獣医師解説!犬の伝染性肝炎(アデノウイルス)〜原因、症状、治療法〜

    犬伝染性肝炎(Infectiouscanine hepatitis)は犬アデノウイルス1(Canine adenovirus 1, CAdV-1)による急性の致死性全身感染症です。

    元気消失、発熱、嘔吐、腹痛、下痢、白血球減少、肩桃腺炎、 頚部リンパ節腫脹、肝腫大、出血傾向、下痢を特徴とします。

    子犬の臨床的異常は犬パルボウイルス感染症と区別できません。

    現在、同じ犬アデノウイルスの2型から作出された生ワクチンの安全性が高いこと、

    伝染性肝炎の予防にも有効なことから広く臨床応用され、

    犬のコアワクチン接種率が高い地域では本病が診断されるのはまれと考えられます。

    犬ではワクチン接種が重要です。


    この記事を読めば、犬の伝染性肝炎:アデノウイルス感染症の症状、原因、治療法からワクチンの必要性までがわかります。

    限りなく網羅的にまとめましたので、犬の伝染性肝炎:アデノウイルスついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
    ✔︎本記事の信憑性
    この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
    論文発表や学会での表彰経験もあります。

    記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

    » 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

    ✔︎本記事の内容

    犬の伝染性肝炎(アデノウイルス)〜原因、症状、治療法〜

    犬の伝染性肝炎の病原体:原因

    犬の伝染性肝炎の病原体:原因

    アデノウイルス科Adenoviridae、マストアデノウイルス属Mastadenovirus、

    犬マストアデノウイルスA種CaninemastadenovirusA

    に分類される犬アデノウイルス1Canine adenovirus l(CAdV-l)

    アデノウイルスは体外における抵抗性が比較的強く、室温で数週間生残しますが、高湿度と高温下では失活します。

    また陽イオン界面活性剤(逆性石けん)であるベンザルコニウム塩化物やベンゼトニウム塩化物で失活します。

    犬には抗原性が似たもう1つのアデノウイルス種である犬アデノウイルス2(CAdV-2)が感染することがあります。

    「伝染性喉頭気管炎」と呼ばれるケンネルコフ(Kennelcough)の病原体の1つです。

    CAdV-2は肝炎の病原体にはならないです。

    一方、CAdV-lは呼吸器に感染した場合、ケンネルコフの病原体になります。

    犬の伝染性肝炎の疫学

    犬の伝染性肝炎の疫学

    古くから知られていた犬の感染症の1つですが、有効なワクチンの応用により、現在では診断されるケースはまれです。

    ウイルスが撲滅されたわけではないので予防接種を怠ると発生します。

    イタリアでは犬伝染性肝炎が再興していると報告されていますが、日本での発生状況は正確に把握されていません。

    感染源は急性感染犬の尿、糞便、唾液などと回復後のウイルスキャリア犬の排泄物です。

    特に持続性(最長1年)のウイルス尿症を呈した犬は汚染源になります。

    犬の伝染性肝炎の宿主

    犬の伝染性肝炎の宿主
    イヌ科動物が主たる宿主となっている。

    中でも犬、キツネ、オオカミ、コヨーテの感受性が高いです。

    その他、アライグマ科、イタチ科(スカンク)、クマ科(クマ)動物も感染し発病します。

    犬の伝染性肝炎の感染経路

    犬の伝染性肝炎の感染経路

    排泄物中のウイルスに直接接触することで経口、経鼻感染します。

    主に感染している犬から、ワクチン摂取をしていない犬や、子犬に感染します。

    子犬では致死率が高く、犬パルボウイルスとの区別は困難です。

    ウイルスは比較的抵抗性が強いので、汚染した器物(唾液など)を介する間接接触による伝播も成立します。

    犬伝染性肝炎の感染の特徴

    1. 抗体を保有していない(予防免疫処置をしていない)子犬の感染は死亡など悲劇的な結末となる。
      特に犬パルボウイルス感染症との区別がつかない。
    2. 予防接種の初回免疫処置を行うことで医学的に管理可能である。
    3. 急性感染から回復した後も、ウイルスは腎臓に残存しウイルス尿症を呈して感染源となる。

    犬の伝染性肝炎の発症機序

    犬の伝染性肝炎の発症機序
    主たる標的は肝臓細胞と血管内皮細胞です。

    経口・経鼻的に侵入した感染ウイルスは扁桃から頸部リンパ節などのリンパ組織へ感染・増殖します。

    胸管を介し、ウイルス血症により全身の臓器に6日程度で播種します。

    眼では、ぶどう膜、前眼房、角膜内皮細胞にで免疫複合体を作り、ブルーアイ(全部ぶどう膜炎、角膜浮腫)を引き起こします。

    肝臓の肝細胞、クッパー細胞で、慢性肝炎や巣状壊死を引き起こし、急性死亡や持続感染をもたらします。

    腎臓では、糸球体内皮細胞に免疫複合体が沈着し、糸球体腎炎を引き起こし、尿中にウイルスを排出します。

    他の上皮、脳、肺、リンパ節、糞便、唾液にも播種され、二次増殖して細胞を破壊し異常を引き起こします。

    犬の伝染性肝炎の臨床症状

    犬の伝染性肝炎の臨床症状
    典型例は免疫のない子犬が呈する甚急性型ないし急性型です。

    潜伏期は4~7日です。

    甚急性型

    元気消失、発熱、腹痛、下痢、突然死を特徴とします。

    実際、中毒と誤診されてしまうことがあるように、臨床的異常を呈する前に死亡することもあります。

    急性型

    発熱(39~41℃)、白血球減少、扁桃腺炎、頸部リンパ節腫脹、腹部圧痛、肝腫大、出血傾向(鼻出血、下血、注射痕からの出血など)、嘔吐、下痢を特徴とする。

    臨床症状から犬パルボウイルス感染症と判別することは難しい。
    致死率は1O~30% で、若齢ほど危険である。
    合併症がなく、免疫応答が十分な場合は5~7日の発病期の後に回復に向かいます。
    急性劇症肝炎を除き、黄疸はまれです。
    不完全な免疫、抗体価が16 ~500倍を有する場合は慢性肝炎や肝線維症の原因となります。

    呼吸器病、不顕性感染

    高い抗体価(500倍以上)を有する成犬が経口暴露した場合には不顕性感染が起きやすいです。

    しかし、このような抵抗性の犬でもエアロゾルによる気道へのウイルス暴露は呼吸器病の原因となります。

    中枢神経症状

    発生頻度は低いですが、方向感覚の喪失、卒倒、嗜眠などの中枢神経症状が認められます。

    犬ジステンパーのような、ウイルスの直接的影響ではなく肝性脳症、低血糖症、頭蓋内出血、非化膿性脳炎に起因します。

    免疫複合体の形成

    急性症状消失1~3週間後に、Ⅲ型アレルギー(補体結合を伴った免疫複合体の形成による炎症反応)による「ブルーアイ」(前部ブドウ膜炎と角膜浮腫)が20~30%の犬に出現することがあります。

    犬の伝染性肝炎の診断

    犬の伝染性肝炎の診断
    ワクチン接種歴、臨床病理学的、病原学的、血清学的に診断します。

    血液検査

    初期にはリンパ球と好中球が減少します。

    数日後には増多、血小板減少、血液凝固不全、名種肝酵素(血清ALTなど)活性の上昇がみられます。

    酵素活性は2週間ほどで低下しますが、高いままの場合は慢性肝炎の可能性があります。

    血液中のアンモニア量の憎加や血糖値の低下を確認します。

    脳脊髄液検査

    脳脊髄液は正常を示しますが、単核球数や蛋白量の増加がみられます。

    出血している場合は、加えて色調の変化がみられます。

    病理組織学的検査

    肝生検による細胞内ウイルス抗原の証明も可能です。

    ウイルス分離,遺伝子検査

    急性期の咽喉頭スワブ(ぬぐい液)、尿、血液などを材料としたウイルス分離や遺伝子診断が実際的である。

    血清学的検査

    血清学的には2~3週間隔のペア血清を用いて、中和試験、血球凝集抑制試験による抗体の有意な上昇の確認にて実施します。

    犬の伝染性肝炎の治療

    犬の伝染性肝炎の治療
    抗ウイルス製剤はないので対症療法をしながら、感染犬の免疫力の活性化を待ちます。

    特に肝機能低下に対する支持療法が必要です。

    脱水や低血糖症への対応には5%ブドウ糖加乳酸リンゲル液の輸液、出血防止のための新鮮全血輸血を実施します。
    肝性脳症の治療には、

    • 酸性溶液を用いた浣腸などによる腸内の浄化
    • カナマイシンやネオマイシンの経口投与によるアンモニア産生菌の減数コントロール
    • 蛋白性食物給餌の制限

    犬の伝染性肝炎の予防

    犬の伝染性肝炎の予防

    ワクチン

    伝染性肝炎のみが臨床的に問題になっていた当初は、CAdV-1に対する生ワクチンが応用されていました。

    しかし、CAdV-1型ワクチン接種犬の1%未満に前部ブドウ膜炎やワクチンウイルス排出を伴う間質性腎炎といった副反応が問題となっていました。

    その後、発見された呼吸器病原体のCAdV-2から作出されたワクチンは安全性が高く、伝染性肝炎をも予防することが判明したために多くの国でCAdV-1型ワクチンに代わって使われるようになりました。

    CAdV-2型生ワクチンは伝染性肝炎と伝染性喉頭気管炎の両方の予防に有効です。

    ワクチンプロトコル

    CAdV-2型ワクチンが入っているコア混合ワクチン、4種あるいは5種混合ワクチンを用いて予防接種をします。

    初回免疫処置は、子犬では6-8週齢で接種を開始し、2-4週間間隔で16週齢まで接種し、6カ月または1年後に再接種(ブースター)します。

    ワクチン接種歴が不明の成犬(または16週齢以上の子犬)では通常2-4週間間隔で2回接種します。

    どちらも初回免疫処置の後は3年以上の間隔で追加接種を行うことが推奨されています。

    CAdV-2型生ワクチン初回免疫処置の効果(免疫持続期間:duration of immunity.DOI)は6年間持続します。

    日本ではワクチンに混合されているフラクション(成分)の数ではなく、予防できる病気の数で「○種混合ワクチン」と示す傾向があります。

    犬ジステンパー、犬アデノウイルス2型、犬パルボウイルス2型の3種類が入っているワクチンは、犬アデノウイルス2型が伝染性肝炎と伝染性喉頭気管炎の2種類の病気の予防に有効なので4種混合ワクチンと呼ばれます。

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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