愛犬や愛猫の眼がショボショボする、周りが濡れている、涙の量が多い、涙が少なく目が乾燥しているので病院に連れて行ったけど、
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結論から言うと、涙液症は涙の産生増加と排泄異常、小型犬種の流涙症(涙やけ症候群)に分類されます。
ドライアイは、涙液減少型と涙液蒸発型に分類されます。
この記事では、愛犬や愛猫の眼がショボショボする、周りが濡れている、涙の量が多い、涙が少なく目が乾燥している理由ついて、その理由をアカデミックな面からまとめました。
この記事を読めば、愛犬や愛猫の眼がショボショボする、周りが濡れている、涙の量が多い、涙が少なく目が乾燥している原因、症状、治療法がわかります。
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✔︎本記事の内容
獣医師解説!犬や猫の眼の異常:涙の量が多い?少ない?〜原因、症状、治療方法〜
この記事の目次
犬や猫の涙の量が多い、少ないとは?
◎流涙過多
顔に広がる異常流涙のことであり、涙の産生増加と排泄異常を病因とします。
狭義の流涙症とは、涙液排泄障害により涙液があふれ出している状態と定義され、
前眼部の痛みや刺激による涙液の増加(反射性涙液亢進)や、副鼻腔の疾患、鼻粘膜の機械的あるいは嗅覚刺激による涙液の増加と区別します。
涙液分泌の増加と涙液の排出障害が同時に認められる症例もあります。
◎分泌不全
不十分な涙の産生により生じる慢性の角結膜炎を乾性角結膜炎(以下KCS)といいます。
粘液膿性結膜炎、疼痛、角膜炎、角膜潰瘍を併発するだけでなく、失明に至ることもある病態です。
獣医領域ではKCSとドライアイは同義語のように理解されていますが、ドライアイの原因には涙液の減少(量的異常)だけでなく涙液蒸発増加(質的異常)も含まれ、またこの二つが合併して生じる事例もあります。
犬や猫の涙の量が多い、少ない病気の分類と問題点
◎分類
流涙過多
・犬
▶涙の産生増加
→涙腺の炎症による過剰産生
→反射産生
▶排泄異常
→鼻涙管の先天異常
→後天的な鼻涙管の閉塞
▶その他:小型犬種の流涙症(涙やけ症候群)
・猫
▶先天性
→涙点閉鎖
→短頭種(ペルシャなど)
▶後天性
→新生子結膜炎のヘルペスウイルス感染後の瘢痕
→涙嚢炎
ドライアイ
犬にはよくみられるが、猫では少ないです。
涙液減少型(量的異常)
- シルマー涙液検査(以下STT)の低値から診断される涙液量の減少です。
- 大部分は免疫介在性疾患で認められるといわれています。
涙液蒸発型(質的異常)
漿液性涙液の量は適切ですが、脂質やムチン成分の異常により、涙膜が不安定で蒸発しやすくなるという質的な涙の不足です。
◎問題点
STTの値には上限がないため、流涙量の異常増加を数値化することはできないです。
また、角膜潰瘍など反射性の涙液亢進を生じる病変が存在する場合、STTが正常値の範囲内であっても基礎疾患にKCSが存在する場合もあるので注意が必要です。
ドライアイにおける涙液の安定性低下の原因としては涙液の質的な異常だけでなく以下の原因も考えなくてはならないです。
・角膜の異常:点状角膜症(SPK)、角膜潰瘍
・眼瞼の異常:睫毛疾患、眼瞼内反、眼瞼外反
・瞬目異常
犬や猫の涙の量が多い、少ない病気の病理発生
涙液は油層、水層、粘液層からなる三層構造の膜で、眼表面を常に覆っています。
このうち水層と粘液層の間に明らかな境界はなく、粘液層のムチンが水層内を表層に向かい濃度勾配を形成しながら存在しています。
このため、水層と粘液層を合わせたものを液層ととらえ、油層と液層(水層+粘液層)に分類する動きもあります。
◎油層
・マイボーム腺、または瞼板腺と呼ばれる皮脂腺の変化したものから供給されます。
→涙液の過剰な蒸発を防ぐ、涙膜の安定性を強化し、涙液を眼瞼に留めます。
◎液層
・水層
二つの涙腺(眼窩腺、瞬膜腺)より分泌されます。
各涙腺の分泌割合は犬種により異なります。
→角膜への栄養供給、潤滑性の維持および保護
・粘液層(ムチン層)
ムチンとは高分子の糖蛋白質の総称です。
いくつかの発現型があり、分泌型もしくは膜型のいずれかに分類されます。
▶分泌型ムチン:結膜の杯細胞から分泌され、涙液を角膜に均等に定着させる役目を担っています
▶膜型ムチン:細胞膜についている状態で存在します。分泌型ムチンと結合し、本来疎水性である角膜上皮に涙をなじみやすくします。
→涙液を保持し、眼表面を潤滑に保ち、眼表面のバリア機能、感染防御
◎涙液症の病理発生
涙の産生増加
・涙腺の炎症による過剰産生:稀です。
・反射産生
▶機械的刺激(異物、異常睫毛)
▶眼球疾患(角膜潰瘍、前部ブドウ膜炎や緑内障による疼痛刺激)
▶光や風
排泄異常
・鼻涙管の先天異常
▶涙点形成不全/無孔涙点
▶小涙点
▶発達異常
▶涙点位置異常
・後天的な鼻涙管の閉塞
▶鼻涙管内病変:炎症産物による管の閉塞、異物、結膜炎の後遺症による涙管の閉塞や結石などが認められます。
犬の涙嚢は痕跡程度であるため、涙嚢炎による鼻涙管閉塞の発症は少ないです。
▶付属組織病変:腫瘍、肉芽腫、骨髄炎、歯牙疾患や重度の外傷です。
小型犬種の流涙症(涙やけ症候群)
・内眼角の過剰な被毛の成育:被毛を伝わって涙液が内眼角の皮膚や被毛に流れます。
・涙管機能障害がある内眼角異常
▶内側下眼瞼の内反:下涙点と下涙小管を腹側に転位させます。
▶内眼角靱帯の緊張:内眼角を腹側に転位させます。
・睫毛重生
・浅い眼窩
・眼球と眼瞼が密接:涙湖が浅くなり、閉眼時に涙液が顔の方に押し流されます。
また、下涙点が突出した角膜と密に接着するため涙点を閉塞してしまう。
・マイボーム腺機能不全(以下MGD)
◎ドライアイの病理発生
涙液減少型
・先天的無涙症:パグ、ヨークシャー・テリアにみられます。
・薬物誘発性:麻酔薬、アトロピンの点眼、サルファ剤の全身投与によります。
・免疫介在性:主涙腺と瞬膜腺に対する自己抗体により自己免疫性涙腺炎を生じ、涙腺組織が線維化して涙液膜の水層が減少します。
また、犬種に関連して発症するKCSは結膜の杯細胞と涙腺が徐々に破壊され、涙液膜の粘液層と水層の両方が減少します。
・神経原性:同側の鼻粘膜の乾燥が認められます。
・全身性疾患
▶犬ジステンパー感染症
▶代謝性疾患(甲状腺機能低下症、糖尿病、副腎皮質機能亢進症)
・医原性:涙腺、瞬膜腺の切除
・放射線療法
涙液蒸発型
・油成分の異常
正常なマイボーム腺からは透明で粘稠度の低い油脂が分泌されており、水層の上に広がることで安定した脂質の膜を形成し、涙液の過剰な蒸発を抑えています。
一方、MGDの動物では混濁状、練り歯磨き粉状など成分の異常な分泌物が排出されます。
この成分の異常な油脂は水層の上に均一に広がらないため、涙液が安定性を失い蒸発しやすくなるだけでなく、表面細胞にも毒性を示すことから、眼表面の状態の悪化をさらに招きます。
・ムチン成分の異常
ムチンは涙液が眼表面に広がる足場となる成分であるため、この成分に異常があると涙液が保持されなくなり、ドライスポットが形成されます。
犬や猫の涙の量が多い、少ない病気の対症療法
◎涙液過多
涙液が増える要因に応じて治療する。
◎ドライアイ
内科的治療
・免疫抑制剤
犬のドライアイの大部分は免疫介在性であるため、免疫抑制剤が治療の主軸となります。
▶シクロスポリンA(以下CsA):免疫調節作用と涙腺刺激作用を併せもちます。粘液産生結膜杯細胞の増殖効果、涙腺細胞のアポトーシスの抑制効果もあり、KCSの症例の71~86%に反応するという報告があります。
▶タクロリムス:CsAに反応が乏しい症例においても効果が認められることがあります。
▶その他:ピメクロリムスの使用報告例があります。
レスタシス0.05%点眼液(Restasis0.05%OphthalmicEmulsion)
Restasis(レスタシス)は、有効成分のシクロスポリンを配合した犬用の乾性角結膜炎(KCS)治療薬です。
犬の乾性角結膜炎(KCS)は、自己免疫疾患などが原因で涙の分泌量が減少することでドライアイの状態となります。眼の表面が乾いてしまうことで、結膜や角膜に充血や炎症が生じます。
免疫抑制剤のシクロスポリンは、過剰に反応している涙腺の炎症を抑えて、涙の産生を促すことで、犬の乾性角結膜炎(KCS)症状を改善します。
シクロミューン点眼薬は免疫抑制薬のシクロスポリン(サイクロスポリン)を有効成分とする乾性角結膜炎(涙液減少症/ドライアイ)の治療薬です。
有効成分のシクロスポリン(サイクロスポリン)は白血球の一種であるT細胞が、免疫機能を活性化させるリンホカインという物質を産生することを阻害します。この作用により免疫反応を促進させるT細胞そのものや、抗体を生成するB細胞といった免疫細胞の作用を抑制し、炎症症状を減少させる効果を発揮します。
この免疫抑制作用により、涙を目の表面に安定させる役割を果たしているムチン層や、涙の蒸発を抑えている油層の分泌や質を悪くするとされている結膜炎、結膜上皮障害、マイボーム腺の炎症を抑え、涙の分泌を促進する作用があると考えられており、乾性角膜炎(ドライアイ)の症状を緩和するとされています。
・コリン作用性物質
涙腺は副交感神経支配であるため、副交感神経を刺激するコリン作用性の使用で涙液分泌を増加させるという古典的な治療である。
▶ピロカルピン:点眼では刺激性が強く、内服では全身性の副作用が認められるため、通常用いられることはない。
▶神経原性KCSにおいて効果が認められたという報告がある。
・涙液代用品
涙液は上皮成長因子やサイトカイン、フィブロネクチン、ビタミンAなど角膜上皮細胞の成長や分化に重要な成分を有する。涙液と完全に同じ成分の点眼薬はないがKCSのコントロールには以下のような代替涙液が必須となる。
▶人工涙液:塩化ナトリウムと塩化カリウムが主成分。涙液の水層部位の補充と、眼表面の洗浄を目的に使用。防腐剤無添加の製剤であっても過剰な点眼は本来の涙液に含まれる成長因子やビタミンAなどの有用成分まで洗い流す。
▶ヒアルロン酸ナトリウム:涙液膜の安定性を高め、角膜創傷治癒の促進作用を併せもつ。防腐剤入りのボトルタイプと無添加の使いきりタイプがある。
▶自己血清点眼:程度の差はあるが、血清は涙液に類似した成分を含有しているため、通常の治療でコントロールが困難な症例において血清点眼の使用で症状が改善する場合がある。
ヴィジョティアーズ点眼液は、犬・猫の乾性角結膜炎(KCS)治療薬です。有効成分のポリビニルアルコールとポビドンを含有しています。
ヴィジョティアーズ点眼液は、人工涙液として働き、角膜の傷を治して、目の乾燥を防ぐ目薬です。
ヴィジョティアーズ点眼液に含有されている有効成分のポリビニルアルコールとポビドンが、角膜上皮の傷が治るのを助けて、また涙液を保持し安定化させることで、目の乾燥を防ぎます。ドライアイや角膜の障害、それに伴う目の充血、目ヤニなどの症状を緩和します。
・粘膜溶解剤
▶アセチルシステイン:過剰な粘液の溶解を目的に使用。KCSにより蓄積した多量の眼脂 は眼表面の炎症や潰瘍形成を悪化させるため、これらを除去しやすくなる。
シーナック(C-NAC)は、犬猫の目の不快感を緩和する目薬です。白内障治療薬のクララスティルと同じN-アセチル-カルノシンを含有しています。
シーナック(C-NAC)は、乾燥して炎症を起こした犬猫の目を潤し、刺激感をやわらげる目薬です。
シーナック(C-NAC)に含有されているN-アセチル-カルノシンは、強力な抗酸化剤かつ抗糖化剤です。目の水溶性部分と脂溶性部分の両方に浸透して、DNAの損傷から保護し、修復します。
シーナック(C-NAC)で使われている防腐剤は、最終的に涙の成分(塩化ナトリウムと水)へと変化する独特なもので、目に対する刺激が少ないのが特徴です。
クララスティル(Clarastill)は、N-アセチル-カルノシンを含有した犬猫の目の不快感を緩和する目薬です。
クララスティル(Clarastill)は、乾燥して炎症を起こした犬猫の目を潤し、刺激感をやわらげます。
クララスティル(Clarastill)に含有されているN-アセチル-カルノシンは、強力な抗酸化剤かつ抗糖化剤です。目の水溶性部分と脂溶性部分の両方に浸透して、DNAの損傷から保護し、修復します。
・抗生物質
▶広域スペクトルの抗生物質:KCSにより眼球表面の環境が悪化すると細菌の異常増殖を引き起こし、粘液膿性眼脂が認められることがあります。
感染の徴候が消失したら中止します。
クラビット点眼薬(CravitOphthalmicSolution)0.5%
【クラビット点眼薬】の有効成分「レボフロキサシン」には細菌を殺菌する作用があり、細菌を撃退することで患部の炎症や充血、痛みを取り除きます。通常、細菌感染による結膜炎や麦粒腫(ものもらい)、眼瞼炎、角膜炎などの治療に用いられます。
・抗炎症剤
▶ステロイド:KCSに伴う表在性の角膜・結膜疾患(結膜充血、角膜血管新生など)の治療に有効。
角膜潰瘍が存在する場合は創傷治癒の遅延が起こるため使用しません。
マキシデックス点眼液(MaxidexEyeDrops)0.1%
マキシデックスは、犬猫用抗炎症ステロイド点眼剤です。有効成分のデキサメタゾンを含有しています。
マキシデックスは、目および周囲の炎症やアレルギーを抑える目薬です。
マキシデックスに含有されている有効成分のデキサメタゾンは、副腎皮質ホルモン(ステロイド)です。目およびその周囲の炎症やアレルギーを抑えることで、眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、手術後の炎症などの症状(腫れ、赤み、かゆみ、痛み)をやわらげます。
ニフラン点眼液は、犬猫用の非ステロイド性抗炎症目薬です。有効成分のプラノプロフェンを含有しています。
ニフラン点眼液は、目の炎症を抑えます。
ニフラン点眼液に含有されている有効成分のプラノプロフェンは、炎症や痛みに関与する物質であるプロスタグランジンの生成を促進する酵素の働きを抑えます。プロスタグランジンの生成を抑制することで、目の炎症をしずめて、腫れや発赤、痛みなどの症状を改善します。
プラノプロフェンは、犬の結膜炎、角膜炎、眼瞼炎に良好な臨床効果が認められている薬剤です。
◎マイボーム腺異常の治療
▶温庵法:マイボーム腺から分泌される脂質は正常であれば体温で溶解され、透明で粘稠性が低いです。
MGDの症例では粘稠性が高く、黄白色の油分や練り歯磨き粉状物の分泌が認められます。
これらの異常脂質は融点が体温より高いため、眼瞼を温めることにより固形化した脂質を溶解して分泌させ、MGDや油成分の異常による涙液蒸発型のドライアイに有効であると考えられています。
▶テトラサイクリン(以下TC)系の抗生物質の全身投与:TC系の抗生物質には細菌が産生するリパーゼの活性を抑制し、マイボーム腺脂質の異常な分解を防ぐ効能があります。
・ムチン分泌促進剤
涙液蒸発型のドライアイにおける新しい薬剤として注目されています。
▶ジクアホソルナトリウム:結膜上皮からの水分分泌促進作用と結膜杯細胞からのムチン分泌増加作用をもつ。
▶レバミピド:眼表面における抗酸化作用と抗炎症作用をもちます。
結膜杯細胞からの分泌型ムチン分泌を促進させるだけでなく、杯細胞の数自体をも増加させます。
膜型ムチンの増加作用もあるとされています。
外科的治療
・耳下腺管転位術
唾液と涙が生理学的に類似しているため、薬物治療に反応しないKCSの症例に実施します。
・涙道閉鎖
ヒトのドライアイに治療にはシリコン製の涙点プラグによる涙道閉鎖がよく用いられています。
犬においても涙点プラグの挿入によって症状の改善を認めたという報告があります。
・永久的な部分的瞼板縫合
涙液保持機能を一定に保ち、角膜保護作用ももつため、短頭種で有用です。
犬や猫の涙の量が多い、少ない病気の診断の進め方
◎涙液過多
1.シルマー涙液検査(STT)
流涙を呈する症例に対し、最初に実施するべき検査です。
▶25mm/分以上であるものを流涙と診断します。
このうち、30mm/分以上であるものは分泌過剰が疑われるため、涙腺の炎症や、角膜潰瘍などの刺激性の分泌過剰を起こす原因を追究する必要があります。
10~25mm/分であるものは鼻涙管の排泄異常が疑われるため、フルオレセイン通過試験を実施します。
2.フルオレセイン通過試験
鼻涙管排泄系の開通性を調べる検査です。
▶フルオレセインを結膜嚢に滴下し、同側の鼻腔から染料が出現するまでの時間を測定します。
3~5分以内に鼻孔からの排泄が認められた場合、鼻涙管は開通していると判断します。
左右の眼における通過時間の違いにより片側性の閉塞が明らかとなります。
短頭種の犬猫では尾側鼻腔内に排泄されることがしばしばあり、鼻涙系の排泄が機能していてもフルオレセイン通過試験は陰性となることがあります。
開放性を証明するため、鼻涙管洗浄を実施することもあります。
3.鼻涙管洗浄
解剖学的な鼻涙系の通過検査です。
- 涙管カニューレを一方の涙点に挿入。
- 洗眼液を入れたシリンジをカニューレに装着し、もう一方の涙点を観察しながら注入。
- もう一方の涙点から洗眼液が流出してきたら指で軽く押さえて閉塞。
- そのまま洗眼液を注入し続けると、正常であれば洗眼液が鼻孔から流れ出したり咽頭へ流入して嚥下を誘発。
4.細胞診・培養検査
細菌、真菌の存在、炎症性細胞、異物、眼脂に含まれる微生物の量などを調べます。
5.画像検査
・涙嚢鼻腔造影法
▶鼻涙管は外傷性裂傷、びらん、炎症、鼻の腫瘍による圧迫などの影響を受けやすいため、持続的な流涙症、または再発性流涙症の症例において解剖学的な鼻涙系の開通性を抽出するために用いられます。
・CT検査/MRI検査
▶鼻涙管系の圧迫や、鼻や眼窩の原発性疾患の範囲の特定に役立ちます。
◎ドライアイ
1.問診と視診
・問診:瞬膜腺切除の既往歴や涙液減少を起こす薬剤の使用の有無、代謝性疾患の有無を確認
・視診:眼脂の色や眼球の大きさ、眼瞼疾患の有無、顔面神経麻痺の有無や瞬目が十分であるかどうか確認
2.スリットランプ検査
・涙液メニスカス:眼瞼縁に沿って分布する涙液の存在領域
▶角膜所見
▶結膜所見
▶瞬膜所見
▶涙点の存在、位置、大きさ
3.涙液産生の試験
・シルマー涙液検査(STT):無麻酔下で実施するSTT-1と点眼麻酔後に実施し、基礎分泌を測定するSTT-2があるが、
一般的にはSTT-1のみが行われます。
▶正常では15mm/分以上であり、上限はない。
▶11~14mm/分:初期のKCS
▶6~10mm/分:中等度のKCS
▶5mm/分以下:重度のKCS
・猫は臨床的に正常であっても5mm/分以下となることがあります。
4.眼表面の障害に対する評価
・フルオレセイン染色:角結膜上皮細胞の障害部位を染色
・ローズベンガル染色:角結膜のムチンで覆われていない細胞を染色
5.涙液の安定性試験
・涙液層破壊時間(BUT):フルオレセインを結膜嚢に滴下し瞬目させます。
次いで開眼させてから瞬目をしないで開瞼を続けさせたときに最初に乾燥した斑点(ドライスポット)が現れるまでの時間
▶犬の正常値は20±5秒であるといわれ、5秒以下であると涙膜の安定性を欠いていると評価されます。
涙液メニスカスは低く、涙液の貯留が少ない場合だけでなく、MGDなどで脂質成分の分泌量が少ない場合においても涙液の蒸発量が亢進することでBUTが短縮すると考えられます。
6.マイボーム腺開口部および分泌物検査
現在のところ犬において明確なMGDの診断基準はないです。
スリットランプのおけるマイボーム腺開口部の観察および眼瞼圧迫による分泌物の排出、涙液の異常と角結膜上皮障害などから総合的に判断して行います。
犬や猫の涙の量が多い、少ない病気の特徴
流涙過多では眼瞼からあふれた涙が顔面に付着し、慢性化すると涙やけ(色素沈着)を生じ、重症例では二次的な皮膚炎に至ることもあります。
また、ドライアイでは眼瞼を取り囲むように存在する粘性眼脂や、重度の眼脂により開眼さえも困難になる症例も認められます。
いずれも罹患動物にとって不快感があるだけでなく、見た目に異常がわかりやすいため、飼い主から相談を受けることが多いです。
犬や猫の涙の量が多い、少ない病気の高頻度の疾患
流涙過多では小型犬における流涙症
涙液の分泌不全では免疫介在性のKCS
が高頻度に認められます。
犬や猫の涙の量が多い、少ない病気の要点
流涙異常か流涙過多と涙液の分泌不全に大別されます。
ドライアイでは涙液の産生減少と蒸発増加、すなわち量的・質的異常がみられます。
相反する疾患に思えるが、これら病態には涙液の不安定性の面でMGDの関与が疑われるなどいくつか共通点が見受けられます。
どちらも様々な要因が併発して起こる疾患であるため、しっかりとした検査と原因に応じた治療が必要となります。