獣医師解説!犬の重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)〜症状、原因、治療法〜

犬におけるSFTSウイルスの感染および発症は2017年に初めて報告されました。

このウイルスは2018年8月現在、猫で50%以上の致死率、犬で25%の致死率というばかりでなく、発症動物と接触した飼い主、獣医師が感染する事態も起きています。

これまでの発症例は少ないですが、症状は人と類似しており、発熱消化器症状、血小板減少、白血球減少などが認められます。

発症した犬では血液や糞便からウイルスが検出されており、その取り扱いには十分な注意が必要です。

本記事では、人での感染事例や対応法を解説した上で、犬については現在分かっている事を紹介します。

ダニ予防薬による予防が可能で、非常に有効です。

この記事を読めば、重症熱性血小板減少症候群の症状、原因、治療法からダニ予防の必要性までがわかります。

限りなく網羅的にまとめましたので、重症熱性血小板減少症候群ついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。

✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。

記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

✔︎本記事の内容

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)〜症状、原因、治療法〜

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の病原体

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の病原体

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus
ブニヤウイルス目 Bunyavirales
フェヌイウイルス科 Phenuiviridae
フレボウイルス属  Phlebovirus
マダニ媒介性の人獣共通感染症です。
フレボウイルス属のウイルスは、主に蚊やマダニなどの節起動物によって媒介されます。
同じフレボウイルス属には蚊媒介性人獣共通感染症であるリフトバレー熱ウイルスが含まれます。
エンベロープを有しているため、様々な消毒薬に感受性が高く、消毒は比較的容易です。

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の疫学

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の疫学

人における疫学

国内では 38℃以上の発熱と消化器症状(嘔吐、悪心、腹痛、下痢、下血)を呈し、

血液検査所見で、血小板減少、白血球減少および血清酵素(AST、ALT、LDH)の上昇がみられ、集中治療を要す、もしくは要した、

または死亡した者(他の感染症や他の病因が明らかな場合は除く)を対象としてSFTSウイルスに対する感染症発生動向調査が行われています。

その結果、西日本を中心として 2018年1月31日までに、合計318名の患者が報告されており、そのうち60名が死亡しました。
SFTS

動物における疫学

2010年以降に山口県で捕獲されたシカとイノシシのSFTSウイルスに対する抗体の保有率を調査した結果、2010年にはすでにシカの半数がSFTSウイルスに感染していたことが示されています。

さらに、様々な野生動物におけるSFTSウイルス感染状況を調査したところ、アライグマで24.5%(673/2.742)、タヌキで8.1% (481595)が抗体陽性を示しました。

他に、イノシシ、シカ、アナグマ、ハクビシン、サルがSFTSウイルスに感染していました。

月別では2月と3月以外のすべての月でウイルス保有動物が存在しており、SFTSウイルスの発生時期ならびにマダニの活動時期と一致していました。

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の宿主と感染経路

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)の宿主と感染経路

SFTSウイルスの感染環

マダニ個体の中でSFTSウイルスを伝播するマダニサイクル

マダニが感染している野生動物を刺咬することで感染し、さらにほかのマダニに伝播する動物サイクル

マダニサイクル

SFTSウイルスはマダニ媒介性ウイルスです。

媒介マダニとしてこれまでに明らかとなっているのはフタトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニです。

人や動物が感染マダニに刺咬されることで感染するとされています。

SFTSウイルス感染犬の周辺で捕集されたすべてのステージのフタトゲチマダニがウイルスを保有していたことから、マダニのすべてのステージで維持されていることが証明されました。

また、飽血雌成ダニが産んだ卵および卵から解化した幼ダニからも同様にウイルスが検出されており、SFTSウイルスは垂直伝摘することが明らかとなっています。

以上のことより、1匹のSFTSウイルス保有雌成ダニより多くのSFTSウイルス保有マダニが誕生することが示唆されます。

動物サイクル

中国の流行地では、ヤギ、ヒツジ、ウシなどの反芻獣がSFTSウイルスの感染率が高いといわれています。

山口県における調査においても、反芻獣であるシカにおいて抗体保有率が高いことが示されています。

SFTSウイルス保有マダニに刺咬された動物はウイルスに感染します。

ウイルスに感染した動物の血液中にウイルスは存在します。

その結果、ウイルス保有動物(特に野生動物)に同時に咬着しているすべてのマダニがSFTSウイルスを含む血液を吸うことで、SFTSウイルス陽性になります。

それらウイルス保有マダニは飽血後、動物から落ちて脱皮あるいは産卵することにより次のステージに進み、草むらなどで次の動物を待ちます。

このように1頭のウイルス保有動物から大量のウイルス保有マダニが生じるサイクルを動物サイクルといいます。

マダニサイクルと動物サイクルにより、大量のウイルス保有マダニが生じてきます。
これらウイルス保有マダニが、人、生産動物、伴侶動物、動物園動物、野生動物を刺咬し、SFTSウイルスを伝播します。

人一人感染

中国・韓国ではSFTS患者との濃厚接触により、家族、医師、納棺師などの感染が報告されています。

犬一人感染

2017年に飼育犬がSFTSを発症し、その飼い主も似たような症状を呈しました。

国立感染症研究所による検査により血清に抗SFTSV IgM抗体が検出されたことからSFTSを発症していることが明らかとなりました。

発症犬との濃厚接触があったこと、マダニの刺咬歴がないこと、発症時期などから総合的に判断して犬から人への感染が生じたものと判断されました。

感染ルートは明らかではないが、犬からの咬傷がないことから発症犬との濃厚接触による感染が強く疑われます。

犬における重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)ウイルス感染

犬における重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)ウイルス感染
2013年に行われた犬における抗SFTSウイルス抗体保有状況の全国調査の結果、山口県、宮崎県、熊本県で抗SFTSウイルス抗体を保有した飼育犬が確認されました。

また、山口県の1動物病院に来院した136顕の飼育犬を調査した結果、136頭中5頭(3.7%)が抗SFTSウイルス抗体を保有しており、2頭(1.5%)からSFTSウイルス遺伝子が検山されました。

これは過去にSFTSウイルスに感染、または動物病院に来院した際にウイルスを血液中に保有していたことを意味しています。

これら抗体・遺伝子陽性の犬の中にSFTS様症状を呈したものはいませんでした。

さらに、親子でSFTSを発症した過程で飼育されていた2頭の飼育犬について調査した際には、犬に多数のフタトゲチマダニが咬着していました。

犬小屋の周りには多数のマダニおよび飽血マダニが存在していました。

これら2頭の犬は、SFTSウイルス遺伝子陰性で症状も認められませんでしたが、抗SFTSウイルス抗体は陽性でした。

また、体表のマダニ、周辺のマダニの多くがSFTSウイルス陽性でした。
犬がSFTSウイルスに感染すること、そしてその多くは不顕性感染であることが示されました。

犬における重症熱性血小板減少症候群の初めての発症報告

犬における重症熱性血小板減少症候群の初めての発症報告
2017年に初めて犬におけるSFTS発症が報告されました。

2017年6月に徳島県の犬が、食欲廃絶を主訴として動物病院に来院し発熱、白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇、CRP上昇が認められました。

症状が悪くないため通院治療が行われ回復しました。

その後の検査で、SFTSと確定診断されました。

また、飼い主も犬の発症後数日してSFTSを発症していることが疑われ、後の診断で感染が確定しています。

犬もSFTSを発症すること、犬から人へ何らかの方法で感染したことが明らかとなった。

犬における重症熱性血小板減少症候群の症状

犬における重症熱性血小板減少症候群の症状

  • 発熱(39℃以上)
  • 白血球減少症(5,000/μL以下)
  • 血小板減少症(10万個/μL以下)
  • 入院を要するほど重症である(自力採餌困難など)
  • 上記のような症状を示す既存のウイルス(パルポウイルスなど)の感染や疾病が否定される

犬における重症熱性血小板減少症候群の診断

犬における重症熱性血小板減少症候群の診断
診断は発症した時期、地域、マダニの刺咬歴、臨床兆候、血液検査所見(血小板減少、白血球減少)に基づいて行います。

SFTSウイルス感染初期の臨床徴候は特異的ではないため、確定診断には実験室診断が必要です。

バベシア症など他のマダニ媒介性感染症や、白血球減少を伴う感染症や疾病との鑑別が重要です。

遺伝子検査

特異的診断としては、糞便、口腔スワブ、血液からのウイルス遺伝子の検出が確実です。

SFTSウイルスの実験室診断において迅速かつ特異性、感度ともに高い方法はRT-PCRによる遺伝子検出です。

通常の RT-PCRとくらべて感度、特異性が高く、コンタミネーションが少なく、迅速に診断できるReal-timePCRの系もすでに開発されています。

抗体検査

血清学的診断では、ペア血清を用いた急性期と回復期におけるウイルス中和試験、あるいはELISA法による抗体の上昇を確認します。

抗原検査

国内ではウイルス分離にはバイオセーフティーレベル3(BSL-3)の実験室が必須であるため、一般的な診断には不向きです。

ウイルスは早ければ2-5日で分離できますが、電子顕微鏡観察もしくは遺伝子検出を行い保定する必要があります。

犬における重症熱性血小板減少症候群の治療

犬における重症熱性血小板減少症候群の治療現在犬におけるSFTSウイルスに対する治療薬は存在せず、対症療法を行うべきです。

人のSFTSとほぼ同様の症状を示すので、人における症状管理が一部適応できます。

人においては絶対安静、流動または半流動食、十分な水分補給が推奨されており、特に低ナトリウム血症の際は電解質および、水分のバランスに注意します。

細菌や真菌による二次感染を引き起こした場合は適切な抗菌薬を投与します。

抗ウイルス薬のひとつであるリパピリンは、実際の臨床における効果については不明な点が多く、SFTSウイルスに対して高い治療効果は期待できません。

獣医師がSFTSウイルス感染動物から咬傷や掻傷を受けた際に使用を検討してもよいですが、処方可能な病院は限定的です。

隔離と消毒

SFTS発症動物に遭遇した場合は、行政や研究機関に相談します。

SFTS発症動物は基本的には入院させます。

入院させない場合、 SFTSウイルスが野外で広がり、特に飼い主が曝露するリスクがあります。

入院後はほかの動物と隔離しさらに、診察・ケアをする獣師および看護師は個人防護具を着用します。

排泌物、汚物にはウイルスが大量に合まれている可能性があるので、0.5%次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。

その際は、飛散を防ぐために、おむつなどで覆った後に、次亜塩素酸ナトリウムで処理し、決して直接触ることがないように処理しなければなりません。

犬における重症熱性血小板減少症候群の予防

犬における重症熱性血小板減少症候群の予防

ワクチン

現状ではSFTSウイルスに対するワクチンは存在しません。

マダニからの防御

人における対策

ワクチンは開発段階であり、現状では媒介するマダニの刺咬を可能な限り防ぐことが、SFTSウイルスの感染予防に最も効果的です。

マダニの刺咬を防ぐために以下の点に注意します。

①マダニの生息場所には可能な限り近付かない。

野生動物が出没する場所や道端の草むら、畑などにマダニは生息しています。

②野外では、可能な限り肌の露出を少なくし長袖、長ズボン、手袋などを着用

またなるべく明るい色の服を着用することで、黒・濃い茶色をしているマダニを早期に発見

③マダニによる吸血を防ぐためにディートやイカリジンが含まれる忌避剤が有効です。

商品によって有効成分の濃度と効果に違いがあるので、使用には注意が必要です。

動物における対策

マダニ駆除薬

各種マダニ駆除薬が獣医師向けに販売されています。

特に患者発生地域の犬・猫には処方するべきですが、前述した様に全国的にSFTSウイルスは存在しています。

その為、西日本に限定するのではなく全国の犬・猫にマダニの駆除薬は内服すべきです。

これは犬・猫を守るだけでなく、飼い主や獣医師を守ることにつながります。

また、マダニの活動が盛んになる3~12月にかけて積極的に処方すべきですが、

マダニは地域によっては通年捕集されるため、通年の処方がより良いと考えられます。




ブラッシングとマダニの除去

マダニはすぐには咬着せず体表を歩き回っているため、散歩後のブラッシングも有効です。

室内飼育犬に関しては、マダニを室内へ持ち込まないためにも、室外でのブラッシングが重要です。

マダニが咬着しているのを発見しても慌てず、獣医師に相談するのがよいです。

病院で咬着したマダニを注意深く取り除き、その後の健康管理に注意し、経過を観察します。

上記に合致した症状が出た場合は確定診断を研究機関に依頼することが重要です。

実際の予防薬










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no life no dogs & catsをモットーに、いつも犬と猫に癒されています。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。
現役獣医師が海外で勉強しながら得た、犬と猫の病気に対する知識とスキルを発信していきます。

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