【獣医師解説】犬の肥満細胞腫の新しい治療法:注射薬Stelfonta(チギラノールチグラート)とは何?

    犬の肥満細胞腫は、多様な悪性度を伴って皮膚または皮下で増殖する特徴を有しており、

    仮に四肢などマージンを取りにくい場所に発生してしまうと、完全に外科的切除が困難となると言われている腫瘍性疾患です。

    そのため、腫瘍細胞を殲滅する、外科手術以外の(あるいは外科手術と併用できる)選択肢を用意することが獣医学の課題となっています。

    このような背景の中、2020年11月、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)は、犬の肥満細胞腫を治療する注射薬として、チギラノールチグラート(Stelfonta)を承認したことを発表しました。

    なお、同薬剤は、腫瘍内に直接注入することによって組織全体に分布している、あるタンパク質を活性化し、腫瘍細胞を攻撃するとのことです。

    チジラノールチグレートまたはチギラノールチグラート(米国一般名/国際一般名: Tigilanol tiglate)は、非転移性、皮膚、肥満細胞腫(MCT)のイヌの治療のために使われる医薬品です。

    商品名はStelfonta。

    アメリカ食品医薬品局(FDA)はイヌ、特にイヌの脚の特定の位置の皮下に位置する非転移性MCTの治療についてもチジラノールチグレートを承認しました。

    本薬剤はMCTに直接注入されます(腫瘍内投与)。

    FDAによると、完全寛解率は75%。

    1~2クールで多くの症例が良好な経過を辿るということです。

    tigilanol tiglateを用いた肥満細胞腫の局所療法についての報告です。

    この薬はオーストラリアの会社により、植物から抽出された化学物質をもとに開発された抗腫瘍薬であり、プロテインキナーゼCを制御すると考えられています。

    肥満細胞腫をはじめ固形腫瘍に直接注入する薬剤であり、今回取り上げた論文によるとかなり高い治療効果が得られるようです。

    肥満細胞腫は外科的切除が基本ですが、四肢など場所によっては外科的切除が難しいことも多いです。

    外科的切除不能な場合には低グレードの肥満細胞腫でも、放射線や抗癌剤により腫瘍のコントロールが行われますが、もしこの薬が本当に効果があるのであれば、そういった症例の治療がかなり楽になります。

    肥満細胞腫は脱顆粒などによる局所治療後の反応が心配ですが、使い方によっては非常に有効な治療法となる可能性があります。

    今後のさらなる研究に期待しています。

    イヌ肥満細胞腫の局所治療における治験抗腫瘍薬Tigilanol Tiglate(EBC-46)の投与量の評価 Dose Characterization of the Investigational Anticancer Drug Tigilanol Tiglate (EBC-46) in the Local Treatment of Canine Mast Cell Tumors

    肥満細胞腫(MCT)は犬において最も頻繁に発生する皮膚腫瘍であり、広いマージンを伴う外科的切除が現在治療の第一選択肢である。

    しかし、局所再発率は比較的高く、複数の専門医による高価な治療を要することもある。

    Tigilanol tiglateは腫瘍内局所注入を目的とした新規の小分子薬であり、MCTに対する新たな治療オプションとなることを目標に、現在開発の最中にある。

    この研究の目標はtigilanol tiglateの肥満細胞腫に対する安全な用量と効果、さらに薬物動態に関する予備データを調べることにある。

    肥満細胞腫と診断された犬でステージ1および2a、腫瘍サイズが0.1-6.0 cm3の症例が治験対象となった。

    薬の投与量は腫瘍サイズに基づき(腫瘍サイズの体積の半量)、

    薬剤の濃度は3通り(1.0, 0.5, 0.2 mg/mL)検討された。

    27例の症例により3通りの用量漸減試験が行われた(それぞれ10、10、および7 例)。

    治療効果は薬剤投与21日後に国際的に認知されている固形腫瘍評価基準であるRECISTにより評価した。

    高用量群(1.0 mg/mL)で最も反応率が高く(90%で完全寛解)、副作用は一般的に低グレードでマイルドなもの、なおかつ一時的であり、薬の作用機序による直接の副作用であった。

    血液学的および血液生化学検査はおおむね異常はなく、tigilanol tiglateは非静脈非経口投与の薬剤にみられる典型的なカーブであった。

    肥満細胞腫に対するの血清濃度Tigilanol tiglate 1.0 mg/mLの局所投与は非常に効果が高く、耐容性も高かった。

    今回の研究は肥満細胞腫や他の固形腫瘍に対するこの薬のさらなる開発を支持するものである。

     

    施術した箇所は1週間ほどで腫瘍が壊死し、かなり大きな皮膚欠損が生じましたが、壊死組織が脱落した後は疼痛もなく、症例は元気に過ごしています。

    皮膚の損傷レベルとしては、根治的放射線治療の急性皮膚障害に似ています。

    Stelfontaは、外科的切除可能な肥満細胞腫に対しては、従来の治療法に取って変わるものではありませんが、外科的切除が難しい症例や多発性肥満細胞腫症例に対しては、放射線にかわる局所治療法となるかもしれません。

    ただ、治療を行う前に、治療部位に大きな皮膚欠損を生じ、皮膚脱落直前にはかなりの浮腫と疼痛を伴うことを飼い主が理解している必要があります。

    Tigilanol Tiglateの腫瘍内注入を行なった肥満細胞腫の治療12ヶ月後における無再発生存率 J Vet Intern Med.  Recurrence-free interval 12 months after local treatment of mast cell tumors in dogs using intratumoral injection of tigilanol tiglate 

    背景:Tigilanol tiglate(TT)は欧州医薬品庁により、犬の肥満細胞腫(MCT)に対する局所治療として承認された新しい小分子薬である。TT注入を一回行なった116例中85例が治療後28日までに完全寛解を示した。

    目的:上記の治験でTT投与を行い治療28日後に寛解に至った症例において、6ヶ月および12ヶ月後の腫瘍再発の有無を評価することにより、効果持続期間を検討することにある。

    症例:TTの治療を行った症例85例。

    方法:TT投与28日後に完全寛解に至った症例の、治療箇所におけるMCT再発の有無を病院での再診記録および飼い主との電話インタビューを用い、回顧的に調査を行なった。規定の調査時期に飼い主と連絡が取れなかった場合には、追跡不能患者とみなし、最後に症例の評価を行なったときのデータを最終分析に用いた。

    結果:TT投与12ヶ月後において、64例が追跡可能、21例が追跡不能であった。

    追跡可能だった症例のうち、57例(89%)がtumor freeであり、7例(11%)で再発が認められた。全ての再発症例で6ヶ月内に再発が認められ、多く(5/7、71%)で治療後12週以内に再発が認められた。

    結論と臨床意義:Tigilanol tiglateはMCTの犬に対し、長期的に局所腫瘍抑制効果を示した。

     

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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