【獣医師解説】犬の歯磨きガムおやつやデンタルケア製品による副作用・危険性

最近、犬の歯石・口の匂いが気になる・・・

犬の歯石除去、スケーリングは全身麻酔?無麻酔?・・・

本記事では、無麻酔の犬のスケーリング・歯石除去のデメリット・問題点・危険性・弊害についてお話しします。

  • 様子、経過を見てくださいと言われたけど心配...
  • 検査してくれなかった...
  • 病院ではよくわからなかった...
  • 病院では質問しづらかった...
  • 混乱してうまく理解できなかった...
  • もっと詳しく知りたい!
  • 家ではどういったことに気をつけたらいいの?
  • 治療しているけど治らない
  • 予防できるの?
  • 麻酔をかけなくて治療できるの?
  • 高齢だから治療ができないと言われた

もしくは、病院に連れて行けなくてネットで調べていた という事でこの記事に辿りついたのではないでしょうか?

ネット上にも様々な情報が溢れていますが、そのほとんどが科学的根拠やエビデンス、論文の裏付けが乏しかったり、情報が古かったりします。

中には無駄に不安を煽るような内容も多く含まれます。

ネット記事の内容を鵜呑みにするのではなく、 情報のソースや科学的根拠はあるか?記事を書いている人は信用できるか?など、 その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。

例えば...

  • 人に移るの?
  • 治る病気なの?
  • 危ない状態なのか?
  • 治療してしっかり治る?

これを読んでいるあなたもこんな悩みを持っているのでは?

現在、人とともに暮らす犬や猫の約80%以上が歯周病に罹患していることが明らかになっています。

動物損害保険会社の最近のデータでは、

犬の手術理由および入院理由のなかで最も多い疾患は歯周病であり、

他の皮膚疾患や消化管内異物、乳腺腫瘍、膝蓋骨脱臼、子宮蓄膿症、腫瘍外傷よりも多く、
犬の入院理由においても膵炎、消化器疾患、慢性腎臓病、弁膜症よりも多いという結果でした。

 

しかし、これほど多い疾患にもかかわらず、日々の診察のなかで歯周病に対して適切な治療やデンタルケアが行われていないことが少なくないです。

たとえば、日々の診療のなかで、

  • 歯面に付着した歯垢・歯石を無麻酔下で市販されているハンドスケーラーを使用して治療し、
  • 歯や歯肉、あるいは他の部位に外傷や機能障害などを引き起こしたり、
  • 市販されているデンタルケア製品に起因した歯の破折や咬耗

などに遭遇することがあります。

今回、これらに起因して引き起こされた併発症をまとめました。

この文章は消さないでください。
日本小動物歯科研究会では、無麻酔での歯垢・歯石除去をすすめていません。

今回の記事が多くの飼い主にとって明日からの歯科診療とデンタルケアの一助となれば幸いです。

タイトル
  • 無麻酔による歯科処置の弊害
  • 無麻酔での歯垢・歯石除去とデンタルケアを目的とした製品による歯の併発症に関するアンケート結果
  • 無麻酔での歯垢・歯石除去による併発症を考える
  • おやつやデンタルケアを目的に与えた製品による歯の併発症を考える
  • 適切な歯周病治療とデンタルケアの概要

この記事は、無麻酔の犬のスケーリング・歯石除去のデメリット・問題点・危険性・弊害が気になる飼い主向けです。

この記事を読めば、無麻酔の犬のスケーリング・歯石除去のデメリット・問題点・危険性・弊害がわかります。

限りなく網羅的にまとめましたので、無麻酔での歯垢・歯石除去とデンタルケア商品の危険性・合併症に関するアンケート結果について詳しく知りたい飼い主は、是非ご覧ください。

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✔︎本記事の信憑性

この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、 論文発表や学会での表彰経験もあります。

今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。

臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!

記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】や詳しい実績はこちら!

✔︎本記事の内容

犬の歯磨きガムおやつやデンタルケア製品による副作用・危険性

はじめに

日本国内には数多くの犬用のおやつやデンタルケア製品が販売されています。

これらのなかには犬の口腔衛生に役立つものから、かえって害を及ぼし、最悪の場合、歯が破折する製品も含まれています。

2019年に日本小動物歯科研究会が全国の会員病院を対象に行ったアンケートの結果、
おやつやデンタルケア製品と称して、ひづめ、アキレス腱、鹿の角などが販売され、
それらによる歯の破折事故の発生があまりにも多く、
しかも露髄するなど深刻な状況が多く発生していたことが明らかになりました。

 

今回は、

  • どのような製品で歯の破折が多くおこるのか
  • どうしたら防ぐことができるのか
  • 破折がみられた場合どのように治療すればよいのか

などについてまとめました。

 

今後、積極的な対応を行わなければ歯の破折事故はさらに増加することが危惧されるため、様々な対応法のうち、すぐにでもできることから実施する必要があります。

 

歯の破折に関するアンケート結果

日本小動物歯科研究会が2019年に会員動物病院(732病院)にアンケートを行った結果、172病院から回答が得られました。

その結果、これまでに、ひづめ、アキレス腱、鹿の角、硬いデンタルガム、おもちゃなどが原因で407件の破折事故がおこっています。

回答は172病院なので、実際にはもっと多くの事故が発生していると推測されます。

破折箇所はこれまでに報告されている内容と同様の傾向がみられ、上顎第4前臼歯が最も多く、続いて犬歯が多かったです。

裂肉歯と犬歯は生涯残したい大切な歯であるため破折が多いことは深刻な問題です。

アンケート結果では破折の原因として上記の5種類が上位を占めていましたが、最近では国内の牛の骨、また、海外からも牛の生の骨(冷凍)が輸入されており、多くの製品が販売されています。

これらの製品には口腔衛生によいことをほのめかしたものもあり、また、注意点については記載されていないケースが多いため、

今後は安全で口腔衛生に効果的に作用する製品の正しい選別を行う必要があります。

 

歯と歯周組織の基本構造

  • 歯は歯冠、歯頚、歯根からなり、
  • 歯冠は表面からエナメル質、象牙質、歯冠部歯髄、
  • 歯根は表面からセメント質、象牙質、歯根部歯髄、根尖部は根尖三角で構成され、
  • 歯髄には象牙芽細胞、血管、神経などが存在します。

象牙質はエナメル質、セメント質の内側にあり、歯冠部から歯根部までの歯を形作っています。

歯髄側には象牙芽細胞が配列しており、成長に伴い異なったスピードで象牙質を歯髄側につくっています。

象牙芽細胞は象牙細管のなかに突起を伸ばしており、歯の表面の物理的、化学的刺激を歯髄に伝えています。

象牙細管を通じて象牙質の知覚をつかさどり、この場合、刺激に対する反応は疼痛となって現れるとされており、象牙質破折の際にも痛みを感じます。

象牙質が露出すると象牙細管から歯髄へ細菌感染をおこす危険性が出てきます。

象牙細管が生体の反応もしくは治療で閉鎖できれば感染の危険性や痛みはなくなります。

歯と歯槽骨の隙間は歯根膜腔とよばれ、歯周靭帯(歯根膜)が歯と歯槽骨を結合しています。

歯の周囲は歯肉で覆われ、歯と歯肉は上皮性、結合組織性に結合しています。

結合が終わる部分の歯と歯肉との間には歯肉溝といわれる溝があります。

歯冠歯根破折がおこると象牙質が露出し、破折片を除去したあと歯肉は象牙質に結合できず、歯周ポケットとなり治療後歯周病になる可能性があります。

歯の破折の分類

破折には様々な状態がありますが、その状態により治療法が異なりますので、状態を把握するための分類を行う必要があります。

AVDCAmerican Veterinary Dental College)の分類が最も一般的に使用されているのでまとめました。

歯の破折状況(日本国内での歯の破折に関する報告のまとめ)

この文章は消さないでください。
国内での歯の破折に関する報告がいくつかみられますが、破折箇所の傾向はおおむね一致しています。

また、海外の破折の報告では、日本国内の報告と一致するところが多いですが、破折原因には違いがみられます。

歯の破折に関する国内でみられた報告の概要を下記にまとめました。

歯の破折状況(日本国内での報告のまとめ)

報告の年
2004~2019
発生頻度
11.9~15.3
発生箇所
上顎第4前臼歯(47.066.2%)

犬歯(12.432%)

裂肉歯と犬歯(83.788.6%)

乳歯(0.99.6%)

破折の状態
 

露髄(7577%)

上顎第4前臼歯の露髄(85%)

出血(56%)

歯髄壊死(7.9%)

根尖周囲病巣(10%)

 

治療法
非露髄 修復(歯冠形成、その他)(40%)
露髓
 

歯内療法(47.871.1%)

抜歯(28.936.4%)

 

原因
硬いもの(ひづめ、アキレス腱、鹿の角、デンタル用品、おもちゃ、その他)を噛んだ(6.790%)
喧嘩、事故

経過

 

 

5年以内に2ヵ所以上に破折(39.8%)

修復物の破損(18%)

根尖周囲病巣、再破折、抜歯(頻度の記載なし)

雌雄差
なし
発見者 飼い主(53%)

獣医師(診察・手術時)(38%)

他(9%)

これらのことから、

国内での犬の破折はおやつやデンタルケアを目的とした製品を中心とした硬いものを噛んだことが原因でおこることが多く、

上顎第4前臼歯で最も多くみられました。

そして多くの場合で露髄がみられる深刻な状態が多いことが露見しました。

また、一度破折した犬はまた他の歯を破折する場合も多くみられ、管理の重要さが示されました。

 

歯の破折の状態(海外での歯の破折に関する報告のまとめ)

この文章は消さないでください。
海外でも歯の破折に関する報告がみられ、破折箇所の傾向はおおむね国内でみられた報告と一致しています。

その概要を下記にまとめました。

海外での破折の報告のまとめ

破折箇所は上顎第4前臼歯が47.3%と最も多く、続いて犬歯が18.6%であり(合計65.9%)、裂肉歯の平板破折の原因は83.7%が生の骨を噛むことによるものであった
カモシカを主食にしているアフリカの野生の犬29頭の頭蓋を調べた報告では、83%に咬耗がみられ、48%に破折がみられた
犬と猫の外傷性歯槽損傷660959歯についての疫学調査では、単純歯冠破折:16.2%、複雑歯冠破折:49.6%、単純歯冠歯根破折:1.9%、複雑歯冠歯根破折:10.8%がみられた
破折の原因はゴルフクラブ、クリケット、バットでの事故、交通事故、角、ひづめ、生の骨などを噛むことで多発していた
軍用犬では攻撃訓練で犬歯の破折が多い(11.6%)
一般に前歯(犬歯、切歯)の破折は外力により、後歯(臼歯)の破折は硬いものを噛んだことによりおこる。上顎第4前臼歯の単純破折(エナメル質、象牙質にかかる破折)の24.3%に歯髄炎や歯髄壊死がみられた

 

破折に関する実験報告

実験的に上顎第4前臼歯に力をかけ破折限界を調べたSoltero-Riveraらの報告の要点を記載しました。

犬の死体から採取した24本の第4前臼歯を固定し、破折するまで力をかけて、破折したときの状態や破折に要した力、角度などの測定を行った結果です。

実験で得られた結果と文献を引用して考察した部分をまとめました。

破折に関する実験結果のまとめ

上顎第4前臼歯の破折に要した平均最大力(±SD)は1.281±403N(ニュートン)で、平均衝撃角59.7±5.2°であった
破折の形態は単純歯冠破折(6件)、複雑歯冠破折(12件)、単純歯冠歯根破折(1件)、複雑歯冠歯根破折(5件)であった
 

歯冠の高さ/幅の比率が減少すると、破折抵抗が増加することがわかった

(品種、年齢、体重、衝撃角(47.369.3°)歯冠の高さは最大力と相関はなく、歯冠の高さと幅との比は相関があり、幅が広く歯冠が短いほうが破破折抵抗の高いことがわかった)

 

犬の最大潜在咬合力は著しく高く、臼歯で最大3,400Nを超えることがある
エナメル質が人より薄い(0.11.0mm
Lindnerらは、自発的な犬の咬合力は131,394Nで平均256N中央値163N77%は400N未満であり、通常では大丈夫であるが、強く噛む場合は破折をおこす危険性のあることを示唆した
犬歯の破折に必要な平均力は45°の角度で、494630Nの範囲で臼歯よりも小さい力で破折する。4本の犬歯での最大牽引力は4801,200Nであった。4本では破折しにくいが、1本だと破折のリスクが上昇する(歯冠を短くすると破壊抵抗が増加する)
軍用犬の訓練時の引っ張る力は4801,120Nであった
Soukupらは犬歯の破壊率は歯冠の高さ/歯冠幅が10%、20%と減少すると、破壊の確率が24.1%、60.4%減少したとしている
Goldschmidtらは犬歯の破壊実験でかけた力の方向のちがいによる破壊力の有意差はみられなかったが、方向により破折パターンには差がみられたとしている

1Nは約0.102kgで、男性の咬合力は約689N(約70kg)、女性で約496N(約50kg)との記載がみられます。

また、なぜ上顎第4前臼歯が破折しやすいかを示しました。

破折に対する考え方

破折症例(60頭)のうち、飼い主が気づいたものが32頭(53%)、獣医師が気づいたものが23頭(38%、診察・手術時)であったという報告があり、破折してからかなりの時間が経過してから発見される場合も少なくない。破折症例では痛みを伴うことが報告されているが、痛みについては見過ごされていることが多い。そのため獣医師も積極的な口腔内検査をしなければならない。破折に対する考え方を表4に示した。

破折がみられたときの考え方

象牙質の露出は象牙細管の露出により感染の危険と痛みを伴う。1mm²=50,000の象牙細管があり痛みを感じる(健康な歯では石灰化などにより細管が閉じる防衛反応がみられることがある)
露髄した歯では激しい痛みと出血、感染の危険がある(防衛反応で歯髄息肉〈慢性増殖性歯髄炎〉の状態で慢性に経過することもある)
口腔内の痛みを伴う疾患は全身へ悪影響を及ぼすので、放置してはならない
破折を放置すると複雑な状態に悪化する可能性がある(破折が放置された場合10%に根尖周囲病巣がみられた、上顎第4前臼歯の単純破折の24.3%に歯髄炎や歯髄壊死がみられたという報告があるため、破折が確認された場合は速やかな治療が必要である)
動物では痛みがあっても見逃すことが多いので身体検査時の口腔内検査が必要である
口腔内の感染症などを放置することは倫理的に容認できない状態である

WSAVAのガイドラインの情報をもとに記載しましたが、

歯の破折がみられた場合には、食事が可能という理由で、「経過をみましょう」などとして放置すべきではありません

歯の修復、抜髄などの歯内治療、もしくは抜歯による治療が必要です。

 

破折の診断

臨床診断

この文章は消さないでください。
破折の診断には歯冠のみえる部分と歯根のみえない部分の状態を確認する必要があります。

歯冠の破折状態の検査はエキスプローラ(歯科用探針)を用いてエナメル質破折、象牙質破折や露髄の有無について確認します。

  • 露髄がない場合は単純破折
  • 露髄がみられる場合は複雑破折

とされ、それぞれ歯冠だけの破折か歯根にもかかっているかなどを確認します。

その他の臨床的な検査として歯の打診、動揺度の検査、光の透過性の検査などを行います。

 

歯科X線検査

この文章は消さないでください。
肉眼的に観察できない歯根、歯髄や歯根膜腔などについては歯科X線検査を行い確認する必要があります。

詳細なX線画像を得るためには麻酔下で行う必要があります。

破折の状態により治療法が異なるので大切な検査となります。

これらの検査により

  • 歯冠
  • 歯根
  • 歯髄腔
  • 歯根膜腔

などの観察を行い、

臨床症状とあわせて

  • 破折部位の確認
  • 露髄の有無
  • 生活歯髄であるか失活歯髄であるか

など判断し、治療法の選択肢を確認します。

 

歯科X線検査

歯科X線検査は歯科用X線装置と歯科用X線フィルムやデジタルセンサーを使用した検査が望ましいですが、歯科用X線装置の普及率が低い現状では、小動物用X線装置を駆使して検査を行う必要があります。

幸い撮影時にいくつかの工夫を行うことで、十分に臨床応用可能な情報を得ることができます。

小動物用X線装置と通常のカセッテとフィルムを使用して、焦点フィルム間距離1m頭蓋の上顎と下顎のX線画像を撮影します。

 

破折の治療法

この文章は消さないでください。
破折がみられた場合は、元気食欲があるからという理由で放置してはならないことがWSAVAのガイドラインに示されています。

いずれの状態であっても速やかな治療が必要ですが、破折の状態により治療法が大きく異なるので、

どのような状態かについて治療前に的確に診断し、治療法を決定します。

2次診療施設を紹介することも治療の一環です。

破折に対する治療法をまとめました。

破折に対する治療法のまとめ

露髄の有無: 破折歯の露髄 なし 破折歯の露髄 あり
歯髄の状態:

 

 

 

 

 

 

生活歯髄 生活歯髄
歯冠スムージング

シーリング・コーティング

ボンディング・シーラント

歯冠修復

直接覆罩、間接覆罩

(生活歯髄切断術)

(抜髄根管治療)

 

生活歯髄切断術(抜髄根管治療)

歯根未完成にはアペキソジェネシス

抜歯

失活歯髄 失活歯髄
抜髄根管治療

抜歯

抜髄根管治療

歯根未完成にはアペキシフィケーション

抜歯

 

※破折に対する治療は、

  • 露髄しているかいないか
  • 生活歯髄か失活歯髄か
  • 根尖が閉じているかいないか
  • 受傷後の時間経過
  • 歯種
  • 術後の定期的検査に来院できるかどうか

などによって異なります。

歯根破折は歯根側3分の1程度であれば経過観察することができますが、動揺がみられる場合は抜歯が適応となります。

 

破折歯で露髄(歯髄が露出)していない場合の治療法

生活歯髄の場合

・エナメル質破折:歯冠の形成(研磨、スムージング)

破折がエナメル質のみで象牙質も露出していない破折で生活歯髄の場合は、歯冠の形成(研磨、スムージング)ですむことがあります。

・象牙質破折:歯冠修復

象牙質が露出すると痛みが発現し、象牙細管を通した感染の危険性が出てきます。

破折の場所や状態により、シーラントで象牙細管をふさぐことで痛みや感染の危険性を除外できますが、13ヵ月、長くても12ヵ月しか維持できないとされているので一時的な処置となります。

この場合は6ヵ月おきの検査が推奨されます。

 

通常は破折部分を清潔にし、窩洞形成して歯冠を修復します。

この際、窩洞が歯髄に近い場合は治療後に痛みや炎症がおこることがあるので間接覆罩を行ったうえで、歯冠を修復材で覆います。

窩洞形成時に露髄したら、歯髄を保護する直接間接覆罩を行った後に修復材で修復します。

術後合併症がおこることが予想される場合は歯冠部歯髄切断術(生活歯髄切断術:断髄)を行ったり、抜髄根管治療が選択されることもあります。

術前には歯髄や歯根、歯根周囲に異常がないかどうかのX線検査が必要です。

さらに、術後定期的な検査が必要です。

 

 

失活歯髄の場合

・抜髄根管治療

象牙質の露出だけでも、時間が経過して感染がおこり歯髄壊死をおこしている場合(失活歯髄)は、壊死した歯髄を除去し根管を清掃して充填する抜髄根管治療が必要となります。

したがって、露髄していなくても、様々な検査を行い生活歯髄か失活歯髄かの確認は必要です。

生活歯髄であっても、修復時に出血がおこり炎症のため止血ができない場合も、この治療法を行います。

術後定期的な検査が必要です。

歯髄壊死は

  • 臨床症状
  • 歯冠の色(変色)
  • 光による検査(透過が悪い)
  • 歯科X線検査

などにより判定します。

 

・抜歯

失活歯髄で抜髄根管治療が適応でない場合は、抜歯が必要となります。

上顎第4前臼歯は3根で単純抜歯は難しいので、フラップ作製、歯槽骨切削、歯冠を分割して抜歯を行う外科的抜歯の技術が必要となります。

 
また、

犬歯についても歯根が大きく深く、鼻腔との境目が12mmしかないので、慎重な外科的抜歯が必要となります。

 

破折歯で露髄(歯髄が露出)している場合の治療法

歯髄が露出した場合は初期には出血がみられますが、やがて出血も収まります。

痛みは伴いますが気がつかないこともあり、注意深く観察しないと破折が見逃されている場合も多いです。

 

生活歯髄の場合

・生活歯髄切断術(断髄)

歯根が閉鎖した歯で、破折後時間が経過していない場合生活歯髄切断術(歯冠部歯髄の断髄)を行うことができますが、

本手技実施可能な破折後の経過時間の幅は年齢によって左右され、あまり長くないので応用されるケースは少ないと思われます。

術後の経過は年齢と破折後の経過時間により大きな影響を受けるので、

術後は異常がおこらないかを長期にわたって定期的にX線検査で確認し、

経過が悪い場合は抜髄根管充填を行う必要があります。

生活歯髄切断法の目安は1歳齢の破折では受傷から3日まで、2歳齢では2日まで、3歳齢では1日以内とされています。

受傷後の経過日数と成功率の関係を示した報告では受傷後3週間以内に行った場合の成功率は23.5%、7日以内に行った場合は41.4%、2日以内に処置を行った場合は88.2%でした。

 

別の報告では、露髄がなく歯冠短縮術などで計画的な断髄を行った場合の成功率は100%であったとされています。

また、この論文では、露髄後1週間を過ぎたものの成功率は0%だったと報告しています。

なお、術後の経過観察はすくなくとも2年は行う必要があるとしています。

生活歯髄であっても、手術時に炎症のために止血ができない場合などでは抜髄根管充填に移行することもあります。

 

・歯根未完成の場合:アペキソジェネシス(apexogenesis)

歯根が未完成の歯で生活歯髄である歯が破折した場合、破折からの時間により治療法が異なりますが、

破折後時間が経過していない場合は、直接覆罩もしくは歯冠部歯髄の部分切除などを行い、
歯根がそのまま成長することを期待する、アペキソジェネシスという治療形態を選ぶことが可能です。

 

治療後順調に成長が続いているかどうかの検査を36ヵ月後に行い、その後も定期的なX線検査が必要です。

 

・抜歯

上記のいずれも適応にならない場合は抜歯が選択されることもあります。

 

失活歯髄の場合

・抜髄根管治療

破折して歯髄が失活しているが、歯は保存できる状態であれば抜髄根管充填を行います。

犬や猫では根尖部がアピカルデルタという構造になっており、この部分の充填は難しいため、

感染根管では歯髄が感染をおこしていない場合より術後根尖周囲病巣を形成する可能性が高いです。

いずれにしても術後定期的なX線検査を行い、歯根や歯根周囲の状態を観察する必要があります。

処置ができても定期的な術後経過がみられない場合は本手技の適応となりません。

 

・歯根未完成の場合:アペキシフィケーション(apexification)

歯根の未完成歯、すなわち1歳齢未満の若い歯で根尖がまだ閉じていない場合の破折で歯髄が失活している場合は、

根尖が開放しているため抜髄根管充填はできないといった歯に対して行うアペキシフィケーションという治療法が推奨されます。

この場合は水酸化カルシウム剤の充填を行い根尖が硬組織で閉鎖されたことを確認し、再度根管充填を行う処置が必要となります。

 

・抜歯

歯髄が失活し抜髄根管治療が適応でない場合は抜歯が適応となります。

歯髄が失活してから長時間を経過した歯の抜歯は、歯がもろくなっており抜歯時の歯根破折がおこりやすいので、外科的抜歯でより丁寧に抜歯作業を行います。

破折が最も多くみられる上顎第4前臼歯は3根歯であり、重度の歯周病をおこし歯槽骨が吸収している場合を除き単純抜歯は困難です。

また、同様に犬歯は歯冠よりも歯根のほうが大きく、顎骨内に位置しており、重度に歯槽骨が吸収している場合以外の単純抜歯は難しいです。

破折がみられる症例では歯槽骨の吸収があまりないと思われるので、難抜歯になることが予想されます。

慎重に外科的抜歯(歯肉粘膜骨膜フラップ作製、歯槽骨の切削、歯冠の分割、歯槽骨の棘除去、フラップ縫合)を行います。

抜歯前には歯科X線検査で歯根の状態の確認をしておくことが大切です。

 

破折の予防

これまでの報告から、破折をさせないためにどのようにしたらよいか、

破折の予防法と今後の対策について、現時点で考えられることをまとめました。

 

歯の破折の予防として考えられること

今日からすぐにできること
1回で破折する力にならなくても、くり返し噛む場合は危険があるので硬いおもちゃで遊ばせない。

・最大潜在咬合力は大きく、噛もうと思うと強い力が出るので、口にくわえて遊んでいるおもちゃにも注意が必要。

・噛んだときに製品の形状が変わり、歯にかかる力が分散するものを与える

(噛んだときに形の変形がおこらない硬いおやつなどは与えない、図8)。

・エビデンスの示されているものを与える(たとえばVOHC製品や実験結果の報告されているものなど)。

・爪で押さえてへこみのできるものを与える(BVSAイギリス獣医歯科協会)

・修復の際はできる範囲で歯冠長/幅を小さくする(歯冠長を短くする)。

今後検討していくこと
・日本小動物歯科研究会が中心となり硬いデンタルグッズ、おやつ、おもちゃでの歯の破折の危険性を啓発する。

・日本全国の消費者、獣医師から消費生活センターに詳細を連絡してもらう

(各市のデータは県、国に集まるので、数が多く、事が大きくなれば行政指導の可能性がある:この場合どのような製品でどのようなことがおこったか因果関係がわかるように連絡する)。

・日本獣医師会のペットフード安全法関係部署に情報提供、危険性の啓発を依頼する。

・農林水産省のペットフード安全関係部署に情報提供、危険性の啓発を依頼する。

・業者に危険表示をしてもらう(オーストラリアから輸入した冷凍生骨の危険性表示あり)。

・ペットフード協会、ペット用品工業会、トリミング、ペットショップ業界へ情報提供と危険性の啓発を依頼する。

 

おわりに

硬いおやつやデンタルグッズを与えた飼い主のほとんどは、犬が喜ぶ、歯にいいと思ったとの意見を述べています。

これらの製品のほとんどに危険性の注意は記載されていません。

よいと思ってやったことが結果的に好ましくない状況を生むという大変残念な結果です。

今後、これらの製品の危険性の啓発や、また、デンタルケア製品の正しい与え方などについて広く啓発することが必要であると思われます。

 

正しい知識以外に病院の選び方も非常に重要です!

ネットで検索すると、いろんな情報が出てきて混乱して、 逆に不安になったことってありませんか?

ネット記事を読むときは、内容を鵜呑みにするのではなく、 情報のソースや科学的根拠はあるか?記事を書いている人は信用できるか?など、 その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。

とっても大事なこと

愛猫や愛犬のわずかな変化に気付き、守ることができるのは飼い主様だけです! 病気になった時も、獣医師がしっかり説明をして、飼い主様が正しい知識を理解をして、ペットを含め、3者がともに協力しないといい結果は得られません。

本ブログでは、1匹でも正しい予防や治療を受けてペットと楽しい時間をできるだけ長くできるように、報告に基づいてわかりやすく解説しています。

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no life no dogs & catsをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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