獣医師解説!猫の重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)〜症状、原因、治療法〜

動物病院で、自分の猫が重症熱性血小板減少症候群と診断された...

愛猫が重症熱性血小板減少症候群と診断されたけど、

  • 病院ではよくわからなかった...
  • 病院では質問しづらかった...
  • 混乱してうまく理解できなかった...
  • もっと詳しく知りたい!

という事でこの記事に辿りついたのではないでしょうか?

ネット上にも様々な情報が溢れていますが、そのほとんどが科学的根拠やエビデンス、論文の裏付けが乏しかったり、情報が古かったりします。

中には無駄に不安を煽るような内容も多く含まれます。

ネット記事の内容を鵜呑みにするのではなく、

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その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。

例えば...

  • 人に移るの?
  • 治る病気なの?
  • 危ない状態なのか?
  • 治療してしっかり治る?

これを読んでいるあなたもこんな悩みを持っているのでは?

結論から言うと、猫におけるSFTSウイルスの感染および発症は2016年に初めて報告されました。

症状は人と類似しており、 発熱、消化器症状、血小板減少、白血球減少などが認められ死亡例も多くみられます。

発症した猫では血液や糞便からウイルスが検出されており、飼い主はその取り扱いには十分な注意が必要です。

本稿では人での感染事例や対応法を解説した上で、猫については現在分かっている事を紹介します。

この記事を読めば、重症熱性血小板減少症候群の症状、原因、治療法からダニ予防の必要性までがわかります。

限りなく網羅的にまとめましたので、猫の重症熱性血小板減少症候群と診断された飼い主、猫を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。

✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。

今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。

臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!

記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

✔︎本記事の内容

猫の重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)〜症状、原因、治療法〜

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の病原体

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の病原体

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus
ブニヤウイルス目 Bunyavirales
フェヌイウイルス科 Phenuiviridae
フレボウイルス属  Phlebovirus
マダニ媒介性の人獣共通感染症です。
フレボウイルス属のウイルスは、主に蚊やマダニなどの節起動物によって媒介されます。
同じフレボウイルス属には蚊媒介性人獣共通感染症であるリフトバレー熱ウイルスが含まれます。
エンベロープを有しているため、様々な消毒薬に感受性が高く、消毒は比較的容易です。

猫の重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の疫学

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の疫学

人における疫学

国内では 38℃以上の発熱と消化器症状(嘔吐、悪心、腹痛、下痢、下血)を呈し、

血液検査所見で、血小板減少、白血球減少および血清酵素(AST、ALT、LDH)の上昇がみられ、集中治療を要す、もしくは要した、

または死亡した者(他の感染症や他の病因が明らかな場合は除く)を対象としてSFTSウイルスに対する感染症発生動向調査が行われています。

その結果、西日本を中心として 2018年1月31日までに、合計318名の患者が報告されており、そのうち60名が死亡しました。
SFTS

動物における疫学

2010年以降に山口県で捕獲されたシカとイノシシのSFTSウイルスに対する抗体の保有率を調査した結果、2010年にはすでにシカの半数がSFTSウイルスに感染していたことが示されています。

さらに、様々な野生動物におけるSFTSウイルス感染状況を調査したところ、アライグマで24.5%(673/2.742)、タヌキで8.1% (481595)が抗体陽性を示しました。

他に、イノシシ、シカ、アナグマ、ハクビシン、サルがSFTSウイルスに感染していました。

月別では2月と3月以外のすべての月でウイルス保有動物が存在しており、SFTSウイルスの発生時期ならびにマダニの活動時期と一致していました。

猫の重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の宿主と感染経路

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の宿主と感染経路

SFTSウイルスの感染環

マダニ個体の中でSFTSウイルスを伝播するマダニサイクル

マダニが感染している野生動物を刺咬することで感染し、さらにほかのマダニに伝播する動物サイクル

マダニサイクル

SFTSウイルスはマダニ媒介性ウイルスです。

媒介マダニとしてこれまでに明らかとなっているのはフタトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニです。

人や動物が感染マダニに刺咬されることで感染するとされています。

SFTSウイルス感染犬の周辺で捕集されたすべてのステージのフタトゲチマダニがウイルスを保有していたことから、マダニのすべてのステージで維持されていることが証明されました。

また、飽血雌成ダニが産んだ卵および卵から解化した幼ダニからも同様にウイルスが検出されており、SFTSウイルスは垂直伝摘することが明らかとなっています。

以上のことより、1匹のSFTSウイルス保有雌成ダニより多くのSFTSウイルス保有マダニが誕生することが示唆されます。

動物サイクル

中国の流行地では、ヤギ、ヒツジ、ウシなどの反芻獣がSFTSウイルスの感染率が高いといわれています。

山口県における調査においても、反芻獣であるシカにおいて抗体保有率が高いことが示されています。

SFTSウイルス保有マダニに刺咬された動物はウイルスに感染します。

ウイルスに感染した動物の血液中にウイルスは存在します。

その結果、ウイルス保有動物(特に野生動物)に同時に咬着しているすべてのマダニがSFTSウイルスを含む血液を吸うことで、SFTSウイルス陽性になります。

それらウイルス保有マダニは飽血後、動物から落ちて脱皮あるいは産卵することにより次のステージに進み、草むらなどで次の動物を待ちます。

このように1頭のウイルス保有動物から大量のウイルス保有マダニが生じるサイクルを動物サイクルといいます。

マダニサイクルと動物サイクルにより、大量のウイルス保有マダニが生じてきます。
これらウイルス保有マダニが、人、生産動物、伴侶動物、動物園動物、野生動物を刺咬し、SFTSウイルスを伝播します。

人一人感染

中国・韓国ではSFTS患者との濃厚接触により、家族、医師、納棺師などの感染が報告されています。

猫一人感染

2016年に、SFTSが強く疑われる猫に咬まれた人が、数日後にSFTSで死亡していたことが厚生労働省から発表されました。

この猫は野良猫で、体調不良を認めたため咬傷被害を受けた人物が捕獲し、動物病院を受診していました。

翌日に猫は動物病院から逃げ出したため、SFTSの確定診断はできていないが、臨床症状、血液検査の結果から、ほほ間違いなくSFTSでした。

猫はSFTSウイルスに感染して死んでいるため、全国調査で抗SFTSV抗体保有検査を行った所、抗体保有個体は見つかりませんでした。

猫におけるSFTSウイルス感染

2017年4月以降、立て続けにSFTS発症猫およびチーターが確定診断されています。

これまでに猫では7例の確定症例があり、うち5例で死亡が確認されています。

そのうち数例について以下に紹介します。

2017年4月に和歌山県の猫が発熱、食欲廃絶を主訴として来院し、白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇、CPK上昇などを示しました。

3日後には再来院し入院しました。

糞便よりSFTSウイルス遺伝子検出およびウイルスが分離されました。

6日後の血清からはIgM 抗体と遺伝子検出、ウイルス分離が陽性となりました。

11 日間自力採食できなかったが、入院12日目より自力採食するようになり、入院12日目の血清と糞便からのウイルス検出を最後にウイルスが検出されなくなり、無事退院しました。

その後の血清の調査でIgM抗体の消失、IgG抗体の上昇が認められました。

2017年8月には鹿児島県の猫がSFTSウイルス感染と診断されました。

その猫は来院後2日目にてんかん様発作で死亡しています。

この動物病院には、同様の症状を呈した猫が多数来ているとのことで、2013年に死亡した猫のカルテを確認したところ、臨床症状や血液検査結果はほぼ同様でした。

2017年10月にも同動物病院にSFTS発症猫が来院し、入院3日目には死亡しています。

さらに、2018年2月には山口県の動物病院に採餌困難、下痢を呈し衰弱した猫が来院し、血液、口腔スワブ、糞便サンプルからの遺伝子検出およびIgM抗体の上昇が確認され、SFTSと診断されました。

血液検査では肝酵素の上昇は認められなかったが、白血球および血小板の減少、CPKの上昇が認められました。

上述のとおり、猫では発症後に高率で死亡していることから、SFTSウイルスは犬と比較して猫に対して強毒であることが判明しました。

さらに、

  • 血清からだけでは遺伝子診断が確実ではないこと
  • 口腔・糞便にウイルスが排出されていること
  • IgM抗体の検出とIgG 抗体の回復後の上昇

が検査の指標になることなどが明らかとなっています。

また、マダニの性質により、人では春・秋に発生が多くなっているが、猫では冬でも発生が認められています。

チーターにおけるSFTSウイルス感染

チーターでは同じ動物園内で飼育されていた2頭で確定診断されており、双方とも死亡しています。

症状は急速に悪化しており、食欲廃絶や吐血といった症状が認められています。

血液検査所見では白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇といったように、猫と同様の所見が認められました。

死亡個体の各臓器からウイルス遺伝子の検出、分離がされており、血清からはIgM抗体の上昇も認められました。

猫の重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の診断

診断は発症した時期、地域、マダニの刺傷歴、臨床徴候、血液検査所見(血小板減少、白血球減少)に基づいて行います。

SFTSウイルス感染初期の臨床徴候は特異的ではないため、確定診断には必ず遺伝子検査、抗体検査、抗原検査など専門機関での検査が必要となります。

白血球減少を伴う他の感染症や疾病との鑑別が重要です。

遺伝子検査

特異的診断としては、糞便、口腔スワブ、血液からのウイルス遺伝子の検出が確実です。

SFTSウイルスの実験室診断において迅速かつ特異性、感度ともに高い方法はRT-PCRによる遺伝子検出です。

通常の RT-PCRとくらべて感度、特異性が高く、コンタミネーションが少なく、迅速に診断できるReal-timePCRの系もすでに開発されています。

抗体検査

血清学的診断では、ペア血清を用いた急性期と回復期におけるウイルス中和試験、あるいはELISA法による抗体の上昇を確認します。

抗原検査

国内ではウイルス分離にはバイオセーフティーレベル3(BSL-3)の実験室が必須であるため、一般的な診断には不向きです。

ウイルスは早ければ2-5日で分離できますが、電子顕微鏡観察もしくは遺伝子検出を行い保定する必要があります。

猫の重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の治療

犬における重症熱性血小板減少症候群の治療

現在、猫におけるSFTSウイルスに対する治療薬は存在しません。

対症療法を行うべきです。

人のSFTSとほぼ同様の症状を示すので、人における症状管理が一部適応できます。

人においては絶対安静、流動または半流動食、十分な水分補給が推奨されており、特に低ナトリウム血症の際は電解質および、水分のバランスに注意します。

細菌や真菌による二次感染を引き起こした場合は適切な抗菌薬を投与します。

抗ウイルス薬のひとつであるリパピリンは、実際の臨床における効果については不明な点が多く、SFTSウイルスに対して高い治療効果は期待できません。

獣医師がSFTSウイルス感染動物から咬傷や掻傷を受けた際に使用を検討してもよいですが、処方可能な病院は限定的です。

隔離と消毒

SFTS発症動物に遭遇した場合は、行政や研究機関に相談します。

SFTS発症動物は基本的には入院させます。

入院させない場合、 SFTSウイルスが野外で広がり、特に飼い主が曝露するリスクがあります。

入院後はほかの動物と隔離しさらに、診察・ケアをする獣師および看護師は個人防護具を着用します。

排泌物、汚物にはウイルスが大量に合まれている可能性があるので、0.5%次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。

その際は、飛散を防ぐために、おむつなどで覆った後に、次亜塩素酸ナトリウムで処理し、決して直接触ることがないように処理しなければなりません。

猫の重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の予防

犬における重症熱性血小板減少症候群の予防

媒介するマダニの刺傷を可能な限り防ぐことが、SFTSウイルスの感染予防に最も効果的です。

ワクチン

現状ではSFTSウイルスに対するワクチンは存在しません。

マダニからの防御

人における対策

ワクチンは開発段階であり、現状では媒介するマダニの刺咬を可能な限り防ぐことが、SFTSウイルスの感染予防に最も効果的です。

マダニの刺咬を防ぐために以下の点に注意します。

①マダニの生息場所には可能な限り近付かない。

野生動物が出没する場所や道端の草むら、畑などにマダニは生息しています。

②野外では、可能な限り肌の露出を少なくし長袖、長ズボン、手袋などを着用

またなるべく明るい色の服を着用することで、黒・濃い茶色をしているマダニを早期に発見

③マダニによる吸血を防ぐためにディートやイカリジンが含まれる忌避剤が有効です。

商品によって有効成分の濃度と効果に違いがあるので、使用には注意が必要です。

動物における対策

マダニ駆除薬

各種マダニ駆除薬が獣医師向けに販売されています。

特に患者発生地域の犬・猫には処方するべきですが、前述した様に全国的にSFTSウイルスは存在しています。

その為、西日本に限定するのではなく全国の犬・猫にマダニの駆除薬は内服すべきです。

これは犬・猫を守るだけでなく、飼い主や獣医師を守ることにつながります。

また、マダニの活動が盛んになる3~12月にかけて積極的に処方すべきですが、

マダニは地域によっては通年捕集されるため、通年の処方がより良いと考えられます。

ブラッシングとマダニの除去

マダニはすぐには咬着せず体表を歩き回っているため、散歩後のブラッシングも有効です。

室内飼育犬に関しては、マダニを室内へ持ち込まないためにも、室外でのブラッシングが重要です。

マダニが咬着しているのを発見しても慌てず、獣医師に相談するのがよいです。

病院で咬着したマダニを注意深く取り除き、その後の健康管理に注意し、経過を観察します。

上記に合致した症状が出た場合は確定診断を研究機関に依頼することが重要です。

実際の予防薬









「マダ二から人や犬・猫に感染したときの潜伏期間はどのくらいか」

人ではマダ二に刺傷されてから6~14日程度とされています。

犬や猫における潜伏期間は感染経路も含めて不明な点も多く、明確ではありません。

マタ二間の維持についても同様で、今後さらなる研究・調査が必要です。

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no life no dogs & catsをモットーに、いつも犬と猫に癒されています。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。
現役獣医師が海外で勉強しながら得た、犬と猫の病気に対する知識とスキルを発信していきます。

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