動物病院で、自分の犬がネオスポラ症と診断された...
ネオスポラ症と診断されたけど、病院での説明不足や、混乱してうまく理解できなくてこの記事に辿りついたのではないでしょうか?
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結論から言うと、通常、本原虫感染犬は無症状ですが、様々な臨床症状を示す多くの例外があります。
成犬の感染例では免疫抑制薬の使用で脳脊髄炎、限局性皮膚小結節または潰瘍、肺炎、腹膜炎、あるいは心筋炎を起こすことがあります。
本症は進行性であるため治療の遅れは予後に悪影響を及ぼします。
子犬に臨床徴候が現れたら直ちに治療を開始する必要があります。
この記事では、犬のネオスポラ感染症についてその原因、症状、診断方法、治療法までをまとめました。。
限りなく網羅的にまとめましたので、ネオスポラ症と診断された飼い主、仔犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。
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» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
犬のネオスポラ症〜原因、症状、治療法〜
犬のネオスポラの病原体
犬のネオスポラ症は、シスト形成コクシジウムに属する偏性細胞内寄生性原虫Neospora caninumの感染による原虫病です。
感染雌犬からの同腹犬すべてまたはその同腹犬の一部が多発性神経炎、筋炎、筋萎縮症を伴った進行性の後肢麻痔を示すことが多いです。
ネオスポラ属 Neosρorαcαninumは、
アピコンプレックス門 Apicomplexa
サルコシスチス科 Sarcocystidae
に属する組織シスト形成コクシジウム類の一種で、 1988年に新種記載された偏性細胞内寄生性の原虫です。
犬に対する病原性に関与するのはN.caninumです。
Dubey JP et al. Newly recognaized fatal protozoan disease of dogs. Journal of the American Veterinary Medical Association 192. 1988. 1269-1285
Dubcy JP. Review of Neostora caninum and neosprosis in animals. Korean ]ournal of Parasitology 41 2003 1-16
犬のネオスポラの疫学
日本を含めた世界中で、ネオスポラ原虫(N.caninum)の分布が確認されています。
日本においては、2008年の北海道から沖縄県までの30都道府県の調査で10.4%の抗体陽性率でした。
本症ではウシにおける地方性と流行性伝播パターンが、農場内と周囲の犬の存在とその数に深く関係し、犬とウシの感染間には緊密な関係があると言われています。
1998年の調査では、ウシの牧場内とその周辺の犬の抗体陽性率は31.3%で、都市部で飼育されている犬の7.1%よりも陽性率が高いことが報告されています。
一方、海外では抗体価陽性の猫の存在も証明されていますが、現在まで臨床症状を示した個体は報告されていません。
犬のネオスポラの宿主
終宿主はイヌ科動物です。
終宿主として現在報告されているイヌ科動物は犬、コヨーテ、ハイイロオオカミ、デインゴです。
一方、中間宿主には野生動物を含む多くの哺乳動物が含まれ、またイヌ科動物も中間宿主としての役割を果たします。
犬のネオスポラの感染経路と生活環
ネオスポラ原虫の生活環は類似原虫であるトキソプラズマ原虫(T.gondii)のそれに類似しています。
本種の宿主への感染ステージは3種類存在します。
- 唯一の外界型であるオーシスト
- 中間宿主の組織寄生性の急増虫体のタキゾイト(ターミナルコロニー)
- 緩増虫体のブラディゾイト(シスト)
感染経路としては、終宿主のイヌ科動物へは上記3種類のいずれかが経口的に感染します。
腸管上皮細胞に侵入後そこで有性生殖を行い、未成熟オーシストの形で糞使とともに排出されます。
未成熟オーシストは外界でスポロゾイトを形成して感染性をもつ成熟オーシストとなります。
また、イヌ科動物を含む中間宿主は、3種の感染ステージのいずれかを経口的に摂食後、腸管上皮
細胞内でタキゾイトにステージ変換し、種々の移動システム(白血球移動システム)を介して全身の諸臓器に
移動し急速な虫体増殖を繰り返します。
一方で、宿主が抵抗性を獲得すると、急速な増殖から緩除な増殖に切り替わり、ブラデイゾイトへステージ変換することでシストを形成し長期にわたり組織内に存在します。
また犬での本症発症では、雌犬の妊娠期間中の感染、あるいはすでに感染し被嚢しているシストが妊娠をきっかけに再活性化しタキゾイトの形で胎盤を通過、胎児へ先天性感染を起こします。
犬への感染は、本症によるウシの流産胎児や胎盤などの汚染組織の経口摂取によります。
また、他の犬の排出したオーシストの経口摂取によって感染することも考えられますが、証明はされていません。
犬のネオスポラの感染の特徴
終宿主および中間宿主ともに垂直伝播(胎盤感染)があります。
犬に重篤な臨床症状を惹起するのは垂直伝播による先天性感染によるものです。
中間宿主での垂直伝播は流産を引き起こすことがあります。
犬のネオスポラの臨床症状
- 腰を揺するような歩行
- 大腿部の筋萎縮と後肢の過伸展に発展
犬におけるネオスポラ原虫の感染は、通常は無症状ですが、臨床症状を示すことも決して少なくないです。
様々な臨床症状が認められ、 最も多いのは感染雌犬からの同腹犬すべて、またはその同腹犬の一部が生後6カ月以内に
- 多発性神経炎
- 筋炎
- 筋萎縮症
を伴った進行性かつ上行性の過伸展を伴う後肢麻療を示すことです。
また、筋炎、 膜下障害、潰傷性皮膚炎、肺炎、肝炎の発症も数例報告されています。
成犬では免疫抑制薬を使用した場合、免疫が抑制されるために感染が増悪し、脳脊髄炎、限局性皮膚小結節または潰瘍、肺炎、腹膜炎、あるいは心筋炎を起こすことがあります。
グルココルチコイドや他の免疫抑制剤、さらに弱毒生ワクチンの接種なども発病の引き金になるかもしれないです。
血液学および生化学的所見は非特異的です。
しかし筋炎では、クレアチンキナーゼ(CK)とアスパラギン酸アミノトランスフエラーゼ(AST)活性の仁昇があります。
蛋白濃度の増加や、単球、リンパ球、好中球、好酸球からなる軽度の混合性炎症細胞の細胞増加症を含む脳脊髄液の異常も認められ、脳脊髄液中に虫体が認められることもあります。
犬のネオスポラの診断
病理検査
確定診断は脳脊髄液または組織中の原虫の検出に基づきますが、困難な場合が多いです。
筋肉硬結部位などからの生検組織の病理組織学的検査および免疫組織学的検査によって非化膿性炎症を証明し、原虫の存在が明らかになれば他の原虫と区別できる可能性もあります。
遺伝子検査
生検組織ならびに脳脊髄液からの原虫遺伝子のPCRによる検出は有用です。
血清学的検査
間接蛍光抗体法やELISA法による血清学的検査も行われています。
臨床症状を示した犬は発症していない犬にくらべて、高い抗体価を保有していることが多いです。
ネオスポラ症に対する診断用検査キットが有りますが、蛍光顕微鏡などが必要となるため、限られた機関でのみ使用可能です。
いずれにしても診断には大学等の診断が行える機関への相談が必要となります。
糞便検査(浮遊法)
臨床症状を示した犬は通常、オーシストを排出しません。
オーシスト排出期間は、犬が感染動物の組織を摂取した後わずか数日のみと短いです。
オーシストの大きさは通常のコクシジウムの1/4-1/2倍の大きさ (10-12μm)しかなく、しかも近縁の種のオーシストと区別がつきません。
したがって通常の浮遊法でネオスポラ原虫のオーシストを見つけて診断することは難しいです。
対策として糞便内オーシストを対象としたPCRによる遺伝子検査が有効です。
犬のネオスポラの治療
ネオスポラ症に対する有効な治療薬は開発されていません。
治験レベルでは各種サルファ剤や抗菌薬の有効性が報告されています。
トリメトプリム、グリンダマイシンを4週間から6ヶ月
本症が進行性疾患であることから、下記の場合は予後に大きな悪影響を与えます。
- 筋萎縮と硬直を伴った後肢不全麻俸のような重度の臨床症状が出現した場合
- 治療が遅れた場合
子犬に臨床徴候が現れたら直ちに治療を開始する必要があります。
犬のネオスポラの予防
現在、 具体的な予防法は確立されていません。
しかし生肉の供与などの回避は感染リスクを軽減させます。
また、牧場内および周辺では、犬の糞便で汚染された飼料の家畜への給餌の回避、家畜および野生動物の汚染胎盤を犬が摂食することの阻止も感染リスク軽減の対策の1つとなります。
一方、臨床症状を示した子犬の出産を経験した雌犬や、抗体価を有する雌犬を交配に供さないことや、高い抗体価を有する犬への免疫抑制薬の投与の回避もリスクを軽減させる手段となります。