獣医師解説!犬のレプトスピラ感染症〜原因、症状、治療法〜

    レプトスピラ症は病原性レプトスピラ感染に起因する細菌性人獣共通感染症です。

    自然界における保菌動物はげっ歯類をはじめとする野生動物であり、それら動物の尿に含まれるレプトスピラに汚染された土壌や水に接触した動物が、経皮的に感染することが多いです。

    発症した犬は急性の肝不全、腎不全を起こし、しばしば致死的です。

    また、回復後には人や他の動物への新たな感染源となる可能性があるため、注意が必要です。

    予防にはワクチン接種が有効であすが、異なる血清群のワクチンは有効ではないとされています。

    日本では犬のレプトスピラ症は家畜伝染病予防法により届出伝染病に指定されています。

    ワクチンによる予防が可能で、非常に有効です。

    この記事を読めば、犬レプトスピラ感染症の症状、原因、治療法からワクチンの必要性までがわかります。

    限りなく網羅的にまとめましたので、犬レプトスピラ感染症ついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。

    ✔︎本記事の信憑性
    この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
    論文発表や学会での表彰経験もあります。

    記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

    » 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

    ✔︎本記事の内容

    犬の犬レプトスピラ感染症〜原因、症状、治療法〜

    犬レプトスピラウイルスの病原体


    病原体はLeρtosρirαinterrog.αnssensu lato
    スピロヘータ目 Sρirochaetales
    レプトスピラ科 Lettosρzraceae
    レプトスビラ属 Lettostira
    に分類されるグラム陰性、好気性、らせん状の細菌
    L. interrogansは犬ばかりではなく、人をはじめとする殆ど全ての哺乳類に感染します。

    動物のレプトスピラ症は家畜伝染病予防法の届出伝染病です。

    犬レプトスピラウイルスの疫学


    レプトスピラ症は世界中で発生が認められる人獣共通感染症です。

    家畜伝染病予防法に基づく国内の届出状況では.犬では2007 ~ 201 5 年の聞に毎年20 ~ 52頭、

    ウシでは 2007年に2頭、2014 年にl頭、ブタでは2007年に6頭、2011年に2頭の届出がありました。

    この数字は過小評価されている可能性があります。

    実際、2007年8月~2011年3月に実施された国内の 10県を対象とした犬レプトスピラ症の調査で届出対象となっていない感染があったとされています。

    また、国内における人のレプトスピラ症の発生は 2007年1月~2016 年 4 月で 30 都府県 258件報告されています。

    犬レプトスピラウイルスの宿主


    レプトスピラはネズミなどの野生哺乳動物の腎臓に保菌されていることから、尿中に排出され、土壌や水を汚染します。

    ある調査では、大阪府と兵庫県の野生化したアライグマの血清からレプトスピラに対する抗体が検出され、腎臓からはレプ トスピラの遺伝子が検出されました。

    このことから、野生アライグマも自然界におけるレゼルボア(reservoir)のlつとなっている可能性が強く示唆されます。

    犬レプトスピラウイルスの感染経路・感染の特徴


    前述のように保菌動物の尿に含まれるレプトスピラが土壌や水を汚染します。

    レプトスピラは湿った土壌や淡水中で数カ月死滅しないとされています。

    汚染された土壌や水に、傷を介した経皮的・経粘膜的、経口的に接触した動物が偶発的に発症します。

    そのため、台風などの河川の増水後に保菌動物の生息域から環境中にレプ トスピラが広がり、秋を中心に発生が多く認められます。

    犬レプトスピラウイルスの発症機序


    感染しても症状を世さない不顕性感染も多いとされます。

    甚急性感染では.、ショック状態となり急死することがある。

    体内に侵入したレプトスピラは初期には血液中に検出されます。

    その後、血中からは消失し肝臓や腎臓などの臓器で増殖することで症状を示すようになる。

    結果として、発症して動物病院に来院する犬は肝不全と腎不全を呈しており、レプトスピラは尿中にも間欠的に排菌されるようになります。

    治療が成功し回復した犬も、数カ月~数年間(あるいは一生)は間欠的に尿中にレプトスピラを排菌することがあり、新たな感染源となる可能性があります。

    犬レプトスピラウイルスの臨床症状


    多くの症例は黄疸を呈し元気消失、食欲不振、発熱や嘔吐などの非特異的な症候が認められます。

    急性腎不全によって多尿または無尿となっている症例もあります。

    時に炎症に起因する播種性血管内凝固(DIC)の続発による出血傾向や、全身性炎症反応症候群(SIRS)による多臓器不全に移行し死に至ることも多いです。

    近年、レプトスピラ肺出血症候群(Ieptospiral pulmonary haemorrhage syndrome:LPHS)と呼ばれる急性レプトスピラ症による肺出血を伴う致死的な呼吸不全が、犬を含む様々な動物種で報告されています。

    日本における犬のLPHSの報告は認められていませんが、レプトスピラ症が疑われる場合には胸部X線を撮影することが推奨されています。

    犬レプトスピラウイルスの診断

    血液検査、画像検査

    高ビリルビン血症、肝酵素(ALP、ALT、AST)の上昇、BUNとCreの上昇(時に腎不全が認められない症例もいる)が認められます。

    X線検査や超音波検査では腎臓の大きさが正常〜重大しており、急性腎不全が示唆されます。

    遺伝子検査

    全血や尿を材料とするPCRを用いた遺伝子検査で陽性であればレプトスピラ感染を確定できます。

    また、血中への出現は感染初期に限られること、尿中への菌体の排出も間欠的である可能性があるため、陰性であっても本症を否定できないです。

    血清学的検査

    MAT法(microscopicagglutination test:顕微鏡下凝集試験)による血清中のレプトスピラ抗体の証明が 診断と血清型の同定に有用です。

    犬レプトスピラウイルスの治療


    症例を用いた大規模臨床研究に基づく根拠には乏しいです。

    抗菌薬療法(ストレプトマイシン6.25mg/kg、 1日1回、またはアンピシリンやアモキシシリン22mg/kg、1日2回)を中心に行われます。

    この際、レプトスピラが体内で急速に死滅すると、死滅した細菌が特に尿細管などに炎症や閉塞を引き起こし、腎障害を増悪させる可能性があります。

    そのため治療開始初期には抗菌薬を低用量で用いる方がよいと考えられています。

    また、多くの症例で補助療法として静脈輸液を行う必要があります。

    寛解が得られ肝機能が改善したら、ドキシサイクリン(5mg/kg、1日2回、経口投与、3週間)を投与し、尿中へのレプトスピラの排菌を防ぎます。

    尿が出つづける症例では回復が期待できますが、乏尿・無尿となった場合には斃死します。

    回復した場合でも、人獣共通感染症の観点から感染源となる可能性を理解する必要があります。

    また、回復した約半数の症例は 1年以上にわたり腎機能が低下しているとの報告もあり、定期的なモニターが必要です。

    犬レプトスピラウイルスの予防


    レプトスピラは、野生動物の生息域とその近くの淡水域や湿った汚染土壌で感染する可能性が高いこです。

    そのような地帯に入る可能性がある犬(猟犬や森林地帯を散歩する犬など)にはワクチンの接種が推奨されます。

    異なる血清群(血清型)のワクチンは予防効果に乏しいため、生活する地域で流行が予想される血清群(血清型)を含むワクチンを選択するべきです。

    子犬では8週齢以降に初回接種し、その2-4週後に 2回日の摂取を行います。

    成犬における初回免疫処置では、2-4週間隔で2回摂取します。

    初年度の2回の基礎免疫獲得のためのワクチン接種後は、年1回のワクチン摂取が推奨されています。

    ワクチン摂取後15週間で多くの犬で抗体が検出されなくなるという報告があり、年2回以上のワクチン接種が推奨されることもあるが、 抗体が検出されなくなっても 1年以上の予防効果があったとする報告もあります。

    レプトスピラ症の発生が秋頃を中心に認められることを鑑みると、地域に流行する血清型のワクチンを晩春に接種することが推奨されます。

    ポイント

    「消毒法について」

    • レプトスピラは水の中や湿度の高い環境では長期間生存可能です。
    • 熱、乾燥、各種消毒薬には弱く、一般的な消毒法(次亜塩素酸ナトリウム、ヨード剤、逆性石けんなど)で消毒可能です。

    「人の症状について」

    • 最も多いのはインフルエンザに類似した感冒様の症状です。
    • 重症の場合には横断、出血、腎不全なども認められます。

    「退院後の注意点」

    • 回復した犬の尿中には、数カ月〜数年間は病原菌が含まれる可能性があります。
    • 手袋を着用するなど直接手を触れないように注意します。

    「同居犬への対応」

    • 発症した犬と同じ生活環境にあるため、同様に感染している可能性も考えられます。
    • 念のためにドキシサイクリンを投与(10mg/kg、1日1回、経口投与、3週間)することが推奨されます。

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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