犬のクリプトスポリジウム症は、症状や疫学情報など未だ不明な点は多いです。
しかし、犬からは固有種とされるCryρtosoridium canisのほかに、人獣共通種であるCryρtosρoridium ρarvumの検出報告があります。
現在のところ諸外国においてのみ犬からC ρarvumの検出例がありますが、C ρarvumは人やウシにおいて難治性の下痢症を引き起こすため,今後も注視する必要があります。
現在のところ有効な治療法はありません。
この記事を読めば、クリプトスポリジウム症の症状、原因、治療の必要性までがわかります。
限りなく網羅的にまとめましたので、クリプトスポリジウム症ついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
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✔︎本記事の内容
犬のクリプトスポリジウム症〜原因、症状、治療法〜
この記事の目次
犬のクリプトスポリジウム症病原体と宿主
クリプトスボリジウムは、アピコンプレックス門、Crytostoridium属に属する原虫です。
日本を含め世界的に広く分布し、犬、猫以外に、人を含む多くの脊椎動物の消化管に寄生します。
クリプトスポリジウムには多くの種が存在しますが、犬に寄生するものは、Cryptosρoridium canisとCryptosρoridium ραrvumが知られています。
前者のC.canisは主に犬で検出されますが、海外では免疫不全の人からの検出も報告されています。
このC.canisについては、詳細は不明ですが、犬での病原性は低いと考えられています。
後者のC.tarvumは宿主特異性が低く、人を合む様々な哺乳類に感染する人獣共通種です。
本種は、病原性が強く、人の集団下痢症の原因となり、感染症法の5類感染症(全数把握対象)に指定されています。
また、このC.ραrvumは、特に子牛において致死性の下痢症の原因としても重要です。
犬のクリプトスポリジウム症の感染経路と生活環
感染はオーシストの経口摂取(排便)によります。
オーシストは約5μmの短楕円形で、摂取された後、腸管内でスポロゾイトが脱嚢し、消化管粘膜に侵入します。
寄生部位は主に小腸で、上皮細胞の微絨毛に寄生します。
犬のクリプトスポリジウム症の疫学
犬におけるクリプトスポリジウム感染について、国内での報告は少ないです。
2010年の報告では、ぺットとして飼われていた犬で3.9%、また2014年の報告では,ぺットの犬で7.2%、動物病院に来院した犬で18.4%、ペットショップの
犬で31.6%の陽性率と報告されています。
いずれも遺伝子解析により種が同定されており、すべてC.canisです。
未だ不明な点が多いですが、今のところ、感染と糞便性状との間に関連は認められておらず、年齢や飼育状況にも有意な差は認められていません。
犬のクリプトスポリジウム症の臨床症状
犬での臨床症状については不明な点が多いですが、下痢などの症状を示さない犬でもオーシストが検出されており、病原性は低いと考えられます。
前述のとおりC.ρarvumが犬から検出された例は限られます。
本種が人やウシに感染した場合は、激しい水様性の下痢が1~2週間続きます。
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犬のクリプトスポリジウム症の診断
診断は糞便中のオーシストを検出します。
オーシストは直径約5μmときわめて小さく、通常の直接塗抹での検出は難しいです。
そのため、キニヨン抗酸菌染色を行うか、クリプトスポリジウムのオーシス卜に特異的に反応する蛍光抗体を用いた検出キット (EasyStaIn:B TF社)が市販されています。
ショ糖浮遊法による検査でも検出は可能ですが、オーシストが小さいため、検出には熟練を要します。
上述したC.canisとC.ρarvumは、オーシストの形態のみから種を鑑別することはできず、正確な同定はPCRによる遺伝子解析を行います。
犬のクリプトスポリジウム症の治療
有効な治療方法はないです。
犬に限らず、下痢などの症状が出た場合は、必要に応じて対症療法を行い、自然治癒を待ちます。
通常では1-2週間程度で自然治癒しますが、免疫能が低下している場合は症状が長引くか、難治性となります。
犬のクリプトスポリジウム症の予防
基本的には、感染犬の早期発見と隔離です。
感染犬の糞便には多量のオーシス卜が含まれ、これが感染源となります。
オーシストは外界で感染性を有した状態で長期間生存可能であり、各種薬剤にも耐性を持ちます。
ただし乾燥と高温には弱いです。
これらの特徴はジアルジアのシストに類似し、予防はジアルジア感染対策に準じます。
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