糖尿病はインスリンの絶対的または相対的な不足により、持続的高血糖をはじめとする代謝異常を呈する症候群です。
代謝異常の程度によって無症状からケトアシドーシスや昏睡にいたる幅広い病態を示します。
犬の糖尿病の診断は容易ですが、厳密な血糖コントロールはかなり難しいです。
犬では白内障や腎症などの糖尿病合併症が起こりやすく、数年単位の長期予後は要注意です。
この記事を読めば、犬の糖尿病の症状、原因、治療法がわかります。
限りなく網羅的にまとめましたので、犬の糖尿病ついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
犬の糖尿病の全て〜症状、原因、治療方法〜
この記事の目次
犬の糖尿病の原因
病因論:ヒトの糖尿病
人の糖尿病は病因に基づいて、以下の4つに分類されています(日本糖尿病学会, 1999)。
- 1 型糖尿病
- 2 型糖尿病
- その他の特定の機序・疾患による糖尿病
・遺伝子異常に伴うもの
・膵炎、副腎疾患などに伴うもの - 妊娠糖尿病
ヒトの1型糖尿病は自己免疫疾患と考えられており、膵島炎により膵β 細胞が破壊され、絶対的なインスリン不足により発症する糖尿病です。
2 型糖尿病は多因子性の疾患であり、家族歴、環境、生活態度が発症因子となります。
肝臓、脂肪組織、骨格筋でのインスリン抵抗性が主因となって持続的高血糖を示します。
初期には膵臓のインスリン分泌が亢進しますが、次第に膵島へのアミロイド沈着によってβ 細胞が減少し、インスリンが不足します。
ヒトでは糖尿病をおこす遺伝子異常として、ミトコンドリア遺伝子異常、インスリン遺伝子異常、インスリン受容体遺伝子異常などが知られています。
膵炎や内分泌疾患などによる糖尿病は、(原発性に対して)続発性糖尿病と呼ばれることもあります。
妊娠糖尿病は黄体ホルモン(プロゲステロン)によるインスリン抵抗性を主な原因とします。
病因論:犬の糖尿病
犬の糖尿病は、およそ以下のように分類できます。
- 膵島の空胞変性による原発性糖尿病
- ヒトの2 型糖尿病に類するもの
- 膵炎に伴う糖尿病
- クッシング症候群に伴う糖尿病
- 高エストロゲン血症に伴う糖尿病
- 高プロゲステロン血症に伴う糖尿病
- 先天性または若年性糖尿病
- 医原性糖尿病
犬の糖尿病の多くは、膵島の空胞変性によってインスリン分泌が不足する糖尿病です。
犬では免疫介在性の膵島炎による真の1型糖尿病は報告されていないため(猫や牛では報告がある)、このタイプの糖尿病は「原発性」糖尿病と呼ばれます。
糖尿病の犬のなかには、ヒトの初期の2 型糖尿病のように、高インスリン血症がみられ、しかも他の内分泌異常が認められないものがいます。
これらはおそらくヒトの2 型糖尿病に類するのだと思われますが、疾患像としては確立されていません。
急性膵炎や慢性膵炎は犬の糖尿病の基礎疾患としてしばしば認められ、原因として確定しやすいです。
クッシング症候群、高エストロゲン血症、高プロゲステロン血症はいずれもインスリン抵抗性を誘発して糖尿病の原因または増悪因子となります。
その他の原因として、先天性の膵島形成不全による若年性糖尿病がしばしば認められます。
犬の糖尿病の好発犬種・シグナルメント
日本国内では糖尿病の好発犬種は知られていません。
犬の糖尿病は年齢を問わず発生しますが、中~高齢(8 歳以上)の個体が80%ほどを占めます。
雄より雌にやや多い傾向があり、これは発情と高プロゲステロン血症に関連した糖尿病が存在するためだと思われます。
犬の糖尿病の検査
犬の糖尿病症例の多くは典型的な症状(多飲、多尿、体重減少)を主訴に来院します。
他に基礎疾患(とくに膵炎、クッシング症候群)がある場合には、その基礎疾患に応じて色々な症状が混在します。
ケトアシドーシスに陥ると食欲不振、元気消失、衰弱、嘔吐、下痢などを呈します。
犬では非ケトン性高浸透圧性昏睡はまれです。
食餌内容、過去数ヶ月の投薬歴(とくにホルモン製剤)、雌の避妊の有無、最終発情時期を普段から確認する必要があります。
身体検査
原発性糖尿病による多飲、多尿、削痩、被毛粗剛、糖尿病性白内障のような典型例はむしろ稀です。
糖尿病の犬の栄養状態は様々であり、痩せている場合が多いが、肥満していることもあります。
現時点で肥満していても、体重は減少過程にあることが多いです。
軽度の脱毛、皮膚や被毛の乾燥、抜け毛が多いなどの皮膚症状はしばしば認められます。
白内障があるとしても初診時には軽度であることが多いです。
基礎疾患あるいはケトアシドーシスなどの合併症がなければ、犬は一見元気です。
画像診断
犬の糖尿病に特異的な画像診断所見はありません。
しかし、腹部X 線検査と腹部エコー検査は基礎疾患の鑑別疾患に必須です。
腹部X 線検査
- 肝腫大(糖尿病またはクッシング症候群)
- 内臓脂肪の増加(クッシング症候群)
- 副腎腫大(副腎腫瘍)
- 子宮蓄膿症など
腹部エコー検査
- 慢性膵炎:慢性の浮腫性膵炎では腫大した膵臓
- 肝臓、膵臓、腎臓、膀胱、子宮、卵巣、前立腺
- 内分泌疾患や炎症性疾患
血液検査
基礎疾患あるいは併発疾患がなければ、CBC には異常が認められません。
血液化学検査では以下の変化が現れやすいです。
基礎疾患や合併症があれば、それらに応じた異常が現れます。
基礎疾患や併発疾患がない場合
- 高血糖
- 高コレステロール血症
- 高トリグリセリド血症
- ALP 活性上昇(非特異的)
- 低Na(高血糖による見かけの低下)
- 高K(インスリン不足による)
糖尿病性ケトアシドーシスの場合
- 低Na 血症(尿への喪失)
- 低K 血症(尿への喪失)
- 低Cl 血症(尿への喪失)
- 低P 血症(尿への喪失)
非ケトン性高浸透圧性昏睡(犬ではまれ)
- 著しい高血糖(> 600mg/dL)
- 高窒素血症(腎不全・循環不全による)
- 高浸透圧血症(> 350 mOsm/L)
◆血漿浸透圧は以下の式でかなり正確に近似できる (mOsm/L) = 2(Na+K) + BUN/2.8 + Glu/18 (Na, K は mEq/L、BUN, Glu はmg/dL)
尿検査
無治療の糖尿病の犬では必ず尿糖陽性になります。
尿に含まれるグルコースのため尿比重は高くなります(1.025 以上)。
さまざまな程度のケトン体が認められます。
多くの犬では尿路感染のため、微生物(細菌、真菌)、赤血球、白血球などが認められます。
尿中のブドウ糖を細菌が分解してガスが発生し、気腫性膀胱炎になることもあります。
尿路感染症は糖尿病治療の障害になり、腎盂腎炎などのリスクを高めます。
糖尿病の犬では尿細菌培養と、カンジダを含む真菌培養も行うべきです。
尿の培養検査は、糖尿病の診断時だけでなく治療中にも定期的に行います。
顕微鏡的に細菌や真菌が観察できなくても、培養検査で陽性となることがあります。
犬の糖尿病の診断
特徴的な症状(多飲、多尿、体重減少)、空腹時高血糖、尿糖陽性の3 項目がそろえば糖尿病と診断します。
しかし、基礎疾患や併発疾患を診断し、解決することが重要です。
犬を糖尿病と診断したら、糖尿病の疾患分類のため、治療計画のため、あるいは予後判定のために基礎疾患・併発疾患の検査をします。
犬でよくみられる基礎疾患・併発疾患
糖尿病の基礎疾患
- クッシング症候群
- 膵炎
- 発情
- 卵胞嚢腫
- 黄体嚢腫
- 子宮蓄膿症
糖尿病の併発疾患
- 尿路感染症 (膀胱炎、前立腺炎、腎炎)
- 慢性腎不全(腎症)
- 白内障
- ぶどう膜炎
- 網膜症
- 皮膚炎・皮膚感染症
- 脱毛
クッシング症候群、膵炎、雌犬の発情および卵巣疾患(黄体嚢腫など)は、必ず除外または診断・治療します。
尿路感染症やその他の炎症性疾患、白内障やぶどう膜炎による視力障害は、それぞれ犬に肉体的あるいは精神的ストレスを与え、糖尿病治療の障害となります。
犬の糖尿病治療の概要
糖尿病治療の目標はQOL の改善で、具体的には多飲・多尿の改善、合併症(白内障、網膜症、腎症など)の予防などです。
犬では血糖コントロールを厳密にしても白内障や網膜症を防ぐのが難しいです。
血糖コントロールが不良であれば、かなり早い時期に腎症(進行性の慢性腎不全)を引き起こします。
たとえ臨床的な慢性腎不全が起こらなくても、病理組織学的には糸球体や近位尿細管の障害が進行します。
その他の合併症は短期~長期を通じてあまり問題になりません。
雌犬の避妊の重要性
発情後には、黄体から分泌されるプロゲステロンが強力なインスリン抵抗性を引き起こします。
糖尿病の治療中に発情すると、血糖コントロールが著しく困難になります。
この状態は黄体が自然消退するまで1 カ月以上も持続します。
黄体嚢腫の例ではさらに長期間の高プロゲステロン血症が糖尿病治療に悪影響を与えます。
このため、糖尿病と診断した雌犬では可能な限り卵巣(子宮卵巣)摘出術を行います。
一過性の発情後高血糖であっても、将来(次回発情時)の再発や糖尿病移行を予防するためには手術するほうがいいです。
同様の理由で、一過性の発情後高血糖を起こした雌犬は繁殖に使わないほうがよいです。
妊娠中の高血糖は母体と胎児に悪影響を与える。
犬の糖尿病の食事と生活
犬の糖尿病を良好にコントロールするためには、食事療法と適度な運動が必要です。
食事療法には糖尿病用の処方食を用います。
犬の糖尿病処方食は食物繊維が強化されており、食後の一過性高血糖を抑制します。
【療法食】 ロイヤルカナン ドッグフード 糖コントロール 1kg
処方食を好まない犬では、成犬用または老犬用のドライフードまたは缶詰を与えます。
半生フードには多量の糖分が添加されているので糖尿病治療には適さないです。
【療法食】 ロイヤルカナン ドッグフード 糖コントロール 195gx12
血糖コントロールに必要でない限り、間食は避けるほうが無難です。
上記のご飯以外にも、多数の療養食が様々なメーカーから出ています。
しかし獣医の目線、また過去の研究結果に基づくとヒルズやロイヤルカナンは高いですが、効果は保証されています。
運動はできるだけ毎日一定にします。
インスリン治療中の犬が急に激しく運動すると(競技犬、猟犬など)、致命的な低血糖に陥る危険があります。
犬の糖尿病のおやつ
犬の糖尿病のインスリン療法
糖尿病に罹患した犬のほとんどは、膵臓でのインスリン合成・分泌能を失っています。
つまり、これらの犬では生存あるいは血糖コントロールのためにインスリン療法が必要です。
すぐにインスリン療法を開始しないのは、クッシング症候群や発情後高血糖などの基礎疾患が明らかであり、かつ糖尿病による臨床症状が軽度である場合です。
これらの場合にも血漿インスリンを測定して高値である(インスリンは過剰に分泌されているが、インスリン抵抗性により糖尿病が発生している)ことを確認するべきです。
a) インスリン療法の目標
糖尿病のインスリン療法では、血糖値をどの範囲にコントロールするか、予め目標を立てておく必要があります。
犬では、比較的軽度の高血糖(200mg/dL 程度)でも尿糖が陽性となり、その程度の高血糖が持続すると白内障や腎症が現れます。
一方、血糖値が60 mg/dL 程度になると低血糖症状が現れます。
このため、糖尿病の犬ではインスリンを適切に使用し、血糖値を80~180 mg/dL 程度の範囲に厳密にコントロールします。
b) インスリン製剤の選択
犬の糖尿病は、ヒト用に市販されている組換えヒトインスリンで充分に治療できます。
インスリン製剤を選択するために大切なのは、皮下投与した場合の持続時間です。
一般に、小型犬では皮下投与したインスリンの作用時間が短く、大型犬では長いです。
小型犬では作用時間の長いインスリン(作用時間長い順)
- インスリングラルギン
- インスリンデテミル:レベミル
- 豚由来(Vetsulin)
- NPH
大型犬では作用時間が比較的短いインスリン(作用時間長い順)
- 混合製剤(30Rなど)
- レギュラーインスリン
を使用します。
これらを単剤または組み合わせて使用することで、糖尿病の犬のほとんどに対応できます。
また、これらの製剤は猫にも用いることができます。
インスリンデテミル(レベミル:ノボ・ノルディスク)はヒトの持続型インスリンとして2007 年に発売されました。 犬では単位あたりの血糖降下作用が他剤よりも強いです。 このため、他剤からインスリンデテミルに変更する場合には、低血糖を起こさないように注意します。
c) インスリン療法の実際
犬では、1 日2 回、決まった時刻に決まった食事(前記の糖尿病治療食)を与え、食事の直後にインスリン注射することを基本とします。
- 生活習慣に合わせて食事と注射の時間を毛亭
- 糖尿病用処方食を1 食につき30~40 kcal/kg 程度
- 肥満犬で少な目、削痩した症例で多め
- 食べ残した場合には取り除き、インスリンを皮下投与
- 犬のサイズに関わりなく、最初は作用時間が中庸なNPH インスリンを使用
- インスリンの作用が短い場合には、より作用時間の長いインスリン製剤に変更
(例:NPH→ インスリングラルギン) - インスリンの作用が長すぎる場合には、より作用時間の短いインスリン製剤
- 使用するインスリン製剤の決定
投与前の血糖値と、血糖最低値の差が200~250 mg/dL となるように、インスリン投与量を増減します。
インスリンを使用し始めたばかりの段階では、血糖値を正常範囲(100 mg/dL)に近づけようとしません。
インスリンを過剰に投与すると低血糖の危険があります。
「ソモギー効果」
低血糖に陥った体内では、血糖値を上昇させるためにグルカゴン、グルココルチコイド、カテコラミンが分泌され、血糖値は急激に上昇する。
また、これらの血糖上昇ホルモンは強いインスリン抵抗性をもつため、その後約1 日はインスリンを投与しても血糖は降下しなくなる。
d) 血糖が降下しない場合
インスリンの1回投与量を2~5割ずつ増やします。
インスリンの1 回投与量が1.5 U/kg を越えても血糖が降下しなければ、重篤なインスリン抵抗性と判断し、併発疾患(クッシング症候群など)を再検討します。
e) 維持治療とインスリン投与量の調節
初期治療で血糖値の底が高くても、しばらく投与しているうちに、血糖曲線は全体に降下します。
これは外因性インスリン投与によって高血糖が緩和されると、次第に内因性インスリンの合成と分泌が復活して「グルコース中毒」が解消されるからです。
これを考慮せずに不用意にインスリンを増減してはいけません。
治療開始後しばらくは1 週間程度の間隔で再検査します。
- 朝、普段通りの時間に食餌を与えてインスリン投与し、午後(血糖が最低になる時間帯が望ましい)に来院します。
- 動物の状態(飲水量、尿量、脱水の程度、体重)を記録し、血糖測定を行います。
- 体重はその犬種の理想体重に近づけるようにします。
- 血糖値の底が80~180 mg/dL になることを目標にインスリン投与量を調節します。
1 日を通して血糖値が100~250 mg/dL の範囲に入るのが理想ですが、非常に難しいです。
インスリンを増量しても思ったようなコントロールができないときは、併発疾患を探すか、血糖曲線を書き直すほうが安全です。
糖尿病を治療しているうちにインスリン感受性や作用時間が変化することもあります。
インスリンをむやみに増量すると致死的な低血糖を起こす危険があります。
また、インスリン投与直後に急激な血糖降下が起こり、ソモギー効果によって検査時には高血糖を呈する可能性があります。
f) 長期管理
体重が安定し、尿糖が陰性~弱陽性であり、臨床症状が良好であれば、インスリン投与量をいったん固定して4~6 週間ごとに定期検査します。
安定しない場合は、作用時間のより長い製剤を併用すると、血糖曲線を平坦化しやすくなることが多いです。
その他の治療法
a) 経口血糖降下剤
犬で経口血糖降下剤を単独使用する機会はほとんどないです。
犬ではインスリンが絶対的に不足した症例が多いため、膵臓のインスリン分泌を刺激するスルフォニルウレア剤(SU 剤)は無効か、むしろ有害です。
ビグアナイド系の薬剤が部分的な効果を示したという報告はありますが、ほとんど用いられません。
b) 糖吸収阻害剤
アカルボース(グルコバイ:バイエル)は小腸での二糖類吸収を遅延させ、食後の急速な血糖上昇を予防します。
糖尿病処方食は、食物繊維を増量して急激な血糖上昇を防ぐように設計されています。
しかし処方食の嗜好性が悪い場合や、他の疾患(膵炎、腸炎、アレルギー疾患)の治療を並行する場合には、通常の食餌または処方食に本剤を添加します。
副作用としてしばしば下痢・腸管での異常発酵(放屁)が認められます。
グルコバイ: 2 mg/kg, BID
c) 糖尿病性白内障の治療
糖尿病の犬では白内障がほぼ必発します。
どれほど厳密な血糖コントロールをしたとしても、白内障は避けられないことが多いです
グルタチオン点眼液やアルドース還元酵素阻害剤の白内障予防効果はほとんどないです。
白内障の治療には眼科手術が必要です。
白内障が進行すると網膜もすぐに萎縮するため、手術で視力を温存するには早期治療が重要です。
網膜誘発電位(ERG)検査で網膜機能が正常であることを確認し、できるだけ早期に手術します。
糖尿病の犬ではブドウ膜炎や緑内障も起こりやすく、白内障治療の障害にもなります。
糖尿病に併発したブドウ膜炎には、非ステロイド系の消炎剤を用います。
不用意にステロイド系点眼薬を用いると、ステロイドが血中に入ってインスリン抵抗性の原因になる。
犬の糖尿病にかかる治療費
毎月かかるコストは、インスリン、毎日の療養食と注射針(ロードーズなど)、定期的な尿検査や血液検査になります。
病院、インスリンの種類、注射針の種類にもよって多少差はありますが、月に2−5万円前後です。
犬の糖尿病の治療評価
糖尿病の重症度や治療効果を評価するために、フルクトサミン、糖化アルブミン、糖化ヘモグロビン(HbA1c)などの糖尿病マーカーが利用されています。
<フルクトサミン>
持続的な高血糖により血清蛋白が変化したものです。
過去2 週間程度の血糖値を反映します。
健康な犬では300 μM 未満(多くは250μM未満)です。
糖尿病の犬の多くでは400μM
以上(典型的には500~600 μM 以上)を示します。
<グリコアルブミン>
持続的な高血糖により血清アルブミンが変化したものです。
フルクトサミンと同様に、過去2 週間程度の血糖値を反映します。
測定値は%で表されます。
<糖化ヘモグロビン(HbA1c)>
HbA1c は赤血球のヘモグロビンが糖化されたものです。
HbA1c は全ヘモグロビンに対する百分比で表され、健康犬では1~2%、糖尿病の犬では1~6%の値を示します。
高値は過去数週間~数ヶ月の高血糖を反映します。
犬の糖尿病の予後、余命、寿命
犬の糖尿病の予後は血糖コントロールの程度や、基礎疾患・併発疾患の程度によります。
糖尿病そのものが死因になることはなく、心不全、肺炎、腎不全、感染症、無関係の腫瘍、老衰などが最終的な死因になります。
多飲多尿の判断とは?
1日に体重 × 50mL以上の水を飲む場合は注意が必要です。
個体差もありますので、個人的には60ml/kg/day(1日1kgあたり)までは許容範囲な感じがします。
では具体的にどれくらいの量を飲むと、異常なのでしょうか?
確実に病的な多飲としては体重 × 100 ml以上の水を飲む場合、水の飲み過ぎと判断して良いでしょう。
例えば、体重5kgであれば、5×100 = 500mL以上飲むと異常ということになります。
しかし、上記は目安なので、1日に体重1kgあたり80mlであっても、徐々に増加しているのであれば注意が必要です。
飲水量の計測
上記の体重×50mLという値は飲水 + 食事の合計量です。
5kgの犬猫のドライフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
ドライフード
ドライフードの場合は5kg × 50 = 250mL以上で水の飲み過ぎです。
ウェットフード
ウェットフードを与えている場合は、フードに含まれる水分も考慮しなくてはいけません。
5kgの犬猫が1日200gのウェットフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
多くのウェットフードに含まれる水分量はおよそ75%です。
つまり、200g × 0.75 = 150 mLの水分を食事から取っていることになります。
ウェットフードの場合は250mL – 150mL = 100mL以上で水の飲み過ぎということになります。
飲水量の測り方
置き水は飲む以外にも蒸発して減っていきます。
正確に飲水量を測る場合は、蒸発量を考慮に入れた以下の方法で測ると良いです。
通常の水入れの場合
- 同じ形の水入れを2つ用意する
- どちらにも同じ量の水を入れる
- 1つは普段通り自由に飲める場所に置く(A)
- もう1つは隣に飲めないようにして置く(B)
- Bの残りの水の量 – Aの残りの水の量 = 飲んだ水の量
これで正確な飲水量を測ることができます。
ペットボトルに入れるタイプで給水
この場合は、あらかじめ入れる量を計算すれば、蒸発を考える必要はありません。
もちろん体重 × 50 mlを超えていないかをチェックするのも大事ですが、水の飲む量には個体差があります。
1番大事なのは変化(増加傾向、減少傾向)です。
日頃から飲水量を測定しておき、増加していないかどうかチェックするのが良いでしょう。
排尿量の測り方
水を多く飲むということは、「尿の量が増えて喉が渇く」ということです。
多飲:多く水を飲むということは体が水を欲している脱水状態であり、必ず排尿量も増えます。
飲水量以上に排尿すると脱水になりますし、飲水量よりも排尿量が少ないとむくんでしまいます。
なんだか最近水を多く飲むようになったなあと思ったら、飲水量を測ると同時におしっこも確認して見ましょう。
- 量や回数が増えていないか?
- おしっこの色が薄くなっていないか?
また、自宅で簡単に尿検査ができるペーパースティックを使用して、血統、鮮血、pHを測定することも大事です。
ペットシーツを使用している場合、ペットシーツの重さを測ることで尿量を測定することができます。
勝手に飲水量を制限してはいけません
飼い主さんの中には、水を飲み過ぎていると、心配になって飲水を制限してしまう方がいらっしゃいます。
しかしこれはやってはいけません!
なぜなら、水を飲むということはすでに脱水状態にあるため、脱水状態が悪化してしまうから。
水を飲み過ぎてしまう場合は、水を制限せずに早めに動物病院を受診しましょう