犬にワクチン摂取って毎年必要なの?
病院、ペットショップ、トリミング、ペットホテルでは毎年ワクチン摂取が必要と言われた...
海外ではワクチン摂取が毎年ではないと耳にしたことがある!
毎年のワクチン摂取は日本の獣医師が儲ける為と聞いたことがある!
飼い主の中には、この様な経験をされたり、愛猫愛犬の悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか?
ネット上にも様々な情報が溢れていますが、そのほとんどが科学的根拠やエビデンス、論文の裏付けが乏しかったり、情報が古かったりします。
中には無駄に不安を煽るような内容も多く含まれます。
ネット記事の内容を鵜呑みにするのではなく、
情報のソースや科学的根拠はあるか?記事を書いている人は信用できるか?など、
その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。
例えば...
- 本当に必要な予防は?
- 必要なワクチンは?
- どの予防をすればいいの?
これを読んでいるあなたもこんな悩みを持っているのでは?
結論から言うと、
世界小動物獣医師会(WSAVA)は、『1歳までに適切なワクチン接種を実施した個体の場合には強固な免疫を数年間維持する』とし、
『全ての犬または猫が接種すべきコアワクチン※の追加接種間隔を1年毎ではなく3年もしくはそれ以上間隔をあける』とするガイドラインを発表しています。
※犬のコアワクチン:犬ジステンパーウイルス、犬パルボウイルス、犬アデノウイルスの3種類
※ノンコアワクチンである犬パラインフルエンザウイルスと犬コロナウイルスは、抗体価持続が1年と短いため、毎年の追加接種が推奨されます。
※レプトスピラ症の抗体価も持続しにくいため、毎年の予防接種が推奨されます。
ワクチンを打っていれば、感染しないことはないですが、感染しても軽症ですみます。
混合ワクチンは、主に6種と8種に分かれます。
6種混合ワクチン
主に自宅近辺で過ごす犬に使用します。
- 犬ジステンパー
- 犬アデノウイルス2型感染症
- 犬伝染性肝炎
- 犬パラインフルエンザウイルス感染症
- 犬パルボウイルス感染症
- 犬コロナウイルス感染症
8種混合ワクチン
- レプトスピラウイルス
主に池や水溜りの存在、ネズミが出現、山などで遊ぶ犬に使用します。
この記事では、犬の混合ワクチンの摂取間隔をアカデミックな面からまとめました。
また、最後にワクチン摂取について飼い主からよくある質問をまとめました。
限りなく網羅的にまとめましたので、犬の混合ワクチンの摂取に迷われている飼い主、犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。
臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
本当に必要な犬の混合ワクチン間隔 論文、エビデンスあり!
この記事の目次
基本的な接種スケジュール
WSAVA ワクチネーションガイドライングループ(VGG)は、世界的に適用できる犬と猫のワクチネーションガイドラインの作成を目的として組織されました。
ガイドラインの初版は2007 年に発行され、2010 年に改訂されています。
小動物(コンパニオンアニマル)のワクチネーションに関する国際的ガイドラインを改訂、拡大したものであり、推奨が作成される根拠となった科学的エビデンスを示すものです。
ペットである小動物の飼育については診療内容(寄生虫感染や嘔吐などの一般状態低下)やそれにまつわる経済状態に関する大きな違いに影響を受けます。
これらのガイドラインは強制力を持つ命令ではなく、全国的な協会や個々の動物病院が、その地域にとって適切なワクチネーションスケジュールを作成するためのものです。
ただし、可能な限り、どこでもすべての犬と猫がワクチン接種の恩恵を受けることを強く推奨されています。
このことは個々の動物を防御するだけでなく、感染症の大流行が起きる可能性を最小限に抑える最適な「集団免疫」の効果があるからです。
ワクチンにはコアワクチンとノンコアワクチンがあり、それぞれ、重要性、摂取の間隔が異なります。
ワクチネーションガイドラインは、個々のペットについてワクチンの必要性を理論的に分析し、それぞれのワクチンの性質に基づき、ワクチンを「コア」ワクチンと「ノンコア」ワクチン、狂犬病ワクチンに分類するという提案に基づいて発展してきました。
コアワクチン
VGG はコアワクチンを、その状況や地理的位置にかかわらず、すべての犬と猫に接種すべきワクチンと規定しています。
コアワクチンは、世界中で感染が認められる重度の致死的な感染症から動物を防御します。
コアワクチンとは、世界的に重要な感染症に対するものであり、その防御のために世界中のすべての犬と猫に、推奨された間隔で接種すべきものです。
犬のコアワクチン
- 犬ジステンパーウイルス(CDV)
- 犬アデノウイルス(CAV)
- 犬パルボウイルス2 型(CPV-2)の各種変異株から犬を防御するワクチン
犬のコアワクチンは、上記のワクチンとその変異株から犬を防御するワクチンです。
狂犬病ワクチン
一部の国でのみコアワクチンとされているものの例として、狂犬病ワクチンが挙げられます。
狂犬病の流行地域では、ペットと人の双方の予防のために、すべての犬にワクチンを定期接種すべきです。
多くの国では、狂犬病ワクチンの接種が法的に義務づけられており、また通常はペットの海外渡航の際にも必要です。
狂犬病が流行している地域では、定期的なワクチネーションが法的に義務づけられていなくても、この病原体に対するワクチンを犬と猫のコアワクチンとみなします。
子犬のコアワクチン摂取の間隔
ワクチンは不必要に接種すべきではありません。
母親由来の移行抗体(maternallyderived antibody, MDA)が、幼少期の子犬や子猫に現在使用されているほとんどのコアワクチンの効果を著しく阻害します。
このMDA のレベルは同腹子間でも大きなばらつきがあります。
子犬や子猫に対してはコアワクチンを複数回、最後の回が16 週齢またはそれ以降となるように接種し、次いで生後6 または12 ヵ月で接種を行うことが推奨されています。
コアワクチンは、子犬および子猫の初年度接種が完了し、6 ヵ月または12 ヵ月齢で追加接種(ブースター)を終えたら、3 年毎よりも短い間隔で接種すべきではありません。
なぜなら、免疫持続期間(durationof immunity, DOI)は何年にもわたり、最長では終生持続することもあるためです。
その為、ワクチン接種後のコアワクチン成分(CDV、CAV、CPV-2 およびFPV)に対する抗体陽転の確認、成犬の抗体保有率の決定を目的とした、簡易な院内検査の使用が勧められます。
文化的または経済的理由のためにワクチンを1 回しか接種することができない状況では、16 週齢またはそれ以降にコアワクチンを接種します。
子犬のノンコアワクチン摂取の間隔
地理的要因、その地域の環境、またはライフスタイルによって、特定の感染症のリスクが生じる動物にのみ必要なワクチンと定義しています。
ノンコアワクチンは、個々の動物の地理的要因やライフスタイルによる曝露リスクならびにリスク・ベネフィット比の評価に基づいてその使用が判断されるワクチンです。
リスク・ベネフィット比
すなわち、ワクチンを接種しない場合の感染リスクまたはワクチンを接種した場合の有害反応発現リスクと、その感染症から防御されることのベネフィットとの比較です。
VGG は「定期的な(通常は年1 回の)健康診断」という方針を強く支持しており、このことは、年に1 回のワクチン再接種に関する推奨やそれを期待する飼い主の考え方をなくすことにつながります。
ノンコアワクチンのDOI は一般的には1 年であるため、年に1 回の健康診断時に年に1 回ノンコアワクチンの接種をする必要があります。
経済的に許される限り、ガイドラインに定めるスケジュール通りにコアワクチンの再接種を行い、また呼吸器疾患を予防するためのノンコアワクチンを追加します。
そこでコアワクチンとノンコアワクチンの摂取の間隔について子犬、子猫と成犬、成猫で推奨されている時期が大きく異なります。
子犬におけるワクチネーション
子犬におけるワクチネーション
ほとんどの子犬、子猫は、生後数週間は移行抗体(受動免疫)により防御されます。
受動免疫は多くの場合、8 ~ 12 週齢までには能動免疫が可能なレベルに減弱する。
移行抗体のレベルが低い子犬は、若齢期に感染症にかかりやすい(そしてワクチネーションに対して応答する)です。
中には12 週齢以降までワクチン接種に応答できないほどの高い抗体価のMDA を保持している子犬もいます(Friedrich & Truyen2000)。
したがって、初年度ワクチネーションとして1 回のみ接種するという方針では、起こりうるすべての状況に対応することはできません。
6 ~ 8 週齢で初回のコアワクチン接種を行い、その後、16 週齢またはそれ以降まで2 ~ 4 週間隔で接種を行うことが推奨されています。
したがって、子犬と子猫が初年度にコアワクチンの接種を受ける回数は、ワクチネーションが開始された時点での年齢と選択された接種の間隔によって決定されます。
考えられるスケジュールの概略を表に示します。
この推奨に従えば、6 または7 週齢でワクチネーションを開始した場合、接種の間隔を4 週とすれば初年度コースのコアワクチンの接種回数は4 回となります。
これを8 または9 週齢で開始し、接種の間隔を同じ4 週にした場合には、必要な接種回数は3 回のみとなります。
これまでのワクチン摂取の間隔
これに対し、多くのワクチンの製剤添付文書では、初年度には2 回、以降は年1回のコアワクチン接種を行うことが推奨され続けています。
2 回のコアワクチン接種のうちの2 回目を10 週齢で行う、「10 週齢での終了」が認可されている製剤もあります。
このプロトコールは、感染症のリスクを軽減しながら子犬の「早期社会化」を可能にすることを理論的根拠としています。
早期社会化が犬の行動の発達にとって不可欠です(Korbelik et al. 2011, AVSAB 2008)
そのようなプロトコールを採用する場合には、飼い主は子犬を管理された場所にのみ連れて行き、健康でワクチン接種が完全な他の子犬や成犬とのみ接触させるといった、十分な注意を払い続けなければなりません。
最近の米国における研究では、ワクチン接種を受けて社会化クラスに参加している子犬は、CPV-2 感染のリスクがほとんどないことが明らかにされています(Stepita et al. 2013)。
子犬の6または12 ヵ月齢のワクチンブースターの重要性
VGGは、子犬と子猫の初年度ワクチン接種の最後のコアワクチン接種を、可能な限り16 週齢かそれ以降に行うことを推奨しています。
「ブースター」ワクチンは子犬のコアワクチン接種に欠かすことのできない要素であり、慣例として生後12 ヵ月、または子犬の初年度ワクチンにおける最後の接種後12 ヵ月の時点で行われてきた。
ブースターワクチンの主な目的は、必ずしも免疫応答を「強化」することではなく、初年度のコアワクチン接種でいずれかのワクチンに応答しなかった可能性のある犬に、確実に防御的免疫応答を発現させることです。
追加接種を生後12ヵ月で実施することは、初めての年1 回の健康診断のために飼い主に動物病院を受診させるのに好都合である理由で選択されてきた可能性が高いです。
したがって、仮にある子犬が初年度のコアワクチン接種に反応しなかったとすれば、その子犬はこの12 ヵ後のワクチン接種まで防御されていない可能性があることが示唆されます。
これはワクチン接種を受けている生後12 ヵ月未満の子犬の一部において感染症(例えば犬パルボウイルス性腸炎)が発生するという事実の理由となり得ます。
VGGはこの接種法を再評価し、感染症に対する感受性時期を短くするために、ブースターワクチンの接種を52 週齢から26 週齢(または26 ~ 52 週齢の間のいずれかの時点。しかし、26 週齢は都合の良い時期である)に前倒しすることを提唱する。
このようなプロトコールを採用すると、表 に示したように、6 または7 週齢でワクチネーションを開始した子犬には、生後6 ヵ月までに最多で5 回のワクチン接種が必要となります。
コアワクチンについては、26 週齢での「ブースター」後、次のコアワクチンの接種は少なくとも3 年は不要です。
生後約1 年でのワクチン接種に替えて生後6 ヵ月でワクチン接種を行うというこの新たな推奨は、生後1 年または16ヵ月時点での「最初の年1 回の健康診断」を否定するものではありません。
成犬におけるコアワクチンの再接種
コアワクチンの接種に反応した犬は、再接種を行わなくても強固な免疫を何年も維持する(免疫記憶)(Bohm et al. 2004, Mouzin et al.2004, Schultz 2006, Mitchell et al. 2012)。
26 または52 週後にブースターを行った後は、3 年もしくはそれ以上の間隔をあけて再接種を行います。
成犬における3 年に1 回のワクチン再接種は、概して不活化コアワクチン(狂犬病を除く)やノンコアワクチン、特に細菌抗原を含有するワクチンには適用されません。
つまり、
レプトスピラ(Leptospira)、ボルデテラ(Bordetella)およびボレリア(Borrelia)(ライム病)の製剤のほか、パラインフルエンザウイルスに関しても確実な防御のためにはより高い頻度のブースターが必要とされます(Ellis & Krakowka2012, Klaasen et al. 2014, Ellis 2015,Schuller et al. 2015)。
したがって、成犬に対してはこのガイドラインに準拠しても年1 回の再接種が行われることがありますが、そのようなワクチンの種類は毎年変わる可能性があります。
典型的なパターンとして、現時点ではコアワクチンは3 年毎に接種されているが、特定のノンコアワクチン製剤は年1 回接種されています。
子犬期のコアワクチン接種および26または52週齢でのブースター接種を完了したが、成犬になってからは定期的なワクチン接種を受けていなかったと思われる成犬には、追加免疫のためにコアワクチンを1 回接種するのみでいいです。
同様に、もらわれてきたためにワクチネーション歴が不明の成犬(または16 週齢以上の子犬)についても、防御免疫応答を誘導するためにはコアワクチンを1 回接種すれば十分でする。(Mouzin et al. 2004, Mitchell et al. 2012)。
多くの製剤添付文書にはこのような場合、(子犬と同様に)2 回のワクチン接種が必要と記載されているが、この方法は根拠を欠き、また免疫学の基本原則に反しています。
しかし、ワクチン摂取の必要性については、血清学的検査で、ワクチンの効果を検査する必要性があります。
犬の狂犬病ワクチンの摂取間隔
狂犬病ワクチン再接種までの間隔は、法で定められていることが多いです。
国際的に入手可能な不活化狂犬病ワクチンは、当初承認されたDOI が1年であったため、年1 回の再接種が規定されていた。
現在多くの国で、これらの狂犬病ワクチンは3 年のDOI の認可を取得し、法律もそれに伴い改定されました。
しかし、国によっては法的要件がワクチンの認可条件と一致せず、ワクチンの認可内容と法律のいずれも変更されていない国もあります。
一部の国では、国内で製造され、DOI が1 年であり、それを安全上3 年に延長できない可能性が高い狂犬病ワクチンがあります。
犬用ワクチンに対する免疫をモニターするための血清学的検査
2010 年ガイドラインの発表以降に、個々の犬においてCDV、CAV およびCPV-2 に特異的な防御抗体の存在を検出できる、迅速で簡易な血清学的検査キットが普及してきています。
2 つの市販検査キットが入手可能であり、診療の場やシェルター環境で適用され、検証されている(Gray et al. 2012,Litster et al. 2012)。
このような検査キットは、飼い主に対して3 年間隔でのコアワクチンの定期的な再接種に替わる方法を提供できる反面、キットはまだかなり高価であり、残念ながら、現時点では検査にかかる費用のほうがワクチン接種よりも高いです。
成犬での判断
- 陰性の検査結果は、その犬にほとんど、または全く抗体がないことを示し、再接種が推奨される。
- 検査結果陰性の犬は、抗体を持たず感染症に対して感受性の可能性があるとみなすべきでる。
- 陽性結果はワクチン再接種の必要がないと判断されます。
CDV、CAV およびCPV-2 の血清学的検査は、子犬における防御免疫の評価、成犬におけるワクチン再接種間隔の判断に利用されます。
子犬での判断
- 血清反応陽性の子犬には26または52 週齢でのブースターは不要であり、次のコアワクチン接種を3 年後とすることができます。
- 血清反応陰性の子犬については、ワクチンの再接種と再検査を行います。
現時点で、子犬の免疫系がワクチン抗原を認識したことを確認する実用的な方法は抗体検査しかありません。
ワクチン摂取の効果が薄れる原因
子犬では、様々な原因で防御免疫が誘導されないことがあります:
(1)MDA がワクチンウイルスを中和した
これがワクチネーション失敗の理由として最も多いです。
最終接種が16 週齢以降に行われていれば、MDA は低いレベルまで低下している(Friedrich & Truyen 2000)
はずですので、ほとんどの子犬で能動免疫が成立します。
(2)ワクチンの免疫原性が低い
ワクチンの設計、製造から動物への投与まで、様々な要因によって免疫原性が低くなることがあります。
(3)動物がローレスポンダーである(その個体における免疫系が本質的にワクチン抗原を認識できない)
もし、接種を繰り返しても抗体応答が生じない場合、その動物は遺伝的ノンレスポンダーとみなされます。
他の動物種において免疫学的ノンレスポンダーは遺伝に支配されていることが知られており、犬でも特定の犬種はローレスポンダーであると考えられています。
1980 年代に特定のロットワイラーやドーベルマンで(ワクチン接種歴に関わらず)PCV-2 への高い感受性が認められたが、これはノンレスポンダーの割合が大きかったことが一因と考えられています。(Houston et al. 1994)
これらの犬種の中には、他の抗原に対して反応が弱いか全く反応しない個体もいます。
例えば、英国とドイツでは特にロットワイラーがCPV-2 に対してノンレスポンダーの表現型を有する割合が高いままであり、また最近の研究では、
この犬種は狂犬病の抗体価が旅行の際に必要とされるレベルに達しない割合が大きいことが明らかになっています(Kennedy et al. 2007)。
免疫持続期間(DOI)を確認するための血清学的検査
コアワクチン接種後のDOI を確認するためには、抗体検査を利用することができます。
犬ではそのほとんどでCDV、CPV-2、CAV-1 およびCAV-2 に対する防御抗体が長年にわたり持続することが知られており、多くの実験的研究がこのことを裏付けている(Bohm et al. 2004,Mouzin et al. 2004, Schultz 2006, Mitchell etal. 2012)。
そのため、犬に抗体が認められない場合には、接種しない医学的理由がない限りワクチンを再接種すべきです。
他のワクチン成分に対する抗体測定は、
抗体持続期間が短い(例えばレプトスピラ製剤)
抗体価と感染防御能との間に相関がない(例えばレプトスピラおよび犬パラインフルエンザ)
ためにほとんど、または全く価値がありません
(Hartmanet al. 1984, Klaasen et al. 2003, Ellis &Krakowka 2012, Martin et al. 2014)。
しかし、「エビデンスに基づく獣医療」の原則は、「安全で低コスト」という理由で単純にワクチンをブースター接種するよりも、検査で(子犬または成犬の)抗体の状態を確認することが理想です。
ワクチネーションのみに捉われない包括的な個別ケア
これまで、獣医診療はワクチンを年に1 回投与することによる恩恵を受けてきました。
ワクチン接種のために年に1回病院にペットを連れてくること で、疾患を早期に発見し、治療することを可能にし、さらに、その機会に犬や猫のヘルスケアの重要な項目について飼い主に情報を提供することができました。
残念ながら、多くの飼い主は年に1 回の来院の最も重要な理由はワクチンを接種することであると考えるようになってきました。
そのため、獣医師は、ワクチン 接種の頻度が減ると飼い主が年1 回の来院を控えるようになり、その結果としてケアの質が低下することを懸念してきました。
そのため、獣医師が、個々の動物に合わせた包括的な医療プログラムがあらゆる面で重要であることを強く示すことが必要です。
ワクチネーションに関する検討は、年1回の健康診断のための来院のごく一部に過ぎません。
定期的な(通常は年1 回)健康診断の際に、獣医師はその年のコアワクチンとノンコアワクチン接種の必要性を評価します。
動物のライフスタイルや感染症への曝露リスクを踏まえ、 利用可能なワクチンの種類、考えられるベネフィットとリスク、またその動物への投与の是非について検討します。
コアワクチンは毎年接種しなくてよいかもしれないが、ほとんどのノンコアワクチンは年1回の接種が必要です。
したがって、飼い主はペットにワクチンを毎年接種させ続けることになる。
様々な感染症の地域的な発症率とリスク因子についても検討します。
感染した場合にその影響を軽減する方法(例えば過密飼育の回避、栄 養状態の改善、感染動物の隔離)についても検討します。
ワクチネーションは、その動物の年齢、品種、 健康状態、環境(有害物質への曝露の可能性)、ライフスタイル(他の動物との接触)、旅行習慣などに基づいて個別に検討すべき包括的な予防的ヘルスケアプログラムの一部に過ぎないと考える。
年齢は個々の予防的ヘルスケアの必要性に対しても大きな影響をもちます。
子犬や子猫のプログラムは、従来ワクチネーションや、寄生虫コントロールおよび避妊・去勢に焦点が当てられていた。
幼少期に完全なワクチネーションを受けている高齢の犬や猫については、特別なコアワクチンの接種プログラムが必要というエビデンスは得られていない(Day 2010, Horzinek 2010, Schultz et al. 2010)
高齢の犬や猫でコアワクチンに対する免疫記憶が持続していることが血清抗体の測定によって判明したこと、またこの免疫記憶はワクチンの1 回接種によって容易に増強されることが、実験的な試験により示された(Day 2010)。
成熟した動物については、ほとんどのコアワクチン製剤(CDV、CAV およびCPV、FPV)の再接種に関する判断を、血清学的検査を利用して行うことができる。
ワクチン接種の代わりの代替法は、頻繁なワクチン接種に不安をもつ飼い主の解決、またこの代替法を「practice builder」(採算性の高い医療業務)として提供できます。
一方で、高齢の動物は、過去に遭遇したことがない新規抗原に対する初回免疫には効率的に応答しない可能性がある(Day 2010)。
旅行のために初めて狂犬病ワクチンを接種した犬と猫を対象とした英国の研究では、高齢の動物ほど法的に求められる抗体価が得られにくいことが明確に示された(Kennedy et al. 2007)。
ペットの居住環境は健康状態に大きな影響を及ぼすことがある。
危険因子を明らかにし、適切な予防策を講じるためには、年に1回の健康診断の際にこの評価を行う必要がある。
犬や猫が飼い主の見ていないときに他の動物とどの程度接触しているかを推定することによって、ノンコアワクチンの必要性を評価することができます。
犬舎、トリミングサロン、他の犬が集まる場所、樹木の多いダニの生息地域などを訪れる犬は、そのような場所を頻繁に訪れない犬よりも、特定の感染症に対するリスクが高い可能性があります。
ワクチン摂取について飼い主からよくある質問
コアワクチン接種後、犬に免疫が成立し、重度の感染症を防御できるようになるまでどのくらい時間がかかるか?
個体、ワクチン、感染症によって異なる。免疫応答は数分~数時間以内に始まり、移行抗体による阻害がない動物や高度の免疫抑制状態にない犬には、1 日以内で防御効果をもたらす。
CPV-2 およびFPV に対する免疫はわずか3 日で発生し、通常、有効なMLV ワクチンを使用すれば、5 日後には獲得される。これに対して、不活化のCPV-2 ワクチンおよびFPV ワクチンでは、防御免疫の成立までに2 ~ 3 週間あるいはそれ以上かかることが多い。
CAV-2 MLV の注射投与は、5 ~ 7 日でCAV-1に対する免疫を与える。一方、鼻腔内投与の場合は、2 週間以上経過しないとCAV-1 に対する同レベルの免疫は得られず、免疫が発生しない犬もいる。このため、CAV-1 への免疫には注射CAV-2 が推奨される。
防御免疫が発生しない動物もいるため、FCV およびFHV-1 に対するワクチン接種から免疫成立までの時間の判断は難しい。しかし、免疫が成立する場合には7 ~ 14 日かかる(Lappin 2012)。
子犬/成犬や子猫/成猫が適切にコアワクチン接種を受けた場合、どのような有効性が期待できるか?
適切なMLV または組換えCDV、CPV-2、CAV-2 ワクチンの接種を受けた犬は、98% 以上が疾患の発症から防御される。同様に、感染からも非常によく防御されることが期待できる。MLV ワクチンの適切な接種を受けた猫は、98% 以上がFPV の発症およびFPV 感染から防御される。高リスク環境での防御率は60 ~ 70% であると考えられる。他の猫から隔離されている飼い猫や、ワクチネーション済み猫と同居している長期間家庭内で飼育されている飼い猫では、ウイルスによる感染リスクが低く、またストレスレベルも低いため、防御率ははるかに高いようである。
レプトスピラワクチンを使用する際に、2 種類の血清型または3 種類以上の血清型どちらを含む製剤にするべきか?
レプトスピラワクチンを高リスクの犬に使用するときは、できる限り、その地域の犬に感染症を引き起こす血清型すべてを含む市販のワクチンを使用するべきである。
レプトスピラワクチンによって、コアワクチンのような長期(例えば数年)免疫が得られるか、また、コアウイルスワクチンのように高い効果があるか?
ない。レプトスピラワクチンでは得られるのは比較的短期の免疫である。また、一部のレプトスピラ製剤は臨床徴候を予防するが、とくにワクチン接種後6 ヵ月を超えて感染した場合には、感染や排菌を防御しない。ワクチネーション後の抗体持続期間はわずか数ヵ月であることが多く、防御免疫の免疫記憶は比較的短い(1 年など)。
狂犬病ワクチンの初回接種を受けた子犬が野良犬に噛まれた場合、曝露後の予防的投与を実施するべきか?
噛まれた子犬が適切な接種を受けていれば、狂犬病から防御されるはずである。PEP の反復は妥当ではない。このような子犬は既に複数回の接種を受けており、さらに投与を行っても追加的な利益は得られない。
狂犬病ワクチンとワクチンを同時投与(併用)してもよいか?
よい。ただし、製品の添付文書に特定の同時投与について明記されていない限り、これは「適応外」使用とみなされる。この2 つのワクチンを同時投与する場合の理想的な方法は、ワクチン抗原が異なるリンパ節に運ばれ、2 ヵ所で獲得免疫の刺激が行われるように、別々の部位に投与する方法である。
有害反応のリスクを減らすため、小型の品種には少なめの量のワクチンを投与してもよいか?
よくない。製造業者が推奨する用量(1.0 mL など)は、通常、免疫をもたらす最低用量であるため、全量を投与しなければならない。米国では、小型犬用に設計された製剤が新たに発売されている。この製剤の投与量は0.5 mL で設計されているが、従来の1.0 mL ワクチンとほぼ同程度の量の抗原およびアジュバントが含まれている。猫用の0.5 mL ワクチンも入手可能であり、この製剤でも減量されているのは(抗原やアジュバントの量ではなく)容量のみである。
大型犬(グレートデーン)にも小型犬(チワワ)にも同量のワクチンを注射すべきか?
すべき。用量依存性の医薬品とは異なり、ワクチンの用量は、体重(サイズ)ではなく、免疫を与える最低量に基づいている。
麻酔中の動物にワクチンを接種してもよいか?
過敏症反応や嘔吐が生じ、誤嚥のリスクが高まる可能性があるため、できる限りしない方がよい。また、麻酔薬は免疫応答を変化させることがある。
妊娠中のペットにワクチンを接種してもよいか?
添付文書に明記されていない限り、妊娠中に接種するべきではない。雌犬の繁殖期前に確実に(コアワクチン)の接種を終えることが最もよいが、繁殖期の雌犬の妊娠直前にコアワクチンを追加接種する必要はない。標準的なワクチネーションスケジュール(コアワクチンを3 年ごとに再接種)により、十分な防御免疫および子犬では初乳抗体が得られる。妊娠中に接種することは、可能な限り避けるべきである。
犬や猫にグルココルチコイドによる免疫抑制療法を行った場合、ワクチンによる免疫は阻害されるか?
犬と猫における研究では、ワクチン接種の前または同時にグルココルチコイドによる免疫抑制療法を行っても、ワクチンによる抗体産生の著しい抑制はないことが示唆されている。しかし、とくにコアワクチンの初回ワクチネーションと並行して治療を行った場合、グルココルチコイド療法が終了した数週間(2 週間以上)後に再接種することが推奨される。
がんまたは自己免疫疾患などに対して免疫抑制療法または細胞傷害性療法を受けているペットにワクチンを接種してもよいか?
よくない。とくに接種により発症する可能性があるため、避けるべきである。不活化ワクチンの接種は有効ではないことがあり、免疫介在性疾患を悪化させることもある。高用量シクロスポリンによる治療を受けた猫の研究において、治療中に追加接種したFPV ワクチンおよびFCV ワクチンに対する血清の応答に影響はなかったが、FHV-1、FeLV、および狂犬病に対する防御抗体の応答は遅延することが示された。
これに対して、治療を受けた猫では、FIV ワクチンを用いた初回ワクチネーション後における抗体の発現が見られず、シクロスポリン療法は初回ワクチネーションに対する免疫応答を阻害するが、免疫記憶は阻害しないことが示唆されている(Roberts et al. 2015)。
免疫抑制療法の中断から再接種まで、どのくらいの期間をあければよいか?
最低2 週間。
疾患のある犬、体温が上昇している犬、またはストレス下にある犬にワクチンを接種するべきか?
するべきではない。このような接種を行うことは、正しい診療行為ではなく、多くの添付文書に記載されている推奨事項に反するものである。
疾患リスクの高い動物には毎週ワクチンを接種してもよいか?
よくない。異なるワクチンを接種する場合でも、2 週間以上の間隔をあけて投与するべきである。
移行抗体のない子犬では、いつワクチネーションを開始するべきか?
診療施設において子犬に移行抗体がないことを確認するのは難しいであろう。これの確認には、子犬が初乳を摂取していないことを確実に知る必要があるからである。しかし、確認ができた場合は、4 ~ 6 週齢からコアワクチンの接種を開始することができる。特定のワクチンは子犬に疾患を引き起こす可能性があるため、ワクチンを4 週齢より前に投与してはならない。移行抗体がないことが確実な子犬であれば、6 週齢でワクチンを1 回投与すれば、十分な応答が得られる可能性がある。しかし、実際には、16 週齢で2 回目の接種を行った方がよい。
4 週齢未満の子犬に接種してもよいか?
よくない。4 週齢前後の子犬には移行抗体があり、ワクチンによる免疫系の刺激を阻害する。また、添付文書では、このような接種は推奨されておらず、さらに、このような若い子犬にワクチンを接種すると、安全上の問題が生じる可能性がある。
子犬および子猫のワクチネーションでは、最終投与をいつにするべきか?
16 週齢またはそれ以上で最終投与とする。
注射部位に消毒薬(アルコールなど)を使用するべきか?
使用するべきではない。消毒薬は製剤を不活化することがあり、利益がないことが分かっている。
ワクチンを1 回投与するだけでも、犬や猫に利益があるか?犬や猫の集団ではどうか?
ある。16 週齢以降に投与した場合、MLV 犬コアワクチン(CDV、CPV-2、CAV-2)またはMLVFPV ワクチンの1 回投与は長期免疫をもたらすはずである。16 週齢またはそれ以上のすべての子犬や子猫に、MLV コアワクチンを最低1 回は投与するべきである。猫呼吸器コアワクチン(FCV、FHV-1)の場合、2 ~ 4 週間隔をあけて2 回投与すると防御効果が最大になる。これができれば、集団免疫は著しく改善するであろう。ワクチン接種率が高い米国でも、ワクチンを一度でも接種されているのは、おそらく子犬の50% 未満、子猫の25% 未満であろう。集団免疫(75% 以上)を達成し、大流行を予防するには、集団内のより多くの動物にコアワクチンを接種しなければならない。
重度の栄養不良はワクチンに対する免疫応答に影響を及ぼすか?
及ぼす。ビタミンや微量ミネラル(ビタミンE、セレンなど)の重度欠乏症は、子犬における防御免疫応答の成立を阻害する可能性が明らかになっている。栄養不良が分かっているまたは疑われる場合、適切な栄養補充により是正してから、十分な防御免疫が得られるように、再接種するべきである。
子犬または子猫が初乳を飲めなかった場合、母親由来抗体(受動免疫)で防御されるか?
母親の抗体価にもよるが、生まれたばかりの子犬および子猫では、移行抗体(受動免疫)の約95%以上が初乳から得られるため、ほとんど、または全く防御されないであろう。初乳は生後24 時間までに腸管から吸収され全身に循環する。
子犬または子猫が初乳を飲めなかった場合、能動免疫を阻害する母親由来の抗体がないことから、生後数週間でワクチンを接種するべきか?
するべきではない。4 ~ 6 週齢に達していない子犬や子猫には、MLV コアワクチンを接種するべきではない。ある種の弱毒生ワクチンウイルスは、2 週齢未満でMDA のない子犬や子猫に投与すると、中枢神経系の感染や疾患を引き起こし、死亡させる可能性もある。これは、生後1 週間またはもう少し後までは、体温調節がほとんどまたは全くできず、自然免疫と獲得免疫のいずれも顕著に阻害されるためである。
初乳を飲めなかった若齢の動物は、どうすればコアの感染症から防御できるか?
生後1 日未満の子犬または子猫には、人工初乳を与えるとよい。人工初乳は、代用ミルク50%、免疫血清(母親または母親と同じ環境で生活し、十分にワクチン接種された他の個体のものが望ましい)50% から成る。生後1 日以上経過した子犬または子猫には、十分に免疫が成立している(感染症のない)成熟個体の血清を、皮下または腹腔内投与するか、クエン酸処理血漿を静脈内投与することができる。動物の体格にもよるが、血清または血漿約3 ~ 10 mL を1 日2 回、最長3 日間投与する。
犬のワクチン接種を終了してもよい時期はいつか?
現在推奨されているのは、コアワクチンでは、3 年以上の間隔で生涯接種を続けること、ノンコアワクチンを使用する場合は、1 年に1 回接種を続けることである。成犬については、コア感染症(CDV、CAV、CPV-2)に対する血清学的検査を実施して防御能を確認し、その動物には再接種をしない選択をすることもできる。現在、血清学的検査は3 年ごとの実施が推奨されているが、10 歳を超えた犬については、年に1 回行うべきである。定期的な狂犬病ワクチンの接種が法的に義務付けられている国も多い。
ワクチン接種を受けていない成犬には、どのようなプロトコールが推奨されるか?
MLV ワクチン(CDV、CAV-2、CPV-2)を1回投与するコアワクチネーションが推奨され、流行地域ではこれに狂犬病ワクチンを追加する。2回接種する必要はない。その後の再接種(またはCDV、CAV、CPV の血清学的検査)は3 年以上の間隔で行う。ノンコアワクチンは、個体のリスクとベネフィット(利益)を分析した結果に基づき選択する。ノンコアワクチンは2 ~ 4 週間隔で2回接種し、年に1 回追加接種を行う。
レプトスピラワクチンの接種歴が不明の成犬に対しては、どのようなワクチネーションプロトコールが推奨されるか?子犬と同様、2 ~ 4 週間隔での2回接種か?
子犬と同様である。このような成犬には、2 ~4 週間隔で2 回接種し、その後は年に1 回追加接種を行う。
血清抗体価は、ワクチンで誘導された免疫の判定に役立つか?
役立つ。とくに犬のCDV、CPV-2、およびCAV-1、猫のFPV、猫と犬の狂犬病ウイルス(法的義務として)には役立つ。他のワクチンについては、血清抗体価の有用性は限られているか、まったくない。いずれのワクチンに関しても、様々な技術的、生物学的な理由から、CMI の検査の有用性はほとんどないか、まったくない。血清学的検査においては、多くの変数でコントロールがはるかに容易であるため、CMI の場合のような要因が問題になることは少ない。ただし、検査センターの品質保証プログラムによっては、依然として、矛盾する結果が得られることがある。
定期的な狂犬病抗体検査を推奨しないのはなぜか?
多くの国において、抗体価検査の結果に関わらず、犬と猫の定期的狂犬病ワクチン接種が法的に義務付けられているため、多くの獣医師にとってこの質問から生じる実際的な影響はほとんどない。狂犬病抗体検査は、ペットの海外渡航に関連する特定の場合にのみ必要となる。国際的に使用されている狂犬病ワクチンの有効性は高く、一般的には、接種後の免疫を検査する必要はないと考えられている。
ワクチン接種を終えた子犬/子猫において、重度の疾患に対する防御には高抗体価が必要か?
CDV、CAV-2、CPV-2、およびFPV については必要ない。(抗体価に関わらず)抗体の存在は、防御免疫が得られていることを示し、また、免疫記憶もある。抗体価を上昇させることを目的として、より頻繁なワクチン接種を行うことには意味がない。抗体価を上昇させることで「より強い免疫」を成立させることは不可能である。
犬に年1 回のワクチン接種を行う代わりに、検査を実施してもよいか? 3 年に1 回のみの追加接種では心配である。
もちろん、してもよい。現在、CDV、CAV、CPV-2、およびFPV に対する血清防御抗体を検出できる、よく検証された院内用血清学的検査キットが利用できる。これらのキットを使用して、3 年ごとに(コア感染症に対する自動的な再接種の代わりに)防御能を確認している国もある。血清学的検査を年1 回実施することはできるが、院内でデータを収集、分析すれば、年1 回の検査に妥当性はないことがすぐに分かるであろう。
ワクチン接種後の3年間で抗体価はどのように変化するか?
CDV、CAV-2、CPV-2、およびFPV の抗体価は一貫して同程度で推移する。このことは、最長で9 年前にワクチン接種を受けた野外の犬で多くの血清調査を実施した結果、また、最長で14年前にワクチン接種を受けた犬で実施した試験の結果から示されている。レプトスピラに対する抗体価は接種後急速に低下するのだが、この抗体価と防御能の間に強い相関はない。FCV に対して最も重要な免疫タイプは粘膜免疫、FHV-1 では細胞免疫であるため、FCV とFHV-1 では血清抗体価の重要性は低い。
ワクチンの過剰接種(過剰な頻回接種、また特定のペットに不必要なワクチンを使用する)リスクはあるか?
ある。有害反応を引き起こす可能性があるため、ワクチンは不必要に投与するべきではない。ワクチンは個々の動物のニーズに合わせて使用するべき医薬品である。
有害反応を起こしたことがある犬や猫、または免疫介在疾患(膨疹、顔面浮腫、アナフィラキシー、注射部位肉腫、自己免疫疾患など)の病歴のある犬や猫にワクチンを接種するべきか?
有害反応を発現したと考えられるワクチンがコアワクチンの場合、血清学的検査を実施し、動物が抗体陽性(CDV、CAV、CPV-2、FPV に対する抗体)であることが分かった場合には、再接種は不要である。ワクチンが任意のノンコアワクチン(レプトスピラ、ボルデテラバクテリンなど)の場合、再接種は行わないことを勧める。狂犬病については、地方当局に相談し、狂犬病ワクチンの投与が法的に必須なのか、または抗体価を代用としてもよいかどうかの判断を受けなければならない。ワクチン接種が絶対に必要な場合には、製剤(製造業者)の変更が有用かもしれない。しかし、過敏症反応は、ワクチンに混入する添加物(ウイルス培養工程で使用する微量の牛血清アルブミン)と関連することが知られており、この添加物は多くの製剤で共通しているため、この方法が常に成功するとは限らない。抗ヒスタミン薬またはグルココルチコイドの抗炎症用量の接種前投与は容認でき、ワクチンの免疫応答を阻害しない。有害反応のリスクが高い動物に再接種した場合は、ワクチン接種後最長24 時間、注意深くモニタリングするべきであるが、このような反応(I 型過敏症)は通常、接種後数分以内に生じる。他のタイプの過敏症(II 型、III 型、IV 型)はかなり時間が経過してから生じることがある(数時間~数ヵ月)。
小型犬は有害反応を発現することが多い。これを避けるため、ワクチンの用量を減らすことはできるか?
できない。医薬品とは異なり、ワクチンの用量は体重1kg 当たりのmg では計算されていない。効果的に免疫を刺激するには、全抗原量が必要である。小型犬への接種に際して、ワクチンの用量を分割したり、減量したりしてはならない。米国では小型犬用に設計された新たな製剤が発売されている。この製剤の投与量は0.5 mL で設計されているが、従来の1.0 mL ワクチンとほぼ同程度の抗原量およびアジュバント量が含まれており、小型犬における有害反応の頻度を顕著に低下させる可能性は低い。
ワクチンは自己免疫疾患を引き起こすか?
ワクチン自体は自己免疫疾患を引き起こさないが、遺伝的素因のある動物では、自己免疫応答を誘発し、疾患の発生が認められることがある。これは、感染症、薬剤、または他の様々な環境因子でも同様である。
ワクチンによる有害反応はどの程度多いのか?
正確なデータを得るのは難しいため、この質問に対する明確な答えはない。現在では、われわれが使用するワクチンの安全性は極めて高く、有害反応の発現率は極めて低いことが認められている。有害反応の発現リスクよりも、重篤な感染症予防のベネフィット(利益)の方がはるかに勝っている。近年行われた米国にある大型の病院グループのデータベース解析により、非常に多くのワクチン接種済みの犬や猫のデータが公表された。
ワクチン接種済みの犬10,000 頭中38 頭において、接種後3 日以内に有害反応(非常に軽微な反応も含め、あらゆるもの)が記録されていた(Moore et al. 2005)。
ワクチン接種済みの猫10,000 頭中52 頭において、接種後30 日以内に有害反応(非常に軽微な反応も含め、あらゆるもの)が記録されていた(Moore et al. 2007)。
しかし、当該診療施設には報告されず、他の診療施設や救急診療施設に報告され、そこで治療を受けたと考えられる症例もある。一部の犬種やペットの家系は、一般的な動物の集団よりも、有害反応発現のリスクが高いと考えられる。
ワクチンへの免疫応答が生じない犬や猫はいるか?
いる。これは、とくに一部の品種に認められる遺伝的特性であり、このような動物は「ノンレスポンダー」と呼ばれる。遺伝的関連のある(同じ家系または同じ品種の)動物が、しばしばこの特性を共有する。犬パルボウイルスや猫汎白血球減少症ウイルスのような、極めて病原性の高い病原体に対するノンレスポンダーの場合、動物は感染すると死亡することがある。ほとんど致死的ではない病原体の場合は、病気にはなるが生存するであろう(Bordetella bronchiseptica感染後など)。
子犬のコアワクチン初回ワクチネーションの後に、免疫抑制は生じるか?
生じる。
MLV-CDV およびMLV-CAV-2 が他の成分と混合されている製剤を用いる場合、ワクチン接種の3 日後から始まり、約1 週間持続する免疫抑制が生じる(Strasser et al. 2003)。
この免疫抑制はワクチンに対する通常の応答の一部であり、このために臨床的な問題が生じるとしてもまれである。MLV-CDV もMLV-CAV-2 も含まれない場合は、このような免疫抑制は生じない。
すべての子犬にコアワクチン(CDV、CPV-2、CAV-2)を投与するべきであるが、免疫抑制を避けるにはどうすればよいか?
CDV とCPV-2 を含む2 種混合ワクチンを子犬に注射し、その後にCAV-2 を投与することができる。
レプトスピラに対する免疫応答はある種の犬に過敏症反応を引き起こすが、これはレプトスピラ感染後の免疫が短期間(例えば1 年未満)しか維持されないのと同様に、短期間しか維持されないのか?
長期間維持される。比較的短期間しか維持されない(1 年以内)免疫やIgG 記憶とは異なり、即時型過敏症の免疫記憶は長期間維持される(4 年以上)ことが、皮内反応試験の結果から分かっている。
ワクチンに対する軽度のアレルギー反応の治療にステロイド剤を使用することはできるか?
できる。顔面浮腫や掻痒などの反応は、抗炎症用量(免疫抑制用量ではない)グルココルチコイド(プレドニゾロンなど)や抗ヒスタミン薬を単独または併用して治療することができる。
ワクチンにより皮膚血管炎が引き起こされることを示す証拠はあるか?
ある。極めてまれではあるが、とくに狂犬病ワクチン接種後の有害反応として認められている。
犬の場合と同様に、猫でもワクチンに対する皮膚アレルギー反応の徴候が見られるか?
見られる。猫でも犬と同様、接種後にI 型過敏症と同様の症状(顔面浮腫、皮膚掻痒など)が見られることがある。
狂犬病ワクチンによる過敏症の症例が以前より増えているのはなぜか?また、トイプードルで多く見られるのはなぜか?
過敏症反応は、どのワクチンでも起こる可能性がある。現在では、最も多く過敏症反応の原因となる抗原は、製造工程でワクチンに混入する牛血清アルブミン(BSA)であることが分かっている。製造業者は現在、動物用ワクチン中のBSA 濃度を低下させている。
過敏症反応は多くのトイ品種でより頻繁に見られるが、この品種は多くの国でとくに人気の品種となっている(Miyaji et al.2012)。遺伝的に発現しやすいものと考えられるが、十分には解明されていない。
年1 回のワクチネーションには、有害反応の(非常に低い)リスクの他に、どのようなリスクがあるか?
ワクチネーション後における有害反応のリスクは、実際には比較的低い。このリスクは、ワクチン接種を受けた犬で10,000 頭中約30 頭、猫では10,000 頭中約50 頭であり、そのほとんどが非重篤の反応(一過性の発熱、嗜眠、アレルギー反応など)である。しかし、来院した動物において重篤な反応が発現した場合、難しい状況になる。新たなガイドラインを導入することは、単に有害反応リスクを最小限に抑えるためだけではなく、より優れた診療、根拠に基づく動物治療を行い、必要なときにのみ医学的処置(つまりワクチネーション)を実施するためでもある。
遺伝的に免疫応答が弱い犬(ロットワイラーなど)がいるが、このような品種にはどのようなワクチン接種を行うべきか?
WSAVA のガイドラインには、ノンレスポンダーの犬の特定に有用なフローチャートが掲載されている。子犬には必ず同様のワクチネーション(16 週齢以降に最終投与)を必ず実施するべきであるが、品種や免疫応答の不足について懸念がある場合は、20 週齢で血清学的検査を実施するべきである。ほとんどのノンレスポンダーにおいて、抗体陽転が認められないのは、コアワクチン抗原(CDV、CAV、CPV-2)のうち1 種類のみである。再接種や再検査をすることもできるが、確実にノンレスポンダー(または応答不足)の犬では、再接種に対する応答も認められない。このような犬には、その抗原に対して応答する免疫能が欠如しており、そのワクチン成分に応答することはない。そのような犬にはリスクがあり、繁殖用としては使用しないのが望ましい。
ワクチネーションのリスクとベネフィットどのように分析するべきか?
すべての犬と猫(生活環境や飼育方法に関わらず)について、コアワクチンの接種(流行地域における狂犬病ワクチンなど)は義務であると考えられているため、リスクとベネフィットの分析が適用されるのは、ノンコアワクチンの選択についてのみである。
リスクとベネフィットの分析は、飼育環境、屋内と屋外へのアクセス、旅行や宿泊の頻度、他の動物との接触(複数のペットがいる家庭など)について、飼い主から聴取した内容に基づき、個々の動物について行う。
考慮するリスクには、
- ワクチン接種後の有害反応のリスク
- 不必要な医療行為を行うリスク
- 地域における疾患の流行について得られている科学的知識に基いた、感染性病原体により動物が感染するリスク
- 感染後に臨床症状が発現するリスク
がある。
考慮するベネフィットには、
- ライフスタイルまたは地理的位置を考えて、感染性病原体に曝露する可能性が高い場合、ワクチン接種により動物が感染から防御される
- 動物が感染した場合に、臨床症状がワクチン接種により軽症化する
- ワクチン接種した動物が集団免疫に寄与する
がある。