獣医師解説!犬と猫の血液検査〜凝固系検査:PT、APTT、FDP、フィブリノーゲン〜
出血傾向や DIC が疑われる症例に対して行われるほか、外科手術前のスクリーニング検査としても実施されます。
また、体外循環の際の管理や抗凝固療法の治療効果の判定にも用いられます。
この記事の目次
プロトロンビン時間(PT:prothrombin)、 活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT: activated partial thromboplastine time)
凝固系の出血素因の検査です。
最近では、院内の検査機器も普及してきています。
検査によってわかること
APTTとPT が測定している凝固系の範囲を下記に示しました。
APTT は内因系と共通系の、PT は外因系の凝固経路の異常を総合的にとらえる検査です。
APTT と PT の結果を組み合わせてどこの凝固系に異常があるか鑑別をすることになります。
代表的な疾患とPT、APTT の変化を下記に示しました。
代表的な疾患におけるPT、APTTの変化
APTTの参照値(単位:秒)
PTの参照値(単位:秒)
トロンボテスト(TBT)
第II、VII、IX、X因子は生成の最終段階でビタミンKを必要とします。
ビタミンKが不足した状況では不完全な凝固因子PIVKA (protein induced by vitamin K absence or antagonism)が生成されます。
これらの蛋白には凝固活性がなく、凝固阻害作用があります。
動物では殺鼠剤などの薬物中毒のモニターとして有用です。
犬に殺鼠剤は危険!ワルファリン中毒の怖さとは?!獣医師が解説!
獣医師が解説!犬が殺鼠剤を食べると、量によっては中毒を起こし、重度の出血障害が出ることも。本記事では、犬の殺鼠剤中毒の病態、症状、中毒量、治療法に至るまでを獣医師が徹底解説します。この記事を読めば、犬に殺鼠剤を与えていけない理由と対処法が分かります。犬にとって危険な物を知りたい飼い主必見です。
猫に殺鼠剤は危険!ワルファリン中毒の怖さとは?!獣医師が解説!
獣医師が解説!猫が殺鼠剤を食べると、量によっては中毒を起こし、重度の出血障害が出ることも。本記事では、猫の殺鼠剤中毒の病態、症状、中毒量、治療法に至るまでを獣医師が徹底解説します。この記事を読めば、猫に殺鼠剤を与えていけない理由と対処法が分かります。猫にとって危険な物を知りたい飼い主必見です。
ヘパプラスチンテスト
トロンボテストと類似しますが、組織因子として脳トロンボプラスチンが使用されており、PIVKAと第IX因子の影響を受けない測定系です。
活性化凝固時間(ACT)
院内での測定法として利用されることがあります。
血液に活性化試薬(セライト等)を加え凝固を確認します。
正常範囲 は 60~90秒です。
フィブリン・フィブリノーゲン分解産物 (FDP : fibrin, fibrinogen degradation product)
FDPは、フィブリンやフィブリノーゲンがプラスミンによって分解されるときに生じる各種分解産物であり、体内での線溶系活性化の指標です。
生体内では、線溶系は凝固系と同時に活性が亢進していることが多いです。
そのため、FDP の増加は DIC診断の重要な指標と考えられています。
検査によってわかること
FDP の測定は D-ダイマーとともに DIC の診断基準の重要な検査項目であり、血小板数や PT、APTT などの凝固系検査 と合わせて DIC診断に用いられます。
予想外に高値がみられた場合には、サンプル処理が適切かどうかも含め検討する必要があります。
FDP の参照値(単位: ug/mL)
- FDPは DIC の診断に用いられる。
- FDP 測定用の検体は専用の容器を用いて正しく処理する必要がある。
- 血漿で測定可能なP-FDP が利用できるようになった(外注検査)。
D-ダイマー (D-dimer)
D-ダイマーは、フィブリンがプラスミンによって分解されて生じます。
D-ダイマーは実際には単一分子ではなく、分解によってできるさまざまな分子種を測定しています。
臨床的な意義は FDPとほぼ同じ検査であるが、
D-ダイマー測定では フィブリンが分解された産物のみを測定する(二次線溶による産物)のに対し、 FDP 検査系はフィブリノーゲン分解産物(一次線溶)にも反応します。
FDPの検査では血液からフィブリノーゲンを除去する必要がありますが、D-ダイマーではその必要がないです。
D-ダイマーは、血漿、血清のどちらでも検査が可能です。
検査のときに気をつけること
フィブリノーゲンとは交差反応しないため、ヘパリン血漿や血清でも測定可能です。
ヒトのD-ダイマーに対するモノクローナル抗体を使用した免疫学的な方法により測定されます。
そのため、動物種間での交差が問題になります。
海外では D-ダイマーを 測定した報告は多いが、現在、国内では三菱化学メディエンスで受託検査を行っています。
検査によってわかること
DIC の検査に用いられます。
FDPと異なり血漿でも測定でき、感度も優れています。
しかし現実的には、一次線溶、二次線溶の両者が活性化していることが多く、両検査はよく相関します。
D-ダイマーは、DIC のほか、血栓症や心疾患などの血栓症を誘発しやすい疾患でも上昇することがあります。
また、腹水や腹腔内出血など、体腔内にフィブリンが形成される病態でも上昇します。
D-ダイマーは組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)を用いた線溶療法で上昇するので、血栓溶解療法を実施する場合 には治療効果の確認にも利用できます。
猫では心筋症での上昇が報告されています。
D-ダイマーの参照値(単位:ug/mL)
- D-ダイマーの測定系は DIC の診断に有用である。
コラム
DIC の診断基準
動物での診断基準は明確ではないため、ヒトの診断基準が参考になります。
1988 年厚生省の診断基準では検査項目が多く診断に時間がかかります。
DIC では迅速に治療を開始することが要求されるため、より迅速に診断するために評価項目数を絞って、血小板数と FDP(または D-ダイマー)から治療を判断する案が提唱されています。
臨床的には、これらの基準を参考にしながら DIC が疑われる場合に治療を開始することも多いです。
DIC の診断に用いられるそのほかの検査指標 としては、TAT(増加)、AT II (低下)などがありますが、臨床現場において迅速に結果を得ることは難しいです。
- 3~5日以内にFDP著増した場合や、血小板が著減した場合は DIC の疑いが強いです。
- D-ダイマーは FDPと同義。
- 原疾患で血小板産生低下のみられる例ではFDPのみが参考となります。
- 重症感染症で肝機能異常・血清蛋白低下がないのにフィブリノーゲンが正常であれば DIC が疑われます。
フィブリノーゲン (fibrinogen)
フィブリノーゲンはフィブリンの前駆体であり、肝臓で産生されます。
トロンビンの作用によりフィブリンとなり血栓を形成します。
検査によってわかること
炎症マーカーとしての性質をもち、感染症、炎症、腫瘍などで上昇し、重度肝障害、 DIC、およびまれな病態として無フィブリノーゲン血症で低下します。
実際には DIC の診断を目的に測定されることが多いが、炎症などでも変動するため 鋭敏な指標ではないです。
フィブリノーゲンの参照値(単位:mg/dL)
- フィブリノーゲンは DIC の診断に用いられる
- 炎症マーカーとして用いることもある。
出血時間 (bleeding time)
止血は一次止血と二次止血に分けられます。
出血時間はこの一次止血を測定するためのもので、皮膚や粘膜などに専用の器具で傷を作り、止血されるまでの時間を測定します。
皮膚などから出血した場合、血漿中のフォン・ヴィルブランド因子(vWF)を介して血小板が粘着し血小板血栓を形成します。
出血時間に延長がみられる病態としては、血小板減少症や高窒素血症、フォン・ヴィルブランド因子の欠損症などがあります。
検査の方法
- 通常は動物を鎮静下で横向きに寝かせ、上口唇をめくり上げて血管の走っていない部分を専用の器具で傷つけます。
- 濾紙などで出血を評価しながら止血までの時間を正確に測定します。
- 専用の器具としては、Triplett (Helena 研究所)、Simplate II (オルガ ノテクニカ社)や Surgicutt (ITC 社)が用いられます。
- ヒトの医療では耳たぶなどで測定するため、別の器具が用いられています。
参照値は使用器具や施設によって異なるが、多くの報告では2分程度です。
検査によってわかること
現在では院内に自動血球計算器があり、多くの機種で血小板数が計測できるようになっています。
また、PT、APTT などの凝固系の検査機器も使用されるようになってきています。
これらの検査は、止血異常がある動物に対してだけでなく、術前のリスク評価としても行われています。
器具を使った出血時間の測定には鎮静が必要であり、また手技も面倒なので、現実的には血小板数や PT、APTT の検査が利用されることが多いです。
これらの検査で異常が検出されにくい止血異常(例:フォン・ヴィ ルブランド因子の欠損症など)が疑われるときには、出血時間の測定を考慮します。
止血時間の評価基準
- 正常 2分程度
- 異常 5分以上
- 出血時間の測定には特殊な器具が必要である。
- フォン・ヴィルブランド病が疑われるときに検査することがある。
血小板凝集試験 (platelet aggregation test)
血小板機能検査として血小板凝集能検査を行うことがあります。
さまざま方法があるが、種々の薬剤を加え血小板の凝集を光学的な方法で測定する透過法が用いられることが多いです。
臨床的に止血異常の症状がみられる症例や、止血異常がみられるにもかかわらず、血小板数が正常で、PT、APTTに異常がみられない場合に 血小板機能検査を考慮します。
検査のときに気をつけること
多くの薬剤が血小板機能を阻害します。
- 特に NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は 血小板機能を阻害する代表的な薬剤であり、検査前には1週間程度投薬を中止すべきです。
- そのほか、Bブロッカー、抗血小板薬、三環系抗うつ薬(例:アミトリプチリン)なども血小板機能を阻害する可能性があります。
- 犬ではカルプロフェンは血小板凝集能に影響を及ぼしません。
血小板の凝集を評価するので、もともと血小板数が少ない検体(<10万)では評価が難しいです。
- クエン酸を用いて採血、室温で遠心し、PPP(乏血小板血漿)と PRP(platelet rich plasm)を分離してADP(アデノシ ン二リン酸)、コラーゲン、エピネフリンなどを添加して測定します。
- 本検査は、サンプル分離がやや煩雑で専用の測定機器も必要なので、ルーチンで測定を実施している機関に症例を紹介することが多いです。
- 症例由来の血小板を使用するため、通常は院内で検査を実施することが多いです。
検査によってわかること
糖尿病、クッシング病、フィラリア症などさまざまな病態で異常がみられます(亢進を含む)。
血小板機能異常は特異的な検査ではありません。
原因が特定できない出血傾向がみられ、臨床的に一次止血異常がみられる場合に本検査を考慮します。
低濃度 ADP、 エピネフリン刺激による一次凝集の低下(血症板からの放出反応を伴わない可逆反応)、ADP、エピネフリンの高濃度刺激、コラーゲン刺激による二次凝集(放出反応 を伴う不可逆凝集)の低下を観察し、異常疾患を推定します。
まれな疾患であるが、血小板無力症、無フィブリノーゲン血症、チェディアック-東症候群などでは本検査で異常が検出されます。
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルでみられる巨大血小板症でも軽度の凝集能の低下がみられます。
- 血小板凝集試験は、血小板数が正常にもかかわらず一次止血異常がみられる場合に行うことがある。
- 新鮮な血小板が必要であり専用装置を用いて院内で測定されることが多い。
凝固因子 (coagulation factors)
出血傾向のある動物のスクリーニング検査として、血小板数、PT、APTT が 測定されます。
これらの検査で異常がみられる場合や先天性の凝固因子の欠損などが疑われる場合には、それぞれの凝固因子について調べることができます。
検査のときに気をつけること
各凝固因子の活性値を測定することが多いです。
- その場合、採血は3.2%クエン酸1に対して血液を9容積加えます。
- 3.8%のクエン酸も用いられることがあります。
- 凝固因子は比較的不安定であるので、迅速に測定する必要があります。
犬では第I、II、M、M、LX、X、XL、XII欠損が知られおり、比較的症例の多いII、VII(血友病A)、X因子などについてはこの方法を用いた報告が多いです。
各因子の測定結果は活性(%)で表示されます。
フォン・ヴィルブランド因子については、活性による測定が実施しにくいため、ELISA 法による免疫学的測定も行われます。
また、type II のフォン・ヴィルブランド病(質的な異常) では、コラーゲン結合能などの検査が必要になります。
特定犬種のフォン・ヴィルブランド病では遺伝子検査も行われています(カホテクノ、BIOS)。
検査によってわかること
凝固因子の測定を行うのは主に先天性の欠乏症が疑われる場合です。
PIVKA (protein induced by vitamin K absence or antagonists)
ビタミンKが不足するとこれらの因子が活性をもたない形で血中に出現します。
これをPIVKAといいます。
PIVKAには複数の分子があり、動物では、殺鼠剤やワルファリンなどの薬剤中毒の診断にPIVKA測定は有用です。
殺鼠剤やワルファリン中毒の診断にはトロンボテストも有用です。
犬に殺鼠剤は危険!ワルファリン中毒の怖さとは?!獣医師が解説!
獣医師が解説!犬が殺鼠剤を食べると、量によっては中毒を起こし、重度の出血障害が出ることも。本記事では、犬の殺鼠剤中毒の病態、症状、中毒量、治療法に至るまでを獣医師が徹底解説します。この記事を読めば、犬に殺鼠剤を与えていけない理由と対処法が分かります。犬にとって危険な物を知りたい飼い主必見です。
猫に殺鼠剤は危険!ワルファリン中毒の怖さとは?!獣医師が解説!
獣医師が解説!猫が殺鼠剤を食べると、量によっては中毒を起こし、重度の出血障害が出ることも。本記事では、猫の殺鼠剤中毒の病態、症状、中毒量、治療法に至るまでを獣医師が徹底解説します。この記事を読めば、猫に殺鼠剤を与えていけない理由と対処法が分かります。猫にとって危険な物を知りたい飼い主必見です。
- 各凝固因子の欠損はヒトの欠乏血清を利用して測定されることがある。
- 先天性の凝固因子欠損に対しては、遺伝子検査も考慮する。
こんなことについて知りたい!これについてまとめて欲しい!というのがあれば下記からお願いします!