獣医師解説!犬のインスリノーマ〜原因、症状、治療〜

ヒトのインスリノーマの多くが良性であるのに対し、犬のインスリノーマのほとんどは癌です。

犬のインスリノーマはリンパ節や肝臓に転移しやすく、診断時にはほとんどの症例で転移がおきています。

しかし、腫瘤そのものが生命に影響することは少なく、臨床症状のほとんど全ては低血糖によります。

このため、治療は血糖値を保ち、低血糖症状を予防することに向けられます。

腫瘍の外科的切除も有効であり、たとえ部分切除(腫瘍の減量)に終わっても、低血糖を緩和できれば生存期間を延長できます。

この記事を読めば、犬のインスリノーマの症状、原因、治療法までがわかります。

限りなく網羅的にまとめましたので、犬のインスリノーマついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。

✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。

記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

✔︎本記事の内容

犬のインスリノーマ〜原因、症状、治療〜

犬のインスリノーマの診断

犬のインスリノーマの診断

症例の検出

シグナルメント

中~高齢の犬に多いです。

性差や好発犬種は知られていません。

 臨床症状

低血糖によるもの(ふらつき、失神、発作)と代償性のカテコールアミン分泌によるもの(振戦、異常な行動)が現れます。

症状は常にではなく、ときどき現れます。

空腹,興奮,運動,食餌(餌への期待)などが症状の引き金になります。

犬のインスリノーマの検査

犬のインスリノーマの検査
身体検査
不可逆的な中枢神経障害に陥っていないかぎり、ほぼ正常です。

血液検査・血液化学検査

低血糖以外の異常はないです。

低血糖の鑑別診断

  • 敗血症
  • 飢餓
  • 激しい運動(猟犬や競技犬の低血糖)
  • 小型犬(トイ犬種)の子犬の低血糖
  • インスリノーマ
  • 悪性腫瘍に随伴する低血糖
  • 肝不全(門脈体循環シャントを含む)
  • アジソン病
  • 医原性(インスリンなどの過剰投与)
  • 胃の全摘出、胃腸吻合
  • 検査のミス(全血を血漿分離せずに放置)

内分泌検査

血糖値と血漿インスリンを測定します。

正しい診断のためには、低血糖(< 60 mg/dL)の状態で検査が必要です。

実際のインスリノーマの症例では時として血糖値が正常になっていることがあります。

その場合は絶食して経時的に血糖を測定し、60 mg/dL 未満になった時点の血漿をインスリン測定に用います。

以下の式により修正インスリン・グルコース比(AIGR)を計算します。

AIGR=インスリン (μU/mL) x 100/血糖値 (mg/dL) - 30
(血糖値が31 未満のときは分母を1 とする)

AIGR が30 を超えればインスリノーマと仮診断します。

10~30 であれば境界領域であり、再検査します。

10 未満であればインスリノーマの可能性はほとんどありません。

犬のインスリノーマの画像診断

犬のインスリノーマの画像診断

インスリノーマを単純X 線で描出することは難しいが、腹部エコーでは比較的観察しやすいです。

低エコーな球状のマスが複数確認できます。

膵臓内の原発巣は、ある程度のサイズに成長すると低エコーの結節として観察できます。

肝臓におけるインスリノーマの転移巣は、円形(球状)の小結節として描出され、周囲の肝実質と比較して低エコーであることが多いです。

さらに、膵臓周囲のリンパ節が転移により腫大し、エコーで観察されることもあります。

術前評価には腹部CT を行い、とくに肝内の転移巣に注意すると予後を判定しやすいです。

肝内に転移を疑わせる多発性の腫瘤があれば(造影剤投与直後の動脈相で造影される)、一般に予後不良です。

犬のインスリノーマの治療選択と内科的治療

犬のインスリノーマの治療選択と内科的治療

インスリノーマの治療の目標は血糖値を維持し、低血糖症状を防ぐことです。

血糖値は低血糖症状が現れない程度(60~80 mg/dL)に維持すればよく、100 mg/dL に近づけようとすると治療過多になります。

まず以下の内科的治療により血糖値を維持し、外科手術の是非を考えます。

インスリノーマは部分切除に終わっても血糖管理が容易になると期待できますが、多発性に転移巣が認められる場合は摘出術の適応外となります。

a) 食事療法

ドライフードまたは缶詰フードを用います。

半生フードには糖分が多く含まれているため、インスリノーマのインスリン分泌を必要以上に刺激して低血糖を招くおそれがあります。

1 日の総給餌量を60~80 kcal/kg として、それを4~6 回に分けてあたえます。

つまり、空腹の時間帯を減らすことで低血糖を予防します。

b) ブドウ糖

発作などの低血糖症状が現れている場合にはブドウ糖液を与えます。

アイスコーヒー用の小カップ入りガムシロップが便利です。

ただし、合成甘味料ではなくブドウ糖が入っていることを確認してください。

犬が意識を失っている場合は、シロップを唇の内側になすりつけるようにします。

嚥下させようと喉の奥に垂らしては危険です(誤嚥のもとになる)。

また、意識消失中の犬の口を無理に開けようとしてはいけません。

低血糖発作中の犬は歯を食いしばるため、人間が咬まれてけがをする原因になります。

犬が低血糖症状を呈している場合には積極的にブドウ糖を与えるが、低血糖症状が治まったらブドウ糖ではなく餌を与えるようにします。

ブドウ糖の半減期はせいぜい数分であり、低血糖症状を持続的に緩和することはできないです。

また、必要以上にブドウ糖を与えると、インスリノーマのインスリン分泌を刺激してリバウンド的に低血糖症状が悪化することもあります。

インスリノーマの治療で最もよくある間違いは、ブドウ糖を与えて治療したつもりになることです。
かならず食事療法と以下の薬物療法を行うこと。

c) プレドニゾロン

経口投与可能であり、最も容易な初期治療です。

0.5 mg/kg, BID で開始し、血糖が維持できるようになるまで増量します。

1mg/kg, BID を超えると医原性クッシングなど副作用のリスクが高くなるが、低血糖で死亡するリスクと副作用のリスクは慎重に考慮します。

肝酵素が軽度に上昇した程度でプレドニゾロンを減量し、犬が低血糖で死亡しては治療の意味がないです。

パナフコルテロン

パナフコルテロンは、有効成分のプレドニゾロンを含有した合成副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤です。

パナフコルテロンに含有されている副腎皮質ホルモンのプレドニゾロンは、炎症やアレルギー、免疫を抑えたりします。

プレドニゾロンは、抗炎症作用や持続時間が中程度であり、副腎皮質ホルモン剤の標準的な薬剤です。副腎皮質ホルモン剤として最も頻繁に使用されます。

d) ジアゾキシド

アログリセムカプセル25mg として国内で入手できます。

経口投与することでインスリンの分泌を抑制する薬剤です。

プレドニゾロンだけでは血糖維持が難しい場合、あるいはプレドニゾロンの副作用が無視できなくなった場合にプレドニゾロンと併用します。

5 mg/kg, BID で開始し、血糖値に応じて最大60 mg/kg, BID まで増量します。

高価であり、作用発現がやや遅く、しばしば消化器症状を示すのが欠点です。

プレドニゾロンおよびジアゾキシドで血糖が維持できない場合には以下の輸液もしくは注射薬を用います。

ただし、自宅での管理はほぼ不可能です。

e) 輸液

5%以上のブドウ糖を含む輸液(5%ブドウ糖液、3 号液など)を点滴します。

輸液だけで血糖を維持できることはほとんどないです。

高濃度(15~20%以上のブドウ糖液を末梢静脈から持続点滴すると、血管痛または血管炎の原因となります。

f) グルカゴン(グルカゴンG ノボ)

最も血糖上昇作用が強く、安全で管理しやすいです。

高価だがそれに見合うだけのメリットはあります。

開始量として5~10 ng/kg/ 分(0.3~0.6 μg/kg/hr)で点滴静注します。

開始後は血糖値の変化に応じて増減します。

g) ストレプトゾトシン

一種の抗癌剤であり、膵β 細胞をかなり選択的に破壊するため、ヒトでは手術不可能なインスリノーマに用いられています。

医薬品としては市販されていないため、試薬として購入します。

500 mg/m2 を1 回投与量とします。

2 時間以上かけて点滴静注します。

投与の前後2 時間ずつ、リンゲル液などを点滴し、利尿を確保します。

必要があれば3 週間ごとに追加投与します。

ストレプトゾトシンの副作用は消化器症状、腎不全です。

f) オクトレオチド(サンドスタチン)

持続型のソマトスタチン誘導体であり、インスリンの合成・分泌を抑制します。

10~40 μg/ 頭, sc, TID が基本的用量です。

皮下投与のため、在宅治療に用いることもできます。

効果はインスリノーマ細胞上のソマトスタチン受容体の有無により、個体差が大きいです。

長期使用で不応となります。

犬のインスリノーマの外科治療

犬のインスリノーマの外科治療

画像診断で転移巣が認められず、外科手術の適応があると考えられれば、外科手術が勧められます。

麻酔下の腹部CT や外科手術では絶食が必要となるため、入院して血糖値を維持する必要があります。

上述の内科的治療のうち、輸液+プレドニゾロン+グルカゴンを用い、血糖値を80~100 mg/dL程度で維持します。

術後管理

インスリノーマの摘出が成功すれば、術後にはほぼ必ず一時的な高血糖となります。

血糖値が300mg/dL を超える場合にはレギュラーインスリンを点滴静注(0.05~0.1 U/kg/hr)して血糖値を管理します。

この高血糖は、不可逆的な糖尿病に移行することもあります。

手術による膵臓のダメージや血流障害が大きい場合には、膵炎が起こります。

犬のインスリノーマの予後

犬のインスリノーマの予後

手術により一時的な寛解が得られたとしても、転移巣がある限りいつかは低血糖が再発します。

前述の通り、インスリノーマの予後は腫瘍そのものよりも低血糖に左右されます。

低血糖が再発したらまず内科療法を再開します。

また、可能であれば再手術で腫瘍を減量するのも一つの方法です。

最終的には低血糖発作で死亡するか、低血糖により中枢神経が不可逆的に障害されて治療不能となります。

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no life no dogs & catsをモットーに、いつも犬と猫に癒されています。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。
現役獣医師が海外で勉強しながら得た、犬と猫の病気に対する知識とスキルを発信していきます。

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