アジソン病は副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンが不足することによって起きる疾患です。
犬でしばしば認められ、猫では極めてまれです。
この記事を読めば、犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)の症状、原因、治療法までがわかります。
限りなく網羅的にまとめましたので、犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)ついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
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✔︎本記事の内容
犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)〜原因、症状、治療法〜
この記事の目次
犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)の病態生理
副腎皮質が特発性(自己免疫)の機序、感染症、転移性腫瘍、クッシング症候群の治療薬などにより破壊されることが原因となります。
犬では特発性の副腎萎縮によるものが多く、ほとんどの症例では球状帯と束状帯が破壊されるので、ミネラルコルチコイドとグルココルチコイドの両者が不足します。
これらのホルモンの分泌能が90%以上障害されると症状が発現します。
犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)の臨床症状
若年~壮年の雌犬で好発し、欧米ではグレート・デーン、ロットワイラー、スタンダード・プードルなどの好発犬種が報告されています。
国内では特記すべき好発犬種はありません。
グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイドの不足により、症状が発現します。
- 虚弱
- 体重減少
- 食欲不振
- 嘔吐
- 吐出
- 下痢
- 血便
- 多尿
- 乏尿
- 徐脈
- 低体温
- 振戦
- 痙攣
特発性の副腎萎縮はゆっくりと進行するので、臨床症状も好不調の波を伴いながらゆっくりと進行します。
動物にストレスが加わると体内のグルココルチコイド要求量が増加するため、コルチゾール不足による臨床症状が現れやすくなります。
外貌に特徴的な変化はない。
犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)の診断
血液検査(CBC)では軽度の非再生性貧血や好酸球増多が認められることがありますが、アジソン病に特異的な変化はないです。
血液化学検査では電解質測定が最も重要です。
症例の80%では低Na 血症と高K 血症の両方が観察されます。
Na(mEq/L)/K(mEq/L)< 25であれば、副腎皮質機能低下症の目安となります。
症例の10%では低Na 血症と高K 血症のいずれかがみられます。
症例の残り10%では電解質異常は認められません。
循環血液量の減少により軽度~中等度の高窒素血症が認められることがあります。
グルココルチコイド不足による低血糖もしばしば認められます。
高Ca血症も認められ、ときに15 mg/dL を越えることがあります。
低Na、高K 血症の鑑別
- 腎不全(腎前性、腎後性を含む)
- アジソン病
- 糖尿病
高K 血症の鑑別
- 腎不全(腎前性、腎後性を含む)
- アジソン病
- 糖尿病
- 組織損傷
- 腫瘍融解
- 熱傷
- 溶血(柴犬の一部:高K 赤血球犬)
低Na 血症の鑑別
- 嘔吐
- 下痢
- イレウス
- 心不全
- 腎不全
- 肝硬変
- アジソン病
- 利尿剤投与
- ネフローゼ症候群(まれ)
- 甲状腺機能低下症(動物ではまれ)
- マンニトール投与(みかけの低Na)
- 糖尿病(みかけの低Na)
- 心因性多飲(非常にまれ)
- SIADH(非常にまれ)
確定診断にはACTH 刺激試験を行います。
合成ACTH を0.25 mg/head(小型犬では半量)筋肉内投与し、60 分後の血清コルチゾール濃度を測定します。
ACTH 投与後のコルチゾール値が3.0μg/dL 未満であれば、副腎皮質機能低下症と診断します。
診断の補助として血清アルドステロンを測定することもあります。
健康で無刺激での血清アルドステロン値
- 犬:15~900 pmol/l(5~300 pg/ml)
- 猫:150~400 pmol/l(50~130 pg/ml)
ACTH 刺激後
- 犬:200~2000 pmol/l(60~600 pg/ml)
- 猫:250~800 pmol/l(70~250 pg/ml)程度
副腎皮質機能低下症に罹患して電解質異常が現れている動物では、無刺激、刺激後ともに10 pg/mL 未満の値を示します。
犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)の画像診断
無治療のアジソン病の犬で画像診断が役立つことはあまりないです。
既に(とくに他院で)治療されている犬を改めてアジソン病と確定診断するためには、副腎エコー検査が役に立つことがあります。
アジソン病であれば、副腎は両側とも高度に萎縮します。
犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)の治療
重度の副腎不全(副腎クリーゼ)の場合
輸液による循環改善とホルモン補充療法を行います。
輸液には生理食塩水を用い、体重(Kg)× 脱水(%) ×10(mL)のうち、半分を開始後 6 時間、残りを18 時間で投与します。
最初の3~4 時間のうちに利尿を確認します。
簡単な目安として、10~15ml/kg/hr で開始し、利尿が確認できたら5~10ml/kg/hr にします。
輸液の開始と同時に、酢酸ヒドロコーチゾン(ソルコーテフ)の静脈内投与(5~10 mg/Kg)を行い、以後6 時間ごとに1~2mg/kg 追加します。
初期治療の時点では、他のステロイド製剤はあまり必要ないが、デキサメタゾン(0.2~0.5 mg/Kg, iv)を同時に投与する場合もあります。
ほとんどの症例では治療開始後数時間以内に臨床症状の改善を示します。
高K 血症の是正のためにグルコース・インスリン療法を行うことは無意味であり、ほとんどの場合に有害です。
維持治療
自由飲水と摂食が可能になれば、輸液を中止し酢酸フルドロコルチゾン(フロリネフ:0.01mg/Kg, BID)の経口投与による維持療法に移行します。
※薬を安く購入する近道
最近は動物用医薬品もジェネリックも増えており、動物病院で病気さえ診断していただいて、
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犬・猫のアジソン病(副腎皮質機能低下症)の治療に用いる合成鉱質コルチコイド製剤です。
副腎皮質ホルモンであるフルドロコルチゾン酢酸エステルを有効成分としています。
副腎皮質ホルモンが不足する疾患であるアジソン病(副腎皮質機能低下症)の犬・猫に用いることで、動物体内にナトリウムを貯めて、カリウムを排泄します。
半数以上の症例は酢酸フルドロコーチゾン単独で維持できます。
維持しにくい(元気・食欲が出ない)場合には、低用量のプレドニゾロン(0.2~0.3mg/kg, BID)またはヒドロコルチゾン(コートリル:0.5~1.0 mg/kg, BID)を併用すると維持が容易になります。
パナフコルテロンは、有効成分のプレドニゾロンを含有した合成副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤です。
薬剤投与量は、臨床症状を観察しながら増減して維持量を決定します。
臨床症状が良好であれば、多少の低ナトリウム血症、高カリウム血症、血清ALP活性の上昇は経過を見ます。
ASTやALTは長期間の治療でも上昇することはないです。
AST やALT活性が上昇した場合は、投薬過剰もしくは他の疾患の併発を疑います。
酢酸フルドロコルチゾンはグルココルチコイド作用も充分に持っているので、アジソン病を単剤で維持できる。
一方、プレドニゾロンやデキサメタゾンはミネラルコルチコイド作用をほとんど持ちません。
したがって、電解質異常を伴う(ミネラルコルチコイドが不足している)アジソン病は、プレドニゾロンやデキサメタゾンでは維持できないです。
最もよくある失敗は、アジソン病の動物にプレドニゾロンを投与して、治療したつもりになることです。
薬剤 | 糖質C作用 | 鉱質C作用 |
コルチゾル(対照) | 1 | 1 |
アルドステロン(対照) | <0.2 | >5 |
フルドロコルチゾン | 10 | 125 |
ヒドロコルチゾン | 1 | 1 |
プレドニゾロン | 4 | 0.8 |
メチルプレドニゾロン | 5 | 0.2 |
デキサメタゾン | 25 | 0 |
各種ステロイド剤のもつグルココルチコイド(糖質C)作用とミネラルコルチコイド(鉱質C)作用の強さの比較。
生体内のコルチゾールを対照(1:1)として、同量の薬剤同士で比較したもの。
フルドロコルチゾン抵抗性の場合
ピバル酸デソキシコルチコステロン(DOCP)は持続型のミネラルコルチコイド製剤であり、個人輸入できます。
初期用量は2mg/kg(筋肉内または皮下投与)です。
ほとんどの犬では1回の注射で3~4週間、血清電解質が正常化します。
まず1回注射し、1週間ごとに血清電解質を測定し、正常化している期間を見きわめ、投与量と投与間隔を決めます。
DOCPはグルココルチコイド作用をほとんど持たないので、(ほぼ)必ず少量のグルココルチコイド(ヒドロコルチゾンを推奨)を併用します。
DOCPが適応となるのは、犬がフルドロコルチゾン抵抗性の場合や、フルドロコルチゾンのもつグルココルチコイド作用によってクッシング症状が現れる場合です。
実際にはDOCP が必要という状況はあまりないです。
犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症)の予後
特発性副腎皮質機能低下症の予後は良く、適切なホルモン補充が行われる限り、症例は寿命を全うできます。
多飲多尿の判断とは?
1日に体重 × 50mL以上の水を飲む場合は注意が必要です。
個体差もありますので、個人的には60ml/kg/day(1日1kgあたり)までは許容範囲な感じがします。
では具体的にどれくらいの量を飲むと、異常なのでしょうか?
確実に病的な多飲としては体重 × 100 ml以上の水を飲む場合、水の飲み過ぎと判断して良いでしょう。
例えば、体重5kgであれば、5×100 = 500mL以上飲むと異常ということになります。
しかし、上記は目安なので、1日に体重1kgあたり80mlであっても、徐々に増加しているのであれば注意が必要です。
飲水量の計測
上記の体重×50mLという値は飲水 + 食事の合計量です。
5kgの犬猫のドライフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
ドライフード
ドライフードの場合は5kg × 50 = 250mL以上で水の飲み過ぎです。
ウェットフード
ウェットフードを与えている場合は、フードに含まれる水分も考慮しなくてはいけません。
5kgの犬猫が1日200gのウェットフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
多くのウェットフードに含まれる水分量はおよそ75%です。
つまり、200g × 0.75 = 150 mLの水分を食事から取っていることになります。
ウェットフードの場合は250mL – 150mL = 100mL以上で水の飲み過ぎということになります。
飲水量の測り方
置き水は飲む以外にも蒸発して減っていきます。
正確に飲水量を測る場合は、蒸発量を考慮に入れた以下の方法で測ると良いです。
通常の水入れの場合
- 同じ形の水入れを2つ用意する
- どちらにも同じ量の水を入れる
- 1つは普段通り自由に飲める場所に置く(A)
- もう1つは隣に飲めないようにして置く(B)
- Bの残りの水の量 – Aの残りの水の量 = 飲んだ水の量
これで正確な飲水量を測ることができます。
ペットボトルに入れるタイプで給水
この場合は、あらかじめ入れる量を計算すれば、蒸発を考える必要はありません。
もちろん体重 × 50 mlを超えていないかをチェックするのも大事ですが、水の飲む量には個体差があります。
1番大事なのは変化(増加傾向、減少傾向)です。
日頃から飲水量を測定しておき、増加していないかどうかチェックするのが良いでしょう。
排尿量の測り方
水を多く飲むということは、「尿の量が増えて喉が渇く」ということです。
多飲:多く水を飲むということは体が水を欲している脱水状態であり、必ず排尿量も増えます。
飲水量以上に排尿すると脱水になりますし、飲水量よりも排尿量が少ないとむくんでしまいます。
なんだか最近水を多く飲むようになったなあと思ったら、飲水量を測ると同時におしっこも確認して見ましょう。
- 量や回数が増えていないか?
- おしっこの色が薄くなっていないか?
また、自宅で簡単に尿検査ができるペーパースティックを使用して、血統、鮮血、pHを測定することも大事です。
ペットシーツを使用している場合、ペットシーツの重さを測ることで尿量を測定することができます。
勝手に飲水量を制限してはいけません
飼い主さんの中には、水を飲み過ぎていると、心配になって飲水を制限してしまう方がいらっしゃいます。
しかしこれはやってはいけません!
なぜなら、水を飲むということはすでに脱水状態にあるため、脱水状態が悪化してしまうから。
水を飲み過ぎてしまう場合は、水を制限せずに早めに動物病院を受診しましょう