犬の赤ちゃん・子犬のびっこ・破行する整形外科疾患:骨折、関節疾患、脊柱疾患、代謝性疾患
この記事の目次
骨折
成長期の犬の骨格構造
機能的には、成長中の犬の長管状骨は以下のものから成ります。
- 関節軟骨に覆われた骨端
- それに続く骨端軟骨
- 円筒状骨幹につながる骨幹端
いわゆる軟骨骨化の過程で、軟骨組織から一次多孔質が生じ、これが骨幹端の再構築によって、二次多孔質に変化します。
管状骨の長さの成長の完了後、骨端軟骨が骨化し、骨幹端が薄膜と融合します。
関節領域での成長は骨化中心から始まります。
これは、分化して軟骨骨化の基礎となる軟骨細胞の層に囲まれています。
これらの軟骨細胞は、プロテオグリカンに富む区域によって、関節軟骨に直接隣り合う軟骨中間層から区分されます。
血管を伴わない関節軟骨の潜在成長力は限られています。
このようにして、これは作用する圧力に依存しつつ、関節軟骨の成長および関節平面の再構築を保証しています。
外側の骨表面は頑丈で血管に富んだ膜、すなわち骨膜によって覆われています。
これは犬の若年期においては、たいへん厚いです。
コラーゲン線維束がこの骨膜を外骨層に固定しています。
内骨膜層は、さらに分化する間充織の原型細胞を含みます。
これらの原型細胞は、骨芽細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、あるいは脂肪細胞へと分化します。
その数は月齢とともに減少します。
髄腔、海綿質およびハバース管・フォルクマン管の表面は骨内膜によって覆われています。
ここに多数の前骨芽細胞が存在します。
外側の、コラーゲン線維が密に並んだ層へ、関節包の線維層と腱筋線維が入り込みます。
骨幹の成長は骨膜によって生じます。
このため、骨内膜骨が吸収される一方で、骨は骨膜表面に堆積します。
子犬および若犬における骨幹骨折の特徴
いわゆる骨折癒合不良(または偽関節形成)はまれですが、変型癒合または仮骨形成過多は、骨の治癒にとって問題です。
手術の際、骨端軟骨部は傷つけてはいけません。
さもないと、肢の短縮や重度の変形が生じかねないです。
若犬の骨折の発生率は、1歳齢未満が50~54%で、そのうち骨端離開が約30%です。
骨の成長はいたるところで生じますが、特定の部位、たとえば骨端軟骨や骨膜に集中するため、骨幹骨折は成長を阻害します。
しかし、子犬には、四肢の長さを維持するための、優れた補償機序が存在します
(骨折のあと該当する骨に全身的な成長刺激が加わり隣接する骨に骨折を補う長さの成長が生じる。)
- 骨折後は、厚い骨膜および副軟骨領域で新しい骨が形成され、骨折治癒と骨のリモデリング(再構築)を促します。
- 骨膜はその物理的強度によって断片を固定し、その結果、治癒過程での再編入が急速に行われます。
正しい治療法を選択するためには、若犬の骨が基本的に成犬に比べて軟らかく、曲がりやすいということを考慮する必要があります。
その構造は骨膜性であり、より多くのハバース管を持っている。
迅速な診断とそれに伴う治療法の決定は、治癒経過にとって非常に重要です。
診断には適切な臨床的検查、整型外科的検査およびX線検査が含まれます。
骨幹骨折の場合は、骨膜の厚さゆえ、若木骨折か単純骨折(低エネルギー・タイプ)が多い。
骨折の形態
骨折の診断は、病歴、視診、触診および2方向からのX線撮影によって行います。
骨は完全に(骨折)または不完全に(亀裂)、分離しています。
成長過程にある個体の場合、その厚い骨膜のため、不完全骨折(若木骨折)の場合が圧倒的に多いです。
ここでは骨膜管が維持された状態の皮質骨骨折がみられます。
若犬の場合も成犬の場合と同様、骨折は、骨折線の延長方向によって、
- 横骨折
- 斜骨折
- らせん骨折
- 楔状骨折
- 粉砕骨折(骨片3個まで)
- 粉砕骨折(骨片4個以上)
に区別されます。
骨折線の延長方向が骨端軟骨板にかかる(骨端離開)場合、SalterとHarrisによって、以下のように区分されます。
- タイプⅠ=延長方向が骨端軟骨板に沿っている。
- タイプⅡ=延長方向が骨端軟骨板に沿っており、骨幹端にかかっている。
- タイプⅢ=延長方向が骨端軟骨板に沿っており、骨端と関節にかかっている。
- タイプⅣ=延長方向が骨端軟骨板と交差しており、骨幹端、骨端、関節にかかっている
- タイプⅤ=骨端軟骨板が圧縮されているが、脱臼は伴わない。
骨突起骨折(骨端分離)は力が加わったあと(たとえば肩甲骨関節上結節の剥離骨折)および既存損傷(無菌壊死)のあとに生じます。
たとえば脛骨の骨端分離(いわゆるオスグッド・シュラッター病)またはその属している骨とまったく骨癒合しない場合(肘突起遊離)です。
結合部骨折は外傷(特に自動車事故)のあと、骨盤と下顎の領城にまれに生じます。
どの治療法をするべきか、および、どのような合併症が予測されるかを判断するためには、以下の点が重要です。
- 発生機序および骨折形態(屈曲、交差、捻転、剥離/伸展、圧迫)。
- 骨折部位(軸部骨折、関節骨折)
- 骨片転位の種類
-短縮/延長
-側方転位
-軸転位
-回転
さらに、開放骨折(グレードI・Ⅲ)は、閉鎖骨折と区別します。
グレードIでは、皮膚が内側から外側へ骨片の先端によって貫かれているが、軟部損傷はわずか。
開放骨折グレードⅡは、明らかな軟部損傷を示すが、骨は覆われています。
これはグレードⅢ同様、外部からの力の作用で生じる。
グレードⅢでは、骨が露出し、筋肉、血管、腱、皮膚に著しい損傷があります。
若犬の骨折治療の一般原則
近代的骨接合術の施行によって、骨折した骨は解剖学的に再構築し、早期に機能を回復することができます。
手術が必要な適応症は、開放骨折、関節、骨端、骨突起骨折、および顕著な骨片転位を伴う骨折です。
子犬の骨幹骨折の場合、治療方針はなるべく簡単なものを選択し、周辺の軟部組織の損傷がわずかで済むようにします。
それゆえ、外傷を最小限にとどめるために、しばしば絶対的に正確な修復は断念されます。
その際、若い骨であれば、補償機序が大きな役割を果たします
(速やかな治癒、大きな仮骨の形成、厚い骨膜によって抑えられた物理的な力のおかげで保持される骨片)。
子犬の骨の治療にマイナスの影響を与える因子には以下のようなものがあります。
- 薄い皮質を伴う軟らかな骨
- 骨におけるインプラントの定着の悪さ
- 骨幹の長さと形態の多様さ
- インプラントが急速に仮骨に閉じ込められてしまうこと
- 過剰な仮骨形成が軟部を巻き込んでしまうこと
骨折の処置が遅すぎたり、間違っていたりすると、病犬にとってさらに問題が生じます。
その場合、四肢の状態を矯正する必要があります。
(例:矯正骨切術。これはより長い手術時間と軟部組織のより大きな損傷を伴います。
骨接合術の種類
ボルト締めプレート骨接合術
成犬の骨幹骨折の場合によく使用されるボルト締めプレート骨接合術は、若犬の場合には物理的・生物学的問題をもたらします。
- 皮質が非常に軟らかいため、ボルトが使用しづらい。
- 可塑性の高い骨に硬質のインプラントは適さない。
- プレート挿入のためのアプローチおよび骨への大きすぎる接触面は生物学的に問題である。
- インプラントの再摘出は再度の大規模な手術となる。
髄内ピンまたは釘
これに対して、髄内ピンまたは釘は、生物学的にも物理的にも子犬にとってよいインプラントです。
ただし、回転に対して安定しません。
これは特に非常に幼い子犬に使用し、最小限の外科的処置ですみやかに取り出すことができます。
骨のなかに放置してもよいです。
子犬および若犬の骨端離開、骨突起分離の際にもっとも頻繁に行われ、かつ簡単な骨接合としては、
たとえば
- ラッシュピン
- キルシュナー鋼線(いわゆる交差挿入。特殊な骨折には、さらにワイヤー締結、またはボルト締めを行う場合もある)
による髄腔固定を選択することができます。
創外固定
骨へのピンの挿入において高い可塑性を持ち、すぐに取り外すことができます(最小限の外科的措置)。
欠点は、創外固定用のピンは軟らかな骨の中ではしっかり同定しにくいことです。
成長中の幼犬における骨折治療の最良の方法は、骨折の形態と種類、治療する骨によって異なります。
- 仮骨形成による速やかな治癒を可能にし、治癒過程での四肢への負荷を許容する治療法です。
- 固定具は簡単に取りつけ・取り外しができ、また、骨の正常な成長を妨げないものでなければいけません。
- 犬が我慢しやすいものでなければなりません。
保存的処置
副木包帯(ギプスなど)および犬舎の中での安静による保存的処置は以下の場合に頻繁に行われます。
- 若犬における骨幹骨折(骨折面の少なくとも50%が接触している場合)
- 不完全骨折(若木骨折)
- 病的骨折
その際、ギプスは装着の24時間後に最初の処置を行い、交換します。
その後は傷の状態に応じて行います。
傷からの滲出が比較的多い場合は毎日取り替える必要があります。
傷が乾いている場合はもっと間隔をあけてよいです。
関節は包帯のなかで生理的な姿勢を取るようにします。
伸ばした状態にしてはならないです。
子犬および若犬の関節疾患
若犬はぎこちない歩行をしがちな傾向があり、成犬よりも外傷を受けやすいです。
この時期に始まる、または原因を持つ疾患の多くは、後々、関節における変性変化をもたらし、その段階で初めて臨床的問題を生じます。
疾患は、原因別に、
- 先天性
- 発育性
- 炎症性
- 腫瘍性
- 栄養性の疾患
- 外傷
によるものに分類されます。
離断性骨軟骨症(OCD)
骨軟骨症においては、特徴的な様式で関節軟骨の離断をもたらす、骨端骨化の全身的な障害が問題になります。
骨軟骨症は、後の修復を伴う軟骨および骨の変性または壊死を意味します。
そのような変性は、若犬の場合、特に以下の部位にみられます。
- 肩関節(尾側の上腕骨頭)
- 肘関節(内側上顆)
- 膝関節(外側大腿骨顆)
- 足根関節(内側まれに外側の足根骨)
- 仙骨の頭背側終板(馬尾圧迫症候群、特にジャーマン・シェパード・ドッグ)
骨軟骨症は発育障害の合併症に属します。
軟骨の成長は軟骨域の厚さの増大をもたらしますが、成長中の骨の骨化は、それと同じペースで進むわけではないです。
軟骨組織には血管がないため、軟骨細胞は関節液からの拡散によって栄養が供給されます。
軟骨域が肥厚すると、内部のより深いところにある軟骨細胞は、栄養不足によって死滅します。
軟骨軟化症の領域は、横方向に広がります。
この領域が厚くなると、軟骨層が軟骨から切り離され、副軟骨の位置にある骨から遊離してしまう。
こうして生じた骨片は分離し、関節内遊離体(関節ネズミ)となって関節内に運ばれてしまう場合があります。
この遊離体は酵素よって分解されるか、または関節液の栄養供給機能によって成長します。
この遊離体は時間とともに石灰化します。
軟骨の垂直裂は関節炎をもたらします。
関節液が軟骨断片と骨との間にあるので、これが再び癒合することは出来ないです。
骨軟骨症には多くの要因が絡んでいます。
特に、適切でない給餌は軟骨細胞の栄養補給を阻害します。
また、生体力学的な負荷に対する耐性は、未熟な関節軟骨の場合、成熱した軟骨に比べて明らかに低いため、ごく小さな外傷の反復が骨軟骨症の発症を促進します。
ホルモンの影響も骨軟骨症の発生に関与します。
- テストステロン、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモンは、軟骨の厚さを増大させます。
- それに対して、エストロジェンは石灰化傾向を強くします。
遺伝的素因も、骨軟骨症を発症しやすくします。
治療は、関節鏡を用いて、あるいは関節切開で骨片を除去し、欠陥領域をきれいにします。
先天性上腕骨脱臼:肩関節脱臼
いわゆるトイ犬種(たとえばミニチュア・プードルなど)は特に、
肩関節に先天性の不安定性や異形成を持つ場合があり、わずかな外傷から、後に肩関節脱臼が生じることがあります。
一部は痛みを伴わないです。
発症個体は重度の跛行を示すものから、ほとんど跛行を示さないものまでさまざまです。
治療は病変の程度に応じて調整します。
予後は異形成の程度によりますが、総じてよくないです。
場合によっては関節固定術、さらには当該肢の切断が行われます。
尺骨内側鈎状突起分離(FCP)
特にロットワイラー、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、ラブラドール・レトリーバーおよびジャーマン・シェパード・ドッグはこれに該当します。
雄の罹患がより多くみられます。
不完全骨折から骨片の分離まであり、時間の経過とともに関節炎をもたらします。
- 通常、発症した個体は1歳齢になる前に、一側または両側の跛行を伴います。
- 肘関節は腫れ、外向きになります。
- ごくまれにX線撮影で原発性病変が認知されます。
続発的に副軟骨硬化が増進し、軟骨の境界が不鮮明になり、肘骨突起および頭側では橈骨頭への結合形成がみられます。
今のところ、もっとも確実な画像診断法はCTです。
治療には、病的に変形した突起を、関節鏡を用いて、あるいは関節切開によって除去します。
肘突起分離(IPA)
ジャーマン・シェパード・ドッグにもっとも多くみられ、まれに他の大型犬種にも現れます。
関節突起は約4.5ヵ月齢で下腕と癒合します。
大きな分離骨片は比較的急速に重度の関節の変性変化をもたらします。
- 早期に診断(X線)された時は、肘突起を骨接合のために尺骨にボルトで固定します。
- より成長した個体では、分離した骨片を除去します。
予後は変性変化(関節症)の進展の程度によって、良好から不良まであります。
肘関節形成不全(ED)
問題はしばしば左右両側に生じ、ほとんどの場合、4~6週齢で始まります。
異常は成長にしたがって明白になります。
脱臼の程度によって、手術による矯正にはさまざまな可能性があります
(伸長副子固定、関節ピン固定、側副靭帯再建術、関節包鱗状重層術)。
最終的には脚が機能しなければならないです。
病犬によっては、罹患肢を切断したほうがよい場合もあり、予後は不良です。
手根関節過伸展
子犬は、手根の手のひら部分を地面につけて「熊が歩くように」歩行します。
病変はみられず、成長および四肢の負荷の増大とともに正常化します。
3~5週齢以降は生理学的な治療法が治療を促進します。
包帯による治療は症状を悪化させてしまうため、絶対に行ってはいけません。
この疾患は外傷後の過伸展症候群と区別しなければならないです。
外傷後では手のひら部分の靭帯および腱が裂けており、(ギプス固定によっても)治癒しないです。
股関節形成不全(HD)
股関節形成不全は比較的大型の犬種(ジャーマン・シェパード・ドッグ、ラブラドール・レトリーバー、バーニーズ・マウンテン・ドッグなど)に多い疾患であるが、小型犬にもみられます。
遺伝性の場合が多いですが、環境因子の果たす役割も小さくないです(多因子性)。
たとえば、激しい活動、急速な体重増加、筋最減少、誤った給餌などです。
寛骨臼と大腿骨頭の間のかみ合わせが悪く、亜脱臼またはさらに脱臼をもたらします。
これによって変性が生じ、のちに軽度から重度の股関節症(寛骨関節症)に至ります。
この疾病は痛みと不安定な歩行、さらに重度の跛行をもたらします。
重篤な場合、犬はほとんど歩くことができないです。
ただし、必ずしも股関節形成不全を伴う犬すべてに跛行が発現するわけではないです。
レッグ・ペルテス病(無菌性大腿骨頭壊死症)
3~4ヵ月齢で骨端軟骨板が閉じ始めるのとともに大腿骨頭の壊死が始まります。
病因は不明ですが、この疾患は家系的に多発するので、罹患犬は繁殖に供用するべきでないです。
大腿骨頭は変形し、崩壊します。
犬はほとんどの場合、跛行を示し(6ヵ月齢から)、腰部触診時に非常に痛がります。
X線検査によって、股関節領域の変性破壊が起こります。
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨は体の中で最大の種子骨であり、大腿四頭筋の終腱の中に収まっています。
遠位へは膝蓋骨靭帯は脛骨粗面に付着しています。
膝蓋骨は膜関節の伸長メカニズムを支えています。
膝蓋骨脱臼は遺伝(劣性、多因子性)によるか、または外傷によって生じます。
症例の約75%が両側で、25%が一側です。
雌のほうが雄よりも多く発症します(1.5:1)。
脱臼は以下のように生じます。
- 内方脱臼(75~80%、小型または超小型犬種:ヨークシャー・テリア、チワワ、ミニチュア·・プードルなど)。
- 外方脱臼(20~25%、中型および大型犬種:グレート・ピレニーズ、チャウ・チャウなど)。
- 内方および外方脱臼。
膝蓋骨脱臼は、ほとんどの場合2歳齢以内の若犬が診断されます。
その際は臨床検査が大きな役割を果たします。
特に多くみられるのがスキップ様の歩行です。
すなわち、跛行は脱臼の程度に比例しているわけではなく、関節内の二次的現象(たとえば関節症)の程度に左右されています。
膝蓋骨脱臼の程度は、Putnam(1968)またはSingelton(1969)に従って4段階に区分されます。
付加的診断法として、X線検査も利用できます。
その際は2方向の基準撮影(伸張した頭側・尾側方向と、100~130度に曲げた内側・外側方向)、および場合によっては水平撮影を行います。
膝蓋骨脱臼の病因はほとんどの場合、複数の骨の異常の複合です。
これには、
- 浅い滑車溝
- 股関節形成不全(内反股、外反股)
- 膝蓋靭帯の異常
- 遠位大腿骨捻転
- 脛骨内反変形(脛骨異形成)
などがあります。
さらに軟部(関節包、靭帯、筋膜)の弛緩が大きな役割を果たします。
治療法としては多くの手術法が存在します(特に筋膜縫縮術、滑車溝形成術、軟骨フラップ、脛骨粗面転位術)。
脊柱疾患
環軸亜脱臼
原因は先天性(歯突起無形成または低形成、すなわち靭帯構造の欠如)か、外傷性によるものです。
罹患犬はしばしば全四肢の運動失調、さらに四肢麻痺を示します。
頭部を動かす際に痛みを伴う場合があります。
診断はX線検査によって行います。
鎮静剤は使用せず、首を軽く曲げて横向き側面像を撮影します。
環椎と軸椎の間の間隙が明らかに広がっているのがみられます。
手術法は、背側をワイヤー固定、腹側からピン、ボルト、プレートを用いて行います(関節固定術)。
予後は注意を要します。
- 塊状椎骨(脊柱後湾症、脊柱側湾症)のような他の脊柱異形成は、特にブルドッグにみられます。
- 尾側頸椎のいわゆる脊椎すべり症(ウォブラー症候群)は、特にドーベルマンとグレート・デーンにみられます。
骨格系の代謝性疾患
くる病、ビタミンD不足症
ビタミンD不足による子犬のくる病は、今日、ヨーロッパにおいてはきわめてまれな疾患です。
それは既製のフードにはビタミンDが十分含まれているからです。
ビタミンD不足は、たとえば間違った栄養摂取や、日当たりの欠如、ビタミンD代謝の遺伝性障害などによって生じます。
- このビタミンはカルシウムおよびリンの腸からの吸収と、腎尿細管での再吸収を促進します。
- それは破骨細胞を刺激し、新たに形成される類骨および軟骨組織の鉱質化にとって不可欠です。
罹患した若犬が跛行するか、または歩行不能となります。
骨の硬度の不足によって、骨の湾曲、さらには病的骨折が生じます。
骨端線は拡大し、幅が広がっています。
X線画像上の特徴的な変化は、不規則な骨端線と、隣接する骨幹端の杯状陥凹です。
さらに、骨の厚さが薄くなっており、皮質骨も薄く、骨幹の湾曲がみられます。
肥大性骨異栄養症、骨幹端骨症
他因子による病因が議論されています。
遺伝的素因のほかに、この疾患はワクチン接種後症候群ともみなされています。
臨床的には、発熱発作、食欲不振、および跛行から起立不能までが観察されます。
骨端に強い痛みを伴う腫脹を生じます。
一部は消化器系または呼吸器系にまで症状が及びます。
初期段階のX線検査では骨端に放射線透過性の線がみえます。
他方、後になると、傍皮質の鉱質化が特徴的となります。
栄養性二次性上皮小体機能亢進症
これはリンが多い食餌やカルシウムの不足した食(特に肉または臓物のみからなる食餌の場合)によって引き起こされます。
ほとんどの場合、カルシウムに対するリンの割合が、1:16から1:35で、犬の正常値(1.2:1)をはるかに超えています。
この不均衛は低カルシウム血症をもたらし、それが上皮小体の分泌能を高めます。
上皮小体の活動が亢進すると、これは血中カルシウムおよびリン値を、以下のような方法で正常化しようとします。
- 骨からのカルシウム溶出の増加
- 腸のカルシウム吸収の増加
- 腎臓のリン排出とカルシウム貯留の促進
誤った給餌が長く続くと、進行性の骨の無機質脱落が生じ、それに応じた臨床症状が現れます。
栄養性上皮小体機能亢進症は、あらゆる犬種の子犬にみられますが、同様に成犬にも発症します。
若犬には特に跛行と長管骨の痛みが現れます。
骨端が腫脹する場合があり、小さな外傷でも骨折が生じます。
四肢の変形が生じ、脊柱変形(圧縮)によって不全麻痺や完全麻痺が生じ、骨盤腔狭窄の場合は使秘となります。
X線検査で皮質が非常に薄くなっているのがわかります。
骨端軟骨板は正常ですが、骨端はキノコ状です。
骨端は成長期の直前にはX線画像で不透明です(一次ミネラル化域)。
罹患犬は、骨折の危険性が高まっているため、細心の注意を払って扱う必要があります。
- 市販のドッグフードを与えねばならないです。
- それに加えて、カルシウムとリンの比率が2:1になるまで炭酸カルシウムを与えます(2~3ヵ月間)。
- カルシウムの過剰給与は避けます。
短期的な痛覚消失のためには非ステロイド抗炎症剤を用います。
骨形成不全、「骨脆弱症」
骨形成不全は骨格と歯のまれな疾患であり、
さまざまな犬種(コリー、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ゴールデン・レトリーバー、プードル、ダックスフンド)、猫、ヒトの発症が記録されています。
子犬の場合、先天性または出生直後の臨床症状として、遊んでいる時の骨折および、血管が透けているために赤く見える「ガラス」状の歯が挙げられます。
組織学的特徴としては、骨芽細胞機能不全および、欠損または少量の一次海綿骨が観察されます。
副腎皮質機能亢進症
若犬の場合、骨端軟骨板の閉鎖の遅延が生じます。
内因性骨折および椎間板疾患の素因が報告されています。