動物病院で、自分の猫がトリコモナス症と診断された...
愛猫が猫のトリコモナス症と診断されたけど、
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結論から言うと、猫の卜リコモナス症はTritrichomonas suis (=Tritrichomonas foetus)の栄養型が、回腸盲腸および結腸に寄生し、寛解と増悪を繰り返す慢性の大腸性下痢を引き起こす疾病です。
主に1歳齢以下の子猫で下痢を引き起こしますが、成猫でも不顕性に感染していることがあります。
いわゆる糞口感染により伝播します。
欧米では2000年頃から問題になっているが、日本国内においても広くみられる疾病です。
この記事を読めば、猫のトリコモナス症の症状、原因、治療法までがわかります。
限りなく網羅的にまとめましたので、猫のトリコモナス症と診断された飼い主、猫を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。
臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
猫のトリコモナス症〜症状、原因、治療法〜
この記事の目次
トリコモナス症の病原体
分類
Tritrichomonαs suis (= Tritrichomonas foetus)は、
パラパサリア綱、トリトリコモナス目に属する鞭毛虫で、ブタの消化管に寄生する普通種で、ウシの流産の原因ともなります。
猫の回腸、盲腸および結腸に寄生し、1996年以降欧米において若齢猫の下痢症の原因として注目されるようになりました。
1996年から2000年にかけて、慢性の大腸性下痢を引き起こす猫の腸トリコモナス症が多数報告されました。
形態
T. suisの発育段階は栄養型のみで嚢子はないとされています。
栄養型は紡錘形で、長さ9~16μm、幅2~6μmで体部前方に核を有し、体部中央を縦に軸索が走ります。
3本の前鞭毛(5~17μm)と波動膜を有し、体部後方には自由鞭毛がみられます。
体部への波動膜の付け根に、繊維状の支持構造であるコスタを有します。
これらの形態はギムザ染色標本で観察できます。
P.hominisは5本の前鞭毛を有することからT.suisと鑑別できます。
下痢便中においては、生きた栄養型が検出されることがあり、波動膜が観察できるT.suisと、お椀がヒラヒラ舞うようなGiardiaは、その動きで鑑別できます。
なお、まれに両原虫に感染していることがあります。
獣医師解説!猫のジアルジア症〜症状、原因、治療法〜
猫のジアルジア症は特に子猫で感染率が高く、重度寄生で水様性の下痢を呈するのが特徴です。小腸粘膜に原虫が吸着し、脂肪の吸収阻害(脂肪性下痢)、食欲不振、体重減少など、吸収不良性症候群を呈します。感染は薬剤や環境に対する抵抗性が強いため、飼育舎などの適切な衛生対策、また感染猫の早期の隔離と治療が必要です。
通常、トリコモナスの栄養型は腸管腔の粘膜表面に寄生しますが、粘膜内への侵入も一部報告されています。
トリコモナス症の感染経路と生活環
本種の栄養型は猫の回腸、盲腸、結腸において2分裂で無性増殖し、一部が糞便とともに排出されます。
外界でも条件が揃えば、栄養型は5日間ほど生存可能で、この間に他の個体の体表に付着し、その動物の毛繕い時に経口感染すると考えられます。
いわゆる糞口感染により伝播します。
例外的に、蓄膿の子宮から栄養型が検山された症例があります。
幼若齢時に繁泊施設および保護施設などにおける多頭飼育で感染し、2カ月~2年で自然に治癒するものもあります。
その後、慢性感染となり長期間の個別飼いにおいても感染が継続する個体もいます。
下痢の猫において高率に本原虫が検出されますが、正常便の猫からも低率であるが検出されます。
すべての年齢層の猫からみつかるが1歳齢以下の子猫から多く検出されます。
感染率に性差はなく、雑種より純血種の感染率が高いという報告もあるが、猫の遺伝的な感受性の差ではなく、飼養様式の差による可能性があります。
トリコモナス症の疫学
本種は世界的に分布しているものと考えられるが、ほとんどが欧米での調査報告です。
一部、大洋州、韓国、日本からも報告されています。
感染率の高いものでは32% (36/111)に達します。
国内の調査(北海道、埼玉および鳥取)では8.8%(13/147)の感染率で、国内でも広く感染が広がっていることが示唆されています。
トリコモナス症の宿主
本種の猫遺伝子型は猫の消化器に、豚遺伝子型はブタの消化器に、牛遺伝子型はウシの生殖器に寄生します。
豚遺伝子型はブタでは普通種で病原性がないが、猫遺伝子型は猫で慢性の大腸性下痢を引き起こします。
猫遺伝子担と豚遺伝子型は国内でもみられます。
牛遺伝子型はウシで、流産の原因として世界的に重要であるが、現在国内では全く報告はないです。
トリコモナスは、鞭毛虫類に属する原虫で、体の大きさは10~20μmです。
犬や猫、齧歯類、家畜、大型の草食動物だけでなく、人にも感染し、宿主域は広いです。
小腸全域に寄生しますが、大腸や盲腸にも認められます。
栄養型虫体のみが知られており、シスト(嚢子)のステージはないため、感染は栄養型虫体(便)の摂取により成立します。
生鮮時は鞭毛や波動膜を使い、体全体を小刻みに震わせながら前進性の運動をします。
治療を継続してもなかなか治らない、トリコモナスが居なくならないという事態も多いので、非常に厄介な寄生虫です。
駆虫しきれずキャリアとなると、明らかな血便や下痢は示すことなく時々軟便になる程度で、ほとんど無症状で過ごしている事も多いです。
しかし便には寄生虫が居る為、免疫力の弱い子犬子猫や持病がある子などには感染しやすくなります。
また稀に人間にも感染する事があります。
その為、他の子との接触を避け、感染が確認された子を隔離し、使用していたトイレや敷物などをよく洗って干して乾かすなど清潔に保つことが大切です。
トリコモナス症の臨床症状
発症するのは主に若齢猫で、慢性の大腸性下痢症を引き起こし、寛解と増悪を繰り返します。
無症状、排便回数の増加、軟便、下痢など様々です。
しばしば悪臭のある下痢便で、ときおり粘液や鮮血が混じります。
ほとんどの場合、食欲不振および体重減少などは認められません。
トリコモナスは耐久型(シスト)を作らず、栄養型による感染を起こすので、感染力は高くありません。
そのため、イヌやネコなどから人への感染は起こり難いです。
感染した猫→糞便中に栄養型虫体 →栄養型虫体が口から侵入 →食道→胃→腸管で分裂、増殖→栄養型虫体が排出 →食物や食器を介して感染(経口感染)
トリコモナス症の診断法
T. suisの診断法は以下の3つが報告されています。
直接塗抹法
生理食塩水で希釈した糞便の直接塗抹法で、検体を速やかに顕微鏡で観察することにより、運動する栄養型を検出できいます。
トリコモナス原虫は糞便検査での検出率が高くなく、採れたての便でも見つからない事も多いです。
一般的に直接採取した便での検出率は10~20%程度とも言われています。
糞便培養法
トリコモナス培地を用いた糞便の培養法で、培養により増殖した栄養型を検出します。
遺伝子検査
糞便由来DNAに対するT.suis特異的プライマーを用いた診断方法(Nested-PCRやReal-timePCR)
遺伝子検査を行う事で、病気の原因となり得る細菌・ウイルス・寄生虫が便の中(腸内)に含まれているかを調べ出す検査です。
非常に有用ですが、こちらも検出率は80~90%で100%ではない事と、検査費用が高額のため、容易に行うことも現実的ではありません。
直接塗抹法および糞便培養法で虫体が検出された場合は塗抹標本を作製し、ギムザ染色後に鏡検します。
これらの検査法の感度は、Nested-PCR>糞便培養法>直接塗抹法の順で、直接塗抹法だけでは感染猫でも陰性となることが多いため注意が必要です。
トリコモナス症の治療
下痢は自然に寛解することがあるが、原虫はその後も長期間残存することが多いです。
現在、本種に対する有効な薬剤は5-ニトロイミダゾール製剤であるロニダゾール(30mg/kg 1日1回 14日間)のみであり、一般的な抗原虫楽であるメトロニダゾールは無効とされています。
しかしながら、ロニダゾール投薬後、下痢が再発する例も報告されています。
またロニダゾールは国内では認可されておらず、神経毒の徴候がみられた場合にはすぐに中止する必要があるため、投薬期間中は猫を注意深く観察します。
日本では、メトロニダゾールという薬が一般的で、第一選択として使われます。
しかし、残念ながら、これらの薬はどれが効果があるかは、使用してみての結果論として効果の高い低いが判断されることになります。
さらに、完全に駆虫できるとは限らず、症状が出ないまでに改善しても腸内には残存しているという事もあります。
メトロニダゾール
反応症例もあるが、休薬後の再発が高頻度
Gookin et al.JAVMA.215,1999
ロニダゾール
実験感染猫5頭
30 or 50 mg/kg,po,BID,14days
長期間の排除に成功
Gookin et al. J Vet Intern Med 20,2006
猫トリコモナス104頭
30mg/kg,po,SID,14days
29/45(64%)で下痢良化
3/49(6%)で神経症状
Xenoulis PG et al. J Feline Med Surg 2013
残存するとその子のした便の中に寄生虫が含まれることになります。
排泄されて時間が経った便の中で生存し続ける事は困難ですが、排便直後の便には感染力を持ったトリコモナスがいます。
それを触れたり舐めたりするとそこで感染サイクルが続くので、他の子との慢性感染が継続してしまいます。
治療を継続してもなかなか治らない事も多いので、非常に厄介な寄生虫です。
また、この薬は非常に苦いので、薬は有効成分を固めた錠剤の外側にコーティングを行い、苦味の部分が直接味覚に触れにくいようにしてあります。
しかし動物に用いる場合は、薬を分割したり粉にして処方します。
そうすると、苦味の強い部分が表に出る為、薬を飲ませる際に苦味を感じると泡をぶくぶく、涎をだらだらで垂らしてしまうこともあります。
トリコモナス症の予防
若齢時に繁殖施設および保護施設など多頭飼育時に感染し、無症状の猫もキャリアとなって伝播することが予想されます。
他の猫からの糞便汚染の防止が重要であり、若齢時から完全に個別飼いすることによって予防が可能と考えられます。
「人には感染するのか」
・近縁種としては、国内でも人の生殖器に寄生するTrichomonas vaginalisが重要ですが、T. suis(=T. foetus)は人へは感染しません。
ブタから採取した豚遺伝子型を実験的にウシの生殖器に投与すると、生殖器への感染は成立するが、通常の環境下ではこのようなブタからウシへの伝播は起こらないと考えられています。
なお,、犬では非病原性のPentatrichomonas hominisがときおり検出され、人へも寄生するが、T. suisの人への寄生はないと考えられています。