獣医師解説!猫のトキソプラズマ症〜症状、原因、治療法〜

動物病院で、自分の猫がトキソプラズマ症と診断された...

愛猫が猫のトキソプラズマ症と診断されたけど、

  • 病院ではよくわからなかった...
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結論から言うと、猫トキソプラズマ症は典型的な日和見感染症であり、猫がトキソプラズマに感染しても無症状であることが多いです。

しかし子猫や免疫力が低下している場合などでは発症に至ります。

病原体となる原虫がどの臓器で増殖するかにより臨床症状は様々であり、確定診断が難しいです。

ワクチンはないため、猫は室内飼いにすることや生肉を与えないことが感染予防法として有効です。

この記事を読めば、猫のトキソプラズマ症の症状、原因、治療法までがわかります。

限りなく網羅的にまとめましたので、猫のトキソプラズマ症と診断された飼い主、猫を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。

✔︎本記事の信憑性

この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。

今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。

臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!

記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

✔︎本記事の内容

猫のトキソプラズマ症〜症状、原因、治療法〜

猫のトキソプラズマ症の病原体

猫のトキソプラズマ症の病原体

トキソプラズマToxoρlasma gondiはアピコンプレックス門

サルコシスチス科

トキソプラズマ亜科に属する原虫です。

同じ科に属する原虫としてシストイソスポーラやサルコシスチス、ネオスポラがあります。

トキソプラズマのオーシスト(外界で発育すると感染性をもつ)を糞便中に排出するのは終宿主であるネコ科動物のみですが、感染そのものはほぼすべての種類の哺乳類・鳥類に起こります。

人も例外ではなく、トキソプラズマ症は人獣共通感染症でもあります。

また潜伏感染中の食肉用家畜の筋肉にも虫体が存在するため、人においても猫においても生肉の摂食が感染の原因となりえます。

オーシス卜

感染した猫は糞便中にオーシストを排出します。

成熟したオーシストの内部には2個のスポロシストが形成され、各々のスポロシスト内部には4個のスポロゾイトが内包されています。

これは猫の臨床で遭遇する機会の多いシストイソスポーラ(いわゆる犬・猫のコクシジウム)のオーシストと同様の構造です。

しかし猫でよくみられるシストイソスポーラのオーシストが小さくとも21x18μm程度あるのに対し、トキソプラズマのオーシストは12x10μm程度です。

コクシジウムのオーシストにくらべてかなり小さいです。

タキゾイ卜

感染成立後に宿主体内で激しく増殖するステージの虫体はタキゾイト(急増虫体)と呼ばれ、体長4- 7μm、体幅2-3μmの半月状をしています。

タキゾイトは宿主の細胞内部に侵入し、盛んに分裂・増殖します。

人や猫を含むすべての感染動物がトキソプラズマ症を発症するのは、このようにタキゾイトが増殖している期間です。

しかしタキゾイトの増殖は多くの場合一過性の現象であり、ほとんどの場合は免疫系に直ちに抑え込まれます。

このためトキソプラズマに 感染しても、無症状あるいは非常に軽い一過性の症状しか出ないことが多いです。

シス卜

虫体は免疫系により完全には排除されず、無症状のまま脳や筋肉で長期間にわたって保持されます。

このステージの虫体は直径40-50μm、時として100μmにおよぶシストと呼ばれる球形の構造をとり、内部に数百個ものブラデイゾイト(緩増虫体)を含みます。

シストそのものに病原性はないが、食肉用家畜の筋肉に潜伏感染したシスト(すなわち食肉内部のシスト)は猫や人への感染源として重要です。

  • (A)初感染した猫は糞便中にオーシス卜を排出
  • (B)猫の糞便中に排出されたオーシス卜を経口摂取し、ほぼ全ての哺乳類・鳥類が感染。
    ここには人や猫も含まれる。
    宿主の細胞内でタキゾイ卜が増殖。
    症状が出るステージ。
  • (C)通常タキゾイ卜の増殖は一過性で、虫体はシス卜に変わって長期間宿主体内に保持。
    宿主が免疫不全状態に陥ると、眠っていたシスト内のブラディゾイ卜が再活性化してタキゾイ卜に戻り発症
  • (D)シス卜が潜伏感染している家畜から生産された食肉や、潜伏感染中の小動物を猫が摂食することで新たな猫への感染。
    また、食肉は未感染者である人の感染源ともなる。

猫のトキソプラズマ症の疫学

後述のとおり、診断の難しい猫のトキソプラズマ症は見逃されることも多く、症例報告数は必ずしも多くないです。

しかし人のトキソプラズマ症は日本を含め、世界中で発生が報告されています。

一説には世界人口の3分の1はトキソプラズマに感染しているとされており、本原虫は世界中でありふれた存在であるといえます。

日本も決して例外ではなく、2009-2011年に東京都で保護された猫の6.7%にトキソプラズマ感染が疑われたという報告があります。

食肉用家畜においても5%程度の個体に抗トキソプラズマ抗体が認められています。

このようにトキソプラズマは日本国内において決して珍しい存在ではありません。

猫のトキソプラズマ症の宿主

猫のトキソプラズマ症の宿主

オーシストを糞便中に排出する終宿主と体内臓器にシストが形成される中間宿主が区別され、終宿主となるのはネコ科動物です。

中間宿主については、その宿主域は非常に広く、猫を含めたほぼすべての哺乳類・鳥類に感染します。

感染率は国や地域によって異なるが、家畜の中ではヤギやヒツジの感染率が高いことが多いです。

人、伴侶動物あるいは家畜以外で重篤な症状を示した例として、国内外の動物園飼育下のリスザルで集団発生し強い病原性を示した事例や、ラッコが脳炎を発症した事例などが知られています。

猫のトキソプラズマ症の感染経路

猫のトキソプラズマ症の感染経路

トキソプラズマが猫に感染する経路は大きく分けて3つあります。

  • オーシス卜の経口感染:別の猫の糞便中に排出されたオーシス卜を経口摂取
  • シス卜の経口感染:潜伏感染した家畜から生産された生肉の摂食や,潜伏感染した小動物を捕食
  • 母猫から胎子へ胎盤を介した垂直伝播

1つ目の経路は、感染した猫が糞便とともに排出したオーシストを別の猫が経口摂取することです。

糞便に排出された直後のオーシストには感染力がないが、24~72時間程度で成熟し感染力を獲得します。

オーシストは非常に丈夫でアルコールや次亜塩素酸ナトリウムなどの一般的な消毒薬に耐性です。

土壌などの環境中で数カ月~l年以上感染力を維持しています。

したがって、オーシストを含む猫の糞便に直接触れるだけでなく、数カ月以上前にこのような糞便で汚染された(現在は糞など影も形もない)土壌や水なども感染源となり得ます。

2つ目の経路は、潜伏感染した動物の組織に含まれるシストを経口摂取することです。

前述のとおり、トキソプラズマはほぼすべての哺乳類・鳥類に感染して筋肉や脳にシストを形成します。

したがって、感染したネズミなどの小動物を猫が捕食することで、シストを介した感染が成立すします。

小動物の捕食だけでなく、生肉を餌として与えることも感染のリスクとなります。

野外で飼育された鶏の肉を与えられた猫や、市販の豚肉を与えられた猫がトキソプラズマに感染した事例が報告されています。

3つ目の経路は、母猫から胎盤を介して胎子へ感染する先天感染ですが、それほど一般的ではありません。

猫のトキソプラズマ症の感染の特徴

猫のトキソプラズマ症の感染の特徴

猫がオーシストの摂取によって感染した場合、感染から21-24日後に糞便中にオーシストを排出し始めます。

ただしオーシスト再生産の効率は必ずしも高くなく、オーシストを排出するのはこの経路で感染した猫のうち50%程度とされます。

一方、シストの摂取で感染した猫は、感染からわずか3-5日でほぼ確実にオーシストを排出します。

いずれの場合もオーシスト排出期間は1週間程度であり、この時期を過ぎると糞便検査をしてもオーシストは検出されません。

健康な成猫であれば感染しでも症状を呈することはほとんどないため、飼い主が気付かないうちに感染が成立しオーシスト排出も終わっていることが多いです。

ただし子猫や免疫不全状態の猫が感染した場合は、免疫系によるタキゾイト増殖の制御が十分にできず急性トキソプラズマ症に至ることがあります。

トキソプラズマは様々な臓器に感染し得るため、症例によって主たる感染臓器が異なり、このため症状も非常に多岐にわたります。

なお、無症状で経過しオーシスト排出を終えた猫であっても、トキソプラズマはシストとして体内に長期間にわたって残っています。

残存したシスト内のブラディゾイトは宿主側の免疫力が低下すると、タキゾイトに変化して分裂・増殖を再開します。

これにより持続的あるいは再発を繰り返す炎症性の症状が起こります。

通常、オーシストが糞便中に排出されるのは感染した猫の一生の間で1回だけです。

体内に残存したシストの再活性化によって発症した患畜の糞便検査を実施してもオーシストは検出されません。

猫のトキソプラズマ症の臨床症状

猫のトキソプラズマ症の臨床症状

多くの猫は終宿主として、あるいは中間宿主として感染しても無症状ですが、子猫や免疫不全状態の猫がトキソプラズマに感染すると発症することがあります。

また、すでに感染して体内にシストを保有する猫が免疫不全状態に陥ることで発症する事例も多いです。

特に猫白血病ウイルス(FeLV)あるいは猫免疫不全ウイルス(FIV)の感染は、トキソプラズマ症を発症するリスク要因となります。

トキソプラズマは猫の様々な臓器に感染するため、症状は多岐にわたります。

他の疾患との鑑別に役立つような特異的な症状はなく、臨床症状からトキソプラズマ症の鑑別診断を下すことは事実上不可能です。

また、人での症状もほぼ同様です。

呼吸器症状

肺に感染が起こった場合は、咳や呼吸困難がみられます。

症状から細菌やウイルスによる肺炎と区別することは困難です。

細菌性の肺炎に対する一般的な治療には反応しません。

消化器症状

消化器で虫体が増殖した場合は、下痢、嘔吐などの症状がみられます。

肝臓に感染した場合は黄疸がみられることもあります。

眼・神経症状

脳で虫体が増殖した場合は脳炎を発症します。

また全身症状に併発してブドウ膜炎や脈絡網膜炎を発症することがあります。

猫のトキソプラズマ症の診断

猫のトキソプラズマ症の診断

トキソプラズマ症の症状は多岐にわたる上、本症に特異的な症状もないため診断が非常に難しいです。

原因が特定できない炎症を伴う不調が現れた場合、トキソプラズマ症を鑑別診断の候補に挙げることが重要です。

病理検査

例として肝臓や肺などの病変部の生体組織診断でタキゾイトをみつけられれば、診断は容易です。

神経症状が出ている場合は脳脊髄液中にタキゾイトがみられることもあります。

しかし、トキソプラズマのタキゾイトはきわめて限局した部分だけに分布していることが多く、生検の採材箇所がわずかにずれただけでも虫体が検出できません。

CTなどで病変部の位置を厳格に特定できる場合を除き、決して検出感度の高い検査とは言えません。

虫体がみられなかった場合であっても、直ちにトキソプラズマ症の可能性を除外することは危険です。

遺伝子検査

トキソプラズマの遺伝子を特異的に検出する方法であり、特異性はきわめて高いです。

しかし生体組織診断と同様に、虫体の分布する部分を外して検体を採取してしまうリスクがあります。

このため結巣が陰性であった場合も、直ちにトキソプラズマ症を否定することはできません。

なお、PCR法では病気の原因となるタキゾイトと病原性のないシストを区別することはできません。

しかし、シストは脳や筋肉以外の臓器にはほとんどみられず、かつ組織内に散在的に分布します。

したがって、PCR検査用の検体に潜伏中のシストが偶発的に混入するリスクは低いです。

PCR検査陽性であれば、当該組織でタキゾイトが増殖中である可能性がきわめて高いです。

血清学的検査

ELISA法やラテックス凝集反応法により、血清中の抗トキソプラズマ抗体を検出する手法です。

しかしながら、無症状のまま潜伏感染している猫も陽性となるため、血清学的検査の陽性結果だけを根拠にトキソプラズマ症と診断すると誤診につながります

(トキソプラズマに無症状のまま潜伏感染中の猫が、全く別の理由で発症した疾病をトキソプラズマ症と誤診するリスクがある)。

猫のトキソプラズマ症の治療

猫のトキソプラズマ症の治療

クリンダマイシン(25~50 mg/kgを2回に分けて毎日経口投与 14~42日)の単剤による治療のほか、

スルファジアジン(15~25 mg/kg)とピリメタミン (0.44 mg/kg)の併用などが推奨されています。

クリンダマイシンに対する反応は比較的良好で、トキソプラズマ感染に起因する症状が改善あるいは消失する症例も多いです。

しかし、トキソプラズマ症を発症する猫は免疫不全につながる基礎疾患をもっていることがほとんどであり、基礎疾患の治療を合わせて行うことなしに良好な予後は期待できません。

猫のトキソプラズマ症の予防

猫のトキソプラズマ症の予防

ワクチンや予防薬がないため、猫と感染源との接触を断つことが重要です。

詳細は以下に示すが、猫を室内飼いにすることと、生肉を与えないことが主たる対策となります。

オーシストからの感染の予防

トキソプラズマはほぼすべての種類の哺乳類・鳥類に感染するが、体外に虫体を排出するのは終宿主のネコ科動物だけです。

猫の糞便中に排出されたオーシストは環境中で数カ月~1年以上にわたって感染力を維持しています。

したがって、オーシストからの感染を防ぐには、飼い猫をほかの猫の糞(特に野良猫の糞)に触れさせないようにするだけでなく、猫の糞に汚染されている可能性のある土や水に触れさせないことが重要です。

すなわち、現実的には室内飼いにすることがほぼ唯一の対策です。

オーシストはアルコールや次亜樹素酸ナトリウムといった消毒薬には耐性ですが、熱には弱いです。

オーシストが付着している恐れのある物品(猫のトイレなど)を消毒する場合は煮沸消毒が有効です。

シストからの感染

トキソプラズマはほぼすべての哺乳類・鳥類に感染します。

これらの感染動物の多くは無症状のまま体内にシス卜を保有しているため、飼い猫がネズミや小鳥を捕まえることのないようにする必要があります。

室内飼いにすることでリスクを大幅に低減できます。

また、国内でも肉の生食が原因と思われる妊婦のトキソプラズマ症が報告されています。

このように市販の食肉であってもシストが含まれている可能性があるため、猫に生肉を与えないことが重要です。

「飼い猫から人への感染を防ぐには」

「飼い猫から人への感染を防ぐには」

「飼い主が妊娠した場合、猫を飼いつづけてよいのか」

基本的に猫がオーシス卜を排出するのは初感染時だけであるため、過去に感染した猫(抗体陽性)であれば、人への感染源となるリスクはきわめて低いです。

一方、未感染の猫を飼育するのであれば、

  • 猫への新たな卜キソプラズマ感染が起こらないように注意します
  • 万が一猫が感染してしまった場合に備え、糞便中に排出されたオーシス卜が飼い主に感染しないように工夫する必要です。

次のことに注意します。

オーシス卜は糞便に排出された直後には感染性をもっておらず24~72時間かけて感染性を獲得します。

したがって、猫のトイレを毎日掃除してオーシストに成熟する期間を与えないことで人への感染を防げます。

さらに猫の糞便は密閉して捨てるようにし、庭に埋めたり排水溝に流したりするなど、環境中にオーシストを拡散させるような行為を行わないことも予防に有効となります。

なお、人への卜キソプラズマ感染は必ずしも飼い猫からだけではなく、野良猫の糞で汚染された土壌や、生肉の摂取によっても起こり得ます。

ガーデニンクなどで土を触った後の手洗いの徹底や、妊娠中の飼い主自身が生肉(レアの焼き肉や不完全調理肉を含む)を摂取しないことなども併せて伝える必要があります。

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no life no dogs & catsをモットーに、いつも犬と猫に癒されています。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。
現役獣医師が海外で勉強しながら得た、犬と猫の病気に対する知識とスキルを発信していきます。

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