. 吐物や糞便への血液の混入、発熱、 白血球減少、ショック、播種性血管内凝固(DIC)などの場合は細菌の二次感染の疑いが強いので、抗菌薬の全身投与を考慮します。
  6. パルボウイルス感染症では、初期の血清療法が有効です。

猫汎白血球減少症の予防

猫汎白血球減少症の予防

ワクチン(FPLVに対して)

不活化ワクチンと生ワクチンが市販されています。

いずれも猫へルベスウイルス1と猫カリシウイルスとのいわゆる「3種混合ワクチン」が汎用されています。

犬の場合と異なり、高い移行抗体によるワクチン干渉を示す子猫が少ないため、生ワクチンに固執する必要はありません。

注意点

パルボウイルスは催奇形性ウイルスであることから、特に妊娠猫と新生猫(4週齢以下)への生ワクチン使用は禁忌です。

ワクチンプロトコル

初回免疫処置は、子猫では6~8週齢で接種を開始し、2~4週間間隔で16週齢まで接種、6カ月または1年後に再接種(ブースター)します。

ワクチン接種歴が不明の成猫(または16週齢以上の子猫)、3年以上間隔が空いた猫では通常2~4週間間隔で2回接種します。

FPLVに関しては、いずれも初回免疫処置の後は3年以上の間隔で追加接種を行うことが推奨されています

(※同じコアワクチンである猫カリシウイルス、猫ヘルペスウイルスについては、感染リスクの高い猫では年1回の追加接種が推奨されています)。

追加接種には初回免疫処置に用いたワクチンと同じ製剤でなくても構いません。

猫のCPV-2aやCPV-2bに対する特別なワクチン処置(例えば犬用ワクチンの転用)は不要です。

「猫汎白血球減少症は一度かかると、その後はかからないか」

感染によって獲得した免疫やワクチンによる免疫の持続期聞が長いため、次に感染しても発病しない可能性が高いです。

しかし、個々の症例は条件がすべて異なるため、「一度かかるとその後はかからない」と決めつけて考えるのは科学的ではありません。

 

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no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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