動物病院で、自分の犬がエキノコックス症と診断された...
犬エキノコックス症と診断されたけど、病院での説明不足や、混乱してうまく理解できなかった、もっと詳しく知りたいという事でこの記事に辿りついたのではないでしょうか?
ネット上にも様々な情報が溢れていますが、そのほとんどが科学的根拠やエビデンス、論文の裏付けが乏しかったり、情報が古かったりします。
中には無駄に不安を煽るような内容も多く含まれます。
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その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。
例えば...
- 人に移るの?
- 治る病気なの?
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これを読んでいるあなたもこんな悩みを持っているのでは?
結論から言うと、エキノコックス症は、サナダムシの仲間(条虫)である人獣共通寄生虫のエキノコックスによって引き起こされる病気です。
犬は人への感染源動物(終宿主)となり、人が感染すると肝機能障害を主徴とする致死性の疾病が惹起されます。
日本には多包条虫のみが分布・定着しています。
本虫は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」で4類感染症に分類され、獣医師が犬の工キノコックス症を診断した場合には届出の義務が生じます。
日本国内では、北海道のみに分布すると考えられていましたが、本州においても北海道からの移動犬や野犬の感染が見つかつており、北海道外でも注意が必要です。
この記事では、犬のエキノコックス症についてその原因、症状、診断方法、治療法までをまとめました。
限りなく網羅的にまとめましたので、犬のエキノコックス症と診断された飼い主、犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。
臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
獣医師解説!犬のエキノコックス症〜原因、症状、治療法〜
この記事の目次
犬のエキノコックス症の病原体
世界的に重要なエキノコックスは、単包条虫と多包条虫の2種で、日本に分布・定着しているのは多包条虫です。
終宿主で発育する多包条虫の成虫は小さな条虫です。
中間宿主で発育する多包条虫の幼虫は多包虫と呼ばれます。
犬のエキノコックス症の疫学
多包条虫は主要な終宿主がアカギツネであることから、アカギツネの分布域に重なる形で北半球に広く分布します。
日本では北海道でその生活環が維持されており、北海道における最近のキツネの寄生率は30-40%前後を推移しています。
キツネのほかに、犬、猫、タヌキにおいて成虫の寄生が確認されており、野犬を合む犬の解剖調査では寄生率1%、糞便を材料とした飼育犬の調査では寄生率0.4%と報告されています。
北海道での主要な中間宿主はエゾヤチネズミで、このほかに、ヒメネズミなどの小哺乳類、 ブタ、ウマ、動物園の霊長類での幼虫感染が報告されています。
また人では毎年10-20名程度の新規患者が報告されています。
北海道外においても人の患者が見つかっており、さらにブタや犬における感染が報行されています。
一方、単包条虫は全世界的に分布し、人の患者数は多包条虫による患者数よりも多いです。
日本ではその生活環は維持されていないと考えられている。
しかしながら、食肉衛生検査所では、オーストラリアから生体輸入され日本で肥育されたウシにおける感染が継続的に検出されています。
犬などの終宿主への感染を防ぐために感染臓器の適切かつ厳格な処理が求められています。
また、流行地由来の輸入犬が感染している可能性もあるので注意します。
犬のエキノコックス症の宿主
多包条虫の主な終宿主はアカギツネですが、犬はキツネと同様に好適な終宿主となります。
猫やタヌキでも成虫の感染が見つかっていますが、これらの動物から見つかる成虫は概して発育不良です。
しかしながら、猫から虫卵が検出された事例もあります。
多包条虫の主な中間宿主はヤチネズミ、ミカドネズミやハタネズミなどの野ネズミです。
人を含む多種の動物が虫卵を摂取して感染し中間宿主となりますが、これらの動物においては包虫の発育は悪く、通常は成長しません。
犬のエキノコックス症の感染経路と生活環
多包条虫は、本来キツネを終宿主、野ネズミを中間宿主とする寄生虫で、捕食者一被食者関係を利用して伝播します。
成虫はキツネの小腸に寄生し、キツネの糞便とともに虫卵が排出され、その虫卵が野ネズミに食べられると野ネズミの主に肝臓に幼虫(多包虫)が寄生します。
キツネが感染した野ネズミを捕食すると次世代の成虫が小腸で、発育します。
プレパテントピリオドは約4週間です。
パテントピリオド(虫卵排出期間)は半年程度と考えられますが、排出虫卵数は感染後1~2カ月をピークに徐々に減少します。
エキノコックスの生活環では、犬はキツネと同じく終宿主の役割を来たし、人への感染源となる虫卵を排出します。
人は虫卵を偶然食べることによって感染します。
犬のエキノコックス症の感染の特徴
終宿主である犬が感染するには、中間宿主である野ネズミを摂食する必要があります。
したがって、本虫の惑染を疑う対象は野ネズミを食べる可能性のある犬となります。
よって、放し飼いされている犬はもちろん対象となりますが、北海道では下記の例が報告されています。
- 散歩時に拾い食いの癖のある犬の感染例
- 大きな公園で一時的に放されていた犬の感染例
- 同居猫が捕獲して持ち帰った野ネズミを食べて感染
野ネズミを食べる可能性については熟慮する必要があります。
なお、中間宿主を必要とするエキノコックスの感染経路については、十分な理解が得られていないようで、キツネから犬への感染が起こり、犬が感染すると人と同じように肝臓や肺に病変が形成されると誤解している人が多いです。
したがって、飼育犬のエキノコックス感染を心配する飼い主には、エキノコックスの生活環について十分な説明が必要です。
また野ネズミ体内では多数(時に数十万~数百万)の原頭節が形成されており、犬では1匹の野ネズミの摂食により多数の成虫が寄生します。
そのため、プレパテントピリオドを経た感染後1~2カ月目には、非常に多くの虫卵が終宿主の糞便中に排出されることも本虫の感染の特徴です。
犬のエキノコックス症の臨床症状
犬の小腸には成虫が寄生しますが、成虫の病原性はほとんどなく、たいていの場合は症状を示しません。
実験感染では、普通の固形便に加えて粘液の塊が排出されたり、下痢をすることが観察されています。
なお、人が感染した場合は、肝臓などで幼虫(多包虫)が何年間も徐々に発育しつづけ、幼虫寄生を受けた肝臓やその他の臓器の機能障害を起こし治療しないと死に至ることがあります。
犬のエキノコックス症の診断
犬の検査には、糞便内虫卵検査、糞便内抗原検査、あるいはPCR法による遺伝子検査(糞便DNAおよび虫卵DNA検査)が用いられます。
糞便検査
浮遊法による糞便内虫卵検査は最も手軽な方法ですが、エキノコックスの虫卵はテニア属条虫(胞状条虫、豆状条虫、猫条虫など)の虫卵と形態的に区別ができないため、確定診断には大学や国立感染症研究所などの研究機関の協力を得て虫卵DNAの検査が必要となります。
ただし多包条虫のプレパテントピリオドは約4週間であるので、感染後4週間以内の検査では虫卵を検出できません。
抗原検査
糞便内抗原検査はELISA法など多くの方法があり、虫卵排出前の感染動物の診断が可能です。
かつて検査キットも市販されていたが現在は販売されておらず、民間企業(環境動物フォーラムや実験動物中央研究所)が依頼ベースで検査を実施しています。
その他
時に、エキノコックスの成虫が糞便とともに出てくる例もありますが、成虫は非常に小形(長さ1~5mm程度)の白色の虫体で、顕微鏡を用いた鑑別が必要となります。
犬のエキノコックス症の治療
犬の成虫感染はプラジクアンテル5mg/kgの経口投与で完全駆虫できます。
ただし駆虫後の糞便に、死滅虫体とともに人への感染源となる虫卵が比較的多く排出されるので、糞便の処理には細心の注意が必要です。
犬の排便状況により異なりますが、通常は駆虫薬投与後2日目までに大部分の虫卵が排出されると考えられます。
ただし盲腸などに停滞した虫卵がその後に出てくる可能性も否定できないです。
虫卵は熱に弱いため、熱湯あるいは焼却処分することもできますが、感染性廃棄物として処理するのが望ましいです。
犬のエキノコックス症の予防
犬に野ネズミの摂食機会を与えないように飼育管理を行う必要があります。
犬の飼い主へのアンケート調査において、約4分の1の飼い主が自分の犬とネズミとの接触(遊ぶ,追いかける,食べる)を観察しており、犬の飼育方法におけるネズミとの接触機会について十分に情報を得る必要がある。
番犬や猟犬など,野ネズミを食べる機会をなくすことができないような場合は、定期的に駆虫薬を与えることも予防法として考えられます。
「犬を連れて北海道を旅行した、あるいは犬を連れて北海道から移住してきたが、工キノコックスの感染が心配…」
犬はエキノコックスに感染した野ネズミを食べて感染するので、北海道を旅行したときに、あるいは北海道に住んでいるときに,犬に野ネズミを食べる機会があったかどうかを確認します。
もし、そのような機会があった場合(例えば 、キャンプをしているときに放してしまって森の中に入っていったなど)には検査を実施するべきですが、多包条虫のプレパテントピリオドを考慮して適正な検査を行う必要があります。
「犬がキツネを追いかけていたが、大丈夫か」
犬もキツネもエキノコックスの生活環の中では終宿主の役目を果たします。
したがって、たとえキツネが感染していても、キツネから犬に感染する事はないです。