下垂体性矮小症は、下垂体での成長ホルモン(GH)分泌が先天的に不足することにより成長不良などを呈する疾患です。
犬、猫ともに発生頻度は低いです。
この記事を読めば、犬、猫の下垂体性矮小症の症状、原因、治療法までがわかります。
限りなく網羅的にまとめましたので、犬、猫の下垂体性矮小症ついてご存知でない飼い主、また犬、猫を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
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✔︎本記事の内容
犬、猫の下垂体性矮小症の原因
下垂体性矮小症の原因としては下垂体前葉の発生異常、脱落、ラトケ嚢胞による下垂体前葉の圧迫萎縮などです。
これらの異常により、GH の産生と分泌が障害されます。
GH の分子異常や、末梢でのGH 不応による矮小症は、犬や猫では報告されていません。
下垂体障害の原因や程度により、複数の前葉ホルモンが不足する下垂体機能低下症や、すべての前葉ホルモンが不足する汎下垂体機能低下症に陥る場合もあります。
犬や猫ではTSH 不足による続発性甲状腺機能低下症が高率に併発し、ACTH 不足による続発性の副腎皮質機能低下症も併発することがあります。
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その他の下垂体前葉ホルモンについては、犬や猫では臨床的意義があまりないです。
犬、猫の下垂体性矮小症の症状
犬ではジャーマン・シェパードに好発し、ヨーロッパや米国では症例の大多数を占めています。
猫の好発品種はとくにありません。
生後間もなくの期間は健康な同腹仔同じように成長するが、3~4 カ月齢になると短躯、うぶ毛の遺残、トップコートの発毛不良、皮膚色素沈着など、成長遅延と皮膚症状が目立ります。
成長ホルモン単独の不足であれば、小さいながらも均整のとれた体型となります。
甲状腺機能低下症を併発した症例では、骨端線の閉鎖不全、長骨の変形、大泉門の開存、歯の発達遅延など骨格の異常が現れます。
犬、猫の下垂体性矮小症の診断
併発疾患がない限り、血液検査、血液化学検査、尿検査で異常所見はないです。
下垂体性矮小症は、血漿中の成長ホルモンが低値であるか、インスリン様成長因子-1(IGF-1)が低値であることにより確定診断します。
犬GH についてはELISA キットが市販されています。
猫GH は一般には測定できません。
犬と猫の血清IGF-1 については、ヒト用の測定系で相対値を得ることができます。
(a)クロニジン刺激試験
健康な犬のGH の基礎値は1~4μg/l です。
下垂体性矮小症の犬のGH 基礎値もこの範囲にあるので、基礎値の測定だけでは診断を下すことができません。
そのため、α2 アドレナリン作動薬のクロニジンやキシラジンを用いて成長ホルモンの分泌を刺激し、上昇したホルモン濃度を測定する刺激試験が考案されています。
クロニジン(10μg/kg)またはキシラジン(100μg/kg)を静脈内投与し、投与20 分後の血漿GH を測定します。
健康犬では刺激後のGH のピーク値が10~60μg/l を示すのに対し、下垂体性矮小症の犬では反応が乏しいか、欠如しています。
(b)血漿IGF-1
血漿IGF-1 値は日内変動が少なく、とくにGH測定が不可能な猫では意義が高いです。
ヒト用の測定系で得られる猫のIGF-1 値は相対値です。
症例が下垂体矮小症と考えられる症状を呈しており、同時に測定した健康猫のIGF-1 と比較して低値を示せば、下垂体性矮小症と診断します。
犬、猫の下垂体性矮小症の治療および予後
ヒトGH を用いた補充療法を行います。
犬では0.15U/kg、猫では0.1U/kg を週3 回皮下投与し、主に皮膚症状を観察しながら4~6 週間継続します。
GH 投与の最大の副作用は糖尿病です。
来院ごとに血糖値を測定し、高血糖が認められたらGH投与を延期または中止します。
甲状腺ホルモンが不足している場合にはサイロキシン補充療法もあわせて実施します。
適切なホルモン補充を行えば、少なくとも皮膚症状の改善が可能であり、短期的な予後は良いです。
しかし、長期的な内分泌不全や併発疾患により、健康な同腹仔と比較して早期に死亡する例が多いです。