犬の肥満細胞腫の新しい治療方法

    犬の肥満細胞腫に対するチギラノールチグレート(TT)の腫瘍内局所投与の有効性についてオーストラリアのPamela D. Jones氏らは85頭の犬を用いてレトロスペクティブに調査を実施した。その結果、TTでの単剤治療後、寛解が認められた症例(約73%)のうち、89%の症例でその後12か月間再発が認められないことが明らかになった。結果はJournal of Veterinary Internal Medicine 2021年1月、2月号に掲載された。

    研究の背景

    チギラノールチグレート(TT)は犬の肥満細胞腫の腫瘍内局所投与治療薬として欧州医薬品庁(EMA)に承認された新規低分子化合物である。腫瘍内に投与するとTTは免疫細胞の動員、腫瘍血管系の喪失、腫瘍細胞によるアポトーシスを引き起こし、2~7日以内に出血性の壊死と腫瘍の破壊が起こり、14日目までに腫瘍が脱落する。過去の研究ではTTの単独治療により、116頭中85頭(73%)が4週目で完全奏功が認められ、これらの犬の94%で84日目までに再発がなかったことが報告されている。そこで著者らは、TT治療による長期間(6か月および12か月)の局所肥満細胞腫の再発頻度を評価することを計画した。

    肥満細胞腫におけるTTの腫瘍局所内投与の1年間の再発率を評価

    本研究には米国で実施したTTの有効性試験に参加した皮膚肥満細胞腫ならびに肘又は膝の皮下肥満細胞腫の犬をレトロスペクティブに調査した。その中でも完全寛解が認められた85頭の犬を組み入れ対象とした。なお、本有効性試験の目的は局所腫瘍に対する効果の評価であったため、転移性腫瘍の症例は除外された。

    参考:チギラノールチグレートについて

    評価
    6か月、12か月の時点での腫瘍の再発の有無、生存に関するデータを収集した。なお、12か月間のフォローアップができなかった症例は除外した。

    6か月後の無再発症例は90%、12か月後は89%

    本研究には米国での有効性試験でTT単回投与実施から28日後に完全寛解を達成した85頭の犬が組み入れられた(なお、有効性試験での完全寛解達成率は116頭中85頭:約73%)。このうち、1年間までのフォローアップができた症例は64頭であった。
    再発率について
    完全寛解が達成できた犬における6か月後、12か月後の再発が認められなかった症例の推移(割合)は下グラフのとおり。

    再発が認められた7頭はいずれも最初の6か月以内に認められており、うち5頭は84日目までに再発が認められた。

    結論
    これらの結果から著者らは、TTの腫瘍内局所投与は28日後に高い完全奏効率を有するだけでなく、その後1年間の再発率が少ないことも明らかになったと報告している。今後、1年以上における無再発期間などを評価することなどが期待されるとしている。

     

     

    Highlights

    論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jvim.16018
    (こちらはOpen Accessのため、元文献が上記リンクより閲覧可能です)
    ※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。

     

    犬の肥満細胞腫に対するチギラノールチグレート(TT)の腫瘍内局所投与の有効性についてオーストラリアのPamela D. Jones氏らは85頭の犬を用いてレトロスペクティブに調査を実施した。その結果、TTでの単剤治療後、寛解が認められた症例(約73%)のうち、89%の症例でその後12か月間再発が認められないことが明らかになった。結果はJournal of Veterinary Internal Medicine 2021年1月、2月号に掲載された。 

    研究の背景 

    チギラノールチグレート(TT)は犬の肥満細胞腫の腫瘍内局所投与治療薬として欧州医薬品庁(EMA)に承認された新規低分子化合物である。腫瘍内に投与するとTTは免疫細胞の動員、腫瘍血管系の喪失、腫瘍細胞によるアポトーシスを引き起こし、2~7日以内に出血性の壊死と腫瘍の破壊が起こり、14日目までに腫瘍が脱落する。過去の研究ではTTの単独治療により、116頭中85頭(73%)が4週目で完全奏功が認められ、これらの犬の94%で84日目までに再発がなかったことが報告されている。そこで著者らは、TT治療による長期間(6か月および12か月)の局所肥満細胞腫の再発頻度を評価することを計画した。 

    肥満細胞腫におけるTTの腫瘍局所内投与の1年間の再発率を評価 

    本研究には米国で実施したTTの有効性試験に参加した皮膚肥満細胞腫ならびに肘又は膝の皮下肥満細胞腫の犬をレトロスペクティブに調査した。その中でも完全寛解が認められた85頭の犬を組み入れ対象とした。なお、本有効性試験の目的は局所腫瘍に対する効果の評価であったため、転移性腫瘍の症例は除外された。 

    参考:チギラノールチグレートについて 

    評価
    6か月、12か月の時点での腫瘍の再発の有無、生存に関するデータを収集した。なお、12か月間のフォローアップができなかった症例は除外した。 

    6か月後の無再発症例は90%、12か月後は89% 

    本研究には米国での有効性試験でTT単回投与実施から28日後に完全寛解を達成した85頭の犬が組み入れられた(なお、有効性試験での完全寛解達成率は116頭中85頭:約73%)。このうち、1年間までのフォローアップができた症例は64頭であった。
    再発率について
    完全寛解が達成できた犬における6か月後、12か月後の再発が認められなかった症例の推移(割合)は下グラフのとおり。

    再発が認められた7頭はいずれも最初の6か月以内に認められており、うち5頭は84日目までに再発が認められた。 

    結論
    これらの結果から著者らは、TTの腫瘍内局所投与は28日後に高い完全奏効率を有するだけでなく、その後1年間の再発率が少ないことも明らかになったと報告している。今後、1年以上における無再発期間などを評価することなどが期待されるとしている。 

    Highlights 




     

    論文情報:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jvim.16018
    (こちらはOpen Accessのため、元文献が上記リンクより閲覧可能です)
    ※正確な論文の解釈をするためにも原文を読むことをお勧めいたします。 

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    [文献:犬] 犬の新しい肥満細胞腫治療薬チジラノールチグレートの本格的なはじまりは2019年(PMID: 31810818) 

    Miller, Jane, et al. "Dose characterization of the investigational anticancer drug tigilanol tiglate (EBC-46) in the local treatment of canine mast cell tumors." Frontiers in veterinary science 6 (2019): 106.

    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31111038/

    [企業関与] 資金:QBioticsGroupLimited(チジラノールチグレートの特許と知的財産権を所有)から提供
     

    ・QBioticsGroupLimitedに雇用されている人たち 

     ⇒ V.Gordon、P.F.Schmidt、P.Reddell、S.Lowden 

    ・当時QBioticsGroupLimitedに獣医師として勤務⇒ 現在QBioticsGroupLimited従業員 

     ⇒   Justine Campbell 


    [背景] 肥満細胞腫(MCT:mast cell tumor)は犬の皮膚腫瘍ではもっともコモンなもので、広い範囲の外科切除が現在の治療のファーストラインです。しかし、再発が多くて、より専門的で高価な治療が必要になってしまうことが多いです。チジラノールチグレート(tigilanol tiglate / チギラノールチグラート)は、腫瘍内への注射によって投与される新しい低分子薬で、肥満細胞腫MCT治療の新しい選択肢となるべく現在開発中です。

    [目的] このスタディの目的は、犬の肥満細胞腫MCTに対するチジラノールチグレートTTの安全で有効な投与量を明らかにして、薬物動態に関する予備データを収集することでした。

    [方法] 多施設で非盲検・非対照・非ランダム化の用量漸増デザインを用いました。対象は肥満細胞腫のStage I/IIaとし、腫瘍サイズは0.1~6.0cm^3としました。投与量は腫瘍の大きさ(50%v/v腫瘍)に基づいて設定した、3種類の薬物濃度(1.0・0.5・0.2mg/mL)を評価しました。27頭の犬を3つの投与量の漸増集団(それぞれ10頭・10頭・7頭)で治療しました。21日目の有効性は、国際的に認められている固形腫瘍効果判定基準(RECIST)を用いて定義しました。

    [結果] 最高薬物濃度の1.0mg/mLで最大の有効性(90%の完全奏効)が認められて、有害事象は一般に低グレードの軽度で一過性で、この薬の作用機序に直接関連していました。血液と血性生化学的な検査では、一般的な非静脈内非傾向薬に典型的な血漿中濃度曲線を示し、特に問題はありませんでした。
    1.0mg/mLの濃度のチジラノールチグレートを肥満細胞腫に腫瘍内投与したところ、高い有効性と良好な忍容性を認めました。

    [結論] これらの結果は肥満細胞腫やその他の固形腫瘍の治療約として、本薬剤のさらなる開発を支持するものです。

    *動物用チジラノールチグレート製剤(STELFONTA®)サイトより
      

     

     

     

     

    [文献:犬] 犬の肥満細胞腫にチジラノールチグレートを使用したときの皮膚欠損具合はなかなかエグいかな(PMID: 33438258) 

    Reddell, Paul, et al. "Wound formation, wound size, and progression of wound healing after intratumoral treatment of mast cell tumors in dogs with tigilanol tiglate." Journal of veterinary internal medicine 35.1 (2021): 430-441.

    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33438258/

    [企業関与] 資金:QBioticsGroupLimited(チジラノールチグレートの特許と知的財産権を所有)から提供
    ・QBioticsGroupLimitedに雇用されている人たち
     ⇒ Paul Reddell、Thomas De Ridder、Justine E. Campbell、Graham Brown、Pamela D. Jones、Peter F. Schmidt、Victoria Gordon
    ・QBioticsGroupLimitedのコンサルタント等で支払いを受けている
     ⇒ Chad M. Johannes、John M. Morton

    [背景] チジラノールチグレート(TT:tigilanol tiglate / チギラノールチグラート)は犬で転移のない肥満細胞腫(MCT:mast cell tumor)の腫瘍内投与を目的とした新規の低分子化合物です。とあるランダム化比較試験では、チジラノールチグレートTTを1回投与した犬の75%が28日までに肥満細胞腫MCTを完全寛解となり、84日後には93%の犬で再発がありませんでした。チジラノールチグレートTTの効果に重要なのは、治療前の腫瘍容積に対する壊死した腫瘍の脱落後の創傷面積(欠損組織)でした。

    [目的] 過去のスタディで収集したデータを分析して、a)治療した肥満細胞腫MCTの脱落後の創傷について記述して、b)創傷面積と創傷治癒の速さの決定因子を特定することでした。

    [方法] 創傷の有無・状態・面積について、1回の腫瘍内チジラノールチグレートTT投与後84日間の117頭の犬の診療記録から明らかにしました。

    [結果] 治療の3~14日後に腫瘍の脱落が起こって、創床に肉芽組織が露出しました。一般的に腫瘍脱落後の創傷面積は治療前の腫瘍量と関連していて、記録された最大の創傷面積は7日目までに89%の犬で明らかになりました。腫瘍が完全に消失した犬では、すべての創傷が二次治癒するように残されました。包帯を巻くなどの創傷管理を必要としたのは5頭だけでした。治癒までの期間(つまり治癒部位の完全な最上皮化)は、傷の面積とどこの部位にあるで異なっていて、ほとんどの創傷は投与後28~42日で完全治癒しました。

    [結論] チジラノールチグレートTT投与された腫瘍の創傷面積と脱落後の治癒は、ほとんどの犬で一貫した臨床パターンに従っています。

    *動物用チジラノールチグレート製剤(STELFONTA®)サイトより
      

     

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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