獣医師解説!犬の狂犬病〜症状からワクチンの必要性〜

    狂犬病(Rabies)は「人と動物の共通感染症(人獣共通感染症)」としてほほ世界中で発生しています。

    1958年以降,国内での自然発生はなく、最近は「輸入感染症」としての脅威がクローズアップされています。

    犬を介して人に伝播する危険性が高いために国内で飼育されている犬はすべて「狂犬病予防法」によって管理されており、狂犬病ワクチンの毎年接種が義務付けられています。

    犬の生命を守るためだけでなく、伴侶として生活を共有している飼い主のためにもあります。

    この記事を読めば、犬の狂犬病の症状からワクチンの必要性までがわかります。

    限りなく網羅的にまとめましたので、犬の狂犬病ついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
    ✔︎本記事の信憑性
    この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
    論文発表や学会での表彰経験もあります。

    記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

    » 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

    ✔︎本記事の内容

    獣医師解説!犬の狂犬病〜症状からワクチンの必要性〜

    犬の狂犬病の病原体

    犬の狂犬病の病原体

    モノネガウイルス目、ラブドウイルス科、リッサウイルス属、狂犬病リッサウイルス

    犬の狂犬病の疫学

    犬の狂犬病の疫学

    世界の発生状況

    『人と動物の共通感染症』としてほぼ世界中で発生しています。

    日本、北欧三国、英国、オーストラリア、ニュージーランドおよび太平洋上の島国などの約10カ国のみが過去10年間未発生の地域として知られています。

    1年間に人で30,000 ~40,000 件,その55%がアジア地域,残りの45%がアフリカ地域で発生しています。

    15分に約1人が狂犬病で死亡しその40%は15歳以下の子供です。

    動物では50,000 ~ 60,000件とされていますが、実際にはその数十倍ではないかと推計されています。

    日本と狂犬病

    国内では古代から狂犬病らしき病気が存在し、江戸時代には国内に度々侵入して大流行を繰り返していたとされています。

    狂犬病に関する公式な統計数値は1897年以降で、1923-1925年には約9000頭の犬が罹患しています。

    日本では1920年代に年間およそ3千500人が犠牲になったが、1950年の「狂犬病予防法」施行により激減しました。

    野犬の管理や飼い犬の予防接種が励行されるようになり、1956年の1人(犬は6頭)、1957年の猫の1例を最後に国内での感染例はない。

    しかし1970年にネパールで野犬に噛まれ帰国後に発症した邦人の1例。

    2006 年 11月にはフィリピンで犬に噛まれ帰国した邦人の発症・死亡例が2例続けて起こっています。

    2020年5月22日、愛知県豊橋市で、市内の病院に入院中の患者が狂犬病と診断され、死亡しています。

    現在、狂犬病は輸入感染症です。

    犬の狂犬病の分類:都市型と森林型

    犬の狂犬病の分類:都市型と森林型
    発生形態から,犬を介する都市型と野生動物を介する森林型に分類されます。

    都市型

    中南米、アフリカ、アジア地域の発生形態で、犬の狂犬病が管理されておらず、人の住環境にいる動物が感染しており、発症動物の咬傷により人へ感染します。

    そのうち80 ~99 % に犬が関わっています。

    森林型

    ヨーロッパや北米地域の発生形態で、野生動物には狂犬病が存在するが、人の住環境内における犬の狂犬病は管理されている。

    飼い犬や猫が,野生動物から狂犬病ウイルスを持ち込んできます。

    狂犬病流行の要となっている動物種は犬であるが国と地域によっては特徴的な病原巣動物が存在します。

    • ヨーロッパ アカギツネ、タヌキ
    • 北米 アライグマ、スカンク、コウモリ
    • 南部アメリカ、中南米、吸血コウモリ
    • アフリカ ジャッカル、マングース
    • この中でもコウモリの重要性は高いです。

    狂犬病の基本再生産数(basicreproduction number,Ro: 1感染個体が次に平均いくつの個体に感染拡大するかを示す数値)は2前後と推計されています。

    したがって、十分に宿主動物が生息する地域では、狂犬病を放置すると感染は拡大する。

    日本で狂犬病が撲滅できた理由のlつとして、野生動物にウイルスが拡散しなかった点が大きいです。

    もし拡散した場合は,野生動物への狂犬病対策には困難が伴うことが考えられます。

    犬の狂犬病の宿主

    犬の狂犬病の宿主
    人を含むすべての哺乳類が感受性です。

    しかしその感受性には動物種差があります。

    キツネ、イタチ、オオカミ、コヨーテ、げっ歯類動物の方が、猫、アライグマ、スカンク、ウサギよりも感染・発病しやすいとされています。

    人、犬、ウマ、ウシは感受性がさらに低いです。

    2000年の「狂犬病予防法」の改正により、通関する際の検疫対象動物として犬1種に加えてウイルス感受性の高い猫、アライグマ、キツネ、スカンクにも拡大しています。

    犬の狂犬病の感染経路

    犬の狂犬病の感染経路
    特に犬による咬傷が主たる侵入経路です。

    唾液中に含まれるウイルスが直接体内に侵入します。

    ウイルスが混入しているエアロゾルによる気道、眼、口からの感染、胎盤感染、臓器移植による感染などの報告があります。

    犬の狂犬病の感染の特徴

    犬の狂犬病の感染の特徴

    1. 潜伏期が長い (1週間~1.4年間、平均1カ月)。
    2. 中枢神経系組織にウイルスが到達しないようにすれば致死的ではない。
    3. 神経症状を発症した人と動物の致死率はほぼ100%である。

    発症機序

    現在最も支持されている狂犬病ウイルスの体内伝播経路は以下です。

    1. 侵入部位の非神経細胞で増殖後に、運動神経などの末梢神経組織に侵入
    2. 神経軸索流を介して増殖しながら神経を上行(そのスピードは一説によると1日に数mm~数十mm)
    3. 脊髄交感神経節に到達し、脊髄、脳幹、海馬神経細胞等で増殖、中枢神経組織内へ拡散
    4. ウイルスの複製により主に機能的障害
    5. 発症の数日前には唾液腺に移行、増殖し、ウイルス排出

    ポイント

    血流を介してはほとんど拡散しないと考えられています。

    人では咽喉頭麻痺による嚥下障害が起き、犬では狂操状態となり攻撃性が高まります。

    唾液腺以外にも網膜、角膜、舌、腸、 膵臓、副腎、筋肉、皮膚などの神経細胞にもウイルスが拡散します。

    犬の狂犬病の臨床症状

    犬の狂犬病の臨床症状

    発症した犬の80-85%が狂躁型を呈します。残りは麻痺型です。

    典型的な犬の狂犬病(狂燥型)の経過は以下のとおりである。

    1. 潜伏期:1週間-1.4年間、平均1カ月。
      最初のウイルス侵入部位と中枢神経組織までの距離が離れているほど潜伏期が長い傾向がある。
    2. 前駆期:食欲不振、元気消失、情緒不安定,光を忌避するなどの行動異常が1 - 2 日間つづく。
    3. 発病期:興奮状態が2-4日間
    4. 麻痺期:意識不明状態が1-2日間
    5. 死亡

    犬の狂犬病の診断

    犬の狂犬病の診断

    流行地において、ワクチン未接種の動物が発症している場合は狂犬病を疑います。

    特に、被害を受けた人の速やかな救済のため、人を攻撃したなどの加害動物は捕獲、診断に使用します。

    加害動物が無症状の場合は少なくても2週間観察し、その間に発症がなければ、例え狂犬病ウイルスに感染していても、噛んだ時点では唾液中にウイルスが存在していないとみなすことができます。

    (唾液中へのウイルス排出は、発症の数日〜1週間前から始まる)

    犬での検出率は66~93% といわれていますが、病原学的検査、病理組織学的検査を実施します。

    犬の狂犬病の治療

    犬の狂犬病の治療

    動物

    発症した動物は治療の対象ではありません。

    人の場合、狂犬病の発生地域において動物に噛まれた、あるいは室内に侵入してきたコウモリの尿に触れたなどのエピソードは狂犬病ウイルスに暴露した可能性が高いです。

    直ちに、最寄りの公衆衛生機関に届け出て、必袋な処置(暴露後免疫療法)を受ける必要があります。

    流行地域においては、動物咬傷にしても、動物との接触方法にしても、日本にいる感覚で不用心・無警戒に対応すると取り返しのつかないことになります。

    曝露後免疫療法

    加害動物が狂犬病ではなかったことが判明する前に、曝露後免疫療法を開始する。

    完遂するのに3カ月必要ですが、ウイルスが中枢神経系に到達するまで時間があるため、その間に免疫バリアを構築可能で、本法の有効性は高いと評価されています。

    北米では、この治療を動物病院勤務者が受ける機会が一番多いです。

    発症後の治療は難しいが、ミルウオーキープロトコルと呼ばれる免疫+抗ウイルス療法が奏功した事例もあります。

    犬の狂犬病の予防

    犬の狂犬病の予防

    家畜や伴侶動物の狂犬病予防の目的は、動物の感染を減少させ、人への脅威を減らすことにあります。

    もちろんその過程で動物の被害も減少します。

    動物において感染予防効果を上げるにはワクチン接種による免疫が一番有効です。

    特に人への狂犬病暴露の99%は犬に起因することから、飼い犬へのワクチン接種は飼い主の義務です。

    犬の狂犬病ワクチン

    犬の狂犬病ワクチン

    過去には感染ヤギ脳由来不活化ワクチンを犬の予防接種に使用していました。

    しかし、投与動物におけるアレルギー性脱髄脳炎の副作用のために細胞培養由来不活化ワクチンに変更されています。

    国内で飼育するすべての犬に対し年1回の接種が法律で義務付けられています。

    米国では州によっては3年ごとの接種とするところもあり、その場合は3年間の免疫持続期間を有する狂犬病ワクチンが使用されています。

    国内で市販されているワクチンは猫にも接種可能であるが、国内で猫を飼育するにあたってのワクチン接種義務はありません。

    日本では「狂犬病予防法」によって生後91日を経過した犬の飼い主は、その犬を所有してから30日内に市町村に犬を登録し、狂犬病の予防注射を受けさせて注射済票の交付を受けることが義務付けられています。

    法律上は、登録されていない犬、狂犬病の予防注射を受けていない犬、鑑札や注射済票を装着していない犬は捕獲の対象となります。

    その場合、飼い主には20万円以下の罰金が科せられます。

    法的には、役所で渡される鑑札や注射済票は首輪などに取り付けて常に愛犬に装着させておく決まりになっています。

    犬・猫の出入国に関して

    犬・猫の出入国に関して

    犬や猫と一緒に国外に出かける場合は事前に訪問先の外交機関に問い合わせることを勧めます。

    検査法や証明書発行などは世界同一ではないので先方の事情に合わせなければなりません。

    国によってはレプトスピラ (犬)などに対する抵抗力の証明やマイクロチップによる識別も求められることがあります。

    農林水産省動物検疫所のホームページなども参考に、出入国に関する注意点を予め調べておく必要があります。

    一般的な犬等の輸入検疫制度によれば、狂犬病に関してはワクチン接種済み証明書と、0.5単位(IU) /mL中和抗体の保有証明書が必要です。

    ワクチン摂取と抗体測定、証明書発行には時間がかかりますので、早めの準備が必要です。

    犬の狂犬病予防接種の重要性

    犬の狂犬病予防接種の重要性

    現在日本国内には狂犬病が存在していないのにも関わらず、狂犬病予防法や家畜伝染病予防法によって動物の管理が徹底されています。

    特に犬のワクチン接種に閲しては議論のあるところであるが、もし免疫抵抗性のない犬集団に狂犬病ウイルスが侵入してきた場合、病気の感染拡大を阻止することは難しいです。

    狂犬病のRoが2である為、全体の80%以上のワクチン接種率で感染拡大を阻止可能であり、最低でも70%の接種率が求められます。

    厚生労働省 によると平成28年度末の犬の登録頭数は約645万 頭、狂犬病ワクチン接種頭数は約460万頭で接種率にして71.4%です。

    しかし、一般社団法人ペットフー ド協会のデータによれば、平成28年度の国内犬飼育頭数は約987万頭と推計されており、実際の接種率は 46.7%となります。

    日本のように野犬捕獲業務が励行されている地域では、国内にいる犬の全体の 30%以上のワクチン接種率で流行の拡大を70%防止できるといわれています。

    野生動物間に狂犬病が流行している欧米諸国では、狂犬病の淘汰が難しい状況である為、万が一の場合に備えて今後も 狂犬病予防法の遵守と徹底が必要です。

    ただし人間用も含めた他のワクチンと同様、副反応(副作用)のリスクは存在します。

    農林省関連団体のデータでは、年間20件ほどの死亡例が報告されています。

    400万頭以上が接種しているため死亡リスクは非常に低いと言えますが、その他一過性の副反応も起こる場合があるため、

    予防接種を受ける場合には愛犬の体調などに充分注意するのが安心です。

    このワクチンは犬も勿論ですが、人にも感染する病気で、致死率も100%に近いことから人のためのワクチンでもあります。

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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