動物病院で、自分の犬が肺吸虫症と診断された...
肺吸虫症と診断されたけど、病院での説明不足や、混乱してうまく理解できなくてこの記事に辿りついたのではないでしょうか?
ネット上にも様々な情報が溢れていますが、そのほとんどが科学的根拠やエビデンス、論文の裏付けが乏しかったり、情報が古かったりします。
中には無駄に不安を煽るような内容も多く含まれます。
ネット記事の内容を鵜呑みにするのではなく、
情報のソースや科学的根拠はあるか?記事を書いている人は信用できるか?など、
その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。
例えば...
- 人に移るの?
- 治る病気なの?
- 危ない状態なのか?
- 治療してしっかり治る?
これを読んでいるあなたもこんな悩みを持っているのでは?
結論から言うと、犬、猫に寄生する吸虫は一般的に病原性は低く、臨床症状を示さない事が多いです。
また終宿主での宿主特異性は低いものが多く人獣共通感染症として知られていますが、犬、猫から直接、人に感染するわけではないです。
予防は、感染源となる中間宿主(淡水魚、カエルなど)や待機宿主(へビ)の摂食を防ぐことで、特に猫では完全な室内飼育でない限り予防は困難です。
この記事では、犬の肺吸虫症についてその原因、症状、診断方法、治療法までをまとめました。
限りなく網羅的にまとめましたので、肺吸虫症と診断された飼い主、犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。
臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
犬の肺吸虫症〜原因、症状、治療法〜
この記事の目次
肺吸虫症の病原体
本症は、斜睾吸虫目、肺吸虫科のParαgonimus属吸虫(肺吸虫)の幼若虫および成虫による肺実質への寄生と、肺への移行中の傷害によって引き起こされます。
国内の犬・猫では、ウェステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫が重要です。
肺吸虫症の疫学
Paragonimus属吸虫は様々な野生動物から見つかっており、分布は世界的ですが、特にアジアに多くの種が存在します。
国内においてウェステルマン肺吸虫、宮崎肺吸虫は、北海道を除く全国に分布します。
犬・猫の肺吸虫感染率はかなり低いと推測されますが、人や犬への感染源としてイノシシ肉が注目されています。
宮崎県の猟犬における肺吸虫寄生状況を調べた調査では、糞便内虫卵検査で50%(10/20)、抗体検査で85% (17/20)の陽性結果が報告されています。
肺吸虫症の宿主
ウェステルマン肺吸虫
- 終宿主:人、犬、猫、タヌキ、イタチ、テンなどの肉食動物
- 第1中間宿主:カワニナ
- 第2中間宿主:サワガニ、モクズガニ、アメリカザリガニ
- これら第2中間宿主を捕食したイノシシ、ネズミなどが待機宿主となります。
宮崎肺吸虫
- 終宿主:人、犬、猫、タヌキ、イタチ、テン、イノシシ
- 第1中間宿主:ホラアナミジンニナ、ミジンツボ
- 第2中間宿主:サワガニ
肺吸虫症の感染経路と生活環
成虫は、終宿主の肺実質に虫嚢を形成して寄生します。
虫嚢内に産卵された卵は、瘻管から出て気管へ移行し喀血や喀痰とともに排出されます。
動物の場合は、喀痰は喀出されるよりも嚥下されることが多く、虫卵は糞便とともに外界へ排出されます。
虫卵は,水中でミラシジウムが形成され孵化し、第1中間宿主のカワニナに侵入しスポロシスト、レジアを経てセルカリアとなる。
セルカリアは、第2中間宿主の淡水産カニ類に経口的あるいは経皮的に侵入して、鰓、肝臓、筋肉などで被嚢してメタセルカリアとなります。
これらのカニ類を終宿主が捕食すると、メタセルカリアは小腸内で、脱嚢し腸壁を穿通して腹腔へ出て、腹壁の筋肉内で発育します。
一定の発育を終えた後、幼若虫は横隔膜を穿通して胸腔に移行、肺に侵入して虫嚢を形成し、その中で性成熟します。
このように、感染してから産卵開始まで2ヶ月ほどかかります。
犬の肺吸虫症の臨床症状
幼若虫が横隔膜を穿通するため、出血し胸腔への出血により死亡することがあります。
自然感染例では、肺実質および胸膜への傷害と胸腔リンパ節の腫脹が知られています。
発咳、血痰、呼吸障害が起こりますが、無症状なことも多い。
犬の肺吸虫症の診断
糞便検査
界面活性剤を添加した上で行うホルマリン・エーテル法もしくはAMSIII法などで虫卵を検出し、虫卵の形態をもとに行います。
虫卵は淡黄褐色で左右不対称な逆卵円形で、広い小蓋をもちます。
その他
糞便検査と併せて、ELISA法などの免疫学的診断法や、結節状の虫嚢を検出する画像診断法(胸部X線検査やCT検査)も有力です。
犬の肺吸虫症の治療
プラジクアンテル25mg/kg、1日3回、経口投与、2日間が有効と報告されています。
犬の肺吸虫症の予防
予防は、中間宿主や待機宿主の生食を避けることが肝心です。