犬の赤ちゃん・子犬の先天性の形成異常・症候群・遺伝的な病気・奇形
繁殖は以下のように制御されます。
- 繁殖上望まれる資質を改良する。
- 遺伝子プールを保持し、それにより遺伝的多様性を保つ。
- 遺伝性疾患の対立遺伝子の頻度を低く保つ、あるいは排除する。
動物保護の理由から、特定の身体的・能力的資質の一面的な強調の目的で個体が選抜されたり、
欠陥対立因子が広められたり、遺伝的相関関係の結果として健康に有害な特性が優先されたりするようなことがあってはならない。
遺伝的欠陥とは、出生前、出生時、出生後、そしてその後の発育期に現れる形成異常または生理的過程の障害であり、
常に両親からの遺伝によるものです。
それに対して、先天異常は必ずしも遺伝によるものではないですが、分娩時までにすでに現れているものです。
生殖能力を備えるに至る前に個体に死をもたらす遺伝的欠陥は致死遺伝子と呼ばれます。
半致死遺伝子においては50%以下の個体が生殖能力を備えるに至ります。
環境性の有毒物質による欠陥が、その発現形態において遺伝的欠陥によるものと区別できない場合は、表現型模写と称されます。
この記事の目次
メンデルの法則による遺伝
遺伝的欠陥は、ほとんどの場合、単一遺伝子によって遺伝します(メンデルの指標)。
単一常染色体遺伝においては、遺伝子は常染色体上にあります。
他方、伴性(X染色体性)遺伝の場合は、遺伝子はX染色体上にのみ位置し、そのため、雄個体では常にX染色体上で半接合の状態で現れます。
単一遺伝子の変異のほかに、複数の遺伝子の影響によって生じることもあります。
この場合、単一遺伝子と多遺伝子の複合遺伝または主働遺伝子が問題となります。
特に分子遺伝学的手法によって、量的形質において主働遺伝子を同定し、その遺伝子作用に特殊な選択圧をかける試みが行われています。
非メンデル的遺伝
メンデル的遺伝のほかに、単因子遺伝でありながらメンデルの法則には従わない、非メンデル的遺伝もまた重要です。
これには細胞質遺伝(母系)および遺伝的刷り込み(インプリンティング)があります。
遺伝的刷り込みの現象においては、対立遺伝子がどちらの親に由来するものであるかが決定的に重要です。
それが母性インプリント遺伝子であれば、母親由来の対立遺伝子が不活化され、父性であれば父親由来の対立遺伝子が不活化されます。
ただし、この不活化は可逆性です。
すなわち、母性インプリントを受けた対立遺伝子が、雄の個体によって次世代に伝達されると、対立遺伝子の不活化は再び終結します。
遺伝的欠陥の蔓延
遺伝的欠陥の蔓延は、とりわけ、自身にはその形質が発現していないものの、欠陥遺伝子を子孫に伝えてしまうような個体が繁殖供用される場合に生じます。
その繁殖動物がヘテロ接合のキャリアであるような単一遺伝子型の劣性遺伝の場合です。
生後、時間がたってから発現する単因子遺伝形質の場合、その繁殖動物は長期間にわたってキャリアとして認識されず、非常に広い範囲の子係に欠陥遺伝子を蔓延させてしまう可能性があります。
特に、手術や獣医学的介入によってその欠陥が排除される場合、そしてその個体がもはやキャリアとしての形質を現さない場合にも、同じことが当てはまります。
モニタリング
子犬の死亡を減らし、子孫にもたらされる苦しみ、損傷、痛みを回避するためには、遺伝的欠陥の適切なモニタリング、および欠陥を持つ個体とキャリアの徹底した繁殖禁止が求められます。
遺伝的欠陥のキャリアおよび遅発性の遺伝形質を出生直後に識別するためには、分子遺伝学的検査が重要な手法として有用です。
犬におけるもっとも重要な先天性かつ多くは遺伝的な異常および疾病素因について、器官系統別に下記にまとめました。
ここで扱われた異常およびその他すべての疾病のための遺伝子検査のうち、遺伝子検査が可能なものもまとめました。
この分野は強力に研究されており、絶えず新しい遺伝子検査が発表されています。
そのため、この表は当面の状況を反映するものにすぎないです。
これらの遺伝子検査は、掲げられた犬種特有のものであり、該当する犬種にしか利用できません。
すべての遺伝子検査は、新生子のサンプルで実施可能です。
目
先天性眼疾患
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
瞳孔膜遺残(PPM) | 前眼房における胎子性血管(眼球血管膜)の不完全な消退。多くの場合さまざまな形態の染色された組織索が前水晶体包または角膜面に付着する。 | バセンジー、イングリッシュ・コッカー・スパニエル、チベタン·テリア
| おそらく多因子性
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水晶体血管膜過形成造残/第一次硝子体過形成遺残 (PHTVL/PHPV) | 硝子体血管系および硝子体血管系および硝子体の一部の過形成および生後遺残。容易に先天性失明に変じる。ドーベルマンとスタッフォードシャー・ブル・テリアは両側に現れるが、それ以外はほとんどの場合一側のみである。 | ドーベルマン、スタッフォードシャー・ブル・テリア | 常染色体単一遺伝。不完全優性
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無眼症 | 眼瞼周縁の一部または全体の欠如。ほとんどの場合、上眼瞼遊離縁に該当する。結膜炎、角膜炎を生じる場合がある。 | 遺伝性は不明 | |
小水晶体症 | 小さすぎる水晶体。水晶体不完全脱臼または完全脱臼を生じる場合がある。 | アメリカン・コッカー·スパニエル、ビーグル、ドーベルマン | おそらく遺伝性、優性
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無水晶体症
| 水晶体の完全な欠如、または痕跡的にしか存在しない。しばしば、他の重度の先天性眼形成異常を伴う。 | ドーベルマン、セント·バーナード | 遺伝性。おそらく劣性 |
硝子体動脈遺残 | 硝子体動脈の一部または全体が、瞳孔と後水晶体包の間の索として遺残する。 | サセックス・スパニエル、ドーベルマン | 遺伝性。おそらく劣性 |
水晶体偏位
| 小帯線維の欠如による先天性の水晶体の位置異常。 | ブリタニー・スパニエル | 遺伝性
|
コリー眼異常 (Collie Eye Anomaly, CEA)
| 主に脈絡膜(ブドウ膜)、まれに網膜の胎子性発育障害。水晶体皮膜(タペタム)の発育不全、網膜血管の強度の蛇行、瞳孔および眼底におけるコロボーム、網膜出血、さらに重度の場合は失明がみられる。 | コリー、シェルティ、ボーダー・コリー、オーストラリアン・シェパード、ランカシャー・ヒーラー
| 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
遺伝性(定位性)昼盲症 | 網膜錐体異常による先天性昼盲症。2~6ヵ月齢で現れる。夜間視力は保持される。 | アラスカン・マラミュート、トイ·プードル、ジャーマン・ショートヘアード·ポインター | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
網膜異形成(重症型) | 網膜出血および網膜剥離を伴う網膜の先天性欠陥。一部は水晶体混濁を伴い、生後数週間で失明する。 | テリア、レトリーバー、スパニエル
| 常染色体単一劣性遺伝
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異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
杆状体・錐状体異形成1型(rcd1) | 光受容体(網膜杆状体および網膜錐状体)の先天性異形成。cGMPホスホジエステラーゼB亜単位の欠損により、6~8週齢で夜盲症となる。後に失明する。 | アイリッシュ·セター、スルーギ | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
杆状体・錐状体異形成2型(rcd2)
| 3~4ヵ月齢で夜盲症となり、1歳齢で失明する。 | コリー | 常染色体単一劣性遺伝 |
杆状体・錐状体異形成3型(rcd3)
| 若年期に夜盲症となり、2~3歳齢で失明する。 | ウェルシュ・コーギー・カーディガン、ウェルシュ·コーギー・ペンブローク | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
ミニチュア·シュナウザー杆状体・錐状体異形成 | 緩慢に進行する先天性網膜萎縮。6~12ヵ月齢で視野狭窄、4~7歳齢で失明。 | ミニチュア・シュナウザー | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
ベルジアン・シェパード・ドッグ杆状体・錐状体異形成 | 8週齢で完全に失明する先天性杆状体・錐状体異形成。 | ベルジアン・シェパード・ドッグ | 不明 |
ノルウェジアン・エルクハウンドの杆状体・錐状体異形成(erd) | 網膜杆状体および網膜錐状体の先天性発育障害。6週齢で夜盲症、1~1.5歳齢で失明。 | ノルウェジアン・エルクハウンド | 常染色体単一劣性遺伝 |
小眼球症 | 先天性の眼球縮小。眼瞼内反、水晶体混濁、網膜剥離、失明に至る視力障害、子犬における眼開裂遅延などのさらなる眼発育障害を伴う。 | 秋田犬、オーストラリアン・シェパード | 常染色体単一劣性遺伝 |
先天性原発性白内障 | 先天性の原発性水晶体混濁。ボストン・テリアおよびスタッフォードシャー・ブル・テリアのHSF4遺伝子の突然変異。 イングリッシュ·コッカー・スパニエル、ウェルシュ·スプリンガー·スパニエル、ケアーン・テリア、マルチーズにおいて罹患率が非常に高い。 | アフガン・ハウンド、ビーグル、ボストン・テリア(BT)、ケアーン·テリア、チワワ、ドーベルマン、イングリッシュ·コッカー・スパニエル、イングリッシュ・スプリンガー·スパニエル、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ゴールデン・レトリーバー、ラサ·アプソ、マルチーズ、ミニチュア·シュナウザー、プードル、サモエド、シベリアン・ハスキー、スタッフォードシャー・ブル・テリア(SBT)、ウェルシュ・スプリンガー・スパニエル、ヨークシャー・テリア
| 犬種によって遺伝様式は異なる。 BTおよびSBTについては遺伝子検査有り
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消化器系
消化器系の先天性疾患
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
乳歯遺残 | 1本、複数あるいはすべての乳歯が残存し、生え変わりの際にも保持されてしまう。原因は乳歯の歯胚と永久歯が隣り合って配置されていることにある。永久歯の変位を生じる。 | ダックスフンド、イングリッシュ・コッカー·スパニエル | 多因子性
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先天性歯牙粗鬆症 | 歯骨における空洞を伴う象牙質形成不全。エナメル化されない歯髄基に由来する。 | 遺伝性は不明 | |
歯列不整 | 1本または複数の歯が長軸を中心に斜めにねじれて生える(区画配置)。短頭犬種および切歯・小臼歯に多い。歯列不整は、曲顎症、顎短小症、下顎犬歯過剰の場合により多くみられる。 | 遺伝性 | |
舌咽欠損(鳥様舌) | 先端が細くなる内側への折り目のある舌。吸飲反射が欠け、短時間で死亡する。 | 常染色体単一劣性遺伝 | |
多歯症
| 余分な歯の形成(切歯、小臼歯、大臼歯)。上顎に多い。余分な歯は、歯列内あるいは不規則に生え、外側からは見えない場合もある。 | 長頭犬種、ドーベルマン、ジャイアント·シュナウザー、グレーハウンドなど
| おそらく複数の遺伝子が関与
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口蓋裂/唇顎口蓋裂 | 唇顎口蓋裂は口蓋裂よりも頻繁にみられる。成長不足、鼻風邪、発咳、吸引性肺炎、発育不良。外科的矯正なしでは死亡率が高い。 | イングリッシュ·ブルドッグ、ボストン・テリア、イングリッシュ·コッカー·スパニエル、ペキニーズ、プードル | 常染色体単一劣性遺伝
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巨大食道 | 原因は多様である。食道アカラシア(食道の胃に近い部分の痙攣性狭窄症)、ミオパシー(X染色体ミオパシー、重篤筋無力症)、心底上部食道狭窄を伴う大動脈弓遺残。嚥下困難、食餌の吐き戻し、吸引性肺炎、発育不良。 | 多様な遺伝様式
| |
幽門狭窄 | 先天性幽門狭窄。輸状筋の過形成と線維症があとに続く。 臨吐、発育遅延、脱水、吸引性肺炎 | ビーグル、ボストン・テリア、ボクサー、ダックスフンド | 遺伝性。遺伝様式は不明確 |
巨大結腸
| 先天性の結腸拡張および肥大。腸管筋網状組織の部分的または全面的欠損による機能的狭窄を伴う。 慢性便秘、ガスによる大腸の膨張、腹部膨満、不快状態、発育遅延。重篤な場合は死亡する。 | チャウ・チャウ、ドーベルマン、ジャーマン・シェパード·ドッグ
| 多因子性 |
消化器系の先天性疾患(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
腸閉鎖(腸閉塞) | 先天性の腸閉鎖、または腸の部分的無形成(十二指腸、回腸、空腸)。腸の一部の完全な欠如、または腸の結合組織索のみの残存、あるいは腸腔閉塞がみられる。 食欲不振、腹部膨満、しぶり腹、嘔吐。致死性。 | 多因子性または複数の遺伝子が関与 | |
鎖肛
| 先天性の肛門欠損。膣、膣前庭、子宮、尿道、膀胱へのフィステル形成を伴う場合がある。膀胱における便滞留、腹部膨満、嘔吐。死亡するか、排泄物のフィステル経由による泌尿生殖器道への排出。 | 遺伝性は不明
| |
直腸-泌尿生殖器フィステル | 総排泄口形成を伴う泌尿生殖器隔壁の不完全形成。変性の場所によって異なった部分に該当する。便と尿が一緒に排出される。 | イングリッシュ・ブルドッグ | 多因子性 |
穀物デンプン過敏性腸症 | デンプン含有食餌への過敏症。小腸の消化能が低下する。 | アイリッシュ・セター | 常染色体単一劣性遺伝 |
選択的腸コバラミン吸収不良 | 回腸におけるコバラミン受容体の欠損。ビタミンB12の血漿値の低下、好中球減少、貧血。 | ジャイアント・シュナウザー、オーストラリアン·シェパード | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
炎症性腸疾患 | 回腸における炎症性腸疾患。嘔吐、下痢、体重減少、胸水と腹水の貯留、腸微絨毛肥大を伴う。 原因不明。ただしデンプンとの関係はない。 | バセンジー、ジャーマン·シェパード·ドッグ、グレーハウンド | おそらく遺伝性 |
肝臓と膵臓の先天性疾患
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
肝臓原基における形成異常 | 肝臓の多重原基、余分な肝臓、ほとんどの場合比較的小さく、必ずしも胆嚢を伴わない。 本来の肝臓から分離した副次的肝臓。 肝臓小葉過多、肝臓小葉形成異常、または個々の小葉間の深い切れ込みと溝、一部では門脈と胆嚢のさらなる異常を伴う小葉間の結合組織による結合のみ。 | 遺伝性は不明。 遺伝様式も不明 |
肝臓と膵臓の先天性疾患(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
先天性胆管嚢胞 | 肝臓内の胆道に生じる単一または多数の嚢胞。 | 家族性
| |
胆嚢位置異常 | 胆嚢が肝臓組織に囲まれている場合と、柄がついてぶら下がった状態になる場合がある。 | 遺伝性は不明 | |
門脈体静脈シャント | 肝臓血管(門脈、卵黄嚢静脈、静脈管など)の先天異常による門脈体静脈の血管短絡。 肝臓内シャント(IS):胎子性静脈管遺残 肝臓外シャント(ES):門脈と下行大静脈または奇静脈との間の結合。 体重減少、嘔吐、食欲不振、下痢、中枢神経症状。外科的矯正なしでは死亡する。血中アンモニアおよび胆汁酸の増加。塩化アンモニウム検査陽性。 | IS:オーストラリアン・キャトル・ドッグ、ジャーマン·シェパード·ドッグ、ドーベルマン、アイリッシュ・セター、ラブラドール・レトリーバー。 ES:アメリカン・コッカー・スパニエル、ケアーン·テリア、ビション・ハバネーズ、ジャック・ラッセル・テリア、マルチーズ、パグ、プードル、ヨークシャー·テリア、ミニチュア・シュナウザーなど | 家族性、遺伝様式は不明
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銅中毒症(銅蓄積症) | 先天性の肝臓リソソーム銅排泄および銅移送障害。肝臓における非常に高い銅濃度、それによる肝硬変、食欲不振、無気力、嘔吐、成長遅延、削痩、黄疸、血尿。 子犬では症状は潜在性であり、最初の臨床症状は若犬で現れる。致死性。 | ベドリントン・テリア、スカイ・テリア、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア | 常染色体単一劣性遺伝遺伝子検査 |
若年性膵臓萎縮症候群(先天性膵臓機能不全) | 先天性膵臓外分泌機能不全。食餌、特に脂肪分解のための膵液加水分解酵素が欠けるため、消化障害をもたらす。削痩、慢性下痢、被毛粗剛、激しい空腹、食糞症。ほとんどの場合1~2歳齢でようやく臨床的に顕在化する。治療しない場合、死亡する。 | ジャーマン·ショートヘアード・ポインター、ジャーマン・シェパード·ドッグ、ドーベルマン、ラフ・コリー、ジャック·ラッセル・テリア、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク | おそらく常染色体単一劣性遺伝
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腎臓と尿路
腎臓と尿路の先天性疾患
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
腎無形成 | ほとんどの場合、一側の腎臓が欠け、代償的に他側の腎が大きくなる。尿毒症の徴候が現れることがある。双方が欠けている場合は短時間で死亡する。 | ビーグル | 家族性 |
腎臓と尿路の先天性疾患(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
腎形成不全 | 糸球体、尿細管および腎への供給血管の発育不全を伴う矮小腎。 | 遺伝性は不明 | |
原発性腎皮質形成不全 | 機能していない個々の腎単位(ネフロン)を伴うものから、腎皮質の完全な欠如(腎皮質無形成)まで、先天性発育障害の程度は非常に多様である。 腎臓のおよそ75%に機能障害がある場合、尿毒症が現れる。 一側の腎のみに該当する場合も、両側の腎に該当する場合もある。程度により寿命が縮まる。 | アラスカン・マラミュート、ビーグル、ベドリントン・テリア、コッカー・スパニエル、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ドーベルマン、ウルフスピッツ、ラサ·アプソ、ヨークシャー・テリア、ミニチュア・シュナウザーなど | 家族性 |
多発性嚢胞腎(PKD) | 両側の腎臓に多数の嚢胞を形成する先天性疾患。犬種によっては肝臓にも同時に発症する。 生後数週間で尿毒症が現れ、生後1年で死亡する。 | ブル・テリア、ケアーン·テリア、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア | 常染色体単一優性遺伝 |
変位腎(遊走腎) | 腎臓が通常の解割学的位置から外れた位置にある。ほとんどの場合、骨盤腔、まれに胸腔に変位している。変位した腎はしばしば発育不全である。 | 過伝性は不明 | |
先天性水腎症 | 尿管領域の先天性形成異常、またはその結果としての尿管への尿排出障害を伴う腎変位。 両側腎に水腎症がある場合は生後数日で死亡する。腎腔における尿うっ滞の結果、腎組織の圧迫萎縮が生じる。 尿毒症の徴候、腹部膨満、腰痛、感染による敗血性ショック症状などがある。 原因:尿管閉鎖、尿管狭窄、尿管変位、変位腎。 | ジャーマン·ワイアーヘアード・ポインター | 家族性
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異所性尿管 | 尿管の合流部の尿道、膣、子宮、また精管への先天性変位。特に雌にみられる。しばしば巨大尿管、水腎症、膀胱形成不全など、他のさらなる病変を伴う。 恒常的な尿の滴下、膀胱および腎腔の炎症、雄の場合ほとんど目立たない。 | ラブラドール・レトリーバー、シベリアン·ハスキー、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、トイ・プードル | 家族性 |
腎臓と尿路の先天性疾患(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
サモエド先天性糸球体疾患(腎炎) | 糸球体多発性硬化症を伴う進行性腎変性。両性ともに3~4ヵ月齢から蛋白尿、雄は8~15ヵ月齢で致死性尿毒症、雌の経過は比較的緩慢。 | サモエド | X染色体優性遺伝。 遺伝子検査有り |
雑種にも類似した疾病が記録されている。ただし原因となる突然変異はまだ知られていない。 | 雑種 | X染色体優性遺伝 | |
コッカー・スパニエル家族性腎症 | 糸球体基底膜の先天性欠損、5ヵ月齢から蛋白尿症、8~27ヵ月齢で死亡。 | コッカー・スパニエル | 常染色体単一劣性遺伝
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ノルウェジアン・エルクハウンド家族性腎症 | 糸球体および尿細管の崩壊、3ヵ月齢から腎不全。 | ノルウェジアン・エルクハウンド | 家族性
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腎異形成 | 腎単位(ネフロン)または尿細管の発育における先天性分化障害。糸球体が過少かつ未熟で小さく、低発育の腎臓。 | ラサ·アプソ、シー·ズー、アイリッシュ・ソフトコーテッド·ウィートン・テリア | 遺伝性。 マーカー遺伝子検査有り |
ファンコーニ症候群 | 尿細管の輸送機構における先天性の欠陥。その結果、ヵ月齢から6歳齢で尿濃縮が不十分となり、多尿症、多渇症が現れる。 | バセンジー | おそらく常染色体単一劣性遺伝 |
シスチン尿症 | 尿細管におけるシスチン再吸収の先天性欠陥。尿中へのシスチンの高濃度排泄およびシスチン結石。 尿細管吸収不全は、ブルドッグ、アイリッシュ·テリア、ダックスフンド、マスティフなどの犬種においては、これ以外のアミノ酸にも該当し、尿路結石をもたらす。 | バセット·ハウンド、ダックスフンド、アイリッシュ·テリア、ニューファンドランド | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
尿酸塩結石症 | プリン塩基代謝および/または尿酸の肝細胞への輸送機構、ならびに尿細管由来の尿酸およびアラントイン再吸収における先天性で犬種特有の欠陥。 尿中への高濃度の尿酸排泄、および高尿酸血漿値。臨床症状は雄のみ、尿路結石による尿路閉塞の結果、頻繁な尿の中断、血尿がみられる。 | ダルメシアン | 常染色体単一劣性遺伝 |
心臓と血管
心臓と血管の先天異常と疾患
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
大動脈狭窄 | 大動脈弁領域における先天性大動脈狭窄。これに続く心臓肥大と心筋機能不全を伴う。 収縮期心雑音、発育不全、および子犬期の突然死がみられる。 | ニューファンドランド | 多因子性
|
肺動脈狭窄 | 先天性の半月弁形成不全、または肺動脈狭窄。その結果として右心室からの血液流出が減少する。 収縮期心雑音、心機能低下、および子犬期の突然死がみられる。 | アメリカン·コッカー・スパニエル、ビーグル、ボクサー、ブル・マスティフ、チワワ、チャウ・チャウ、グレート·デーン、イングリッシュ·ブルドッグ、イングリッシュ·コッカー・スパニエル、キャバリア・キング・チャールズ·スパニエル、ウェスト・ハイランド·ホワイト·テリアなど | 多因子性
|
三尖弁異形成 | 先天性の三尖弁異形成。弁帆および乳頭筋における穿孔を伴う。右心房への血液逆流、腹水症を伴う静脈体循環における血液うっ滞が生じる。 | グレート・デーン、ジャーマン・シェパード·ドッグ、ゴールデンおよびラブラドール・レトリーバー、アイリッシュ・セター、オールド·イングリッシュ·シープドッグなど | 多数の遺伝子が関与 |
動脈管開存(動脈管遺残、PDA) | 大動脈・肺動脈間の胎子性動脈管が開いたままになる。 大動脈から右心室への血液逆流によって左心または右心の機能不全の非常に強い臨床症状。収縮期・拡張期心雑音。 | アメリカン・コッカー・スパニエル、コリー、ジャーマン・シェパード·ドッグ、マルチーズ、プードル、シェットランド・シープドッグ、ヨークシャー・テリア、ミニチュア・シュナウザー | 多因子性
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右大動脈弓遺残(右大動脈) | 先天性の大動脈弓血管異常。これにより気管および食道に環形成が生じる。左上行大静脈遺残とともに現れる。 臨床症状は、食餌の吐き戻しや成長遅延、食道拡張、吸引性肺炎を伴う心底上の食道狭窄または閉塞によって生じる。 | ジャーマン・シェパード・ドッグ、グレート・デーン、アイリッシュ・セター | 家族性
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心室中隔欠損(VSD) | 左右心室間の心室中隔の先天性不完全閉鎖。右心室への血液逆流、肺血管および左心系、右心室の過剰負荷。 収縮期心雑音、心機能低下。出生直後の大きなVSDは致死性である。 | イングリッシュ・スプリンガー·スパニエル、ウルフ・スピッツ | スパニエルは常染色体単一優性遺伝。他犬種はおそらく多因子性 |
心臓と血管の先天異常と疾患(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
卵円孔遺残 (心房中隔欠損、ASD) | 左心房における卵円孔小弁による、心房中隔における胎子期卵円孔の閉鎖が生じない。しばしば動脈管開存を併発する。 右心室、肺循環、左心房の過剰容量負荷を伴う両心房を結ぶ左右シャント。 両心房および右心室拡張を伴う右心系機能不全。 | ボクサー、ブル・テリア、ニューファンドランド、プードル、サモエドなど | おそらく多因子性 |
ファロー四徴 | 心室中隔欠損、肺動脈狭窄、右大動脈および右心系肥大を伴う心臓とその血管の先天性複合異常。 肺循環を迂回した右心室から左心室への直接的血流による左右シャント。収縮期心雑音、舌と粘膜のチアノーゼを伴う低酸素供給、呼吸困難、虚脱、発育不良。ほとんどの場合子犬期に死亡。 | ウルフ・スピッツ | 主働遺伝子が作用。他犬種は多因子性または単一遺伝子性 |
心臓逸所 | 先天性心臓逸所。しばしば胸骨裂と関連している。 | 遺伝性、遺伝様式は不明 | |
若年性拡張型心筋症(DCM) | 先天性の心臓拡張。特に心室の拡張。心壁の肥厚は伴わない。 臨床症状は2~30週齢で現れ、急性心不全または心機能低下、呼吸困難、虚脱および急死である。 | ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグ | おそらく常染色体単一劣性遺伝 |
血液
先天性の血液凝固異常および血球異常
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
フォンウィルブランド病(WD)
| フォンウィルブランド因子(vWF)は第8因子を安定させ、血小板の血管内皮への粘着を仲介する。このvWFが欠けていると出血時間が長くなったり、内出血したりする。 | vWFは常染色体単一共優性。疾患(vWD)は常染色体単一劣性遺伝。犬種によって遺伝子検査あり |
先天性の血液凝固異常および血球異常(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
vWD1型 | vWFはまだ検出される。 | エアデール·テリア、秋田犬、バーニーズ·マウンテン・ドッグ、ダックスフンド、ドーベルマン、ジャーマン·ショートヘアード·ポインター、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ゴールデン・レトリーバー、グレーハウンド、アイリッシュ・ウルフハウンド、マンチェスター・テリア、ウェルシュ·コーギー・ペンブローク、プードル、シュナウザー、シェットランド・シープドッグ | |
vWD2型
| vWFが明らか減少している。 | ジャーマン・ワイアーヘアード・ポインター、ジャーマン・ショートヘアード・ポインター、コーイケルホンディエ | |
vWD3型 | vWFはもはや検出されない。 | チェサピーク・ベイ·レトリーバー、スコティッシュ·テリア、シェットランド・シープドッグ | |
血友病A (第8因子欠乏症) | 先天性の血液凝固異常。トロンボプラスチン形成およびそれによるフィブリン形成が損なわれることで生じる。6~13週齢で多量出血および内出血がある。 | 50犬種以上にみられる | X染色体単一劣性遺伝 |
血友病B (第9因子欠乏症) | 高い出血傾向を伴う先天性トロンボプラスチンおよびフィブリン形成障害。既知の突然変異としては、エアデール・テリア(5kbの組み込み突然変異)、ラブラドール・レトリーバー(遺伝子完全欠失)、ラサ・アプソ(4bp欠失)、ピットブル・テリア(5'遺伝子領域の部分的欠失) | 20犬種以上にみられる | X染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
第1因子欠乏症 (フィブリノーゲン欠乏症) | フィブリノーゲン値の低下。のちの発育過程で関節変性。 | セント・バーナード、ボルゾイ、コリー、ビズラ | 常染色体単一不完全優性遺伝 |
第2因子欠乏症 (プロトロンビン欠乏症) | プロトロンビン値の低下。子犬は重度の出血、一部は死亡。 | ボクサー | 常染色体単一劣性遺伝 |
先天性の血液凝固異常および血球異常(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
第7因子欠芝症 (プロコンバーチン欠乏症)
| プロコンバーチン値の低下。出血傾向の増加。
| アラスカン・マラミュート、ビーグル、ラブラドール·レトリーバー
| 常染色体単一劣性または優性遺伝。複対立遺伝子 |
第10因子欠乏症 (スチュワート・プロワー因子欠乏症) | 第10因子減少。プロトロンビン時間の延長。幼犬の重度の出血。死亡することも多い。 | アメリカン·コッカー·スパニエル、ジャック·ラッセル・テリア | 常染色体単一劣性または優性遺伝。複対立遺伝子 |
第11因子欠乏症 (血友病C) | 血中トロンボキナーゼを活性化する第11因子(血漿トロンボプラスチン前駆物質)値の低下。比較的軽度の出血。 | イングリッシュ·スプリンガー·スパニエル、ケリー・ブルー・テリア | 常染色体単一劣性または優性遺伝。複対立遺伝子。 |
第12因子欠乏症 (ハーゲマン因子欠乏症) | 第12因子値の低下。臨床的には重要でない。 | シャー・ペイ、トイ・プードル | 常染色体単一劣性遺伝 |
血小板異常 (グランツマン症候群) | 血小板膜タンパクの先天性欠損。低下した凝集能、粘着能、小血栓退縮能、血小板フィブリノーゲン値の低下を伴う。 出血傾向の増加。軽い損傷の後出血がしばしば重篤となる。オッター・ハウンド、グレート・ピレニーズには遺伝子検査がある。 | バセット·ハウンド、ジャーマン・ショートヘアード・ポインター、ジャーマン・シェパード·ドッグ、ゴールデン・レトリーバー、ランドシーア、ビズラ、オッター・ハウンド、シェットランド・シープドッグ | 常染色体単一劣性または優性遺伝。 遺伝子検査有り
|
血小板減少症 | 先天性トロンボポエチン欠乏症。これによって血中の血小板数が減少する。 点状出血、斑状出血、鼻出血、貧血。 | バセット·ハウンド、コリー、ダックスフンド、イングシッリュ·コッカー·スパニエル、プードル | 家族性 |
血小板減少性紫斑病 | 先天性血小板免疫遺伝性限定欠乏症。しばしば自己免疫性溶血性貧血を併発する。特に鼻出血と皮下出血、食欲不振、嘔吐、下痢、多渇症、黄疸、貧血、血尿。 | コリー、ダックスフンド、イングシッリュ・コッカー·スパニエル、プードル、テリアなど | 家族性 |
周期性好中球減少症(グレーコリー症候群) | グレーのコリーにのみみられる骨髄の造血細胞の欠陥による多形核顆粒性好中球の先天性周期的減少。 高い易感染性、炎症、下痢、数週齢から数ヵ月齢で死亡。 | コリー(グレー、銀灰色のもの) | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
先天性の血液凝固異常および血球異常(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
ピルビン酸キナーゼ欠芝症(ホスホフラクトキナーゼ欠乏症) | 赤血球中のピルビン酸キナーゼ欠乏による先天性溶血性貧血。エネルギー供給不足による赤血球崩壊。 粘膜の血色が悪く、疲労やすい。血尿、ヘマトクリット値の低下、脾臓肥大、のちに骨硬化症。 アメリカン・コッカー·スパニエル、イングリッシュ·スプリンガー・スパニエルの場合はホスホフラクトキナーゼ欠乏症。 | アメリカン・コッカー・スパニエル、バセンジー、ビーグル、ダックスフンド、イングリッシュ・スプリンガー·スパニエル、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、トイ·プードル | 常染色体単一劣性遺伝。 アメリカン・コッカー·スパニエル、バセンジー、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアには遺伝子検査有り |
カタラーゼ欠乏症 | 網状赤血球および組織における先天性カタラーゼ欠乏。口内における潰瘍形成および壊疽。 | ビーグル | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
楕円赤血球症 | 先天性の赤血球膜タンパク欠損。浸透圧への脆弱性亢進、赤血球の生存時間短縮、赤血球数の増加。 | 雑種 | 常染色体単一不完全優性遺伝。 遺伝子検査有り |
ペルゲル-ヒュエット核型異常症 | 核分葉化の欠如を伴う好中球の先天異常。一般的な防御機能の低下により、易感染性が亢進する場合がある。 | ボストン・テリア、イングシッリュ·コッカー·スパニエル | 常染色体単一優性遺伝 |
重度X染色体免疫不全症(X染色体SCID) | 先天性のT芽細胞形成不全。IgA値とIgG値の低下もみられる。 母犬からの抗体が低下したあと、非常に高い易感染性を示し、死亡する。 | バセット·ハウンド、ウェルシュ・コーギー·カーディガン | X染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
犬白血球粘着不全症 (CLAD) | 顆粒性好中球の表面タンパクの先天性欠損。これによってその食作用のための能力が顕著に低下する。出生後の高易感染性、高致死性、白血球数増加。 | アイリッシュ・セター | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
免疫不全症 | IgA、IgMおよび一部IgGの減少を伴う先天異常。 リンパ球欠乏症、発育遅延、高易感染性、数ヵ月齢で死亡。 | バセット·ハウンド、シャー・ペイ、ミニチュア・ダックスフンド | X染色体単一劣性遺伝 |
選択的IgA欠乏症 | IgA値の低下による、形質細胞への分化のためのBリンパ球の先天異常。 気道および胃腸系が感染しやすい。 | ビーグル、ジャーマン・シェパード・ドッグ、シャー・ペイ | 常染色体単一劣性遺伝 |
先天性の血液凝固異常および血球異常(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
先天性リンパ水腫 | リンパ排液システムの先天異常。特に四肢、腹部、尾、耳介におけるリンパ液の貯留。 子犬期に症状が現れ、重篤な場合は死亡する。 | ボルゾイ、ボブテイル、グレート・デーン、ジャーマン・シェバード・ドッグ、イングリッシュ·ブルドッグ、ラブラドール・レトリーバー、プードル、タービュレン | 常染色体単一優性遺伝 |
鼻・咽頭および呼吸器
鼻・咽頭および呼吸器の先天異常と疾患
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
気管虚脱 | 気管軟骨輪の先天性低形成(背腹方向扁平化)かつ/あるいは気管筋弛緩。超小型および小型犬種に多い。 吸気時の低圧による気管、特に中部、または全体の虚脱。 子犬の症状は、笛様雑音(喘鳴)、呼吸困難、気管のチアノーゼおよび虚脱、長期的結果として右心不全が生じる。 | バセット・ハウンド、チワワ、パグ、ヨークシャー·テリア、トイ・プードル | 多因子性 |
気管形成不全 | 気管輪の円周が小さいことによる先天性気管支狭窄。 呼吸困難、低酸素供給。興奮時にはチアノーゼ様粘膜。 | ブルドッグ、シャー・ペイ | 遺伝性 |
気道狭窄 | 先天性気管狭窄、特に、鼻孔狭窄、鼻中隔変位、柔らかすぎる横鼻軟骨、長すぎる軟口蓋、小さすぎる喉頭、喉頭虚脱、軟口蓋および喉頭の炎症による強制呼吸。 超小型種、小型種の場合、特に短頭種の場合は変異が喉頭狭窄にまでいたる。スカイ·テリアの子犬では、喉頭狭窄で死亡する場合がある。 | 短頭犬種、超小型および小型犬種 | 遺伝性 |
呼吸性呼吸困難症候群 | 肺における広範な圧縮および肺胞上皮の炎症。肺胞における低酸素交換を伴う。 子犬では致死性の重篤な呼吸困難。 | ダルメシアン | おそらく常染色体単一劣性遺伝 |
カルタゲネル症候群 | 内臓逆位症候群。内臓が左右逆転した位置にある。 | チャウ・チャウ | 遺伝性 |
鼻·咽頭および呼吸器の先天異常と疾患(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
毛様体運動障害 | 気道全体における毛様体の無運動かつ/あるいは不規則配置。これに該当する個体の50%が内臓逆位である。 呼吸性疾患の反復(鼻汁排出、気管支肺炎)、および二次的心機能障害。雄の場合、精子の運動性が低下していることがある。治癒しない。 | ビション・フリーゼ、ボーダー・コリー、チワワ、ダルメシアン、ドーベルマン、イングリッシュ·セター、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、ゴールデン・レトリーバー、ニューファンドランド、オールド・イングリッシュ·シープドッグ、ロットワイラー、シャー・ペイ、ダックスフンド、トイ·プードル | 常染色体単一劣性遺伝 |
ヘルニア
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
臍ヘルニア | 出生後も臍の開口部が残り、腹膜と腸の一部が出てくる。ヘルニア嚢は皮膚に包まれ、臍付近で前方に屈曲している。無痛で、整復可能。 ヘルニア嚢内容が締めつけられると、疼痛症状と腹痛を生じる。 | さまざまな犬種 | 遺伝性 |
鼠径ヘルニア | 内臓の一部が内鼠径輪を通って腹膜鞘状突起内へ脱出する。ヘルニア嚢は腹膜または鞘膜の延長によって形成される。 雄よりも雌に多く、ほとんどは先天性で、ペキニーズには非常に多い。 | ペキニーズ、ウェスト·ハイランド·ホワイト·テリア、バセット·ハウンド、ダックスフンド、ケアーン·テリア、バセンジー、シュナウザー | 遺伝性 |
陰嚢ヘルニア | 内臓の一部が陰嚢内へ脱出する。 痛みを伴う腫張した陰嚢。毒素吸収と虚脱を伴う嵌頓。内鼠径輪が狭い場合、腸壊死を生じる。 | さまざまな犬種 | 遺伝性 |
横隔膜ヘルニア | 先天性の横隔膜裂孔あるいは横隔膜の部分的または全体の欠如、あるいは食道裂孔拡張。腹腔臓器の胸腔への変位。呼吸障害、循環障害、消化障害。 | ワイマラナー | 常染色体単一劣性遺伝 |
筋および骨格
筋および骨格の先天性疾患および矮小発育症
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
遺伝性多発性神経障害(進行性軸索突起障害) | 中枢および末梢神経系の進行性軸索突起変性。 2~3ヵ月齢から機能障害の進行、衰弱、反射の低下。 | ボクサー | 常染色体単一劣性遺伝 |
喉頭麻痺・多発性神経障害複合症 | 軸索突起変性による喉頭麻痺、筋萎縮による巨大食道および全身衰弱。 2~6ヵ月齢から症状が現れる。 | ダルメシアン、ロットワイラー | 常染色体単一劣性遺伝 |
喉頭麻痺 | 喉頭関連筋に限定された軸索突起変性。呼吸困難およびいびき様雑音。 | ブービエ·デ・フランダース | 常染色体単一優性遺伝 |
低髄鞘形成による神経障害 | 末梢神経における髄鞘の減少。5~7週齢で始まる後肢筋の萎縮および衰弱。 | ゴールデン・レトリーバー | 常染色体単一劣性遺伝 |
末梢神経における髄鞘の脱落。反射の低下を伴う急速に進行する全身衰弱。 | チベタン・マスティフ | 常染色体単一劣性遺伝 | |
原発性感覚神経障害 | 感覚神経終末の欠損。 後肢の衰弱、8~10週齢で糞尿排泄制御不能、反射はしっかりしている。 | ロングヘアード・ダックスフンド | 遺伝性は不明 |
重度筋無緊張症 | 神経筋刺激伝達系の先天異常による先天性筋衰弱。しばしば食道拡張、ただし、筋萎縮は伴わない。 子犬はあまり遊ぼうとせず、急速に疲労し、休息後は症状が消える(一時的衰弱)。 | フォックス・テリア、オールド・デーニッシュ.ポインター、ジャック·ラッセル・テリア、スプリンガー・スパニエル | 常染色体単一劣性遺伝 |
伴性筋障害 | ジャーマン・ショートヘアード・ポインターの場合はジストロフィン遺伝子の欠失、ゴールデン・レトリーバーの場合はエクソンの欠失を伴うジストロフィン遺伝子の付着部分の突然変異。 進行性骨格筋および心筋障害、クレアチニンキナーゼの高い蓄積。 8週齢で最初の症状:舌肥大による嚥下障害、背の屈曲による硬直した歩行、進行性筋萎縮。 | ジャーマン・ショートヘアード·ポインター、ゴールデン・レトリーバー、アイリッシュ・テリア、ベルジァン·シェパード・ドッグ、ポインター、ロットワイラー、サモエド、ミニチュア·シュナウザー | X染色体単一劣性遺伝。 ゴールデン・レトリーバーは遺伝子検査有
|
遺伝性ミオパチー | 全身の筋衰弱および筋発育遅延を伴う先天性の2型筋線維の欠損症。 3~5ヵ月齢で最初の症状:頭を持ち上げられない。その後、全身の衰弱、特に負荷がかかると、歩行時に前肢が体を支えきれない。休息後回復する。 | ラブラドール・レトリーバー | 常染色体単一劣性遺伝 |
筋および骨格の先天性疾患および矮小発育症(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
筋緊張症 | 筋組織の収縮後弛緩の遅延。関節および筋の硬直を伴う筋組織の過収縮。再発する筋痙攣は加齢とともに改善する。チャウ·チャウでは筋肥大および呼吸困難。 ラブラドール・レトリーバーでは1.5~2歳齢で筋萎結および巨大食道症。最初の症状は10~12週齢から。 | ボーダー・コリー、チャウ·チャウ、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、テリア | 常染色体単一劣性遺伝。 ミニチュア・シュナウザーは遺伝子検査有り。 |
過緊張性筋障害 | 頻発する筋痙攣。興奮時または緊張時に背の屈曲、前肢の伸長、後肢の屈曲を伴う。転倒し、意識がはっきりしたまま身動きせず横たわっている場合もある。 休養後に再び回復する。6週齢で症状が現れ、1歳齢で完全な症状が出現する。 | ダルメシアン、キャバリア·キングチャールズ·スパニエル、スコティッシュ・テリア(スコッチ痙攣) | 常染色体単一劣性遺伝 |
四肢麻痺 (スイマーパピー症候群、フラットパピー症候群) | 四肢すべての先天性麻痺。四肢で立てない、または歩行できない。腹這いで腹と胸で接地し、四肢の泳ぐような動きで前進しようとする。 頭部振戦、一部は盲目、しばしば比較的年齢が上がると症状が改善する。 | アイリッシュ・テリア、レトリーバー犬種 | 常染色体単一劣性遺伝 |
ミトコンドリア筋障害 | 先天異常。運動時に代謝性アシドーシスを生じるので、運動したがらない。 | クランバー・スパニエル、オールド·イングリッシュ·シープドッグ、サセックス・スパニエル | ミトコンドリア性 |
皮膚筋炎 | 横紋筋の痛みを伴う炎症、脱毛と皮膚の発赤を伴う皮膚炎、潰瘍形成にいたる痂皮形成と損傷、筋萎縮、硬直した歩行、巨大食道、吸引性肺炎。進行過程は多様。6ヵ月齢で最初の症状。 | 優性様式:コリー、シェットランド·シープドッグ 劣性様式:オーストラリアン・シェパード、ブーセロン、チャウ·チャウ、ジャーマン·シェパード·ドッグ、クーバース、レークランド・テリア、ウェルシュ・コーギー | 常染色体単一劣性または優性遺伝 |
下顎短小 | 特に軟骨異栄養性犬種およびテリアにおける下顎発達の先天異常。顎の短縮の程度はさまざまである。しばしば狭い下顎を伴う。 | ボーダー·コリー、コッカー・スパニエル、コリー、ダックスフンド、グレーハウンド、ピンシャー、サモエド、シュナウザー | 常染色体単一劣性遺伝 |
筋および骨格の先天性疾患および矮小発育症(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
上顎短小 | 軟骨異栄養性犬種における先天性上顎短小。数週齢でようやく完全な症状が現れる。加えて極端に頭が丸い場合には問題が生じる。 呼吸困難、眼球の突出、鼻のしわ。 | アーフェンピンシャー、ボクサー、イングリッシュ·ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、パグ、ペキニーズなど | 多因子性
|
内水頭症 | 側脳室における先天性の過剰髄液貯留。主に大脳辺縁の圧迫萎縮を伴い、頭蓋が拡張している場合もある。 無気力、運動失調、食欲不振、諸代謝障害を伴う神経系の異常。 | 短頭犬種、チワワ、ヨークシャー·テリア
| 多因子性 |
耳頭症 | 上顎または下顎の欠損あるいは低形成を伴うまれな先天異常。歯が融合し、両耳が一体となって頭部腹側にある。 | 遺伝性 | |
泉門遺残 | 超小型の短頭種に多い先天異常。頭蓋骨縫線が不完全にしか閉じておらず、触診可能な結合組織によって橋渡しされている。外傷、頭蓋内腫瘍、水頭症の傾向。 | 多因子性 | |
側頭骨·下顎骨異形成 | 先天性の平坦な関節窩による両顎関節の亜脱臼/脱臼。口にくわえて運んだり、吠えたりしたあと、口が全開のままになってしまう。 | アメリカン・コッカー·スパニエル | 遺伝性。遺伝様式は不明 |
無尾/短尾 | 先天性の完全なまたは部分的な尾の欠損。まれに楔状脊椎や二分脊椎、脊髄空洞症などの脊椎異常を伴う。 | 無尾症:コッカー·スパニエル、ロットワイラー 短尾症オールド·イングリッシュ·シープドッグ、コッカー・スパニエル、ジャーマン・シェパード·ドッグ、ドーベルマン、エントレブッハー·キャトル・ドッグ、コモドール、シュナウザーなど | 多因子性。 コッカー・スパニエル、ダックスフンド:常染色体単一劣性遺伝。ウェルシュ・コーギー·ペンブロークは遺伝子検査あり |
半側椎骨(楔状脊椎) | 脊椎の変形を伴う先天性椎体形成不全。軟骨異栄養性犬種のコルク栓抜き状の尾を持つ短頭種に多い(ボストン・テリア、ダックスフンド、イングリッシュ·ブルドッグ、パグ)。 後肢における衰弱と反射減退、しばしばのちに後肢の不全麻痺および麻痺、尿および便の失禁。 | ボストン·テリア、ダックスフンド、イングリッシュ·ブルドッグ、フレンチ·ブルドッグ、パグ | 多因子性 |
筋および骨格の先天性疾患および矮小発育症(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
脊椎短小 | 脊椎の融合、無形成、低形成による、先天性の軸骨格の短縮。 唇の垂れ下がった犬の場合、非常に短い首、脊柱、短い尾を伴う脊椎短縮。雄の場合は致死性。雌は生殖能力がある。 | グレーハウンド、日本犬種、南アフリカ犬種 | 常染色体単一劣性遺伝
|
脊椎分裂(二分脊椎) | 先天性の椎弓形成異常。露出した、または異常形成された脊髄を伴う不完全閉鎖。 主に腰部、しばしば無尾・短尾を伴う。死亡する場合もある。運動失調や神経障害をもたらす場合もあるが、臨床的に目立たない場合もある。 | おそらく多因子性 | |
奇肢症 | 四肢末梢部の先天的欠如または形成不全。四肢の欠如部分または形成不全部分の範囲はさまざまである。 | ビーグル、チワワ、ダックスフンド、ジャーマン·シェパード・ドッグ、フォックス・テリア、パグ、プードル、サモエド | おそらく多因子性 |
無前肢症/欠肢症 | 両前肢の欠如または肩および上腕の痕跡のみが残る状態。 | フランツォージッシャー·ラウフフンド、ポインター、フォックス·テリア | 常染色体単一劣性遺伝 |
多指症 | 指数の先天性過多。 | グレーハウンド | 少数の遺伝子 |
合指症 | 二本の隣接する足指、または二本の隣接する中足骨と指骨の先天性癒合。 | ジャーマン・シェパード·ドッグ、グレート・デーン、フォックス·ハウンド、プードル | 常染色体単一劣性遺伝の可能性有り |
骨形成不全 (骨脆弱症) | 骨芽細胞の機能欠乏(1型コラーゲンの異常なα1およびα2鎖の合成)。骨屈曲および骨折傾向が高く、骨皮質が薄く、海綿質がわずかで、歯が赤くガラス状である。 | コリー、ノルウェジアン・エルクハウンド、プードル | 多因子性、ビーグルは遺伝子検査有り |
大理石骨病 | 骨の骨髄域の骨化の進行を伴う先天異常。その結果、内因性骨折や運動障害が生じる。 | オーストラリアン・シェパード、ダックスフンド | 多因子性 |
先天性上腕脱臼 | 肩関節における上腕の先天性脱臼。重度の麻痺を伴う。 | プードル | 多因子性 |
先天性前腕脱臼 | 橈骨および尺骨の肘関節における先天性脱臼。重度の麻痺を伴う。 | ペキニーズ、シェットランド・シープドッグ、ヨークシャー・テリア | 多因子性 |
筋および骨格の先天性疾患および矮小発育症(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
先天性神経栄養性骨症(足趾壊死) | 足指における先天性の皮膚感覚および痛覚の鈍麻。その結果、壊死にいたる炎症が生じたり、足指を自分でかじったり、噛み切ってしまったりする。 | セター、ポインター | 常染色体単一劣性遺伝 |
下垂体性矮小体躯症 | のちに嚢胞発生を伴う成長ホルモン産成細胞の分化障害。 生後数遇間成長が止まり、新生子の被毛が残り、歯の抜け替わりが遅れるか行われない。ほとんど1歳齢で死亡。 | ジャーマン・シェパード・ドッグ、カレリアン・ベアードッグ、ピンシャー、スピッツ | 常染色体単一劣性遺伝 |
先天性甲状腺機能不全矮小体駆症 | 先天性不均称矮小発育。四肢が明らかに短く、胸は拡張され、頭部もより幅が広い。新生子の被毛の生え替わり、歯の生え替わりが遅い。 原因は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)または甲状腺放出ホルモン(TRH)の欠如、あるいはT4欠乏である。 | ボクサー、ジャイアント·シュナウザー | 常染色体単一劣性遺伝 |
骨軟骨異形成 | 軟骨内および/または骨膜内の骨化における障害。その結果、しばしば四肢骨の短い不均称矮小発育が生じる。それには以下のものが属する:軟骨無発生、軟骨無形成、軟骨形成不全、軟骨低形成、多発性軟骨外骨症、多発性内軟骨腫、多発性骨端異形成、眼・骨格異形成、偽軟骨無形成。 | ||
軟骨無発生 | 全四肢の小肢症 | 秋田犬 | 遺伝性は不明 |
軟骨無形成 | 上腕と上腿の短小および頭蓋変性(鞍鼻、上顎短小、頭蓋の強い変形)による不均称矮小発育 | ビーグル、ボストン·テリア、ブルドッグ、ダックスフンド、狆、ペキニーズ、シー·ズー | 常染色体単一劣性遺伝 |
軟骨形成不全 | 不均称矮小発育、体軸骨格および四肢骨格の成長域の病的変性。 | アラスカン・マラミュート、グレート・ピレニーズ、ノルウェジアン·エルクハウンド | 常染色体単一劣性遺伝 |
軟骨低形成 | 不均称矮小発育。 | コッカー・スパニエル、アイリッシュ・セター | 常染色体単一劣性遺伝 |
多発性軟骨外骨症 | 成長域の軟骨膜から生じ、軟骨に覆われた骨から成る。痛みを伴い、神経障害および腫瘍発生の可能性がある。 | さまざまな犬種 | 家族性 |
多発性内軟骨腫 | X線画像では長管状骨内、脊椎、肋骨、胸骨、脚部の掌骨・中足骨においては縦方向を向いた楕円形の明るい部分。麻痺、変形した骨、骨と関節の痛み | トイ·プードル | 常染色体単一劣性遺伝 |
筋および骨格の先天性疾患および矮小発育症(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
多発性骨端異形成 | 脊柱後湾、ひどく曲がった関節を伴う不均称発育。罹患子犬は活動性に乏しく、歩行が異常である。 | ビーグル、トイ·プードル | 還伝性、遺伝様式は不明 |
眼・骨格異形成 | 網膜異形成、網膜剥離、白内障を伴う不均称発育(小肢症)。サモエドにも似た障害がみられる。 | ラブラドール・レトリーバー | (骨格)常染色体単一劣性遺伝、 (眼)常染色体単一不完全優性遺伝 |
偽軟骨無形成 | 曲がった短い四肢、成長遅延、関節炎を伴う不均称発育。子犬は立てず、歩けない。 | スコティシュ・ディアハウンド、トイ·プードル | 常染色体単一劣性 |
中枢神経系
中枢神経系の先天異常と疾患
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
睡眠発作 | 正常な状態の間に、抑うつと眠気の時期が現れる。低クレチン受容体遺伝子における突然変異。 | ドーベルマン、ラブラドール・レトリーバー | 常染色体単一劣性遺伝、遺伝子検査 |
脳回欠損 | 大脳脳回の先天性欠損または減少。発作と行動鈍麻を伴う。 | ラサ·アプソ | 常染色体単一劣性遺伝 |
小脳無力症 | 小脳の萎縮による運動失調と振戦。プルキンエ細胞の早期の死滅。臨床的発現は犬種によってさまざまである
| オーストラリアン·ケルピー、エアデール・テリア、ビーグル、チャウ・チャウ、ラブラドール・レトリーバー、ローデシアン・リッジバック | 遺伝性は不明 |
肝臓小脳変性 | 1~2ヵ月齢で運動失調および頭部振戦、プルキンエ細胞の変性、顆粒層細胞の死滅、肝臓変性および肝臓線維症。 | バーニーズ・マウンテン·ドッグ | 常染色体単一劣性遺伝 |
ゴードン·セター小脳変性 | 6~24ヵ月齢で運動失調、測定過大症、眼振、プルキンエ細胞および顆粒層細胞の変性。 | ゴードン·セター | 常染色体単一劣性遺伝 |
錐体外路無力症 | 3~4ヵ月齢で運動失調および痙攣性歩行。プルキンエ細胞、オリーブ核および黒質の変性。 | ケリー・ブルー・テリア | 常染色体単一劣性遺伝 |
ラフ·コリー小脳変性 | 1~4ヵ月齢で連動失調、測定過大症、振戦。ブルキンエ細胞変性、脳幹および脊髄のウォーラー変性。 | ラフ·コリー | 常染色体単一劣性遺伝 |
中枢神経系の先天異常と疾患(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
灰白質海綿状変性 | 多系統のニューロン欠陥による運動失調、振戦、視覚障害、行動異常。 | ブル・マスティフ、サルーキ | 遺伝性は不明 |
神経変性 | 全四肢の進行性の不全麻痺または完全麻痺。5ヵ月齢で振戦。 | ケアーン・テリア | 遺伝性は不明 |
10~14ヵ月齢で運動失調、測定過大症、行動変異。小脳、大脳、中脳の退行変性および神経細胞の変性。 | コッカー·スパニエル | 遺伝性は不明 | |
ニューロン無力症 | 1~2ヵ月齢で筋萎縮を伴い急激に進行する筋衰弱。小脳および脊髄におけるニューロン変性。 | スウェディッシュ・ラップフンド | 常染色体単一劣性遺伝 |
脊髄小脳変性 | 成犬で運動失調、振戦、測定過大症、神経線維の蓄積を伴うブルキンエ細胞喪失、脊髄のニューロン変性。 | ブリタニー・スパニエル | 遺伝性は不明 |
ニューロン空胞化 | 運動失調、振戦、後肢衰弱、プルキンエ細胞および脳幹神経核における空胞形成。脳幹、小脳、脊髄における軸索変性。 | ロットワイラー | 遺伝性は不明 |
灰白質脳脊髄炎 | 痙攣性不全麻痺、5~6ヵ月齢から発作。小脳、脳幹、脊髄における空胞変性。 | オーストラリアン・キャトル・ドッグ | |
神経軸索ジストロフィー | 1~2歳齢から進行性の測定過大症を伴う運動失調、全灰白質における軸索肥大。 | ロットワイラー | 常染色体単一劣性遺伝 |
2ヵ月齢から運動失調、行動変異、測定過大症。視床、延髄、脊髄における軸索肥大。 | ジャック·ラッセル·テリア | ||
3ヵ月齢で後肢運動障害、主に脊髄の背側部灰白質における軸索肥大。 | パピヨン | ||
軸索神経障害 | 大きな軸索肥大、中枢神経系および末梢神経系における神経線維。 15ヵ月齢から後肢不全麻痺および運動失調。進行性痛覚鈍麻、巨大食道、反射減退。 | ジャーマン・シェパード・ドッグ | 常染色体単一劣性遺伝 |
白質萎縮症 | 後肢運動失調、視覚障害。大脳および脊髄におけるミエリン鞘喪失。中脳および小脳における空胞化。3~5ヵ月齢で発現。 | ダルメシアン | 常染色体単一劣性遺伝 |
フィブリノイド大脳白質萎縮症 | 全身衰弱を伴う運動失調、感覚中枢の変異、小脳および脊髄におけるミエリン鞘喪失、中枢神経系における星状膠細胞のフィブリノイド変性。 | ラブラドール・レトリーバー、スコティッシュ・テリア | 遺伝性は不明 |
中枢神経系の先天異常と疾患(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
遺伝性壊死性脊髓障害 | 12ヵ月齢で進行性後肢不全麻痺。脊髄のウォーラー変性。 | コーイケルホンディエ | 常染色体単一劣性遺伝 |
遺伝性脊髄障害 | 不全麻痺が急速に進行し、痙攣性四肢麻痺に発展する。3~13ヵ月齢で発症。脊髄白質変性。 | アフガン・ハウンド | 常染色体単一劣性遺伝 |
白質脳脊髄障害 | 1~3歳齢で後肢の進行性運動失調、脳幹、小脳、脊髄におけるミエリン鞘破損。 | ロットワイラー | 遺伝性、遺伝様式は不明 |
ミエリン鞘形成減少症 | ミエリン鞘低形成およびグリア形成の遅延。チャウ·チャウの場合は先天性振戦がみられ、1歳齢以上で改善の徴候がある。ワイマラナーでは1週齢から全身の振戦、バーニーズ・マウンテン·ドッグでは9週齢で振戦がみられるが、のちに改善する。 | バーニーズ・マウンテン·ドッグ、チャウ・チャウ、ワイマラナー | 常染色体単一劣性遺伝
|
子犬振戦(痙攣) | 重度の振戦。3~4ヵ月齢で死亡。プロテオリピド遺伝子の欠陥。 | スプリンガー・スパニエル | X染色体単一劣性遺伝、遺伝子検査 |
脊椎筋萎縮(低運動ニューロン) | 脊髄および一部は脳幹の運動ニューロンの進行性変性。後肢および脊椎隣接の筋萎縮と、脊髄反射の減退、不全麻痺から完全麻痺まで。 ブリタニー·スパニエル:症状は1ヵ月齢から(ホモの個体)、または12ヵ月齢から(ヘテロの個体)。 ジャーマン・シェパード·ドッグ:3ヵ月齢から前肢の衰弱。進行性四肢拘縮。 ポインター:6ヵ月齢から。1歳齢で動けなくなる。 ロットワイラー:1ヵ月齢から後肢不全麻痺、巨大食道。 | ブリタニー・スパニエル、ジャーマン·シェパード·ドッグ、ポインター、ロットワイラー | 常染色体単一優性遺伝(ブリタニー·スパニエル)、常染色体単一劣性遺伝(ポインター) |
退行性脊髄障害 | 3ヵ月齢で運動失調、測定過大症、痙攀。転倒の傾向。脊髄および軸索の白質の左右対称性の変性。 | ラブラドール・レトリーバー | 常染色体単一劣性遺伝 |
中枢神経系の先天異常と疾患(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
遺伝性運動失調/運動失調と脊髄障害 | 中枢神経系のウォーラー変性。2~6ヵ月齢で前肢の測定過大症と局所筋痙攣を伴う全身性の運動失調。 | フォックス・テリア、ジャック・ラッセル・テリア | 常染色体単一劣性遺伝(フォックス・テリア)。 多因子性(ジャック·ラッセル・テリア) |
イビザン・ハウンドの退行性脊髄障害 | 先天性の進行性痙攣性運動失調。反射の減退、発作、軸索変性および星状膠細胞の激増。 | イビザン・ハウンド | 常染色体単一劣性遺伝 |
トイ・プードルの退行性脊髄障害 | 2~4ヵ月齢で先天性痙攣性運動失調。 | トイ・プードル | 遺伝性は不明 |
皮膚
皮膚の先天異常と疾患
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
先端皮膚炎 | 膿胞性皮膚炎。ます主に突出部位(足指、尾)および開口部(口、鼻、目、耳)に現れ、続いて、呼吸器、胃腸へと広がる。治癒不能。5~6ヵ月齢で最初の症状。7~15力月齢で死亡。 | イングリッシュ·ブル・テリア | 常染色体単一劣性遺伝 |
毛包形成異常(黒色被毛形成異常) | まだら模様の犬における被毛の黒毛の先天性低形成およびその後の消失。虹彩は明色または黄色。ラージ・ミュンスターレンダーの場合、発症すると黒白のかわりに黄色と白のまだらになる。 | バセット・ハウンド、ビアデッド·コリー、イングリッシュ・コッカー・スパニエル、ジャック·ラッセル·テリア、ゴードン・セター、ラージ・ミュンスターレンダー、サルーキなど | 常染色体劣性遺伝。 ラージ・ミュンスターレンダーは遺伝子検査あり |
類皮痩 | 背部の胎子性発育不全。背正中線わきに小管状の皮膚陥入が生じ、脊柱に達する。さらに脊髄に結合している場合もある。ほとんどの場合、この毛包、脂腺、汗腺を伴う皮膚陥入は機能しないままで終わるが、炎症の際には合併症の可能性がある(後肢麻痺、後肢の過敏症)。 | ローデシアン・リッジバック、ボクサー、シー·ズー、イングリッシュ・ブルドッグ | 常染色体単一劣性遺伝 |
皮膚の先天異常と疾患(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
外胚葉異形成 | 歯の形成異常と歯の欠如および分泌腺欠如を伴う先天性減毛症。主に雄にみられる。 | ジャーマン・シェパード·ドッグ、トイ·プードル | X染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
嚢胞性角化不全症 | 先天性の皮膚角化障害。罹患子犬には、鱗屑およびうろこ状に肥厚した皮膚の発達がみられる。これは鼻面、肉趾および無毛箇所には生じない。子犬の発育は遅れる。 | ロットワイラー、シベリアン・ハスキー
| X染色体遺伝 |
先天性無毛症 | 毛包数不足または欠如による先天性の発毛不足(低発毛)または無毛(無発毛)。 | 無毛犬種:チャイニーズ・クレステッド·ドッグ、メキシカン・ヘアレス・ドッグ、ペルービアン・ヘアレス・ドッグ、アフリカン・ヘアレス・ドッグ、セイロン・ヘアレス・ドッグ、アメリカン・ヘアレス・テリア 家族性:アイリッシュ·ウォーター・スパニエル、テリア、トイ·プードルなど多様な犬種 | 無毛犬種:常染色体単一優性遺伝。 ヘアレス·テリア:常染色体単一劣性遺伝。 トイ・プードル:X染色体単一劣性遺伝。 アイリッシュウォーター・スパニエル:常染色体優性遺伝 |
先天性魚鱗癬 | 先天性の全身性皮膚角化亢進。 いぼ状、うろこ状皮膚。脂性で腐った油のような悪臭がある。続発性膿皮症。 | キャバリア・キング·チャールズ・スパニエル、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、ジャック・ラッセル・テリア、ソフトコーテッド・ウィートン・テリア、ウェスト・ハイランド・ホワイト·テリア、ヨークシャー・テリアなど | 常染色体単一劣性遺伝 |
皮膚脆弱症(エーレルス·ダンロー症候群) | コラーゲン生合成における先天異常。極度に緩み、傷つきやすい皮膚、破れやすい血管、過剰伸張する関節を伴う。皮膚をつまんだ長さを体長で割ると18~25%になる(通常は9~16%)。 | さまざまな犬種 | 異なった遺伝様式が考えられる。常染色体単一劣性または優性遺伝 |
皮膚の先天異常と疾患(つづき)
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
ブドウ膜·皮膚病症候群 | 自己免疫機構による色素細胞の破壊。色素消失および肉芽性炎の最初の徴候は幼犬の場合、目に始まり、のちに全身の皮膚に広がる。 網膜剥離、白内障、緑内障、脱毛、皮膚の色素消失。 | 秋田犬、オーストラリアン・シェパード、サモエド、シベリアン·ハスキー | 遺伝性は不明 |
皮膚血管病 | 子犬期に発症する肉趾部位の結節性皮膚炎。耳と尾の壊死および潰瘍を伴う。 | ジャーマン・シェパード・ドッグ | 常染色体単一劣性遺伝 |
亜鉛反応性皮膚病 | 先天性の亜鉛吸収障害。その結果として、異常角化による角質過多症、皮膚紅疹、脱毛を伴う。変性は特に、よく使われ、露出した皮膚表面(顔、耳、ひじ関節、足の先端)に現れる。 | アラスカン・マラミュート、ブル·テリア、シベリアン・ハスキー | 遺伝性、遺伝様式は不明 |
水腫胎 | 皮下、すべての腔所、心膜、脳における先天性の全身水腫。致死性。難産。 | ミニチュア・ブルドッグ、オーストリアン・ブラック·アンド・タン·ハウンド | おそらく多因子性 |
生殖器
生殖器の先天異常
異常/疾病 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
潜在精巢 | 一側または両側の精巣の陰嚢への胎子性下降が生じない。両側の場合生殖不能である。近親交配で生じやすい。 | ボクサー | 多因子性
|
性転換(XX性反転) | XX染色体を持つ犬で、精巣または卵精巣、あるいは精巣と卵巣を持ち、時に卵管を欠く中腎傍管(雌性生殖路)を伴う個体。 XX雄は無精子症で、一部は潜在精巣である。 XX雌雄同体は子孫を残せる。 | 約15犬種にみられる。アメリカン・コッカー・スパニエル、ノルウェジアン·エルクハウンド、バセット・ハウンド、ジャーマン・ショートヘアー、ポインター | 常染色体単一劣性遺伝 |
中腎傍管系遺残症候群 | 精巣および中腎傍管系(卵管、子宮、子宮頸)を伴うXY個体。包皮を伴う陰茎。しばしば一側または両側の潜在精巣。 | バセット・ハウンド、ミニチュア・シュナウザー | 常染色体単一劣性遺伝 |
雌性仮性半陰陽 | 卵巣、雌性生殖路、陰茎様に肥大した陰核または包皮のある陰茎状陰核を伴うXX個体。 | さまざまな犬種 | 遺伝性。時には常染色体単一劣性遺伝 |
感覚神経性聴覚障害
感覚神経性聴覚障害
聴覚障害の種類 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
先天性感覚神経性聴覚障害 | 先天性の蝸牛殻囊変性。線条血管の喪失およびライスナー膜と蝸牛管の崩壊、その後有毛細胞およびコルチ器官が失われる。 3~4週齢で聴覚の喪失が始まり、7~10週齢、遅くとも4ヵ月齢で完全となる。 音響的に引き起こされた脳幹ポテンシャル(AEP)による診断。ダルメシアンにおける青い目と鱗屑形成に関係がある。ダルメシアンの例外を除き、ピーバルト(白黒の大きな斑点模様)遺伝子型SwSw | ダルメシアン、ブル・テリア、イングリッシュ・セター、イングリッシュ·コッカー·スパニエル、ジャック・ラッセル・テリア、ドーベルマン、ドゴ·アルヘンティーノ、オーストラリアン·シェパード、ウェスト・ハイランド·ホワイトテリア | 常染色体劣性 主働遺伝子 (ダルメシアン)。ダルメシアンの場合、関連遺伝子位置が知られている。 マーカー遺伝子検査有り |
先天性感覚神経性聴覚障害 | ホモのメール(コリー)遺伝子型(MM)の発生における蝸牛殻嚢性聴覚障害。ほぼ完全な白色の被毛。眼球形成不全および他の眼球形成異常(小瞳孔症、コロボーム、小水晶体など)、雄の場合は時に生殖能力がなくなる。 | アメリカン・フォックスハウンド、オーストラリアン・シェパード、ボーダー・コリー、ダックスフンド、グレート・デーン、オールド・イングリッシュ・シープドッグ、ノルウェジアン・ハウンド、シェットランド・シープドッグ | メール因子:常染色体単一優性遺伝 障害:ホモの優性メール遺伝子型の場合のみ |
感覚神経性聴覚障害 | 臆病に飼育された血統に生じる。 | ポインター | 常染色体単一劣性遺伝 |
両側感覚神経性聴覚障害 | 蝸牛殻内のコルチ器官の有毛細胞の喪失。線条血管変性は伴わない。 | ドーベルマン、シュロプシャー·テリア | 常染色体単一劣性遺伝 |
蓄積病
先天性リソソーム蓄積病
蓄積病の種類 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
糖原病 タイプⅠa | グルコース-6-ホスファターゼ欠乏。グリコーゲン蓄積による重度の肝臓肥大を伴う低身体発育。尿細管上皮細胞における空胞形成。 | マルチーズ | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
蓄積病の種類 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
糖原病 タイプⅡ | 巨大食道の形成を伴う全身性の筋衰弱、これによって子犬に嚥下障害、嘔吐/吐き戻し、呼吸困難が生じる。 原因は、特に筋肉におけるグリコーゲン異常蓄積をもたらすα1.4グルコシダーゼ欠乏である。 | ラップランド・スピッツ | 常染色体単一劣性遺伝 |
糖原病 タイプⅢ | 全身衰弱およびグリコーゲン貯蔵による肝臓肥大。アミロース-1.6-グリコシダーゼ欠乏。 | 秋田犬、ジャーマン・シェパード・ドッグ | 常染色体単一劣性遺伝 |
糖原病 タイプⅣ | 6-ホスホフラクト-1-キナーゼ欠乏。 筋障害、溶血の危険性。 | アメリカン・コッカー·スパニエル、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
GM1ガングリオシドーシス | βガラクトシダーゼ欠乏、神経系および他の器官における脂質蓄積、骨格形成異常、振戦、運動失調、測定過大症、四肢麻痺、行動変異、イングリッシュ・スプリンガー·スパニエルでは矮小発育。 | アラスカン・ハスキー、イングリッシュ·スプリンガー・スパニエル、ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグ(PWH) | 常染色体単一劣性遺伝。 PWHは遺伝子検査有り |
GM2ガングリオシドーシス | 時にβヘキソサミニダーゼ欠損。進行性神経筋機能不全、子犬の発育停滞。 日本スパニエルの場合、のちに高βへキソサミニダーゼ値の症状が出る(GM2ガングリオシドーシス、タイプAB)。 | ジャーマン・ショートヘアード・ポインター、日本スパニエル | 遺伝性。遺伝様式は不明 |
ムコ多糖症 タイプⅠ
| α-L-イズロニダーゼ欠乏、神経系と肝臓におけるデルマタン硫酸塩およびヘパリン硫酸塩の蓄積。 | プロット・ハウンド、ミニチュア・ピンシャー | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
ムコ多糖症 タイプⅡ | イズロン酸-2-スルファターゼ欠乏。中枢神経系と他の器官におけるムコ多糖類蓄積を伴う。神経系の障害、視党障害、前進運動行動障害。 | ラブラドール・レトリーバー | X染色体単一遺伝 |
ムコ多糖症 タイプⅢA | Nスルフォグルコサミン・スルフォヒドラーゼ欠乏。中枢神経系、結合組織、肝臓および上皮細胞におけるムコ多糖類蓄積を伴う。神経系の障害と運動失調(3ヵ月齢から)。 | ワイアーヘアード·ダックスフンド | 遺伝性。遺伝様式は不明 |
ムコ多糖症 タイプⅥ | N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ欠乏。 | ミニチュア・ピンシャー
| 遺伝性。遺伝様式は不明 |
先天性リソソーム蓄積病(つづき)
蓄積病の種類 | 特徴 | 発症する主な犬種 | 遺伝様式、遺伝子検査 |
ムコ多糖症 タイプⅦ | β-グルクロニダーゼ欠乏。ニューロン、関節包、肝細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、角質細胞におけるグルコサミノグリカン蓄積を伴う。 8週齢から後肢脆弱、関節の過伸展、上顎短小、頭部肥大。 | ジャーマン・シェパード·ドッグ | 常染色体単一劣性遺伝。 遺伝子検査有り |
ニーマン·ピック病タイプA/B | スフィンゴミエリナーゼ欠乏。中枢神経系および、肺・肝臓・腎臓·リンパ節のマクロファージにおけるスフィンゴミエリンおよびコレステロールの蓄積を伴う。進行性神経障害。 | プードル | 遺伝性。遺伝様式は不明 |
ニーマン・ビック病 タイプC | 脳ニューロンにおける非エステル化コレステロールおよびラクトシルセラミドとガングリオシドの蓄積。9ヵ月齢から発症。 | ボクサー | 遺伝性。遺伝様式は不明 |
ウォルマン病 | コレステロール·エステルが結晶状で内臓に蓄積する。急激に進行する。 | フォックス·テリア | 遺伝性。遺伝様式は不明 |
犬の分子遺伝学的に解明された疾患
遺伝様式、遺伝子、その染色体位置(CFA)および、該当する突然変異の現れる犬種を表示した、分子遺伝学的に解明された犬の疾患。
器官/疾病 | 選伝様式 | 遺伝子 | CFA | 犬種 |
目 | ||||
コリー眼異常(CEA) | 劣性 | オーストラリアン·シェパード、ボーダー・コリー、コリー(ショートヘアード、ラフ)、ランカシャー・ヒーラー、ノヴァ・スコシア・ダック・トーリング·レトリーバー、シェルティ、ロングヘアード・ウィペット | ||
先天性定位性夜盲症 | 劣性 | RPE65 | 6 | ブリアード |
肝臓性先天性黑内障 (cord1) | 劣性 | RPGRIP1 | 15 | ロングヘアード・ミニチュア・ダックスフンド |
多焦点性網膜症 | 劣性 | VMD2 | 18 | ボルドー・マスティフ、ブル・マスティフ、フレンチ・マスティフ、マスティフ、グレート・ピレニーズ |
進行性網膜萎縮(PRA) | 優性 | RHO | 17 | ブル・マスティフ、イングリッシュ・マスティフ |
進行性網膜萎縮(PRA) | 劣性 | CNGB3 | 29 | アラスカン・マラミュート、ジャーマン·ショートヘアード・ポインター |
進行性網膜萎縮(PRA) | 劣性 | PDE6B | 3
| アイリッシュ・セター(rcd1)、スルーギ(rcd1a) |
進行性網膜萎縮(PRA) | 劣性 | PDEA | 3 | ウェルシュ·コーギー・カーディガン、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク |
進行性網膜萎縮(PRA) タイプA | 劣性 | PDC | 7 | ミニチュア・シュナウザー |
X染色体性進行性網膜萎縮 (XLPRA1) | X劣性 | RPGR | X | サモエド、シベリアン・ハスキー |
進行性網膜萎縮(PRA) | 劣性 | マーカー | - | 21犬種 |
原発性若年性白内障 | 劣性
| HSF4 | 5 | ボストン・テリア、スタッフォードシャー・ブル·テリア |
血液 | ||||
血友病B | X劣性 | F9 | X | ジャーマン・ワイアーヘアード・ポインター、ラサ・アプソ |
溶血性貧血 | ||||
M型 | 劣性 | PFKM | 27 | アメリカン・コッカー・スパニエル、イングリッシュ・コッカー・スパニエル、スプリンガー・スパニエル |
遺伝様式、遺伝子、その染色体位置(CFA)および、該当する突然変異の現れる犬種を表示した、分子遺伝学的に解明された犬の疾患。(つづき)
器官/疾病 | 選伝様式 | 遺伝子 | CFA | 犬種 |
R-PK型 | 劣性 | PKLR | 8 | バセンジー、ケアーン·テリア、ウェスト・ハイランド・ホワイトテリア |
PK型 | 劣性 | - | - | アメリカン・エスキモー・ドッグ、チワワ、ダックスフンド |
血小板無力症 (グランツマン1型) | 劣性 | ITGA2B | 9 | オッター・ハウンド、グレート・ピレニーズ |
フォンウィルブランド病 | ||||
1型 | 不完全優勢 | vWF | 27 | 10犬種 |
2型 | 劣性 | vWF | 27 | ジャーマン・ワイアーヘアード・ポインター、ジャーマン·ショートヘアード・ポインター |
3型 | 劣性 | vWF | 27 | コーイケルホンディエ、スコティッシュ・テリア、シェルティ |
周期性好中球減少症 | 劣性 | AP3B1 | 3 | ボーダー・コリー、コリー、シェルティ |
皮膚 | ||||
異栄養性表皮水胞症 | 劣性 | COL7A1 | 20 | ゴールデン·レトリーバー |
表皮剥離性角化亢進症 | 劣性 | KRT10 | 9 | ノーフォーク·テリア |
接合型表皮水胞症 | 劣性 | LAMA3 | 7 | ジャーマン・ショートヘアード・ポインター |
毛包異形成 | 劣性 | MLPH | 25 | ラージ・ミュンスターレンダー |
X染色体性低発汗外胚葉異形成 (XHED) | X劣性 | EDA | X | ジャーマン・シェパード・ドッグ |
免疫系 | ||||
C3補体欠乏症 | 劣性 | C3 | 20 | ブリタニー·スパニエル |
犬白血球粘着不全症 | 劣性 | ITGB2 | 31 | アイリッシュ・セター |
重度複合免疫不全症 (SCID) | 劣性 | DNA-PKCS | 3 | ジャック・ラッセル·テリア |
重度複合免疫不全症 (X-SCID) | X劣性 | IL2RG | X | バセット・ハウンド、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク |
筋肉 | ||||
筋ジストロフィー | X劣性 | DMD | X | ゴールデン·レトリーバー |
先天性筋緊張 | 劣性 | CLCN1 | 16 | ミニチュア・シュナウザー |
悪性高熱 | 劣性 | RYR1 | 11 | 全犬種 |
中心核筋疾患 | 劣性 | PTPLA | 2 | ラブラドール・レトリーバー |
遺伝様式、遺伝子、その染色体位置(CFA)および、該当する突然変異の現れる犬種を表示した、分子遺伝学的に解明された犬の疾患。(つづき)
器官/疾病 | 選伝様式 | 遺伝子 | CFA | 犬種 |
神経系 | ||||
グロボイド細胞(球様細胞)白質異栄養症 | 劣性
| GALC
| 8
| ケアーン·テリア、ウェスト·ハイランドホワイト·テリア |
L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症(L-2-HGA) | 劣性
| L2HGDH | 14 | スタッフォードシャー·ブル・テリア |
間代性筋痙攣・てんかん | 不完全劣性 | NHLRC1
| 35 | ビーグル、ダックスフンド |
睡眠発作(ナルコレプシー) | 劣性 | HCRTR2 | 12 | ダックスフンド、ドーベルマン、ラブラドール・レトリーバー |
ニューロンセロイドリポフスチン蓄積症 (NCL) | 劣性 | CLN5 | 22 | ボーダー・コリー |
CLN8 | 37 | イングリッシュ・セター | ||
CLN2 | 21 | ロングヘアード・ダックスフンド | ||
CTSD | 18 | アメリカン・ブルドッグ | ||
痙攣 | X劣性 | PLP1 | X | スプリンガー・スパニエル |
海綿状白質脳脊髓症 | 母系 | CYTB | mtDNA | オーストラリアン·キャトル·ドッグ、シェルティ |
骨格系 | ||||
骨形成不全 | 劣性 | COL1A2 | 18 | ビーグル |
短尾 | 優性 | TBP | 1 | ウェルシュ・コーギー・ペンブローク |
代謝、肝臓、内分泌系 | ||||
フコース蓄積症 | 劣性 | FUCA1 | 2 | イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル |
GM1ガングリオシドーシス | 劣性 | GLB1 | 23 | アラスカン·ハスキー、ポーチュギーズ・ウォーター·ドッグ、柴 |
コバラミン吸収不良 | 劣性 | AMN | 8 | ジャイアント·シュナウザー |
甲状腺機能低下症 | 劣性 | TPO | 17 | トイ・フォックステリア |
薬剤過敏症 | 劣性 | MDR1 | 14 | オーストラリアン·シェパード、ボーダー・コリー、コリー、イングリッシュ·シェパード・ドッグ、ロングヘアード・ウィペット、マクナブ·ドッグ、オールド·イングリッシュ·シープドッグ、スイス・ホワイト・シェパード、シルケン・ウインド・ハウンド |
銅中毒 | 劣性 | COMMD1 | 10 | ベドリントン·テリア |
遺伝様式、遺伝子、その染色体位置(CFA)および、該当する突然変異の現れる犬種を表示した、分子遺伝学的に解明された犬の疾患。(つづき)
器官/疾病 | 選伝様式 | 遺伝子 | CFA | 犬種 |
ムコ多糖症 | ||||
タイプⅠ | 劣性 | FGFRL1 | 3 | プロット・ハウンド |
タイプⅡA | 劣性 | SGSH | 9 | ダックスフンド |
タイプⅢB | 劣性 | NAGLU | 9 | シッパーキー |
タイプⅥ | 劣性 | ARSB | 6 | ミニチュア・ピンシャー、ミニチュア·シュナウザー |
タイプⅦ | 劣性 | GUSB | 29 | ジャーマン·シェパード·ドッグの雑種 |
ピルビン酸脱水素酵素ホスファターゼ1欠乏症 | 劣性 | PDP1 | X | クランバー·スパニエル、サセックス・スパニエル |
泌尿生殖器系 | ||||
アルポート症候群(遺伝性腎炎) | X優性 | COL4A5 | X | サモエド、ナバソタ・ドッグ |
家族性若年性腎障害 | 劣性 | COL4A3、 COL4A4 | 25 | イングリッシュ·コッカー・スパニエル |
腎異形成 | 不完全優性 | マーカー | ボクサー、ケアーン·テリア、アイリッシュ・ソフトコーテッドウィートン·テリア、ラブラドール・レトリーバー、ラサ·アプソ、プードル、シー・ズー、ミニチュア・シュナウザー | |
腎嚢胞性腺癌および結節性皮膚線維症 | 劣性 | FLCN | 5 | ジャーマン・シェパード·ドッグ |
シスチン尿症タイプ1 | 劣性 | SLC3A1 | 10 | ラブラドール・レトリーバー、ランドシーア・ニューファンドランド |