【獣医師解説】犬の赤ちゃん・子犬の問題障害の発生、攻撃行動、縄張り攻撃

    犬の赤ちゃん・子犬の問題障害の発生、攻撃行動、縄張り攻撃

    犬に関する文献において、多くの場合、問題行動と行動障害とが明確には区別されていません。

    動物行動学上の見地からすると、行動障害とは、問題行動の一部分です。

    問題行動は犬という種にとっては普通の行動をも含みながら、飼い主にとっては望ましくない行動を指します(たとえば住居内での小便によるマーキングなど)。

    それに対して、行動障害の概念は、

    「形態、頻度、強度および自己形成・個体維持あるいは生殖にとって障害となるような、時間的・空間的秩序における、行動の自然な発現からの持続的逸脱」

    を意味しています。

    犬の問題行動と行動障害については文献に詳しい記述があるにもかかわらず、

    行動障害の発生についての研究は、今日まで驚くほどわずかしか行われていないです。

    そのため、ここでは、具体的な調査結果のある行動障害のみを扱います。詳細は主に以下の文献によります。

    Hart and Hart(1985). Mills and Lüscher (2006). Overall (1997), Serpell and Jagoe (1995)アルファベット順)。

     

    攻撃障害

    この文章は消さないでください。
    犬の攻撃行動は、文献で扱われる頻度の飛び抜けて多い問題行動の範疇です。

    さらに、犬に噛まれる事件は、常にメディアの注目を集め、世間を騒がせます。

    しかし、ここで忘れてならないのは、攻撃行動は、犬にとって自然な行動の一部であるということです。

    攻撃行動には以下のものがあります。

    • 防御性攻撃
    • 痛みによる攻撃(切迫した脅威や痛みの刺激による)
    • 縄張り性攻撃(見知らぬ侵入者に対する縄張り防衛との関連で生じる)
    • 序列あるいは地位にかかわる攻撃(社会的順位<階層組織>内での地位の防衛との関連で生じる)

     

    これらのすべての攻撃は、基本的には高度な順応性を持ちますが、

    人間やほかの動物との共同生活において問題を引き起こす場合があります

    そのほか、攻撃行動には分類されないですが、狩猟行動もこれに当てはまります。

     

    これと区別されるのは、行動障害という意味で真の攻撃障害と称される、自然な攻撃行動の障害です。

    自然な攻撃行動の障害は、多様に発現します。

    攻撃行動の頻度(および強度)に関する障害が存在するのは、

    • 攻撃的な行動を引き起こす刺激の閾値が全体的に低くなっている場合(噛みつきを制止できない)
    • 通常であれば刺激とはならないような刺激が攻撃行動を引き起こす場合

    などです。

    攻撃行動の形態に関する障害が存在するのは、犬が、

    • 先行するはずの威嚇(たとえば唸るなど)なしでいきなり噛みつく場合や、
    • 犬同士の交流において、種に相応しいやり方で服従の態度を示しても効果をなさないような場合

    です。

    攻撃害の原因もまた多様です。

    遺伝的原因、疾病、発育過程でのトラウマ体験や社会化の不足、さらには飼い主による誤った条件づけなども原因となります。

     

    縄張り性攻撃

    この文章は消さないでください。
    ペットとして飼われている犬の縄張り性攻撃は、飼い主の住居および家の直接的環境、あるいは飼い主自身に関係します。

    これに関しては犬種によって大きな相違がありますが、犬の場合(特に番犬種の場合)人工的淘汰によってむしろさらに強められてきました。

    しかし、個体発生の経過における縄張り性攻撃の発達はこれまでのところ、まだほとんど究明されていないです。

    侵入者に対する子犬たちの好戦的な攻撃行動は、1620週齢に初めて現れます。

    これは適応的なものといえます。

    なぜなら、この週齢の子犬たちは、より遠距離の探査を始めるようになり、見知らぬ、あるいは敵意を持った侵入者に出会う確率が高くなるからです。

    興味深いことに、この週齢は、一般に新しい不安を喚起する刺激に対する感受性が高くなる時期と重なっています。

    この感受性は、適応的な縄張り性攻撃の発達のためのひとつのメカニズムです。

    同時に、この感受性は、犬がなぜ新しい刺激や状況に対してより神経質に反応し、縄張りに関してもより攻撃的であるかを示しています。

    したがって、新しい刺激や状況に対する神経質さに通じる環境の影響(例えばトラウマをもたらすようなできごとや、
    一貫性のない処罰)が、同時に、縄張り性攻撃の障害の原因ともなります。

     

     

    序列あるいは地位にかかわる攻撃

    この文章は消さないでください。
    野生のイヌ科動物(狼など)は、群れの内部で、雄と雌に分かれた固定的な直線的序列を形成しています。

    最高位の雌を除けば、一般に雄が雌に対して支配的です。

    フィールドワークによれば、将来の地位はすでに48週齢で予見されています。

    将来高位となるものは「あつかましく」ふるまい、なじみのない状況においても悠然としています。

    もっとも、家畜化された犬の場合は、固定化された序列を形成する傾向が比較的弱いばかりではなく、

    なじみのない状況における行動と社会的地位との間の関係もあまり明確には現れません。

    地位にかかわる攻撃やその障害の発現への、初期の動物行動学的体験の影響はほとんど知られていないです。

    唯一、実証され、異論の余地がないのは、社会化欠如、特に、社会的交流の規則が習得されている場合、
    社会化期における社会化欠如が、
    社会行動(地位にかかわる攻撃を含む)において根本的障害をもたらしうるという事実のみです。

     

    不安と恐怖症

    この文章は消さないでください。
    不安と恐怖症は、飼い犬にもっともよくみられる行動障害に属します。

    恐怖症は精神障害に分類され、

    ICD10(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems. Revision 10)(疾病と健康関連問題に関する国際統計分類、第10版)によれば、

    「おもに、一義的に定義された、一般には危険でない状況や対象によって」引き起こされます(例えば雷雨や花火に対する恐怖など)

    それに対して、不安は必ずしも障害ではないです(たとえば敵意あるライバルに対する不安など)が、精神障害にまで発展する場合もある(たとえば全身的な不安症など)。

    反応はどちらの場合も似ており、それと結びついた不安や恐怖の度合いに左右されます。

    その強度が弱い場合、通常は活発な克服の試みが発現します(たとえば逃避行動防御性攻撃など)。

    それに対して、その強度が強い場合、行動全体が「ブロック」されます。

    すなわち、犬は「這って」隠れ、また、精神身体的症状(食欲不振、流涎、震え、嘔吐、下痢など)を生じる場合もあります。

     

    この文章は消さないでください。
    不安症や臆病は強い遺伝的基盤を持っているため、病的な不安や恐怖症の発現もまた遺伝子型に強く左右されます。

    ただし、不安症や臆病は、特にHPA系ストレス反応機序によるものについては、出生前および出生後早期の体験によって相当に緩和されます。

    とくに出生前後のストレスおよび、12週齢までの社会化欠如は、
    新しい刺激や状況に対するストレス感受性や不安症の度合いを高める場合があり、
    病的な不安や恐怖症が発生する前提を作り出します。

     

    社会化期は、最初の社会的結びつきが強固になるばかりでなく、環境中の生物および無生物との社会化や適応が行われるため、

    特定の対象と結びついた不安や恐怖症は、

    この感受性の高い時期に(のちになって重要になる)社会的刺激と無生物の刺激をなるべく豊富に与えることで、

    もっとも早期に回避することができる。

    恐怖症と全身的な不安症は、特に、犬が12週齢以降になってから初めて遭遇した刺激に対して向けられます。

    ほとんど克服不能な、人間に対する全身的な不安症の場合にもこれがあてはまります。

    このようなことは、社会化期の間に人間との接触がほとんど、あるいはまったくなかった犬に生じます。

    ただし、子犬は熱心に「慰められる」と、不安行動によって飼い主から余計に報酬を受けることになってしまい、

    意図に反して、不安行動が強化されてしまいます。

    不安行動は、このような誤った条件付けのほか、一貫性のない処罰によっても引き起こされます。

    これは、子犬にとって、予見できない、制御不能な嫌な体験となります。

    予見不能性と制御不能性は、ストレス形成のふたつの決定的な要素であり、
    慢性化すると、学習された無力感と臨床的抑うつの徴候をもたらす場合があります。

     

    常同症および強迫性障害

    異常反復行動abnormal repetitive behavior. ARB)は、攻撃障害、病的不安、恐怖症と並んで、

    犬におけるもっとも顕著な行動障害であり、特に、以下のものが含まれます。

    • 機関車様ARB(例:旋回する、尾を追いかけるなど)
    • 口腔ARB(例:前足を噛む、自分を舐める、横腹を吸う、多食症、多飲症、異食症など)。機能反復に起因するARBを含む。
    • 攻撃(例:自分自身に向けられる攻撃、餌入れあるいはほかの対象への攻撃。)
    • コミュニケーション(例:リズムをとって吠える、あるいは悲しげに鳴く。)
    • 「幻覚」と称されるARB(例:凝視する、びっくりする。)

     

    これらのARBの多くは、特定の犬種に多くみられ、遺伝的疾病素因が推測されます。

    たとえば

    • ドーベルマンの場合は「横腹を吸う」
    • イングリッシュ・ブル・テリア、スタッフォードシャー・ブル・テリアは頻繁に「旋回する」
    • ジャーマン・シェパード・ドッグは「尾を追いかけ」
    • ミニチュア・シュナウザーは「尻を調べ」
    • ボーダー・コリーは「影や光の反射を凝視する」

    特に大型犬種は「持続的に舐め続け」、皮膚炎(肉芽腫)になる場合もあります。

    ARBは、犬自身にも飼い主にも大きな苦悩をもたらし、さらには、治療の成果が上がらずに安楽死に至る場合も残念ながら少なくないです。

    行動医学の専門書では、ペットのARBは常同症または強迫性障害(強迫行為)に分類されていますが、

    人の精神医学の場合と異なり、この両者は区別されていません。

    人の精神医学の定義によれば、常同症は「特定の運動反応の異常な反復」であり、

    他方、強迫行為は「特定の行動目的の異常な反復」です。

    常同症が、行動経過(犬の場合には旋回や持続的に舐め続けることなど)の不変という特徴を持つ一方、

    強迫行為は目的指向であって、行動経過は多様です(異食症、糞食症など)

    人間の場合には、常同症は分裂病やそのほかの精神病、自閉症や発達障害のさまざまな形態と結びついています。

    強迫行為は、主に患者の強迫性障害 (強迫神経症、obsessive-compulsive spectrum disorder, OCD)に伴って現れますが、

    自閉症やトゥレット症候群(チック病の痙攣型で共同運動機能障害と反響語症がある)、

    抜毛癖(トリコチロマニー)などは精神病理的障害との関連で生じることもあります。

    しかし、常同症と強迫性障害は、中枢神経系(CNS)における異なった欠陥と結びついており、異なった因果過程を反映しています。

    それに応じて、常同症と強迫性障害には、それぞれ別の治療アプローチが必要です。

    それゆえ、常同症と強迫行為の区別が不十分であるために、ARBを示す犬の薬物治療がなかなか成功しなかったり、
    望ましくない副作用が生じたりする場合もあると考えられます。

     

    常同症は、主に、高度に動機づけられた行動様式が反復的に実行されるか、あるいは恒常的に阻害されるような条件のもとで生じます

    その際、常同症はこれらの行動上の欲求不満への動物の直接的な行動反応から発生します。

     

    ヒトとマウスについての疫学的な研究から、強迫性障害の発生は強い遺伝的基盤を持つことが知られています。

    しかし、さまざまな環境からの影響も追加的な危険因子となります。

    とりわけ、罹患しているヒトの女性およびマウスの雌については、個体発育の初期におけるトラウマ的な社会的体験や、

    思春期や妊娠に関係するホルモン的要因によってかなりの部分の説明がつきます。

    犬については、行動医学の専門書において常同症と強迫性障害の区別がなされていないため、
    残念ながら現在までのところ、これに類する研究は完全に欠落している。

     

     

    結論

    今日、数多くの犬種について自然な行動発達と起こりうる問題行動や行動障害の詳細な記述が存在するにもかかわらず、

    犬の発育に特有の問題や障害の具体的原因やメカニズムについては、驚くほど知られていないです。

    これは、ひとつには、実験用齧歯類に比べて、犬の研究はより多くの経費がかかるばかりでなく、

    倫理的にも問題があるとみなされているからです。

    他方では、おそらく、獣医行動学がこれまで、原因の究明よりも、治療の試みの有効性確認により力をいれてきたからです。

    しかし行動障害の予防のみでなく、効果的な行動療法も、原因についての正確な知識が前提となる以上、

    犬における問題行動と行動障害の発達の危険因子およびメカニズムについての適切な疫学的・実験的研究が望まれるところです。

    しかし、遺伝的素因も個体発育の初期における環境条件も、犬の行動発達に大きな影響を与えるため、
    正常な行動発達への最大の責任が飼育者および所有者の手に委ねられているのは明らかです。

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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