授乳期の母犬の適切な食事、栄養管理:必要な栄養・エネルギー・カロリー・ミネラル・ビタミン
授乳期の母犬への給餌には、
- 母犬の健康を維持するという目的
- 子犬の栄養供給と発育にとって十分な乳汁産生を確保する目的
があります。
乳汁量は同腹子の数によって変わりますが、乳汁量とエネルギーおよび栄養素要求量には直接的な関連があります。
エネルギー要求量
分娩後、母犬のエネルギーおよび栄養素の要求量は、泌乳により、明らかに増大します。
犬の母乳のエネルギー含量の変化はごくわずかですが、量は子犬の数と授乳段階によって変動します。
泌乳能力は分娩後3~5週で最大となります。
雌犬のエネルギー要求量は、この時期、中程度の同腹子数(8頭)の場合で維持要求量の3倍となり、子犬の数が非常に多い場合は4倍になります。
適切な食餌選択によってこの高い要求量を満たさねばなりません。
特に子犬の数が多い場合、エネルギー密度は高くなければならないです(なるべく乾燥重量100gあたり1.8MJ以上)。
高脂肪含量によってこれを確保することができますが、乳汁中の脂肪含量にも影響を与えます。
食餌のエネルギーの10~20%は炭水化物由来とします。
これによって、乳糖合成に使用されるグルコースが十分に確保される。
- 母犬の食餌摂取量は、授乳期に最大となり、1日あたり乾燥重量で50g/kg BW以上に達します。
- 維持代謝に要する量は約20g/kg BWです。
子犬の数が多い場合、食餌のエネルギー含量が乾燥量100gあたり1.5MJ(代謝可能エネルギー)以下であると、
大量の食餌を摂取しても母犬のエネルギー要求量は満たされません。
その結果、体重が減少し、乳汁産生が低下します。
タンパク質要求量
タンパク質要求量は、タンパク質が乳汁とともに流出することによって明らかに増大します。
子犬の数と乳汁量による違いはあるものの、維持要求量の3倍(小型犬種)から5倍(大型犬種)に達します。
乳汁タンパク質合成には、質・量ともに十分なタンパク質の摂取が必要であり、
これには、通常、植物性タンパク源よりも、高濃度で消化の良い動物性タンパク源が適しています。
動物性タンパク源は必須アミノ酸要求量を満たす、高い生物学的価値を示します。
食餌中のタンパク質/エネルギー比は、代謝可能エネルギー1MJにつき消化の良い粗タンパク質12gとします。
ミネラル要求量
乳汁中のカルシウム/リン比は約1.3:1で一定です。
授乳2~4週目にカルシウムが不足し、母犬の体内貯蔵が動員されることによって血中カルシウム値が適正に保てなくなった場合、低カルシウム性強直症(テタニー)が生じます。
自家製フードの場合は、いずれにせよ、栄養補助が必要です。
カルシウム補給は過剰給与に注意して行います。
他の栄養素(リン、亜鉛など)の利用が阻害され、二次的欠乏現象を生じる可能性があるからです。
微量元素とミネラルは、乳汁を経由して放出されるため、1日あたりの推奨必要量は維持代謝量に比べて多くなります。
水分要求量
水分の要求量増加は著しく多いです。
- たとえば、6頭の子犬を持つシェパードの母犬(体重35kg)は、授乳第3週で1日あたり1.7Lの乳汁を産生します。
- この場合、乳汁産生に限っても1日あたり約1.4Lの水分が放出されていることになります(乳汁の固形分は20%)。
この大量の水分放出を補うため、いつでも新鮮な水が飲めるようにしておくことが重要です。
水分不足は急速に乳汁産生を低下させます。
食餌量
給餌は1日に最低3回行います。
子犬の数が多い場合は適宜回数を増やすことが推奨されます。
また、食餌は動物性タンパク源を多く含む、消化のよい、食べやすいものでなければなりません。
体重不足や肥満を避けるために、母犬の体重管理を規則的に行います。
通常、授乳第3週頃から、子犬は栄養補助食品やフードを母犬の食器から摂取し始めます。
この時期に嘔吐を示す母犬もいます。
全身状態に異常がない場合、この嘔吐は、狼にみられるような、餌を消化してから子に与えようとする行動であり、一種の先祖返り的な行動とみなされます。
子犬の食餌摂取の増加とともに母犬の乳汁産生は減少します。
子犬の離乳にかかわらず大量の乳汁産生がみられる場合は、これを終わらせるため、短期的に給餌量を明確に減らす必要があります。
授乳期の母犬用として、多くの市販フードが存在します。
手作りも可能ですが、時によっては調整のための計算が必要となります。