獣医師解説!犬のジステンパー感染症〜症状、原因、治療法まで〜

犬のジステンパー(Caninedistemper)は急性感染で発熱、呼吸器症状、消化器症状、眼症状、皮膚症状、神経症状など様々な臨床症状を呈して死亡する例も多い病気です。

また一過性のリンパ球減少症を引き起こし免疫不全となるため、二次感染の予防が重要です。

神経症状を呈した場合は予後不良です。

野外では、野生動物間で感染が流行しているので、衰弱した野生動物と接触しないよう注意も必要です。

犬ではワクチン接種が重要です。

この記事を読めば、犬のジステンパーの症状、原因、治療法からワクチンの必要性までがわかります。

限りなく網羅的にまとめましたので、犬のジステンパーついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。

記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

✔︎本記事の内容

犬のジステンパー感染症〜症状からワクチン摂取まで〜

犬のジステンパーの病原体

犬のジステンパーの病原体
犬ジステンパーウイルス Canine distemper virus(CDV)は、モノネガウイルス目 Mononegavirales

パラミクソウイルス科 Paramyxoviridae  パラミクソウイルス亜科 Paramyxovirinae.

モルビリウイルス属 Morbillivirusに属しています。

同じモルビリウイルス属には、麻疹ウイルス、午疫ウイルス、小反努獣疫ウイルスなどが含まれます。

犬のジステンパーの疫学

犬のジステンパーの疫学
犬ジステンパーは世界中で発生が報告されています。

日本では2000年の調査において、動物病院に来院した犬の下痢便84サンプル中8サンプル(9.5%)からウイルス遺伝子が検出されています。

遺伝子型として各地域ごとに分類でき、それぞれの地域で独自にウイルスが進化しています。

犬のジステンパーの宿主

犬のジステンパーの宿主
犬ジステンパーは宿主域が広いことが分かってきています。

麻疹ウイルスは人、牛疫ウイルスはウシを中心として感染するのに対して、

犬ジステンパーは犬を中心として、イヌ科動物やネコ科動物以外にも、イノシシやサルにも感染します。

特に、近年は犬以外の動物で大規模な流行が確認されています。

  • 1993年のセレンゲテイ国立公園でライオンが3.000頭中1.000頭死亡した例
  • 中国においてサル10,000頭が感染しそのうち5-30%が死亡した例
  • 2005年より高知県でハクビシン、タヌキ、アナグマの感染
  • 2007年からは和歌山県でのタヌキ、イタチでの感染

2010年には山口県の動物園におけるトラでの集団発生とともに、1頭の死亡が報告されています。

飼育フェレットでの流行も報告されています。

犬のジステンパーの感染経路

犬のジステンパーの感染経路
犬ジステンパーの感染経路は、感染動物の呼吸器、糞便、尿中に排出されたウイルスが飛沫核となり感染(空気伝播)します。

その伝播力、感染力は非常に強いです。

犬ジステンパーのワクチンが存在しなかった時代は、流行地では4年に1度、冬~春にかけて流行するといわれていました。

伝播力が高いため、一度流行を経験すると、生き残ったほぼすべての個体が免疫を獲得します。

そのため、しばらく流行は起こりませんが、流行を経験していない個体の割合が増えると再度流行が起こります。

野生動物間でも同様に流行を繰り返しています。

犬間による糞口感染、呼吸器感染が起こるとともに、野生動物間での感染環から他の動物への感染も認められます。

犬のジステンパー感染の特徴

犬ジステンパーは感染後、半年間以上持続感染します。

糞使中にも半年間にかけてウイルスが排出されることがあります。

犬のジステンパーの臨床症状

犬のジステンパーの臨床症状

  • 体重減少
  • 二峰性発熱
  • リンパ球減少症
  • 消化器症状
  • 呼吸器症状
  • 皮膚症状

ウイルスはリンパ球に感染して全身に広がり、免疫抑制のために抗体の産生が遅いです。

感染してから発症するまでの潜伏期は数日~数カ月まで様々で、臨床症状も無症状~重篤なものまで様々である。

犬ジステンパーはリンパ球に感染して全身に移行しそれぞれの臓器で障害を引き起こします。

通常、 発熱(二峰性)があり、鼻汁漏出、くしゃみ、結膜炎、食欲減退、白血球減少を呈します。

自然感染例では内股部に発疹が見られることもあります。

白血球の減少により、一時的な免疫不全状態となるため、細菌などの二次感染により症状が重篤になることも多いです。

一部は犬ジステンパーが脳内に侵入し痙攣発作、震え、後肢麻痺などの神経症状を伴うジステンパー脳炎を認めます。

神経症状を呈すると、予後はきわめて悪く、回復しても後遺症が残ることが多いです。

皮膚病の硬蹠症(こうせき病)として足蹠と鼻の角質化が認められる例もあります。

ワクチン未接種の若齢犬では致死率が高く、一度感染すると終生免疫を獲得します。

眼症状

眼症状として急性結膜炎は犬ジステンパーの初期に認められます。

最初は漿液性の分泌液ですが、発症7~10日で細菌の二次感染が起こり、膿性・粘液性の分泌物が認められます。

また、ウイルスが涙腺組織に感染することにより涙腺炎が起こり、乾性角結膜炎が生じることもあります。

さらに、犬ジステンパーが視神経に直接感染することにより視神経炎が生じ、突然視力を喪失することもあります。

消化器症状

消化器症状として感染後10~20日で嘔吐します。

軽度なカタル性腸炎、出血を伴う激しい下痢など様々な消化器症状が認められます。

また、細菌の二次感染などにより病態はさらに複雑になります。

神経症状

神経症状として頸部便直、痙攣発作、運動失調、知覚過敏、歩様異常、斜頸、眼振、感覚異常、脊髄反射異常、不全麻痺、開口異常、側頭筋などの筋萎縮と行動の異常などが認められます。

発作の様式は傷害部位により異なりますが、側頭葉の灰白質軟化によるチューインガム発作がよく認められます。

ジステンパー脳脊髄炎に随伴する、筋の反復性、律動性収納現象が起こります(チック)。

老齢犬に発生する老犬脳炎は進行性の亜急性びまん性硬化性脳脊髄炎で、ワクチン接種犬でも発症することがあります。

運動失調、中枢性失明、性格変化、痴呆、強迫性運動、旋回、姿勢反応の低下、脊髄反射の異常亢進を特徴とします。

その他

妊娠犬が感染した場合、死流産や胎内および産道感染における神経症状や持続性免疫不全となります。

発育中、新齢犬が感染した場合、歯のエナメル質の低形成による褐色変色が起こることがあります。

犬のジステンパーの診断

犬のジステンパーの診断
診断としては、発熱・リンパ球減少症が顕著です。

CRPの上昇も感染の指標とはなりますが、犬ジステンパー感染に特異的ではありません。

遺伝子検査

特異的診断としては、結膜、呼吸器、糞便からのウイルス遺伝子の検出が確実です。

ただし持続感染している場合があり、問題となっている症状の本来の原因でない可能性もあるので注意する必要です。

また、生ワクチン接種によりウイルスが検出される場合もあることからワクチン歴を考慮する必要があります。

抗体検査

血清学的診断では、急性期と回復期でのウイルス中和抗体、ELISA抗体、間接蛍光抗体法による抗体の上昇を確認します。

また犬ジステンパー特異的なIgM抗体の検出も有用です。

抗原検査

糞便や呼吸器からのウイルス検出が、迅速に可能である、簡易キットが市販されていますが、確定診断には遺伝子検査が推奨されています。

犬のジステンパーの治療

犬のジステンパーの治療
基本的には対症療法と二次感染対策です。

細菌による二次感染の対策として、広域スベクトルの抗菌薬を投与します。

ステロイドは炎症反応が認められる慢性症例では有効ですが、急性期での使用はウイルス排除を阻害するので禁忌です。

肺炎症状には、去痰薬や気管支拡張薬を投与します。

下痢や嘔吐には、止潟薬や制吐薬の投与、輸液を実施します。

また、犬ジステンパー感染から回復した犬の血清、ワクチンを頻回投与した犬の血清の投与は症状の軽減に有効なことがあります。

神経症状の認められる犬にはグルココルチコイドが一時的に効果を示すことがありますが、チックなどには治療法もなく、神経症状が顕著な場合は予後不良であることから安楽死も選択肢の1つです。
ジステンパーによる急性感染症から回復したようにみえても、その後、神経症状を呈して死亡することがあります。

犬のジステンパーの予防

犬のジステンパーの予防

ワクチン

感染防御に重要な細胞性免疫を誘導するために、犬ジステンパーのワクチンは生ワクチンが基本です。

コアワクチンとして、犬パルボウイルス、犬伝染性肝炎、犬伝染性侯頭気管炎予防用のワクチンとともに接種することが多いです。

新生犬は母親からの移行抗体により防御されますが、その効果は母親の免疫状態にもよりますが、1-2カ月程度です。

ワクチンプロトコル

初回免疫処置は、子犬では6-8週齢で接種を開始し、 2-4週間間隔で16週齢まで接種します。

6カ月または1年後に再接種(ブースター)します。

ワクチン接種歴が不明の成犬(または16週齢以上の子犬)では通常2-4週間間隔で2回接種します。

どちらも初回免疫処置の後は3年以上の間隔で追加接種を行うことが推奨されています。

犬のジステンパーの隔離と消毒

犬のジステンパーの隔離と消毒
犬ジステンパー感染動物の隔離が重要です。

ウイルスは環境中の刺激に対して弱く、数日で不活化されます。

乾燥や消毒薬にも弱いため、十分な消毒と乾燥を心がければ大丈夫です。

犬のジステンパーの人への感染は?

犬のジステンパーの人への感染は?
人への感染の可能性はありますが、人での発症は報告されていません。

人は麻疹に対するワクチンを接種しているので犬ジステンパーウイルスによる発症から予防されていると思われます。

フェレッ卜は犬よりも犬ジステンパーウイルスに対する感受性が高く、症状は犬のものと同様ですが、致死率は高いです。

犬用のワクチンが使用されていますが、感受性が高いため、接種する株の選択が重要となります。

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no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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