乳腺腫瘍にモーズ軟膏が効くと聞いたことがある・・・
モーズ軟膏は犬の乳がんに使えるの・・・?犬の乳腺腫瘍に外科手術以外の治療方法はないの?
本記事では、犬の乳がんにも使用できるモーズ軟膏の注意点、使用方法についてお話しします。
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結論から言うと、モーズ軟膏は、自宅でも作成し塗布できますが、あくまでも手術が基本的な治療で、モーズ軟膏による治療の位置付けは重要です。
この記事は、犬の乳がんにも使用できるモーズ軟膏の注意点、使用方法が気になる飼い主向けです。
この記事を読めば、犬の乳がんにも使用できるモーズ軟膏の注意点、使用方法がわかります。
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この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、 論文発表や学会での表彰経験もあります。
今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。
臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!
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✔︎本記事の内容
犬の乳がんへのモーズ軟膏の使用方法、作り方、注意点【論文掲載】
この記事の目次
1、モーズ軟膏の背景
1)モーズ軟膏とは
モーズ軟膏は、塩化亜鉛を主成分とした組織を固定するペーストで,1930年代にFrederic E. Mohsによって開発されました(Phelan 1968; Mohs 1941, Brook 2010; Trost & Bailin 2011)。
主に表在性の悪性腫瘍、すなわち皮膚がんをはじめ、皮膚へ広がった、もしくは転移してきた悪性腫瘍が治療の対象となります。
モーズ軟膏は、腫瘍組織を固定し、必要最小限の侵襲で腫瘍を取り去ることを目的としています。
Mohsは「化学的な方法で腫瘍の切除を行う」という意味で「Chemical Surgery」を提唱しました。
2)モーズ軟膏の開発の経緯
Mohsが1941年に発表した論文によると、
組織を固定するために濃度40%の塩化亜鉛が有効との動物実験の結果をもとに、
足の壊疽の治療において使った結果、良好に創部が管理できたことが開発のきっかけです。
3)モーズ軟膏の作用メカニズム
モーズ軟膏の作用メカニズムは、皮膚の患部から滲み出てくる液体(リンパ液など)と酸化亜鉛との化学反応で、亜鉛イオンが生成されます。
この亜鉛イオンには患部のタンパク質を変性・凝集させる作用があります。
この結果,手術や抗がん剤といった全身への侵襲をほとんどともなうことなく、腫瘍細胞、腫瘍が作り出した血管、感染した細菌の細胞膜などを硬化させます。
その結果、腫瘍組織の死滅、患部の止血、患部からの滲出液のコントロール、殺菌効果による悪臭の軽減などの効果が出ると考えられています。
また、このタンパク質の凝集効果により、皮膚がんが遠隔転移するリスクも下げるとの研究報告もされています。(Mohs & Guyer 1941; Kalish et al. 1998; Brook 2010)
このモーズ軟膏は安価に作成でき、かつ治療効果がとても高いため、患者のQOLの向上に貢献しています。
4)モーズ軟膏の欠点
モーズ軟膏は調製に2時間程度かかり、調整する人への暴露を防止するためクリーンベンチ、安全キャビネットでの調剤作業が求められます。
また調整した後に急激に硬度が変化し、時間が経つにつれて粘着性が変化します。
また滲出液や血液を吸収すると液状化する、という扱いに工夫が必要な面があります。
このことから、調整した後は長期間の保存ができません。
できるだけ使用する直前に調剤します。
コスト面では、140gの軟膏を調剤するとおよそ800円程度がかかります。
また塩化亜鉛が試薬ですので、患者に請求する上で判断が必要です。
5)人でのモーズ軟膏の使用方法について
(1) 周囲皮膚の保護について
モーズ軟膏を塗布する際、患部周囲の健常な皮膚にモーズ軟膏が付着すると、タンパク質の凝固作用で健常な皮膚にまでダメージを与えます。
これを予防するため、
- モーズ軟膏を塗布する前にワセリンを塗ったり、
- デュオアクティブなどのドレッシング材を貼付して保護すること、
- そしてモーズ軟膏を塗る時は周囲に飛び散らないようゆっくりとていねいに塗る、
といった細心の注意が必要です。
(2) 塗布方法について
モーズ軟膏は1~3mm程度の厚さになるよう、患部表面に均一に塗布します。
塗布した後は患部をガーゼで保護します。
使い勝手がいいように、
- モーズ軟膏を最初から短冊状のガーゼに染み込ませて、患部にパッチ状に貼付する方法
- 丸めたさばきガーゼに直接モーズ軟膏をつけ、ガーゼごと患部にはりつける方法
の有用性も報告されています(中西敏博2011、清水篤2017)。
(3) 塗布期間について
モーズ軟膏は、塗布してから外すまでの時間によって、奥までしみこむ程度(組織深達度)が異なります。
まずは使用する患部の部位(広さ、塗りやすさ)と状態(病変は外に向かって出ている腫瘤か、体の内側に入り込むような潰瘍を形成しているか、など)を把握します。
モーズ軟膏の粘性と接着性、必要な量を考慮して配合する薬剤の分量を調整して調剤し、症例によって固定時間を調整します。
固定終了後は固定された組織を切除し、生理食塩水で創部を洗浄します。最後はガーゼで患部を保護します。
(4) 人での使用報告
中西らはモーズ軟膏を染み込ませたガーゼを置いて6日目には腫瘍の90%が固定され、固定組織を除去してさらにその深部に新たに生じた腫瘍にモーズ軟膏ガーゼを貼付し、9日目と14日目にガーゼを交換している(中西敏博2011)。
米田らは自施設での使用例をまとめており、乳がん、顎下腺がんではモーズ軟膏をガーゼで固定して3−4日、乳がんや喉頭がんではモーズ軟膏をラップで30-60分間程度固定しています。
2、モーズ軟膏の正しい適応
最初に述べましたが、モーズ軟膏の治療の対象は、皮膚表面に発生した悪性腫瘍です。
そのため、まず切除が可能であれば、手術療法の可能性を検討します。
たとえば
- 体力低下などで全身状態が低下している
- 心機能や呼吸機能が低下しているため全身麻酔がかけられない場合
- 他の部位からのがんが皮膚に転移したもので、すでにがん細胞が全身に転移している場合
- 全身状態の悪化から抗腫瘍薬が使えない場合
などは手術ができません。
また放射線療法や化学療法なども厳しい場合は、がんによる疼痛も出てきます。
この腫瘍による痛みなどの緩和を目的として、モーズ軟膏の使用を考えます。
特に、皮膚の悪性腫瘍が悪臭を放ったり、患部からの滲出液が多い、時々出血が見られるようになった、などの所見は、モーズ軟膏の良い適用症例です。
3、モーズ軟膏の成分
モーズ軟膏の主成分は塩化亜鉛です。
Mohsが1941年に発表したオリジナルは、飽和塩化亜鉛溶液34.5mlに、粘度を調整するためにスティブナイト(アンチモン鉱石の粉砕)40gとサンギナリアという植物の根の粉末10gを加えたものです。
しかしこのスティブナイトとサンギナリアは日本ではそう簡単に手に入りません。
粘度を調整するためにグリセリンに差し替えたり、その量を変えて粘度を調整したり、
保存性を考慮してデンプンを追加するなど、今までに改良されたモーズ軟膏がいくつか報告されています。
4、モーズ軟膏の作り方(調整方法)
モーズ軟膏を調整するにあたって用意する薬剤は、
- 塩化亜鉛100g(シグマ アルドリッチジャパン株式会社など)
- 酸化亜鉛デンプン粉末50g(丸石製薬株式会社など)もしくは局方亜鉛華デンプン
- グリセリン5ml(日医工製薬など)
- そして蒸留水50ml
です。
まず,塩化亜鉛と蒸留水をビーカーに入れ,よくかき混ぜます。
この時、化学反応により発熱しますが、そのまま室温まで自然冷却させます。
次に、酸化亜鉛デンプン粉末もしくは局方亜鉛華デンプンを少しずつ溶かします。
この操作で軟膏は硬くなりますので、柔らかくするため最後にグリセリンを加えますが、
粘度を調整して少し柔らかく扱いやすいよう、グリセリンを増量することもあります。
たとえば、短冊状のガーゼに絡ませて患部に貼付する場合は、グリセリンを5mlから30mlに増量することで、
ガーゼに染み込ませる操作がしやすくなります。
グリセリンを増量することでの酸化亜鉛の効果が変わるかどうかについては、まだ明らかになっていませんが、
明らかに効果が落ちるという報告はありません。
5、モーズ軟膏の使用方法について
まず,動物が動いたり、暴れたりしてモーズ軟膏をこぼしたり、周囲に置いた器具の配置を乱さないよう、必要性に応じて処置に先立って鎮静剤を投与します。そして処置がしやすいよう、患部が上向きになるような姿勢を維持させます。次に、モーズ軟膏が健常な皮膚に接触しないよう保護するため,患部周囲の健常皮膚にはワセリンを塗布します。
患部の表面にはモーズ軟膏を1~3mmの厚さになるよう、均一に塗布します。
塗布した後は患部をガーゼで保護します。動物がモーズ軟膏を舐めないよう、必要に応じて首にエリザベスカラーをつけることも1案です。
動物の場合は、モーズ軟膏塗布から除去するまでの時間について10分〜3時間の幅で報告されていますが、
これは腫瘍の大きさと深さ、患部が上向きになるような姿勢の維持にどれだけの時間を耐えられるか、
などを考慮した結果と思われます。
平均するとおよそ1時間経過後にモーズ軟膏を除去することが多いようです。
固定された組織を切除し、最後に生理食塩水で患部を洗浄してガーゼで保護して終了となります。
壊死した腫瘍組織は硬化して脱落します。
新たに転移巣(潰瘍)が出てきた場合は治療の継続が必要です。
開放性の悪性腫瘍の治療では、モーズ軟膏を週に1~2回塗布します。
モーズ軟膏は粘調度が高く、接着性もあるため,部位によっては患部に塗りにくいことが指摘されています。
動物においても同じで、塗りにくい場所への塗布方法の検討がいくつか検討されています。
先ほどの短冊状のガーゼで貼付することも1つの方法です。
6、使用例・頻度(犬猫への適応の論文を用いて)
モーズ軟膏を動物に応用した症例について、学会報告は散見されますが、論文になったものはあまりありません。
以下に報告例を示します。
(1)ミニチュアダックスフンドの自壊した乳腺腫瘍(清水 篤)
8歳齢のミニチュアダックスフンドの左側下腹部に、手拳大の乳腺腫瘍があり、肺転移も認めました。
腫瘍が自壊したため受診となりました。出血と多量の浸出液を認め,強い悪臭を放っていました。
腫瘍周囲に十分ワセリンを塗布した後,腫瘍境界部を生理用ナプキンで被った後、腫瘍部にモーズ軟膏ガーゼを貼り付けました。
2日後に確認した際、滲出液が多く、ガーゼと腫瘍は癒着せずに外せました。
流水で患部を洗浄後, 固定された腫瘍組織はメスと剪刀で切除し、モーズ軟膏ガーゼを再度貼付しました。
ペットシーツで腫瘍およびモーズ軟膏ガーゼを被い、伸縮テープで固定しました。これを2日おきに交換しました。
2週間で悪臭と浸出液はかなり減少し、腫瘍の基部に近い9割以上の腫瘍を疼痛もなく切除できました。
当初は周囲皮膚にもモーズ軟膏が漏れ出して潰瘍を形成しましたが、2週間後には上皮化していました。
(2) 黒川大介らの6例の報告より
処置は1回につきモーズ軟膏を10分接触させました。
経過良好例では、約1か月で腫瘤は縮小し、その後はワセリンにより上皮化させていました。
経過不良例として、滲出液によりモーズ軟膏がうまく塗布できない例がありました。また患部の周囲に浮腫を起こした例では、モーズ軟膏による収れん作用により静脈にダメージを与え、患部より末梢に浮腫を引き起こした可能性が考えられました。
17歳の雑種犬。直径2cm程の肛門周囲の腫瘤が自壊。固定した部分が痂皮となって脱落し出血するたびにモーズ軟膏による処置を計5回繰り返し、3週間で腫瘤は消失した。その後はワセリンで湿潤療法に切り替え、その後1週間で上皮化が完了した。
17歳の雑種犬。右側前肢橈骨部の直径2cmの腫瘤が自壊。モーズ軟膏によって腫瘤は徐々に縮小。治療開始1か月後にワセリン塗布による上皮化に移行し、約2か月で治療終了となりました。
13歳のトイプードル。直径5cmの乳腺部腫瘤が自壊し、出血を認めた。計2回の処置により止血し、約1か月で腫瘤の摘出手術を行いました。
11歳の雑種犬。左耳の垂直耳道内の腫瘤が強い悪臭を放っていた。耳道内を洗浄後,腫瘤に綿棒でモーズ軟膏を塗布した。処置により滲出液は減少したものの、悪臭は消えませんでした。
14歳のシーズー。右耳介に強い悪臭を放ついぼ状腫瘤が複数ありました。第1か月半の間に計3回の処置で腫瘤は消失しました。
17 歳の雑種猫。右側前肢第1指基部の腫瘤から滲出液が多く、ペーストがうまく付着せず,第10 病日には患部より遠位の肢端は壊死しており,硬結して冷たくなっていた.その後壊死部位は近位にも広がりました。
7、まとめ
モーズ軟膏は、調整がやや手間な薬剤ですが、人だけでなく動物についても腫瘤の減量、悪臭や滲出液の管理もできます。
そのため動物の生活の質の向上、飼い主の負担も減らせるなど、とても有用な薬剤といえます。
8、参考文献
Mohs FE.: Chemosurgery: A Microscopically Controlled Method of Cancer Excision. Arch. Surg., 42:279, 1941.
Kakimoto M, Tokita H, Okamura T, Yoshino K. 2010. A chemical hemostatic technique for bleeding from malignant wounds. J Palliat Med. 13;11:2013.
Tsukada T, Nakano T, Matoba M, Matsui D, Sasaki S. Locally advanced breast cancer made amenable to radical surgery after a combination of systemic therapy and Mohs paste: two case reports. J Med Case Rep. 6: 360-364, 2012.
Fukuyama, Y., Kawarai, S., Tezuka, T., Kawabata, A., Maruo, T. Application of a novel carboxymethyl cellulose-based Mohs sol–gel on malignant wounds in three dogs. J. Vet. Med. Sci. 83(3): 385–389, 2021.
中西敏博, 武内有城, 伊奈研次, 長尾清治. Mohsペーストの塗り方を改良したMohsガーゼ法が有用であった転移性皮膚腫瘍の1例. Palliative Care Research 6(1): 324-329, 2011.
黒川大介ら. 体表の自壊した腫瘤に対する Mohs ペーストの有用性. 広島県獣医学会雑誌 29, 2014
清水 篤. Mohsガーゼ法を用いて自壊した乳腺腫瘍の大幅な減容積を行ったダックスフンドの一例. Jpn J Vet Dermatol 23(2)57–61,2017.
Yasuhiro Fukuyama, Shinpei Kawarai, Tetsushi Tezuka, Atsushi Kawabata & Takuya Maruo.The palliative efficacy of modified Mohs paste for controlling canine and feline malignant skin wounds, Veterinary Quarterly, 36(3)176-182,2016. DOI: 10.1080/01652176.2015.1130880
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