猫との生活の中で、下痢は非常によく見られる病気です。
猫の下痢には、様々な原因があります。
腸炎、膵炎、リンパ種、食物アレルギー、寄生虫、中毒、免疫介在性疾患など多岐に渡ります。
本記事では、その中でも子猫に多く、また感染していても症状を出さずに、感染源となり、人にも感染する可能性のあるトリコモナス感染症について解説します。
この記事を読めば、猫のトリコモナス症の症状から治療まで理解することができます。
限りなく網羅的にまとめましたので、猫のトリコモナス感染症について、ご存知でない飼い主、また愛猫が診断された飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
猫のトリコモナス症とは?症状から治療まで
猫のトリコモナス原虫とは
トリコモナスは、鞭毛虫類に属する原虫で、体の大きさは10~20μmです。
犬や猫、齧歯類、家畜、大型の草食動物だけでなく、人にも感染し、宿主域は広いです。
小腸全域に寄生しますが、大腸や盲腸にも認められます。
栄養型虫体のみが知られており、シスト(嚢子)のステージはないため、感染は栄養型虫体(便)の摂取により成立します。
生鮮時は鞭毛や波動膜を使い、体全体を小刻みに震わせながら前進性の運動をします。
治療を継続してもなかなか治らない、トリコモナスが居なくならないという事態も多いので、非常に厄介な寄生虫です。
駆虫しきれずキャリアとなると、明らかな血便や下痢は示すことなく時々軟便になる程度で、ほとんど無症状で過ごしている事も多いです。
しかし便には寄生虫が居る為、免疫力の弱い子犬子猫や持病がある子などには感染しやすくなります。
また稀に人間にも感染する事があります。
その為、他の子との接触を避け、感染が確認された子を隔離し、使用していたトイレや敷物などをよく洗って干して乾かすなど清潔に保つことが大切です。
猫のトリコモナス症とは
発症:年齢9ヶ月齢
症状:年血便、水溶性〜半固形(数週間〜数年)
経過:感染猫の90%が無治療で2年以内に下痢改善→生涯キャリアとして感染源となることも
診断:便の直接鏡検
猫のトリコモナスの感染経路
トリコモナスは耐久型(シスト)を作らず、栄養型による感染を起こすので、感染力は高くありません。
そのため、イヌやネコなどから人への感染は起こり難いです。
感染した猫→糞便中に栄養型虫体 →栄養型虫体が口から侵入 →食道→胃→腸管で分裂、増殖→栄養型虫体が排出 →食物や食器を介して感染(経口感染)
猫のトリコモナス症の検査方法
栄養型虫体が下痢便中に多数排出するため、便を直接顕微鏡で観察します。
上記の動画のような動きをする虫体や下記の虫体の確認により感染を確認します。
トリコモナス原虫は糞便検査での検出率が高くなく、採れたての便でも見つからない事も多いです。
一般的に直接採取した便での検出率は10~20%程度とも言われています。
そういった場合、これらの寄生虫感染が疑わしい場合には遺伝子検査というものを行います。
遺伝子検査を行う事で、病気の原因となり得る細菌・ウイルス・寄生虫が便の中(腸内)に含まれているかを調べ出す検査です。
非常に有用ですが、こちらも検出率は80~90%で100%ではない事と、検査費用が高額のため、容易に行うことも現実的ではありません。
猫のトリコモナス症の治療
トリコモナスに対して使われる駆虫薬にはメトロニダゾール、チニダゾール、ロニダゾール (30 mg/kg, PO, q 24 h for 14 days)があります。
メトロニダゾールという薬が一般的で、第一選択として使われます。
しかし、残念ながら、これらの薬はどれが効果があるかは、使用してみての結果論として効果の高い低いが判断されることになります。
さらに、完全に駆虫できるとは限らず、症状が出ないまでに改善しても腸内には残存しているという事もあります。
メトロニダゾール
反応症例もあるが、休薬後の再発が高頻度
Gookin et al.JAVMA.215,1999
ロニダゾール
実験感染猫5頭
30 or 50 mg/kg,po,BID,14days
長期間の排除に成功
Gookin et al. J Vet Intern Med 20,2006
猫トリコモナス104頭
30mg/kg,po,SID,14days
29/45(64%)で下痢良化
3/49(6%)で神経症状
Xenoulis PG et al. J Feline Med Surg 2013
残存するとその子のした便の中に寄生虫が含まれることになります。
排泄されて時間が経った便の中で生存し続ける事は困難ですが、排便直後の便には感染力を持ったトリコモナスがいます。
それを触れたり舐めたりするとそこで感染サイクルが続くので、他の子との慢性感染が継続してしまいます。
治療を継続してもなかなか治らない事も多いので、非常に厄介な寄生虫です。
また、この薬は非常に苦いので、薬は有効成分を固めた錠剤の外側にコーティングを行い、苦味の部分が直接味覚に触れにくいようにしてあります。
しかし動物に用いる場合は、薬を分割したり粉にして処方します。
そうすると、苦味の強い部分が表に出る為、薬を飲ませる際に苦味を感じると泡をぶくぶく、涎をだらだらで垂らしてしまうこともあります。
猫のトリコモナス症の予防
トリコモナス症の動物との接触を避けることが大切です。
トリコモナスはシストを作らないので、一緒に飼育していない限り、感染の危険性は低いと言えます。