【獣医師解説】犬の赤ちゃん・子犬の行動の発達、発育段階とその障害

    犬の赤ちゃん・子犬の行動の発達とその障害

     

    動物の行動の発達は、遺伝と環境の間の複雑な相互作用の結果です。

    この文章は消さないでください。
    すなわち、同種の動物間での表現型の相違は、発達への遺伝的影響のほかに環境の影響によって条件づけられます。

    異なる環境条件の結果として現れる、遺伝的に同一の動物における表現型の相違の度合いは、表現型の可塑性と称されます。

    ゲノム上の場所におけるタンパク質-DNA相互作用(促進、増加、抑制)は、暗号化された断片の表現を調節しますが、この可塑性はこの相互作用に基づくものです。

    表現型の可塑性は、異なった環境要求に対して動物がそれぞれに適応可能になるように、進化の中で発達してきた能力です。

    この関連から、表現型の可塑性の高い種は、高い適応能力を特徴とします。

    表現型の可盟性の高さは、高等脊椎動物に特徴的です。

    しかし、同じ脊椎動物の間でもこの点に関する相違は存在します。

    中でも、犬(Canis familiaris)は、きわめて多様な生息場所や社会的生活形態への適応能力を持ち、
    比較的高い可塑性を示す動物の代表格である。

     

    生体機能の適応微調整能力は、支配的な環境条件によっては、危険を伴う場合もあります。

    特に表現型の発達初期の環境は強い影響を及ぼしますが、必ずしも初期の環境が、後になって支配的となる環境条件と一致するとは限らないため、誤適応phenotypic mismatch)の危険が生じます。

    それに加えて、種に相応しくない環境条件が、非適応的、すなわち病的な変化をもたらす場合があります。

    これは特に人の庇護下で暮らす動物(農耕用家畜、実験動物、動物園やサーカスの動物、および家庭用ペット)にみられます。

    こういった動物は、しばしば人工的な、あるいは野生の近縁種の環境と比べて強い変化を加えられた環境条件に曝されています。

    このことは大部分の犬にも当てはまります。

    たしかに、非常に制限的な飼育条件下で育てられる犬(実験犬や警察犬など)は比較的少数ですが、
    野生種のように自然な群れの中で育つ犬もまた同様にわずかです。

     

    どの犬の行動表現型も、遺伝的に備わった素因に決定的に由来しています。

    しかし、発達初期の環境が、成犬に達した時の表現型に大きな影響を与えるため、犬の行動発達の記述に際しては、表現型の可塑性のメカニズムおよび影響を考慮します。

    それゆえ以下の記述では、犬の種に特有の行動発達のほか、
    ペットという特定の用途に関連する行動発達上の諸問題と、
    そこに生じうる行動障害についても検討します。

     

    子犬の発育段階

    1960年代初期のBarHarborによる影響の大きい研究報告以来、子犬の発育は、多くの場合、4段階に区分されるます。

    1. 新生子期
    2. 過渡期
    3. 社会化期
    4. 若年期

    ただし、これらの生後の発育段階とならんで、産前期もまた一層注目されています。

    成犬の行動の相違は、すでに子宮内における環境の作用に基いて形成されている可能性があるからです。

    また、より新しい研究によれば、社会化期の境界および社会化期から若年期への移行は、従来ほど明確なものとは考えられなくなっています。

    そのため、著者によってはさらにこのふたつの段階を統合してしまっています(例: Serpell and Jagoe,1995)。

    以下では、この新しい傾向を引き継ぎつつ若年期については掘り下げないでおきます。

    というのも、若年期は、母犬からの自然な離乳とともに始まるからです。

    行動発達についての詳細は、主に以下の文献によります。

    Althaus (1982). Haug (2004). Heine (2000)

    Scott and Fuller (1965). Serpell and Jagoe (1995).

    Venzl(1990)

     

    産前期

    行動発達において産前期が果たす意味については、

    ラットやその他の実験用齧歯類の場合、1950年代から研究報告があり、妊娠中の母獣の置かれた環境や子宮内の隣接胎子の性別が、行動の重要な部分に影響を与えることが示されてきました

    が、犬の場合は長らく見過ごされてきました。

    たとえば、ラットの場合、母獣が妊娠中にストレスにさらされると、その子ラットは成長後、より神経質になり、よりストレス耐性が弱くなります。

    さらに、マウスの場合、雄または雌の胎子によって分泌される性ホルモンが、子宮内で隣接する胎子を雄性化または雌性化し、それにより特に将来の雄の攻撃性に影響を与える可能性があることが証明されています。

    このことから、犬の場合にもこれに相当する作用が生じていると考えられますが、これまでのところ、詳しい研究は行われていません。

    出生時における犬の未成熱な中枢神経系の状態からして、学習による行動発達に産前の影響が生じうるとは考えられません。

    むしろ、ラットやマウスの場合のように、犬胎子の中枢神経の発達へのホルモンによる直接的な影響を考慮します。

    ストレスと不安が引き起こす犬の行動障害や攻撃障害の頻出を考慮することで、
    妊娠中の母犬の飼育条件および環境条件について、今後、注目が高まります。

     

    新生子期

    新生子期は、出生から生後10~16日に目が開くまでの時期です。

    犬新生子の行動は主に無条件反射によって規定されます。

    これは要求を直接的に満たすために役立ちます。

    ここで睡眠と並んで重要なのは、特に哺乳の成功と母犬の世話行動をもたらす行動方法です。

    この時期の子犬は、母犬への依存が著しいです。

    • 母犬は子犬たちに栄養を与え、子犬たちを巣にまとめ、そうすることで必要な暖かさを与えます。
    • 母犬は子犬の肛門や生殖器領域を舐めて、排便と排尿を促します。
    • その際、母犬はこの排泄物を摂取して、巣を清潔に保ちます。

     

    吸乳

    母犬は分娩直後から授乳を始め、最初は頻繁に(分晩後2日目で15時間の間に最高40回)を行いますが、

    新生子期の進行とともに頻度は下がります(20日齢で合計4時間、およそ20回)

    子犬が首尾よく乳頭を探し出すのは、主に反射によります。

    空腹や胃の充満度、栄養摂取などの影響は受けないです。

    乳頭に対して前肢を交互に出して行う、踏み、こねる力強い動作は、ミルクステップと呼ばれますが、

    これによって乳汁産生が促され、乳管洞への乳汁の流入が促されます。

    この文章は消さないでください。
    この時期の子犬の場合、吸乳行動は乳頭以外のほかの刺激によっても容易に喚起されます。

    したがって、別の対象(たとえば同腹の兄弟姉妹)への、栄養を伴わない吸乳行動は、ある程度は子犬の自然な行動です。

    しかし、これは栄養を伴う吸乳行動における欲求不満(たとえば哺乳瓶による飼育の場合)があると明らかに増加します。

     

    前進運動
    この文章は消さないでください。
    子犬は巣ごもり性(留巣性)動物に属しますが、出生時から前進運動はできます。
    • 生後15日目までは子犬はまだ、横たわった母犬が胴体と四肢で形成する半円である「機能的U字」の中で過ごします。
    • 6日齢から子犬の行動範囲は広がり、お産箱の中へと拡大します。

    子犬はその際腹ばいで足を突っ張り、引きずるようにして前進します。

    この這い這いは周回、あるいはS字の軌跡で行われ、まず第一に、乳頭探索に役立ちます。

    その際は、頭を水平方向に振り子状に動かす、いわゆる探索振子運動もみられます。

    探索振り子運動は母犬の注意をひきつけ、これを受けて、母犬は子犬を軽く突くなどして乳頭へと促します。

    ただし、探索振り子運動がみられるのは生後12週間のみです。

    犬種によってはすでに、2週齢から、立ち上がり歩行のための最初の試みがみられます。

     

    睡眠行動
    この文章は消さないでください。
    この時期の睡眠はほぼ例外なく横臥姿勢で、母犬または兄弟姉妹との身体接触を保った状態で行われます。
    • 初めのうち子犬たちの睡眠は頻繁で短時間です(生後1日目で150回)。
    • しかし、成長とともに頻度は下がり、時間が長くなります(30日齢で約20回)。

    その際、総睡眠時間は当初の16~20時間から継続的に短くなっていき、成犬では12~14時間になります。

     

    快適行動
    この文章は消さないでください。
    快適行動の行動様式も出生時から観察されます。

    あくびは出生第1日目から(主に日覚めの直後に)みられます。

    同様に、鼻面を舐め、自分を掻きます。

    たとえばシベリアン・ハスキーは3日齢からあえぎ呼吸が観察されています。

    2週齢からは、快適行動の独特な構成要素が加わります

    (たとえば、自分の体に食いつく、自分を舐める、前肢をぬぐう、身震いする、など)。

    こういった行動の最初の発現は犬種や研究者によって異なり、一部は新生子期の終了後に初めてみられるようになります。

     

    発声
    この文章は消さないでください。
    すでに出生時に最初の発声がみられます。

    心地よさと結びついた低い声や、不快を示すギャアギャアという声です。

    しかし、この行動様式は両方とも34週齢で再び消えます。

    同様に、出生時からクンクン鳴くことができますが、この意味するところはあいまいです。

    他方、キイキイ鳴いたり叫んだりするのは、例外なく痛みの刺激に対応しています。

    また、うなったり、吠えたり、遠吠えしたり(放置されたりした場合)することも、すでに新生子期にみられます。

     

    感覚
    この文章は消さないでください。
    この時期の子犬は主に触覚によって、また、臭いと味によって環境を感得します。

    感覚神経系はなお発達中であるが、簡単な連想的学習は可能です。

    とはいえ神経系の発達に直接的作用を及ぼすのは、主に環境であり、それが行動発達にも影響を与えます。

    そのため、音や光を伴う刺激は、まだ耳道や目が閉じているにもかかわらず、脳の発達に肯定的な影響を与え、感覚および運動の発達を促進します。

    また、新生子を手で扱う(触れる、撫でる、あるいは抱き上げる)ことは、行動発達に長期的な影響を与えます。

    これによって子犬たちは、よりストレスに強くなり、より神経質でなくなります

    彼らは探索好きで、同種や異種との交流において自信を持つようになります。

    ラットの研究では、子ラットを手で扱うこと自体だけでなく、手での扱いが母獣の世話行動を活発化させ、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA系)ストレス反応機序の発達に作用し、上述のような影響をもたらすことが示唆されています(Meaney, 2001)。

    これが犬にも当てはまるかどうかはまだ研究されていないです。

    狼の子は、出生時より人間との接触にさらされていた場合、その後も人間に対してより友好的になります。

    これはおそらく、犬であればもっと後の時期に始まる真の社会化によるものではなく、
    むしろ、ストレス反応機序に起因するものです。

     

     

    過渡期

    過渡期は目の開く1016日齢に始まり、耳道の開く1223日齢の間に終わります。

    この時期は、新生子行動から若年犬行動への移行を特徴づける、さまざまな行動の変化と結びついています。

    前進這い這いに加えて、後退這い這いもみられるようになります。

    子犬たちは、まだまだぎこちないものの、座る、立つ、歩行するなどの試みを以前に増して行うようになります。

    同様に、睡眠時の姿勢が横臥姿勢から犬特有の丸くなった腹ばいの姿勢に変わるのも、この過渡期です。

    また、自分の皮膚と被毛の手入れも、噛む、舐める、身震いするなど、よりはっきりと分化します。

     

    感覚系の発達とともに、行動範囲も広がります。

    子犬はこの頃には母犬による刺激なしで排尿・排便できるようになっていますが、行動範囲の拡大によって、まず第一に、巣を尿や便で汚すことを避けられます。

    さらに子犬は、巣の周囲80cm以内の距離であれば戻って来られるようになります。

    そして、探査行動と遊戯行動もまた、行動範囲に一層の拡大をもたらします。

    ただし、子犬が活発に巣から離れ、未知の環境に置かれると、数分から数日にわたって歩行困難が生じる場合もあります。

    過渡期には同類の子犬を実際の社会的パートナーというよりは、動く対象物として捉えていますが、

    すでに最初の典型的な社会的相互作用の行動様式(たとえば尾を振る、うなる、など)が観察されます。

    最初の歯が生えてくるのに伴い、子犬たちは初めて固形食にも興味を示し始めます。

     

    こういった行動上の変化は、狼の子がこの時期に暗く守られた巣穴を時折離れるようになるという背景のもとに考えるべきです。

    ただし、比較研究によれば、狼の過渡期は家畜化された犬の場合と比べると、より早期に始まり、より早期に終わります。

    子犬たちの古典的および道具的条件付け(オペラント条件付け)の能力は増していますが、
    学習能力はまだ相対的に限られた状況にあり、4~5週齢になって初めて、成犬に相当する水準に達します。

     

     

    社会化期・若年期

    この文章は消さないでください。
    社会化期は34週齢に始まり、子犬が自然な方法で群れに取り込まれる場合には、1214週齢に若年期へと移行します。

    社会化期は、以前はローレンツの刷り込み概念に基づいて、社会的関係および社会的結びつきの最初の形成にとっての「決定期」と言われていました。

    しかし、その後の研究によって、そのような「決定期」の境界は本来的なものと言えるほどはっきりしておらず、

    「決定期」に獲得された行動型や好み、他者との関係は、

    状況次第で修正可能であるどころか、逆転可能であり続けることがわかってきました。

    これを受けて、今日では「感受期sensitive phaseまたはsensible phase」という概念が使われています。

    この概念は、発育の過程で、ほかの時期よりも特定の行動型や好みが獲得されやすい時期を意味します。

    子犬の社会化期に、この「感受期」という名称はそのまま応用できます。

    この時期、子犬は両親や兄弟姉妹たち、およびそのほかの群れの構成員との間の最初の社会的結びつきを発達させるだけでなく、

    特に、人間やほかの動物などと、同類に対するのとはやや異なる関係を結びます。

    さらに、子犬はこの時期に特定の場所への好みを発達させますが、
    これは、子犬の対環境との関係には、生物と無生物の両方が含まれていることを意味しています。

     

    離乳過程

    母犬との接触は社会化期を通してしだいに減少します。

    離乳過程開始の最初の徴候とみなされるのは、母犬が粥状の餌を吐き出し、これを子犬が補助食として摂取し始める時期です。

    餌の吐き戻しと並行して泌乳量はしだいに減少し、分娩後3670日目までに母犬は授乳をやめます。

    すると子犬の給餌要求がより頻繁にみられるようになります。

    子犬は自分の口を母犬に当てたり、母犬の口角を舐めたりすることで給餌要求を行いますが、

    これに対して、母犬が威嚇や噛みつきで応える場合もあります。

    そのため子犬はすぐに成犬の敵対的な行動様式に習熟します。

     

    社会的遊戯
    この文章は消さないでください。
    これと並んで、社会行動および社会的コミュニケーションが、主に社会的遊戯を通じて発達します。

    社会的遊戯は、多くの場合、遊戯シグナル(たとえば頭部を抱えたり、跳びかかったりする)で始まり、

    中断シグナル(たとえば逃げたり、反撃したり、眠り込んだりする)によって終わります。

    同腹子の間での遊戯的なやり取りの頻度は4週齢頃に急激に高まります。

    6週齢の終わりまでに、すべての発声表現を含む社会的行動方法のレパートリーは、最大限に発達します。

     

    社会化期の期間

    社会化期の期間は、研究施設において、同種および他種の動物との接触を実験的に操作した上で、詳しく調査されています。

    これらの研究論文の結論によれば、最初の社会化は、312週齢の間に生じ、68週齢にもっとも感受性が高くなります。

    これに基づき、犬をこの時期に人間と親しませることが推奨されます。

    ただし、この時期の社会化は持続的なものではないです。

    犬は6~8ヵ月齢になるとようやく、比較的長期にわたって人間との接触を欠いても、人間と社会化された状態を維持できるようになります。

    それに対して、6~8ヵ月齢になっても人間との社会化が行われていない犬の場合、後から社会化することは難しいです。

     

    子犬と母犬との分離

    しかし、これに照らして、人間との社会化を目的として、すでに6週齢で、あるいは遅くとも8週齢までに母犬から引き離すことを推奨するのは、最近の研究では疑問視されています。

    ジャーマン・シェパード・ドッグの場合、6週齢で母犬から引き離された子犬たちは、12週齢になってから引き離された子犬たちに比べて、より高いストレス、疾病、死亡率の徴候を示しています(Slabbert and Rasa, 1993)

    その上、早期の分離は人間とのよりよい社会化にはつながらないです。

    人間との早期の社会化は、排他的に人間とだけ接触することを必要とはせず、それゆえ、母犬からの分離も必要ないのです。

    母犬からの分離は決して早すぎてはいけません。

    現時点での研究によれば、8週齢以降の分離であれば、否定的影響は生じないと考えられます。

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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