獣医師解説!猫コロナウイルス性腸炎〜原因、症状、治療法〜

動物病院で、自分の猫が猫コロナウイルス性腸炎と診断された...

愛猫が猫コロナウイルス性腸炎と診断されたけど、

  • 病院ではよくわからなかった...
  • 病院では質問しづらかった...
  • 混乱してうまく理解できなかった...
  • もっと詳しく知りたい!

という事でこの記事に辿りついたのではないでしょうか?

ネット上にも様々な情報が溢れていますが、そのほとんどが科学的根拠やエビデンス、論文の裏付けが乏しかったり、情報が古かったりします。

中には無駄に不安を煽るような内容も多く含まれます。

ネット記事の内容を鵜呑みにするのではなく、

情報のソースや科学的根拠はあるか?記事を書いている人は信用できるか?など、

その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。

例えば...

  • 人に移るの?
  • 治る病気なの?
  • 危ない状態なのか?
  • 治療してしっかり治る?

これを読んでいるあなたもこんな悩みを持っているのでは?

結論から言うと、猫コロナウイルス性腸炎(Feline coronaviral enteritis)は、猫コロナウイルスが経口・経鼻感染した後、咽頭、気道や消化管の上皮細胞で増殖することによります。

ほとんどの場合は無症候か症状は軽度です。

短い潜伏期の後、一部の猫で軽度~中程度の腸炎を示す下痢や、軽い嘔吐などの症状が最長4日間ほど発現します。

感染後の獲得免疫は弱いために再感染を繰り返します。

また一部の猫では大腸と組織マクロファージにウイルスが持続感染します。

持続感染中に、病原性が変化した毒力の強い猫伝染性腹膜炎ウイルスに転換すると考えられていますが、そのメカニズムは解明されていません。

この記事では、猫コロナウイルス性腸炎についてその原因、症状、診断方法、治療法までをまとめました。

限りなく網羅的にまとめましたので、猫コロナウイルス性腸炎と診断された飼い主、猫を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。

✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。

今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。

臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!

記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

✔︎本記事の内容

猫コロナウイルス性腸炎〜原因、症状、治療法〜

猫コロナウイルス性腸炎の病原体

猫コロナウイルス性腸炎の病原体

ニドウイルス目

コロナウイルス科

コロナウイルス亜科

アルファコロナウイルス属に分類される、アルファコロナウイルス1種

の猫コロナウイルスFeline coronavirus(FCoV)によります。

アルフアコロナウイルス1は既存種のFCoV、犬コロナウイルスCanine coronavirus(CCoV) および豚伝染性胃腸炎ウイルスTransmissible gastroenteritis virus of swine (TGEV)の3種をまとめてつくられた統合的なウイルス種名です。

多数のウイルス株が存在する猫コロナウイルス

FCoVは抗原性や毒力・病原性が異なる多数のウイルス株が存在するquasispecies (遺伝子変異により異なる性質をもつ同一ウイルス種の集団)です。

そのためDNAウイルスのような均質的なウイルス集団ではなく、必ずといってよいほど例外的なウイルス株が存在し全体の理解を難しくしています。

病原型分類:猫腸内コロナウイルス(FECV)と猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)

猫コロナウイルス性腸炎の病原体

猫コロナウイルスはCCoVやTGEVと同じく「胃腸炎」を起こす猫腸内コロナウイルスFeline enteric coronavirus(FECV)として知られています。

加えて、この猫腸内コロナウイルスから病原性変異株として出現する猫伝染性腹膜炎ウイルスFeline infectious peritonitis virus(FIPV)は脈管炎、腹膜炎、髄膜脳炎などを起こすことから、臨床的に重要な致死性病原体となっています。

猫コロナウイルスはその病原性の特徴から猫腸内コロナウイルスと猫伝染性腹膜炎ウイルスの2種類の病原型(pathotype)に分類できます。

猫コロナウイルスの抗原型分類と病原型分類間には関連性はないです。

Ⅰ型でもⅡ型でも腸炎や猫伝染性腹膜炎(FIP)を起こします。

2つの病原型があるのは事実ですが、猫腸内コロナウイルスと猫伝染性腹膜炎ウイルスを明瞭に区別できる境界がないです。

猫腸内コロナウイルスはほとんどが無毒のコロナウイルスであるが、一部の猫で下痢を伴う腸炎を起こします。

また、細胞性免疫力の低下している猫では猫伝染性腹膜炎を起こす可能性もあります。

猫伝染性腹膜炎症例から分離された猫伝染性腹膜炎ウイルスは、経口暴露させた実験感染猫のすべてに短期間に猫伝染性腹膜炎を発症させる強毒株があります。

一方で、腹腔内接種しても10頭に1頭ほどしか猫伝染性腹膜炎を起こさない、あるいは全く起こさず猫腸内コロナウイルスではないかと疑わせるほどの弱毒な株も存在している。

Ⅱ型猫伝染性腹膜炎ウイルスの方がI型猫伝染性腹膜炎ウイルスにくらべて猫伝染性腹膜炎起病性が強い傾向があります。

FECVから FIPVへの体内転換節

現在、病原型に関して一番支持されているのは、続感染している猫の体内で猫腸内コロナウイルスが、より強い毒力をもつ病原性へと変化した猫伝染性腹膜炎ウイルスに転換(conversion)し、猫伝染性腹膜炎へと感染が進行していくという考え方(猫腸内コロナウイルスから 猫伝染性腹膜炎ウイルス体内転換説)です。

その結果、猫腸内コロナウイルス感染猫の最大10%が猫伝染性腹膜炎になる危険性があると考えられています。

したがって、猫腸内コロナウイルスあるいは猫伝染性腹膜炎ウイルスと区別するのではなく、猫コロナウイルスは広範な病原性と毒力をもったquasispeciesという考えに至っています。

例えば免疫抑制を起こすレトロウイルスの同時感染など、猫伝染性腹膜炎ウイルスにつながる猫コロナウイルス以外の要因は多々存在し、病態発現機序の理解をさらに複雑にしています。

猫コロナウイルス性腸炎の疫学

猫コロナウイルス性腸炎の疫学

感染源は急性感染猫や持続感染猫の糞便中のウイルスおよびそれに汚染した器物です。

多頭数の猫を飼育している環境では、ウイルスが持ち込まれると短期間に感染が広がり、群内で感染が維持されやすいです。

したがって、飼育猫の一部が抗体陽性であれば残りのすべての猫が感染していると考えていいです。

繁殖施設で生まれた猫は特に感染率が高いです。

年齢や猫種に関係なく感染します。

新生猫は生後間もなく、持続感染している母猫や同居描からウイルス暴露し腸内感染します。

授かった乳汁免疫の程度にもよるが、早ければ4週齢頃までには感染します。

猫コロナウイルスは体外では比較的早期に失活します。

有機溶媒、界面活性剤、熱で容易に不活化されます。

猫コロナウイルス性腸炎の宿主

猫コロナウイルス性腸炎の宿主

猫、野生ネコ科動物(ツシマヤマネコなどの小型、およびチーターなどの大型ネコ科動物)。

犬も感染する場合があります。

猫コロナウイルス性腸炎の感染経路

主感染経路は経口です。

経鼻感染も起きます。

猫コロナウイルス性腸炎の感染の特徴

  1. FCoV感染症は消化管での局所感染症で、ほとんどの場合は無症候で臨床的には問題となりません。
  2. 局所感染による免疫の防御効果は弱く、再感染を繰り返したり、持続感染を許容します。
  3. そのような猫コロナウイルス感染している猫の一部において、致死性の全身感染症である猫伝染性腹膜炎が起きます。

猫腸内コロナウイルス(FECV)と猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の発症機序

猫腸内コロナウイルス(FECV)と猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の発症機序

経口・経鼻感染したFCoVは咽頭、気道、小腸下部、および結腸の上皮細胞で増殖します。

ほとんどの場合は無症候で感染はその後収束します。

一度感染しても獲得免疫が弱いために再感染を繰り返します。

また、一部の猫では結腸などの大腸と組織マクロファージにウイルスが持続感染する傾向があります。

猫腸内コロナウイルス(FECV)と猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の体内分布

猫腸内コロナウイルス(FECV)と猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の体内分布

猫腸内コロナウイルスは、腸内と腸に付属するリンパ節に分布します。

猫伝染性腹膜炎ウイルスはそこから腸管の外に感染を広げます

(すなわち、腹腔内や各種臓器へ感染を広げることができるようになったウイルスが猫伝染性腹膜炎ウイルスと理解されている)。

大方この考えは通用します。

しかし調査研究が進むにつれ、ウイルス血症を起こす猫腸内コロナウイルスが存在することも明らかにされ、状況が込み入っています。

臨床的に猫伝染性腹膜炎を発症しているわけでもないことから、この猫腸内コロナウイルスの起こすウイルス血症の臨床的意義はよく分かっていません。

猫コロナウイルス性腸炎の臨床症状

FECV による腸炎の症状は、ほとんどの場合、無症候か軽微です。

短い潜伏期の後、一部の猫で軽度~中程度の腸炎を示し、下痢や軽い嘔吐などの症状が最長4日間ほど発現します。

猫コロナウイルス性腸炎の診断

猫コロナウイルス性腸炎の診断

遺伝子検査

通常、確定診断は不要です。

野外では、FCoV1型が80~90%、Ⅱ型が5%前後を占めますが、大部分を占めているI型はウイルス分離ができないので、病原学的診断には遺伝子検出が適しています。

下痢便を材料として専門検査機関に依頼します。

血清学的検査

血清学的にはペア血清を用いて、中和試験やELISA法で抗体の有意上昇を確認します。

血清試験には、野外での分布率が低いFCoVⅡ分離株しか用いることができないので、血清学的診断には限界があります。

猫コロナウイルス性腸炎の治療

必要であれば下痢症の対症療法と支持療法を行います。

猫コロナウイルス性腸炎の予防

FECV感染予防だけを目的としたワクチンはありません。

米国とEUの一部で温度感受性変異ウイルスを用いたFIP予防用鼻腔滴下剤ワクチンが認可されています。

これはFCoV初感染予防のために粘膜分泌型抗体を誘導することを目的としています。

猫コロナウイルス性腸炎の環境整備

猫コロナウイルス性腸炎の環境整備

感染しないような環境整備や衛生管理を徹底します。

理想的にはFCoVやCCoVフリーコロニーを作出するのが望ましいです。

抗体陰性猫を飼育維持するよう努めます。

特に新生猫は、母猫とともにほかの猫から隔離します。

もし母猫が抗体陽性であれば、母猫からも12週間隔離することも感染を防ぐ方法です。

抗体陰性を維持するためには、抗体陽性猫との接触は禁忌です。

「犬と同居する上でどのような注意が必要か」

「犬と同居する上でどのような注意が必要か」

現行の犬用コロナウイルスワクチンは有効性が低いため、接種することで犬がコロナウイルス (CCoV)に感染することを防ぐことはできません。

そのため、猫を犬と接触させないこと、感染していない犬とのみ同居するなどでCCoVの重感染を避けます。

しかしながら、前提として猫コロナウイルス(FCoV)陰性の猫を飼育することが最も重要です。

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no life no dogs & catsをモットーに、いつも犬と猫に癒されています。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。
現役獣医師が海外で勉強しながら得た、犬と猫の病気に対する知識とスキルを発信していきます。

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