獣医師解説!犬のコロナウイルス感染症〜原因、症状、治療法〜

    犬コロナウイルスは基本的に消化器病原体で、特に1歳齢以下の子犬の下痢症ウイルスです。

    小腸の械毛先端の円柱上皮に感染し細胞を破壊することで、消化吸収を阻害します。

    嘔吐と下痢を主徴とし、多くの場合は局所感染で短期間に収束しますが、獲得免疫が弱いために再感染しやすい。

    犬パルボウイルス2型の混合感染を受けると、生死にかかわる感染症となります。

    病状軽減を目的としたワクチンが開発されています。

    欧州の一部の国では致死する危険性もある全身感染を起こす「汎親和性」犬コロナウイルス株が検出されています。

    ワクチンによる予防が可能で、非常に有効です。

    この記事を読めば、犬コロナウイルス感染症の症状、原因、治療法からワクチンの必要性までがわかります。

    限りなく網羅的にまとめましたので、犬コロナウイルス感染症ついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
    ✔︎本記事の信憑性
    この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
    論文発表や学会での表彰経験もあります。

    記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

    » 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

    ✔︎本記事の内容

    犬の犬コロナウイルス感染症〜原因、症状、治療法〜

    犬コロナウイルスの病原体

    犬コロナウイルスの病原体
    ニドウイルス目Nidovirales

    コロナウイルス科Coronaviridae

    コロナウイルス亜科Coronavirinae

    アルファコロナウイルス属Althacoronavirus

    アルファコロナウイルス1種Althacoronavirus1

    犬コロナウイルスCaninecoronavirus(CCoV)

    犬コロナウイルスの病原体疫学

    犬コロナウイルスの病原体疫学
    感染源は急性感染犬や持続感染犬の糞使中のウイルス、およびそれに汚染した器物です。

    犬を多頭飼育している施設では、ウイルスが持ち込まれると短期間に感染が広がり維持されやすいです。

    したがって、 飼育犬の一部が陽性であれば、残りのすべての犬が感染していると考えられます。

    年齢や犬種に関係なく感染します。

    国内の犬の最大、半数程度は犬コロナウイルスに暴露していると推定されています。

    特に1歳齢以下の下痢症例の半数以上に関わっているとの報告もあります。

    ウイルスは体外では比較的早期に失活します。

    有機溶媒、界面活性剤、熱で容易に不活化されます。

    犬コロナウイルスの宿主

    犬およびコヨーテなどのイヌ科動物が宿主であり、猫も感染します。

    犬コロナウイルスの感染経路

    主な感染経路は経口感染です。

    経鼻感染も起きます。

    犬コロナウイルスの感染の特徴

    1. 年齢や犬種にかかわらず感染が起きやすい。
    2. 小腸における局所感染で、全身感染は起きにくい。
    3. 臨床的異常は水様性の下痢と嘔吐で、3カ月齢以下の子犬で重症になりやすい。
    4. 特に野外では犬パルボウイルス2型(CPV-2)との混合感染が多く、死亡する子犬も増えてきます。
    5. 感染によって惹起される免疫は不十分であり、再感染が起きやすい。

    これらの情報の殆どはウイルス分離可能な一部のコロナウイルス2型に関するもので、ウイルス分離が難しい1型についてはデータがないです。

    すなわち、犬コロナウイルス感染症の全体像は不明です。

    犬コロナウイルスの感染の発症機序

    犬コロナウイルスの感染の発症機序
    ウイルスは消化管を下行して小腸の上部2/3に分布する絨毛上部の成熟円柱上皮細胞に感染し、破壊します。

    潜伏期は1-5日間です。

    ウイルス血症による全身への広がりは、汎親和性犬コロナウイルスを例外として起きません。

    野外では犬パルボウイルスとの混合感染が多く、特に3ヶ月齢以下の子犬で症状が激しくなります。


    犬コロナウイルスによる腸繊毛細胞の破壊は腸陰窩細胞の分裂を促すため、犬パルボウイルスの増殖が増強され病状が重くなります。

    大腸粘膜や腸間膜リンパ節が感染することがありますが、臨床的な異常は起きないと考えられています。

    混合感染がない場合は数日間-1週間の下痢の後、腸管粘膜面に分泌される局所産生IgA抗体によりウイルスの拡散が抑制され回復に向かいます。

    血液中の中和抗体活性は7-10日目には検出できます。

    糞便中へのウイルス排出は最長4週間ほど続きます。

    犬コロナウイルスの感染の臨床症状

    犬コロナウイルスの感染の臨床症状
    犬コロナウイルスによる腸炎の症状はほとんどの場合、軽微です。

    短い潜伏期の後、突然の水様性の下痢が始まり、時に嘔吐を伴って脱水状態になります。

    元気と食欲が消失し発熱はまれです。

    血液検査では異常所見は認められないのが普通です。

    下痢は1週間ほどで、回復するが、3-4週間ほど持続したり、 一度回復した後に再発する症例もあります。

    幼若犬を例外として死亡することはまれで、予後は良好です。

    下痢便中に血液が混入していたり、発熱や白血球減少を伴う場合は、他の病原体、特に犬パルボウイルスの関与や汎親和性犬コロナウイルスの感染を疑います。

    汎親和性CCoVについて

    基本的にはコロナウイルス感染の症状と類似しています。

    人のSARS(重症急性呼吸器症候群)や猫の伝染性腹膜炎に類似する病型( 肺胞の損傷、線維素性滲出物、マクロファージ感染など)もあります。

    高熱、出血性胃腸炎、神経症状、リンパ球減少などが顕著、共通するのは「白血球減少症」です。

    ウイルス遺伝子や抗原が、肺、リンパ節、肝臓、脾臓、腎臓、膀胱、脳などに検出されています。

    犬コロナウイルスの感染の診断

    犬コロナウイルスの感染の診断
    症状から病因を確定するのは難しいです。

    下痢とともに、白血球減少が認められればパルボウイルス性の原因が強く疑われます。

    確定診断は病原学的あるいは血清学的に行います。

    遺伝子検査

    通常は確定診断不安ですが、 犬コロナウイルス1型はウイルス分離ができないので、

    病原学的診断には遺伝子検出が適しています。

    血清学的検査

    血清学的にはペア血清を用いて、中和試験やELISA法で抗体の上昇を確認します。

    犬コロナウイルス2型株しか用いることができないため応用には限界があります。

    犬コロナウイルスの感染の治療

    犬コロナウイルスの感染の治療
    下痢抗の対応としての対症療法と支持療法を行います。

    感染性腸炎の基本的な治療

    支持-対症療法により致死率は低下します。

    1. 脱水、敗血症、アシドーシス、電解質平衡障害の改善
    2. 消化のよい低脂肪フード(カッテージチーズ/ゆでた鶏肉+米/市販の低脂肪・蛋白フード)を与える。
    3. 抗菌薬、輸液(+デキストロース)は基本的に非経口投与します。
      経口抗菌薬療法は腸内正常細菌叢を破壊するため望ましくないです。
      広域スペクトルの抗菌薬(アンピシリンやゲンタマイシン)を選択します。
    4. 激しい失血、低蛋白血症の場合は、全血あるいは血漿輸血を実施します。
      供血犬は犬コアウイルスに対して高度免疫してあると好ましいです。
    5. 吐物や糞便への血液の混入、発熱、 白血球減少、ショック、播種性血管内凝固(DIC)などの場合は細菌の二次感染の疑いが強いので、抗菌薬の全身投与を考慮します。

    犬コロナウイルスの感染の予防

    犬コロナウイルスの感染の予防

    ワクチン

    生あるいは不活化ワクチンが市販されています。

    しかしながら、ワクチン株が病原性のない犬コロナウイルスを用いた非経口投与型のワクチンであるため、粘膜局所感染を防御する能力が低いです。

    また犬コロナウイルス1型には効果がないと考えられています。

    感染防御性ではなく病状軽減を目的としたノンコアワクチンです。

    犬コロナウイルスの感染の環境整備

    感染しないような環境整備や衛生管理を徹底します。

    特に新生犬は、母犬と共に他の犬から3カ月齢まで隔離することも感染を防ぐ1つの方法です。

    「犬呼吸器コロナウイルスについて」

    犬呼吸器コロナウイルス(Caninerespiratory coronavirus,CRCoV)はベータコロナウイルス属

    Betacoronavirusのベータコロナウイルス1種Betacoronavirus 1に分類されます。

    10数年ほど前の英国で、呼吸器病を呈した犬群から分離されました。

    CRCoVの起源は不明ですが、疫学調査で日本や韓国、欧米諸国など世界各地の犬に広範に感染していることが明らかにされ、ケンネルコフの二次病原因子とみなされています。

    特に高密度飼育の環境で流行しやすいです。

    気道向性で鼻孔や気管の粘膜、付属リンパ節に感染して炎症や線毛の破損が起きます。

    臨床的には軽度の発咳を主徴とします。

    ウイルスは糞便中には排出されないため、ケンネルコフに用いられる上部気道分泌物や経気管支吸引物を材料にしたRT-PCR法による遺伝子診断が望ましいです。

    CRCoV感染症にワクチンなどの特異的な治療法はないですが、ケンネルコフに対する一般的治療法と同じです。

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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