犬の赤ちゃん、子犬の分娩・出産の準備、育て方・出産前の母犬の飼い方
子犬の飼育
責任をもって子犬を飼育するために、飼育者が応えるべき要求は多いです。
生後最初の数週間に犬の将来の行動の基礎が作られるからです。
子犬の発育は4つの時期に区分されます。
- 新生子期
- 過渡期
- 社会化期
- 若年期
です。
これら行動発達4つの時期には
- 生物体としての自己
- 同類とのコミュニケーション
- 環境刺激との付き合い
などについての重要な情報が学び取られます。
飼育条件は、その時点の発育段階における生理的需要に適合していなくてはなりません。
そのほか、法的条件にも注意する必要があります。
新生子期
子犬はこの時期、母犬と緊密な関係にあります。
子犬は定まった場所から出ることはないです。
重要なのは適切な環境温度の維持と子犬の居場所の衛生状態の管理です。
ストレスと欲求不満の経験を含む、犬特有の行動様式の発達を妨げないよう、子犬には小さな不快はがまんさせ、すぐには手助けしないようにします。
子犬は、乳頭にたどりつき、同腹の兄弟姉妹から乳頭を守るために努力しなければなりません。
押しのけられ、満足するまで飲めない時、子犬はこの時期にもう、欲求不満に耐えることを学びます。
それゆえ飼育者の介入は必要ないです。
それどころか、介入してしまうと子犬の正常な行動発達が阻害されかねません。
例外は、日々の体重管理で突出し、繰り返し乳頭から押しのけられてしまう、低体重の小さな子犬の場合です。
さらに、母犬による子犬の世話行動も観察します。
子犬たちはまだ自分で排尿・排便ができないため、母犬によって舐めてもらうことが、どうしても必要です。
子犬の腹部がパンパンに張っていたり、落ち着きがなかったりする場合は、飼育者が湿った布による追加刺激を与えねばいけません。
- 子犬の定期的観察に加えて、毎日お産箱を清掃します。
- 環境温度は少なくとも1日に2回チェックし、調節します。
- 母犬の定期的検査も当然必要です。
- 特に、体温、体重、乳房、および膣分泌物の量と質を把握します。
- 子犬は毎日体重を計り、脱水がないかどうかチェックします。
過渡期
子犬たちは環境に反応し始めます。
行動サイクルが変わり、睡眠期が短くなり、子犬同士の相互交流が目立つようになります。
母犬と子犬たちとの関係にもはっきりと変化が現れます。
ただし、まだこの時期には視覚刺激や聴覚刺激を完全に処理することはできません。
この過程は4週齢の初めまで続きます。
すでにこの時期に、排泄場所についての好みが最初の発達を迎え、後にこれが優先的になります。
将来、土や木の葉、草などの上で排尿や排泄を行うことに備えるため、土、葉、草をお産箱内に用意し始める必要があります。
社会化期・若年期
運動能力がしだいに向上し、同腹の兄弟姉妹たちとの交流が頻繁にみられるようになります。
環境からの刺激に対する反応がますます明確になり、好奇心も旺盛になり、探査行動が最大となります。
子犬たちはこの時期にほかの生き物との交流のための基本的な規則を学び、環境からの刺激に慣れます。
子犬がこの時期に多くの環境刺激に出会えば出会うほど、生活条件の変化に慣れることのできる成犬になります。
子犬たちは、運動能力を社会的連繋に組み込むことを学ばなければいけません。
そのため、4週齢の子犬は、唇を持ち上げたり、うなったりできるようになります。
しかし、子犬は、自分の身体言語を状況にふさわしいやり方で用いること、そして相手の発するこれらのサインを正しく解釈することを学びます。
同類とコミュニケーションをとる能力が欠けている子犬は、成犬になっても正しく行動し、反応する能力を持つようになりません。
そして、同類によるサインの意味のほかに、環境に関する情報も収集されます。
6週齢までに、子犬たちは不安の感情なしに行動するようになります。
子犬はあらゆる新しいものへ、無邪気に好奇心をもって向かってゆきます。
この時期は、子犬がその後の生活で出会うであろう、なるべく多くのさまざまな対象や生物、状況と接触させなければなりません。
こういった理由から、子犬にとって相対するのが
- 小さな子ども
- 大人
- 杖をついた老婦人
- 賑やかなティーンエイジャーなのか
は大きな違いとなります。
これは、なるべく早期に子犬をあらゆる年齢層の人間、さまざまな犬種、ことなった環境状況や物音に親しませることを意味します。
これに対応した環境形成のため、「のちの生活のためのレール」を敷きます。
子犬の引渡しは通常8~12週齢で行われるので、社会化は主に飼育者の仕事です。
社会科期において飼育者が注意すべき重要なポイント
飼育者によって実施されるべきこと | 犬の将来の生活のために習得させること |
同類との接触 | 社会的コミュニケーションの習得 |
あらゆる年齢層の人間との接触 | 社会的パートナーとしてのヒトと不安やストレスを伴わないで知り合うこと |
「子犬にとって安全な」玩具の提供 | 物を巡る遊戯的な争い |
人間および同類との遊び | 噛みつきの抑止の習得 |
同腹子の一斉給餌 | 欲求不満の習得 |
ほかの動物種との接触 | 早期に多様な動物種と接触することで、それらの動物との平和的共存が可能になる |
外界との接触 | さまざまな物音、床や地面、水、日常的状況を知っておくことで、将来の生活へのストレスのない適応が可能になる |
ドライブ、小規模の遠出、首輪と引き綱の装着など | 将来、日常的に遭遇する状況を、不安とストレスを伴わずに経験し、これを知ることができるようになる |
4週齢で子犬の運動欲求は飛躍的に高まります。
お産箱だけでは足りなくなるので、子犬には運動場が必要になります。
それには、お産箱の置いてある部屋を利用し、自由に出かけたりお産箱から出たりできるようにするのもよいです。
この時期の子犬は、自分のお産箱を排泄物で汚さないよう試みるようになります。
この理由から、運動場では排泄場所を確保しておくべきです。
理想的には、将来的に排尿・排便が可能な地面(草、木の葉、土)を使用できるとよいです。
- 子犬はいつでも自由に新鮮な水が飲めるようにしておきます。
- 子犬たちの給餌は一斉に行われるべきです。
その際、すべての子犬が十分に餌を摂取できるよう注意します。
繰り返し押しのけられてしまう子犬は、十分な食餌が摂取できるように、必ず隔離して給餌します。
ただし、ささやかな小競り合いや、ときおり餌場から短時間排除される程度のことは、そのままにしておいてよいです。
ここでは餌を巡る争いも、重要な学習過程です。
子犬たちは、目覚めた状態でいることがより多くなり、この時期に非常にたくさん遊びます。
この遊びは、経験のない飼育者にとってはしばしばたいへん乱暴なものにみえますが、この遊びは社会行動の習得に役立ちます。
子犬は自分の力や、身体言語、それらが招く結果を学びます。
兄弟姉妹との遊びのほかに、子犬たちは玩具や環境中の諸対象でも遊べるようにします。
ここでも、所有関係を巡る争いが生じますが、これも重要な学習成果をもたらします。
獲得と喪失には慣れておく必要があります。
玩具は、壊れて破片を飲み込んだり、角で傷ついたりしないよう、子犬の安全を考えて選択します。
ほかの成犬との接触もまた同様に社会的コミュニケーションの習得に欠かせません。
ただし、子犬たちと接触させるのは、社会的行動が安定していて、適切な反応ができる成犬です。
成犬との接触の際は、厳しい監視の下で行います。
なぜなら、この場合は、これまで繰り返し述べてきた子犬の保護が存在しないからです。
雌犬は、自分以外の雌犬の子孫を保護する欲求はなく、自分の子犬たちにしか関心がないです。
例外は、固定的な群の内部の子犬です。
見知らぬ犬同士や、血縁関係にない犬同士の間では、子犬は唸られたり、噛みつかれたりするのが普通です。
よく社会化された子犬はそれに応じた屈従の仕草で応え、傷つけられることなくその状況を脱するはずです。
5週齢からは、子犬は、天候にかかわらず、外界を知る機会を与えられるべきです。
それには屋外の運動場の使用が適切です。
この屋外の囲い地は、負傷や脱走をしないよう、また、誤って異物を飲み込まないよう、定期的に管理することが重要です。
6週齢からは、
- 小規模の遠出やドライブ
- 首輪や引き綱の慎重な装着
- さまざまな物音
- 他種の動物
- 状況の異なる地面
など小さなチャレンジを加えていくことができます。
この時期に子犬が遊びを通じてストレスなく学んだことは、決して、のちの生活で問題を引き起こすことはありません。
しばしば感染の懸念から、見知らぬ人間や外界、あるいは同類達との接触を、子犬の免疫の完成まで禁じられますが、
特に、接触する犬がきちんと予防接種を受けているかどうかに気をつけておけば、接触で感染が起こることは比較的まれです。
妊娠後期の母体の飼育
妊娠期前半の母犬の運動は、妊娠前の時期に慣れていた運動に対応していなければなりません。
妊娠初期からの完全な安静は、体質と体調を悪化させ、分娩経過に悪影響を及ぼします。
- 高度の競技スポーツを行っていた雌犬に限って、この時期には休ませます。
- 負傷や過大な負荷の危険性があるからです。
- ただし、この場合も、十分な運動と活動は保証します。
妊娠期最後の2週間は、散歩の速度と長さは母犬の意欲に合わせます。
適正範囲内の軽い運動は妊娠最終日まで行います。
犬同士の接触は特に注意します。
争いや噛みつき合いは負傷をもたらしますが、妊娠中は、胎子の薬剤感受性のためにしばしば治療が難しくなります。
最悪の場合、そのような状況では流産もありえます。
この理由から、争いがあらかじめ生じないようにするために、同類との接触は厳しく制限します。
同居している別の犬も、監視なしで一緒にしてはいけません。
妊娠によって、既存の社会的関係が変化し、序列を巡る争いが生じるからです。
また、初乳には、これまでに母犬が経験した抗原に対する抗体しか存在しないので、妊娠期最後の3週間は、場所の移動(転居や海外滞在)を控えます。
子犬の部屋とお産箱
子犬たちの場所の選択には、これを考慮しなければいけません。
さもないと母犬はあてがわれた場所を受け入れないです。
場所を決める際は、分娩のみでなく、その後の子犬の飼育も同じ場所で行えるようにすることが重要です。
分娩後4週以内に子犬と母犬を移動させると、多少の間題が生じることがあります。
母犬が子犬をもとの場所に戻そうとして落ち着かなくなったり、病原菌叢の変化によって子犬に感染が生じる可能性があります。
子犬の居場所は飼い主の目が届き、飼い主に音が聞こえる距離に設置します。
したがって、家屋内のひとつの部屋を割り当てるのがよいです。
分娩の監視と生後1日目の子犬たちの管理のために、子犬のいる部屋で飼育者が眠れるようにしておくことが重要です。
床は簡単に清掃できるリノリウムやタイルのような素材がよいです。
カーペット張りは適しません。
子犬部屋は暖房がよく効き、換気ができ、日当たりがよくなければなりません。
子犬の分娩と生後3週間の飼育には、お産箱の使用が役立ちます。
- お産箱は、分娩予定日の1~2週間前には設置します。
- それにより母犬がこの場所に慣れることができます。
- お産箱は、その場所で給餌したり、一緒に遊んでやったりすることでよりスムーズに受け入れるようになります。
- お産箱に十分に慣らしておかないと、母犬が分娩中に馴染みの場所へ移動しようとし、分娩進行の遅延につながる可能性があります。
- さまざまなタイプのお産箱が市販されています。
それに加えて、専門書では、手作りのものや、戸棚や引き出しで代用するアイデアなどが紹介されています。
- 最初の数日間は、清掃の簡単な子供用の水遊びプールの使用も有意義です。
- ただし、遅くとも2週齢目には子犬たちの「脱走の試み」が始まることが予想されるので、長期使用には適さないです。
お産箱は、母犬が体を伸ばして横たわることができ、子犬たちが無理なく乳頭に近づけるような大きさのものを選びます。
母犬が自分で出入りすることができるように、箱の壁の高さはおおよそ母犬の肩の高さに対応したものにします。
壁は母犬がジャンプしなくても乗り越えられる高さにしなくてはなりません。
さもないと、跳び込んだ際に子犬を傷つけてしまう危険が生じます。
そのため、お産箱の側壁の高さが調整できるように作られているものもあります。
負傷を避けるため、お産箱のなかにはとがった角やでっぱりがあってはいけません。
子犬の安全のために、お産箱の中には防護枠を設置するとよいです。
これによって、母犬が誤って子犬を自分とお産箱の壁の間におしつけてしまうことを防ぐことができます。
この撥水性の床面の上に吸水性のよい布や敷物(たとえば市販のペットシーツのようなものなど)を敷き、これを毎日数回交換します。
わら、おがくず、新聞紙その他これに類するものは、呼吸器および目に刺激を与える可能性があるので、使用しない。
子犬の飼育のために、子犬の部屋およびお産箱の中では、十分に暖かい環境温度を保持しなければなりません。
そのために
- 温熱クッション
- 防寒クッション
- ゴム製湯たんぽ
- 暖房用電灯
などの熱源をお産箱に設置します。
暖房用電灯による一点暖房は、しばしば母犬にとって不快なものとなり、お産箱を出て行ってしまうことがあります。
床面からの暖房は通常よく許容されるので、温熱クッションおよび温熱マットを使用したほうがよいです。
生後最初の7日間は子犬たちの体温調節能力が乏しいので、環境温度はなるべく30~32℃になるようにします。
その後は温度を少しずつ下げ、第3週までに20~22℃にします。
環境温度の判断の際は、追加の熱源として母犬の存在を考慮する必要があります。
温度計を子犬たちの間に置いて測定するとよいです。
温度が高すぎると急速に乾燥が進みます。
環境温度が高くなりすぎても、子犬は子犬箱から出て行けないということを、常に念頭におかねばなりません。
環境温度評価のための便利な指標は、子犬自身です。
- 子犬たちが熱源から離れた場所にいるようなら、温度は高すぎます。
- すべての子犬が身を寄せ合って熱源との接触を求めているようであれば、温度は低すぎます。
分娩の準備
緊急の際、夜間や週末でも担当獣医師と連絡が取れるようにしておくことは重要です。
それに加えて、下記に挙げた用具を準備し、お産箱のそばに備えておきます。
分娩直前の数日間は、どのような場合でも、母犬の監視は夜間も必ずします。
分娩開始の徴候は、他で解説します。
分娩の介助に必要な用具
用具 | 用途 |
乾いた、清潔な布 | 分娩後の子犬を拭いて乾かす。 |
体重計 | 生時体重を測定する。 |
熱源 | 分娩中に子犬を暖かく保つ。直接的な環境温度は30~32℃にする。 |
使い捨て手袋、または手指の消毒薬、潤滑剤 | 必要が生じた場合、衛生上の要求に注意しつつ、分娩の補助を行う。 |
爪切り、はさみ | 臍帯の分離。ただし、慎重に手の指の爪で切り取ったほうがよい。 |
臍紺子、糸巻き | 臍からの出血の際に血管を縛る。 |
ヨード液 | 臍の消毒。 |
呼吸刺激剤(Respirot-Tropfenまたはドキサプラム液など) | 子犬の呼吸を刺激するため。 |
適合する使い捨てカテーテルおよびプラスチック装着カテーテルをつけたインスリン注射器 | 薬剤や水分の投与のため、また、プラスチック装着力テーテルを用いて、鼻腔および口腔内の粘液の吸い出しに使う。 |
子犬用人工乳、哺乳瓶と乳首 | 場合によっては子犬に給餌する。 |
温かい5%グルコース液、温かい完全電解質液 | 水分およびエネルギー補給が必要になった場合に使用する。 |
紙とペン | 分娩の記録。 |
目印をつけるための用具(ラッカー、首輪、粘着テープ、フェルトペン) | 子犬に印をつける。 |