犬や猫の原発性アルドステロン症(primaryhyperaldosteronism)は、副腎腫瘍(非常にまれに特発性過形成)がアルドステロンを過剰分泌することにより起こります。
猫ではしばしば報告されていますが、犬ではわずかな症例報告しかありません。
この記事を読めば、猫の原発性アルドステロン症の症状、原因、治療法までがわかります。
限りなく網羅的にまとめましたので、猫の原発性アルドステロン症ついてご存知でない飼い主、また猫を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
犬猫の原発性アルドステロン症〜原因、症状、治療〜
この記事の目次
犬猫の原発性アルドステロン症の症状
アルドステロンが過剰になると体内にナトリウムが貯留し、カリウムと水素イオンは腎臓で排泄されます。
このため高ナトリウム血症、低カリウム血症、代謝性アルカローシスが生じます。
高ナトリウム血症は目立たないこともありますが、低カリウム血症は顕著であることが多いです。
高ナトリウム血症は高血圧、中枢神経症状、眼底出血(失明)、心血管障害の原因となります。
低カリウム血症はミオパチーの原因となります。
比較的詳細な観察がなされている文献として、猫の原発性アルドステロン症では低カリウム血症、低リン血症、クレアチンキナーゼ活性上昇、後大静脈血栓が認められました。
犬猫の原発性アルドステロン症の診断
低カリウム血症と、画像診断における副腎の腫大が診断のきっかけになることが多いです。
確定診断のためには血清アルドステロンと血漿レニン活性(PRA)を測定します。
アルドステロンはヒトの検査センターに依頼します。
健康で無刺激での血清アルドステロン値
- 犬:15~900 pmol/l(5~300 pg/ml)
- 猫:150~400 pmol/l(50~130 pg/ml)
ACTH 刺激後
- 犬:200~2000 pmol/l(60~600 pg/ml)
- 猫:250~800 pmol/l(70~250 pg/ml)程度
副腎が正常な動物でも血圧が低下すればアルドステロンは上昇します。
動物になんらかの高血圧所見があり、高ナトリウム血症(155 mEq/L 以上)あるいは低カリウム血症(3.0 mEq/L 未満)にもかかわらずアルドステロンが明らかに高値ならアルドステロン症と考えます。
無刺激の血清アルドステロンが明らかに高値であればACTH 刺激試験は必要ありません。
ACTH は高アルドステロン血症と高血圧を悪化させるので、むしろ危険です。
血症レニン活性は原発性アルドステロン症と続発性アルドステロン症の鑑別のために測定します。
血漿レニン活性の単位はng/ml/hrであり、健康猫では10(典型的には4)未満です。
アルドステロンが高値、レニンが低値であれば原発性アルドステロン症です。
一方、腎不全に伴う高血圧、ネフローゼ症候群、アジソン病、レニン産生腎腫瘍などでは腎臓でのレニン産生が亢進して続発性アルドステロン症となります。
続発性アルドステロン症では血症レニン活性が10(典型的には30)以上となります。
実際には、原発性アルドステロン症では画像診断で副腎腫瘍がみつかることが多く、続発性アルドステロン症の基礎疾患も容易に診断できるため、両者の鑑別はそれほど難しくありません。
犬猫の原発性アルドステロン症の治療
アルドステロン産生腫瘍が明らかになっていれば、それを外科的に摘出するのが根治的です。
内科療法としては、アルドステロンの作用を軽減するためスピロノラクトン(アルダクトンA)0.5~1.0 mg/kg, bid を内服します。
スピロノラクトンで充分な血圧降下が得られなければ、猫ではアムロジピン(0.625 mg/ 猫, sid)、犬ではエナラプリル(0.5mg/kg/day)を併用します。
クッシング症候群の治療に用いられるトリロスタンは原発性アルドステロン症の治療にも有効です。
犬では2~3 mg/kg、bid、猫では5~10mg/kg, bid で経口投与し、血圧、血清ナトリウムあるいは血清カリウム値に応じて増減します。
補助的に、低ナトリウム食を与えると腎臓でのカリウム喪失を抑制できます。
犬猫の原発性アルドステロン症の予後
犬・猫ともにアルドステロン症はまれで、予後についてのデータはほとんどありません。
しかし内科的コントロールはさほど難しくありません。
多飲多尿の判断とは?
1日に体重 × 50mL以上の水を飲む場合は注意が必要です。
個体差もありますので、個人的には60ml/kg/day(1日1kgあたり)までは許容範囲な感じがします。
では具体的にどれくらいの量を飲むと、異常なのでしょうか?
確実に病的な多飲としては体重 × 100 ml以上の水を飲む場合、水の飲み過ぎと判断して良いでしょう。
例えば、体重5kgであれば、5×100 = 500mL以上飲むと異常ということになります。
しかし、上記は目安なので、1日に体重1kgあたり80mlであっても、徐々に増加しているのであれば注意が必要です。
飲水量の計測
上記の体重×50mLという値は飲水 + 食事の合計量です。
5kgの犬猫のドライフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
ドライフード
ドライフードの場合は5kg × 50 = 250mL以上で水の飲み過ぎです。
ウェットフード
ウェットフードを与えている場合は、フードに含まれる水分も考慮しなくてはいけません。
5kgの犬猫が1日200gのウェットフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
多くのウェットフードに含まれる水分量はおよそ75%です。
つまり、200g × 0.75 = 150 mLの水分を食事から取っていることになります。
ウェットフードの場合は250mL – 150mL = 100mL以上で水の飲み過ぎということになります。
飲水量の測り方
置き水は飲む以外にも蒸発して減っていきます。
正確に飲水量を測る場合は、蒸発量を考慮に入れた以下の方法で測ると良いです。
通常の水入れの場合
- 同じ形の水入れを2つ用意する
- どちらにも同じ量の水を入れる
- 1つは普段通り自由に飲める場所に置く(A)
- もう1つは隣に飲めないようにして置く(B)
- Bの残りの水の量 – Aの残りの水の量 = 飲んだ水の量
これで正確な飲水量を測ることができます。
ペットボトルに入れるタイプで給水
この場合は、あらかじめ入れる量を計算すれば、蒸発を考える必要はありません。
もちろん体重 × 50 mlを超えていないかをチェックするのも大事ですが、水の飲む量には個体差があります。
1番大事なのは変化(増加傾向、減少傾向)です。
日頃から飲水量を測定しておき、増加していないかどうかチェックするのが良いでしょう。
排尿量の測り方
水を多く飲むということは、「尿の量が増えて喉が渇く」ということです。
多飲:多く水を飲むということは体が水を欲している脱水状態であり、必ず排尿量も増えます。
飲水量以上に排尿すると脱水になりますし、飲水量よりも排尿量が少ないとむくんでしまいます。
なんだか最近水を多く飲むようになったなあと思ったら、飲水量を測ると同時におしっこも確認して見ましょう。
- 量や回数が増えていないか?
- おしっこの色が薄くなっていないか?
また、自宅で簡単に尿検査ができるペーパースティックを使用して、血統、鮮血、pHを測定することも大事です。
ペットシーツを使用している場合、ペットシーツの重さを測ることで尿量を測定することができます。
勝手に飲水量を制限してはいけません
飼い主さんの中には、水を飲み過ぎていると、心配になって飲水を制限してしまう方がいらっしゃいます。
しかしこれはやってはいけません!
なぜなら、水を飲むということはすでに脱水状態にあるため、脱水状態が悪化してしまうから。
水を飲み過ぎてしまう場合は、水を制限せずに早めに動物病院を受診しましょう。