生まれて直後の子犬のケアと自然分娩・出産・帝王切開
出生後の子犬のケア
分娩の監視と新生子の適切な応急処置によって、新生子死亡率と罹病率は持続的に低減させることができます。
その際、分娩の進行と新生子の適応を妨げないよう、処置を行います。
頻繁にみられる病因と死因
第一の原因は、新生子の呼吸困難症候群です。
子犬の活力の減退に通じるような状況に、よく注意する必要があります。
出生後の子犬によくみられる死因
死因 | 説明 |
未熱 | 臨床的な把握は難しい。生時体重と妊娠期間が手がかりとなる。 |
新生子呼吸困難症候群 | 難産の場合や、娩出が長引いた場合に危険性が高まる。最後に生まれる子犬の罹患が多くみられる。 |
形成不全 | 大規模な犬飼育場では、死因の9%にのぼる。 |
圧死 | 大規模な犬飼育場では、死因の1%にのぼる。母犬が神経質な場合や、娩出時の障害によって危険性が高まる。 |
羊膜内窒息死 | 大規模な犬飼育場では、死因の4.5%にのぼる。母犬による子犬の世話の不足や、母犬の消耗によって危険性が高まる。 |
母犬による損傷 | 大規模な犬飼育場では、死因の4%にのぼる。同腹子全体が死亡するケースもある。ほとんどの場合、噛みつきによる損傷と過剰な臍のケアによる(図4.1)。 |
子犬の応急処置のための器具と薬剤
器具 | 説明 |
使い捨て手袋/手指消毒 | 胎子の感染予防 |
インスリン注射器(1mL)。適切な使い捨てカニューレおよびプラスチック製被覆力ニューレ | 薬剤および液体の投与 少量の薬剤を与えられるようにインスリン注射が必要である。プラスチック製被覆カニューレと使い捨て注射器によって、鼻腔や口腔から粘液を除去することができる。 |
粘着テープとフェルトペン | 子犬に個体識別用の印をつける |
体重計 | 生時体重を把握する。 |
ヨード液 | 臍の消毒 多くの細菌や真菌類に対する効果があるが、強い局部刺激を避けるため、少量のみ使用する。 臍の傷口をふさぐために使用する。 |
呼吸刺激剤ドキサプラム
| 呼破を活発化させる。舌に1滴たらすか、皮下に1頭あたり2mg注射する。10秒以内に効果が現れるが、短時間で終わる。 反復使用する場合は15分の間隔を開ける。蘇生用にも舌下に用いる。 |
温かい5%グルコース液 | 液体およびエネルギーの補給 |
熱源 | 新生子の直接的な環境温度は30~32℃の間であることが望ましい。 |
子犬用人工乳、哺乳瓶 | 帝王切開後の母犬の術後睡眠が長引く場合や、無乳症や乳房炎の場合の子犬の給餌に用いる。 |
鉗子 | 必要があれば臍の諸をはさむ |
乾いた清潔な布
| 子犬を乾かし、横たわらせるのに用いる。 子犬が冷えるのを避けるために、布は温めておかねばならない。暖房の上に置くとよい。 |
応急処置
獣医学的見地からすると、応急処置の目的は
- タイミングの良い処置によって死亡を防ぐこと
- その後の生存が不可能な形成不全や損傷を示す子犬を苦痛から解放すること
です。
仮死状態の子犬には蘇生を試みます。
仮死状態は心拍によって識別できます。
蘇生術は生後20分たってもなお成功する可能性があります。
専門的にみて適切な応急処置のためには、上記に挙げられた器具および薬剤の準備が必要です。
酸素吸入ができるようにしておければベストです。
そのためには、酸素ボンベに、液体で満たされた圧力調節器を接続し、処置を受ける子犬に吸入マスクをつけます。
この方法は、たしかに鼻孔や気管に酸素を導入する場合ほど効果的ではないですが、
- 新生子の呼吸器系を損傷する危険を冒さずに、環境中の局所酸素分圧を高めることができます。
- 帝王切開術後の応急処置では、酸素吸入は不可欠です。
まれに分娩中の母犬は人に対して攻撃的になります。
通常この攻撃性は見知らぬ人に向けられるが、多くの場合、獣医師に対しても向けられます。
出生後に呼吸停止が長引く場合や、不規則な呼吸が続く場合の処置
(いわゆる蘇生術)
●1mL注射器に乳頭様キャップを装着して、気管上部および口腔から分泌液を吸いだす。子犬を振り回すと、容易に脳出血をきたしうるため、避ける。 |
●舌にドキサプラムを使用する。効果が現れないときは皮下注射する。 薬剤による呼吸刺激を行う前に、まず鼻腔および咽喉から分泌液を取り除いておくことが重要である。 |
●呼吸マスクによる局所酸素分圧の上昇 |
●子犬を乾かし、撫でさすることは、呼吸を促す刺激になる。ただし、摩擦は様子を観察しながら行い、呼吸を妨げないように注意する。 呼吸停止が続く場合は、毎分24回の頻度で、側面からの胸郭圧迫を行う。 |
●3mLの5%グルコース液を皮下に投与する。 |
●必要な場合は、あらためて分泌液を吸い出す。 |
●必要な場合は、15分後にドキサプラムを再び用いる。 |
自然分娩
母犬の落ち着きを妨げるような、人の出入りや騒音、行動などは制限します。
母犬の子犬への世話が不足していたり、過剰だったりする場合には介助します。
- 子犬を包む羊膜がタイミングよく取り除かれない場合
- 臍の緒が噛み切られないままになっている場合
- 臍の緒の除去の際に腹部の皮膚が傷ついてしまったりした場合
は、母犬の行動障害が存在します。
短頭犬種の場合や、母犬に不正咬合がある場合、羊膜の除去がうまくいかない場合があります。
このような場合は、母犬に代わって人がその役目を果たします。
それ以外は、最初の臨床的な活力の評価は観察診断に限られます。
その際、以下の点に注意します。
- 新生子の呼吸の評価
- 母犬の世話行動の評価
- 明らかな形成不全の発見
- 活力の評価(発声、乳頭探索、吸飲行動)
正常な行動からの逸脱があれば、迅速に、ただし静かに手に取り、症状に応じた処置をします。
出生直後の子犬は不規則な呼吸を示し、10秒を超えない範囲で休止が起こり、呼吸が中断します。
活力のある子犬は声を出し、母犬に舐めて乾かしてもらいます。
子犬は乳頭を探し始めますが、これは頭部を振り子のように動かす運動で示されます。
乳頭にたどり着くと、子犬は前足をリズミカルに踏むような動きを示します。
これをミルクステップといいます。
新生子が乳頭にたどり着けない場合は、乳頭のところに子犬を置きます。
分娩の終了がはっきりしたら、詳細な臨床的管理を行います。
そのためには、生理的パラメーターの計測後、局部検査を行います。
臍を消毒し、粘着テープで尾に印をつけ、性別と体重を記録します。
この印は尾の締め付けを避けるため後日新しいものに取り替えます。
臍は6時間後に再び消毒します。
帝王切開術
手術の前に、子犬の応急処置および蘇生術のための十分な人員がいることを確認します。
手術によって取り出した子犬のケアの際は以下の点に注意します。
結果:新生子の呼吸困難症候群の発生が増えます。
結果これらの薬剤の作用を拮抗させる必要性。
結果:出生後のエネルギー摂取が遅れ、低酸素症および低血糖症の発症の危険性が高まる。
需要を満たす内因性の貯蔵エネルギーは最大で6~8時間持ちます。
新生子呼吸抑制がみられる場合、貯蔵の消耗が明らかに早くなり、初乳抗体が不足すると感染の危険性が増します。
鎮静剤および鎮痛剤の結抗剤とその新生子への処方
母犬に投与された薬剤 | 拮抗剤 |
モルヒネ誘導体 例 レボメサドンなど | ナロキソン、適正量:0.02mg/kg BW皮下注射。 競合的なアヘン受客体結抗剤なので、母犬に投与したオピオイドの投与量に合わせて、投与量を個別に調整しなければならない。 帝王切開で取り出した子犬の治療には、0.4mgの塩酸ナロキソン(Narcanti-Vietの1mLに相当)を0.9mLの0.9%食塩液に混ぜ、この液を子犬1頭につき0.3mL与えるのが有効である。 オピオイドよりも半減期が短いため、場合によっては、5~10分後に治療を繰りかえさねばならない。過剰投与による望ましくない副作用は知られていない。 |
キシラジン 生存胎児のいる帝王切開術には使用するべきでない。この作用物は新生子死亡率を明らかに上昇させる。 | ドキサプラム。新生子呼吸抑制の処置をするような場合に投与する。 キシラジンによる呼吸および心臓抑制作用を短時間で終わらせる。 |
ベンゾジアゼピン 例 ジアゼパムなど | フルマゼニル、適正量:0.03mg/kg BW 舌下に1滴。 |
術者は、子宮から子犬を取り出したあと、子犬の頭部上方で羊膜を切開し、腹壁の約2cm下方で臍の緒を鉗子でとめます。
この状態で、子犬を助手に委ね、助手は子犬のケアに専念し、以下の処置を行う。
帝王切開術後の子犬の処置のためのチェックリスト
□ | 子犬の専門的かつ時宜にかなった手当てができるだけの、十分な人員は揃っているか |
□ | スタッフは応急手当と蘇生術の進行に関して説明を受けているか |
□ | すべての必要な薬剤と使用器具がすぐ使える状態になっているか |
□ | 子犬が過ごす保育器は準備してあるか |
□ | 母犬の覚醒期の監視および母犬と子犬の接触が行える状態にあるか |
- 乾いた、温めた布で子犬を手に取る。
- 羊膜の残りを取り除く。
- 鼻腔および口腔から分泌液を取り除く。
- 明らかな形成不全(口蓋裂や鎖肛)の有無をすぐにチェックする。
- 手術の際に母犬に使用した薬剤に対する拮抗剤を与える。
- 子犬を拭いて乾かす。
- 呼吸が開始しない場合→処置を行う。
- この際必ず注意しなければいけないことは、呼吸や心循環器系に刺激を与えるための蘇生処置を行うだけではなく、早期にエネルギーを補給することです。
- 低酸素症の子犬においては特に、量的に効率の悪い、嫌気的解糖によるエネルギー獲得が行われます。
- そのため急速にさらなるエネルギー不足が生じ、低体温・低血糖症候群に通じます。
呼吸が規則的で子犬が声を出しているようであれば、30~32℃にあらかじめ暖めておいた保育器に入れます。
理想的には、保育器内の酸素圧が高められるようになっているとよいです。
- 10分後に鉗子で挟んでおいた臍の緒を切ります。
- 錯子を外し、後出血の有無を確認し、消毒します。
- 後出血がある場合はあらためて錯子で挟み、さらに数分問おきます。
- 通常、結紮は必要ないです。
すべての子犬を取り出し、処置が済んだあと、局部検査を行います。
経過観察のために、子犬にはそれぞれ印をつけ、表に体重を記入しておきます。
元気な子犬は、以上の処置が終わると、はっきりと乳頭探索行動を示します。
この行動を一時的に利用して、2mLの5%グルコース液を慎重に経口投与します。
生後30分以内に吸飲反射を示さない子犬には、1mLグルコース液を2カ所に皮下注射します。
この時点で初乳を与える必要はないです。
生後12時間は腸の吸収が整復していないからです。
母犬が麻酔から覚醒し、混乱した行動を示さなくなっていれば、子犬と母犬をここでようやく一緒にすることができます。
特に重要なのは、母犬がまだしっかり立てないせいで、
- 子犬を踏んでしまったり
- 子犬の上に倒れてしまったり
するのを防ぐことです。
攻撃行動があった場合に介助できるように、母子の引き合わせは監視下で行います。
母犬を拭いて乾かした布の上に、子犬たちを載せて運んでくれば、両者の接触を促進できます。
母犬が子犬を舐め始めれば、好ましい状態です。
その後子犬を哺乳できる位置に置きます。