一般的に、体表部にできた腫瘍の第一選択となる治療は、外科切除です。
しかし、外科切除によるメリット(即座に腫瘍組織を最大限摘出できるなど)、
デメリット(麻酔が必要、侵襲性がある、一時的なQOLの低下など)を考えると、
中にはデメリットが上回ってしまう症例もいます。
そういう場合に良いとされる緩和的な治療方法が、モーズ軟膏です。
モーズ軟膏は、1930年代にアメリカの外科医モーズが考案し、皮膚がんなどを化学的に固定して腫瘍からの出血、感染、悪臭や疼痛などを抑制し、末期患者のQOLの改善を目的として応用されています。
Mohs軟膏は、自壊部からの出血、悪臭、浸出液を抑え、腫瘍自体の減量を図る目的で開発された方法で、日本では緩和的用途で使用されることが多いです。
塩化亜鉛を主成分とし、蛋白質を変性、収斂して壊死組織を化学的に固定乾燥させ、
軟膏を塗布し腫瘍を化学的に変性させて除去することにより治療を行います。
医学領域では切除不可能な腫瘍からの出血、滲出液、悪臭、疼痛をコントロールしQOLの改善を目的として、主に末期がん患者に対する緩和的治療として使用されています。
近年、獣医学領域でも自潰した体表の腫瘍に対する使用が報告されています。
Mohsペーストの効果は主に塩化亜鉛によるものといわれています。
亜鉛イオンは水溶液中で蛋白質を沈殿させ、組織の収斂や腐食を起こし、また細菌に対しては殺菌作用を示します。
殺菌作用により、悪臭を伴う感染病巣にも効果を示します。
Mohsペーストは腫瘍組織だけでなく正常な組織も変性させるので、ペーストが正常な組織に接触しないように慎重に取り扱わなければなりません。
ペースト塗布による疼痛コントロールを考えて鎮静剤を使用することもあります。
腫瘍を消失することができても再発することが多い治療法ですが、
Mohsペーストによって従来管理が困難であった手術のできない自潰腫瘍の出血や滲出液を軽減することができます。
QOLを改善する有効な緩和ケアになります。
院内で調合した軟膏を患部に塗布して、しばらく反応させます。患部の周囲は軟膏がつかないようにワセリンやラップで覆います。
患部を洗浄し痂皮や壊死組織を取り除いた後、腫瘤周囲にワセリンを塗り、
- 自潰した部分にMohsペーストを塗布
- 1時間後生理食塩水で洗浄
- 処置後には腫瘤は灰白色に変色
- 1週間後変色部位が脱落し肉芽組織
- 2週間後には皮膚の上皮化が完了し治療終了
処置後は、壊死組織と反応して白く患部が変色し乾燥します。
周囲のぶつぶつと小さなじくつきには亜鉛華デンプンを散布します。
これはMohs軟膏の組成成分の1つであり、収斂消炎効果があります。
緩和ですので進行は止められませんが、腫瘍自壊部からのにおいや出血を抑えます。
少しでも苦痛を取り除きQOLを上げるような緩和ケアは重要な選択肢です。
<モーズ軟膏の作成に必要な材料 方法>
まずモーズ軟膏を作成します。
患部を洗浄し、自壊した部分以外の正常な皮膚にワセリンなどを塗布します。
自壊した部分を覆うようにモーズ軟膏を塗布し、10分程度放置した後、ガーゼで拭き取り、洗浄して処置が終わります。
犬や猫において、乳腺腫瘍は、若齢時に避妊手術を行うことで発生リスクが抑制されることが報告されています。
✳︎犬の避妊手術のタイミングと乳腺腫瘍発生率の抑制
1回目の発情前の避妊手術 0.05%
2回目の発情前の避妊手術 8%
3回目の発情前の避妊手術 26%
3回目の発情以降の避妊手術 抑制効果なし Brody RS JAVMA 1983