獣医師解説!犬の胃拡張・胃捻転症候群〜症状、診断、治療〜

胃拡張・胃捻転症候群 Gastric Dilatation-Volvulus(GDV)は、胃の異常な拡張および捻転により血管系の圧迫や大量の胃液の排出などが生じることでショックに陥り、短時間で死に至る緊急疾患です。

夜間病院では、比較的軽症の患者から、肺水腫などの集中管理が必要な症例、また、胃拡張・胃捻転症候群、腸閉塞、子宮蓄膿症、帝王切開など緊急手術を要する患者まで様々な症例が来院します。

動物救急疾患の中でも、胃拡張・胃捻転症候群は、一般的に特に救命が困難である疾患と認識されています。

重要なことはショックの程度を把握し、的確に病院に連れて行き、麻酔をかけるまでは血液動態を安定させ、洗浄、外科的に胃を元の位置に戻すことです。

この記事を読めば、犬の胃拡張・胃捻転症候群の症状、原因、治療法がわかります。

限りなく網羅的にまとめましたので、胃拡張・胃捻転症候群ついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。

記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

✔︎本記事の内容

犬の胃拡張・胃捻転症候群〜症状、診断、治療〜

犬の胃拡張・胃捻転症候群とは?

犬の胃拡張・胃捻転症候群とは?
胃拡張・胃捻転症候群 Gastric Dilatation-Volvulus(GDV)は一般診療において決して発生率の多い疾患ではないですが、夜間病院において比較的遭遇する機会が多いです。

胃拡張・胃捻転症候群は、胃軸の回転(捻転)を伴い、胃が異常に拡張します。

後大静脈・門脈などの主要血管、多臓器が圧迫されることで 全身性ショックを引き起こす致死率の高い救急疾患です。

過去の報告や施設によっても異なりますが、本疾患は治療を施しても、 死亡率が高く、その死亡率は15〜68%と言われています。

胃拡張・胃捻転症候群を救命するためには、病態を的確に把握し、救急処置を優先させます。
なるべく早期に胃の減圧・捻転の整復、再発防止のために永久的な胃固定を実施する必要があります。

胃拡張・胃捻転症候群の原因

胃が捻転する正確な機序は不明

複数の危険因子が関与

胃拡張・胃捻転症候群の好発犬種

胸郭の深い大型犬や超大型犬

ジャーマンシェパードドッグ、グレートデン、スタンダードプードル、アイリッシュセッター

痩せ型体型、高齢、ストレスにある環境はリスクとなります。

高齢のミニチュアダックスフンドやシーズーには要注意

胃拡張・胃捻転症候群の好発年齢

あらゆる年齢で発症(中年齢〜高齢での発症が多い)

犬の胃拡張・胃捻転症候群の臨床症状

急性の腹部膨満(鼓脹)、吐物を伴わない悪心、落ち着きがなくなる

過流涎、沈うつ、起立困難

  • Phase1 (捻転初期)
    行ったり来たりする、落ち着きがなくなる、嘔吐
  • Phase2 (ショック前期)
    不安、パンティング、流涎
  • Phase3 (ショック期)
    起立不能、可視粘膜蒼白、腹囲膨満(硬く張る)

食後に落ち着きがない、何度も吐く、吐くそぶりをする、お腹が張っている、ぐったりしている場合は救急病院の受診が推奨されます。

胃拡張・胃捻転症候群の危険因子

  • 大型犬および超大型犬
  • 近縁にGDVに罹患した犬がいる
  • 胸部が深くて、幅が狭い
  • 加齢
  • 脾摘の既往歴
  • 胃の腫瘍
  • ストレス(長期入院など)
  • 1日1回の給餌
  • 食餌の粒が小さい給餌直後の運動

犬の胃拡張・胃捻転症候群の問題点とは?

  1. 胃捻転
  2. 食道・幽門の閉塞
  3. 胃内の空気・液体成分の異常貯留
  4. 細菌によるガスの過剰生成
  5. 胃の拡張の進行
  6. 静脈還流量↓・心拍出量↓
  7. 心筋の虚血→不整脈
  8. 閉塞性ショック
  9. 組織への不十分な血液還流
  10. 多臓器不全

胃捻転
時計回り方向への胃の捻転
Tech. Mag. Vet. Surg. Vol.5 No.2より引用、改変

犬の胃拡張・胃捻転症候群の検査方法

犬の胃拡張・胃捻転症候群の検査方法

視診・触診・一般身体検査

Stage分類、意識レベルの評価

上腹部の鼓脹、股動脈の触知、可視粘膜の色調確認など

気道確保が必要であれば、気管挿管を優先

Stage1
動物が飼い主の介助なく、自力歩行可能な状態

Stage2
努力性呼吸、流涎を呈し、歩様失調または歩行困難な状態

Stage3
意識レベルが低下し、横臥位のショック状態

来院時のStageが進行するに従い、救命が難しくなります。
動物の病態を的確に把握し、的確かつ迅速な救急処置を行うことで、
病態の進行、合併症の発現を最小限に留めます。

胃捻転・胃拡張症候群を起こしていると、高確率で腹囲膨満が認められます。

最後肋骨の尾側あたりに拡張したいによる腹囲膨満を確認できます。

  1. 容易に凹む(軟式テニスボール)程度
  2. 凹むが抵抗がある(空気を入れすぎた風船)
  3. 全く凹まない(バレーボール)

硬さが増してくるほど、捻れや虚血の程度が強いことが予想されます。

X線検査

X線検査
右側横臥位、DV像により診断が可能です。

右側横臥位では、頭背側に変位する幽門、十二指腸ガスを確認

軟部組織に停滞部が分割される不透過性ラインが描出されます。

DV像では左上腹部に、軟部組織により分割された幽門を確認できます。
(ボクシンググローブサイン)

単純性胃拡張の場合は、右側横臥位では胃内に大量のガス貯留が認められますが、背側領域にガスの貯留した幽門は認められません。

360℃捻転の場合には、X線検査所見のみでは鑑別が困難な場合もあります。

14%で誤嚥性肺炎が認められたとの報告のため胸部X線検査も推奨されます。

血液検査

電解質、腎機能、貧血の有無、血小板数の確認など、循環障害により生じる臓器不全のスクリーニング

腹腔内出血が生じている場合は、PCVやTPの検査

DICのために血小板、血液凝固系の検査も勧められます。

循環不全に伴い血中乳酸値の上昇が認められ、6.6mmol/l (59.5mg/ml)以上で予後不良との報告もあります。

超音波検査

胃拡張・胃捻転症候群は腹腔内出血を引き起こす可能性があります。

腹水の確認(短胃動静脈、脾動静脈、左胃-体網動脈の断裂)が必要です。

胃の拡張捻転に伴い、胃脾靭帯で繋がっている脾臓も左腹側から背側を経て右腹側へと変位します。

この時に、胃の変位に脾臓がついていなければ、胃脾靭帯の断裂が起こり、短胃動静脈の断裂が生じます。

さらに脾捻転に伴い、脾動静脈、左胃-体網動脈の断裂が生じます。

腹腔内に出血が認められる場合は、脾臓摘出の必要です。

心電図検査

不整脈は、約40%程度生じると言われており、多くは心室を起源とする心室性期外収縮、心室性頻拍です。

また、術前から不整脈が認められる場合は予後不良です。

処置をするべき期外収縮

  1. 低血圧、低灌流状態(意識レベル・脈拍の低下、粘膜蒼白、CRTの延長)
  2. R on Tを認める場合
  3. 迷走神経刺激および心筋の虚血に対する抗不整脈薬治療
  4. 心室性頻拍

犬の胃拡張・胃捻転症候群の治療法

  • 全身麻酔下にてチューブによる胃ガスの抜去を実施し、胃洗浄により捻転整復を試み、成功。
  • 全身麻酔下にてチューブによる胃ガスの抜去を実施し、胃洗浄により、捻転整復が困難な場合、外科学的整復。
  • 再捻転を予防する為、開腹手術による胃固定を実施する為、チューブによる胃ガス抜去のみとし洗浄を行わず開腹手術にて整復、固定を実施

充分に洗浄できれば50%程度の症例において胃洗浄のみで捻転整復が可能

捻れがきつくホースが入りにくい場合や、洗浄しても捻転が改善しない場合は外科的整復

若齢で、麻酔中の血行状態が安定しているのであれば、今後の捻転防止のために胃固定が推奨

犬の胃拡張・胃捻転症候群の治療法(内科的)

犬の胃拡張・胃捻転症候群の治療法(内科的)

  1. 全身状態の把握、患者の状態安定化、インフォームドのための時間の確保(経皮的胃穿刺・酸素吸入)
  2. 種々のショックに対する予防(急速輸液、抗生物質・ステロイド剤投与)
  3. 迷走神経刺激および心筋の虚血に対する抗不整脈薬治療

※初期内科治療は外科治療に先立って実施

経皮的胃穿刺

①患者を右横臥位にし、左上腹部を打診

②最も鼓音の明らかな部位を毛刈り消毒し太めの留置針で穿刺

穿刺時に脾臓や血管を傷つけないように、打診は慎重に実施

胃洗浄

①全身麻酔、気管挿管、人工呼吸の実施

・血圧低下が考慮される場合、ドパミン、ドブタミンを単独又は併用

②可能な限り太めの胃チューブを挿入

・右側横臥位または立位などの体位だと噴門を通過しやすい

・チューブ挿入後、体位を変換することでチューブが通過することある

・捻転が存在し、挿入に対して抵抗がある場合は、食道穿孔のリスクがあるため、直ちに開腹手術へ移行

③洗浄

・チューブが胃内に到達したら、ガスおよび内容物を可能な限り除去し、温水を注入し、洗浄処置を繰り返す

・洗浄の際は、誤嚥を防止するため、喉頭にはガーゼを詰める

種々のショックに対する予防

意識・呼吸状態を見ながら、上腹部に圧迫を加えないように保定

呼吸状態が悪ければ、気道確保、胃の減圧を優先

ラインの確保、急速静脈輸液の実施

後肢の静脈還流は阻害されている可能性が高いため、橈側皮静脈から実施(可能なら両側)

輸液開始速度は50-90ml/kg/h

心室性期外収縮が認められた場合は、リドカイン 2-4mg/kg/iv、その後は25-80μg/kg/min/CRI

二次感染予防、敗血症予防

抗生物質

コルチコステロイドの投与

心筋の保護、組織循環(脳を含む)の改善、ショック予防

コハク酸メチルプレドニゾロン 10-30mg/kg/iv

H2ブロッカー投与

胃酸による粘膜潰瘍の予防、逆流性食道炎の予防

シメチジン 10mg/kg/iv

抗コリン薬の投与

胃酸および唾液分泌の抑制と胃および腸管の緊張を減ずる

アトロピン 0.05mg/kg or グリコピロレート 0.01mg/kg

犬の胃拡張・胃捻転症候群の治療法(外科的)

犬の胃拡張・胃捻転症候群の治療法(外科的)

  1. 捻転を整復し、胃を正常位置に整復すること
  2. 胃と脾臓の虚血性障害の程度を評価し、必要あれば切除すること
  3. 再発防止のため、永久的胃固定を行うこと
※手術の時期に関しては、確定診断後、患者が安定化していれば、なるべく早期に行うことが推奨

早期外科手術が推奨される理由

  • 仮に開腹せずに胃の減圧に成功しても、残存する胃の位置異常が胃への血液供給を妨げ、胃壁の部分的壊死の発現リスクがある
  • 開腹して、胃固定を実施しない場合は、高率に再発する
  • 頻発する不整脈の発現時期が発症後12〜36時間と言われているため、早期外科手術は麻酔リスクを減ずる

開腹手術

上腹部正中切開

・剣状突起から臍-恥骨間の辺りまで切皮

・膨満した胃や変位した脾臓を損傷しないよう注意、鎌状間膜の脂肪の切除

・視野を確保し、その後の操作を容易にする

腹腔内の精査

・胃の形態・色調、脾臓の梗塞の程度、腹腔内出血の有無

・必要あれば、胃を穿刺し、整復前に減圧する

脾臓摘出

・脾臓の破裂又は、壊死、梗塞が認められ、脾臓内に血栓形成が疑われる場合は、捻転整復前に脾臓摘出を実施

胃捻転の整復

・捻転を整復する前に、太めの留置針を用いて胃を減圧

時計周りに捻転していることがほとんど(反時計回りの捻転もありうる)

時計周り180°の捻転整復の場合

片手で幽門を掴み、反時計周りに右腹側へ回転させ、反対の手で胃体部を左背側へ押し込む

回転
Tech. Mag. Vet. Surg. Vol.5 No.2より引用、改変

胃洗浄

・捻転整復後、胃チューブを胃内へ挿入し、噴門を通過したチューブが胃内で触知できるか確認

・抵抗が存在する場合は、挿入を中止し、再度捻転整復

・胃内容物が多量の固形成分であり、チューブより排泄が困難な場合は、胃切開を実施

胃の漿膜表面の色調、血流状態を再評価

・捻転整復前に漿膜の色調が悪くても10-15分後に再評価

・色調が戻らず、壊死が疑われる場合は、壊死領域の部分切除または部分的陥入術を実施

部分的胃壁陥入術

部分的胃壁陥入術
胃壁の生存性が疑わしい又は壊死が確認された場合に実施

胃壁部分切除術と比べ、胃内容が腹腔内に漏出する危険性がなく、短時間で実施可能

生存辺縁部の漿膜-筋層をLembert-Cushing縫合で二重内反縫合

壊死領域は胃内へ脱落し、壊死せず活力が戻った内反組織は正常に機能

胃壁の壊死を伴う患者の死亡率は一般的に高い

胃固定術

術式 難易度 固定強度 再発リスク 備考
チューブ胃固定術 簡便 充分 低い 腹膜炎のリスク バルーンカテーテル使用
切開胃腹壁固定術 中程度 強い 低い 他法と併用可能
ベルトループ胃腹壁固定術 高い 強い 低い なし
肋骨周囲胃腹壁固定術 最も高い 最も強い 低い 肋骨骨折、気胸のリスク
正中腹壁胃固定術 簡便 強い 低い 次回開腹時に胃穿孔のリスク

胃固定術を行わなかった場合、再発率は80%と高いです。

胃固定を行うことで、再発率は10%まで低下します。(Glickman et al.,1998)
肋骨周囲胃腹壁固定術
①幽門洞の腹側において、大弯又は小弯に胃大網動脈枝を1-2つ含むように漿膜-筋層弁を作成

②右側腹壁において、第12又は13肋骨の肋骨腹膜-腹横筋を切開し、止血鉗子を用いて肋骨下トンネルを作成

③肋骨下トンネル内を弁基部が捻れないように、作成した胃壁有茎弁を通し、弁作成胃壁切開縁に縫合

本術式は非常に強固な固定が得れるが、操作が難しく、患者の容態が安定している場合に実施

胃壁の壊死がなくとも、胃壁は危弱化してることが多く、有茎弁作成においては注意が必要

正中胃腹壁固定術

①幽門洞腹側の胃壁を指又はアリス鉗子で保持

②尾側縁より、単純連続縫合で腹壁を縫合し、頭側部縫合の際に胃壁の漿膜-筋層にも針をかけ、胃壁を腹壁と併せて縫合

夜間病院など人手が少ない場合や、時間的なゆとりがない場合に選択

短時間に簡便に実施可能だが、次回開腹時には胃穿孔のリスクがあり要注意

犬の胃拡張・胃捻転症候群の術後管理

犬の胃拡張・胃捻転症候群の術後管理
術後の死亡要因

  • 基礎疾患の悪化
  • 循環不全に伴う多臓器不全
  • エンドトキシンショック
  • 胃穿孔を含む腹膜炎
  • 電解質、酸塩基平衡の異常
  • 不整脈

患者の発見が遅れ治療が遅延した場合や胃壁の壊死や脾臓の梗塞が重度の場合は、死亡率が増加

術後2-5日以内は下記の合併症が発現し死亡することが多いです。

  • 吐き気の有無
  • 上腹部の再鼓脹や呼吸状態
  • 可視粘膜の評価
  • 体温測定
  • 尿量
  • 定期的な血液検査
  • 循環不全や腹膜炎の確認
  • 発症後12-36時間に発現することの多い不整脈

GDVの発症は、夜間の時間帯に集中することが多く、夜間病院ではスタッフが少人数しかいない現状などがあり、胃固定の術式を選択することで、最善の対応・治療を行います。

開腹時に脾臓の色調変化が疑われた場合には、術後の血栓塞栓を予防するため、捻転整復前に積極的な脾臓摘出を行うことで、良好な予後を得ることができます。

胃拡張・胃捻転症候群の救命には外科的処置が必要不可欠であり、短時間で容態が急変し、一刻の猶予もない状況で、適切な治療が行われても50%程度です。

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no life no dogs & catsをモットーに、いつも犬と猫に癒されています。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。
現役獣医師が海外で勉強しながら得た、犬と猫の病気に対する知識とスキルを発信していきます。

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