犬パルボウイルス感染症(Canineparvovirus infection)は子犬の致死性感染症で、免疫のない子犬は急性ないし甚急性の経過をとります。
食欲と元気が消失し、数時間後には嘔吐と多くの場合、血性の下痢を呈します。
下痢の発現後3日以内に85%の症例で汎白血球減少を呈し、発熱と脱水が顕著となります。
犬パルボウイルスの感染だけで犬が死亡することはないです。
感染が引き金になってグラム陰性腸内細菌の二次感染が起こり、それによるエンドトキシン血症を伴う敗血症が素因の「播種性血管内凝固(DIC)」によって死亡することもあります。
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この記事を読めば、犬パルボウイルス感染症の症状、原因、治療法からワクチンの必要性までがわかります。
限りなく網羅的にまとめましたので、犬パルボウイルス感染症ついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
犬の犬パルボウイルス感染症〜原因、症状、治療法〜
この記事の目次
犬パルボウイルスの病原体
パルボウイルス科Parvoviridae
パルボウイルス亜科Parvovirinae
プロトパルボウイルス属Protoρarvovzrusに分類される
肉食獣プロトパルボウイルス1種Carnivoreprototarvovirus1の中の
犬パルボウイルスCanineparvovirus(CPV:CPV-2)株
犬パルボウイルスの疫学
犬パルボウイルスCanineparvovirus(CPV:CPV-2)は体外における抵抗力が強いウイルスです。
室温で何カ月間も感染性を保持し、通常の身体にやさしい消毒薬では死滅しません。
そのため、1度発生したエリアでは発生が繰り返されることもあることから、塩素系の消毒薬やオートクレーブ消毒が必要です。
特に動物病院やペットショップなどでは、ウイルスが混入した糞便でケージや、床などが汚染された場合は、念入りな清掃と消毒が求められます。
ノロウイルス対策で使われる手法のように、汚染部に新聞紙やペーパータオルをのせ、その上から家庭用の塩素系漂白剤(ブリーチ、ハイターなど)をかけて1時間ほど放置するのが効果的です(有機物がない場合、10分以上で死滅)。
犬パルボウイルスの宿主
犬、オオカミ、コヨーテなどのイヌ科動物が自然宿主です。
実験的にはフェレット、ミンク、猫なども感染します。
野外の汎白血球減少症の猫からも検出されます。
犬パルボウイルスの感染経路
感染源は急性感染犬の排泄物(嘔吐物、糞使)中のウイルス、汚染した器物です。
経口や吸入によるウイルス暴露後、咽頭や消化管上部リンパ組織でCPVは増殖し、血流に侵入していくのが主経路です。
犬パルボウイルスの感染の特徴
CPV感染といえば「下痢症(腸炎型)」 ですが、コロナウイルスやノロウイルスなどの下痢症ウイルスとは感染機序が異なり、全身感染機序の中で発現します。
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感染症は典型的な急性ウイルス感染の経過をたどり、血液中に中和抗体が出現すると終息し、再発することもないです。
したがって非経口(注射)型予防摂取で管理ができます。
犬パルボウイルスの発症機序
潜伏期は4-7日間です。
曝露後の典型的な経過は以下のとおりです。
- 0-2日目 ウイルスは局所リンパ組織で増殖
- 3-4日目 ウイルス血症により全身へ播種
- 4-7日目 臨床症状発現
- 5-6日日 ウイルス排出最大
- 5-7日目 中和抗体出現、ウイルス血症は減弱開始
- 7-10日目 中和抗体最大,その後最低2年間は存続
- 7-14日日 ウイルス排出は終結
ウイルスは血液中に浮遊しながら全身に播種されますが、ウイルスの複製には宿主細胞側の条件が整う必要があります。
パルボウイルスはゲノムを極力小さくして複製できるように進化してきたウイルスであるため、複製に必要な各種酵素蛋白をコードしている遺伝子を保持していないです。
そのため最低限の遺伝子で複製する工夫をしており、ウイルスDNAゲノムの複製に必要なDNA合成酵素は宿主細胞のものを利用しています。
宿主細胞が分裂する細胞周期S(DNA合成)期に細胞内で増加するDNA合成酵素を自らのDNAゲノム複製に使用します。
つまり分裂している細胞、分裂細胞が多く合まれる臓器がCPVの標的として選択されます。
したがって、感染時に宿主のどの部位がCPVの増殖に好都合なのかが病型を決定します。
下記は犬と猫の感染時年齢と発現することが多い病型です。
妊娠時の感染は胎子死や流産の原因にもなっていることが推定されます。
症候群:病型 | 動物種 | 年齢 |
全身感染症 | 犬と猫 | 2~12日齢 |
白血球減少症 | 犬と猫 | 2~4カ月齢 |
腸炎 | 犬と猫 | 4~12カ月齢 |
小脳形成不全 | 猫 | 出生2週間前~生後4週間 |
心筋炎:急性 | 犬 | 3~8週齢 |
慢性 | 犬 | 8週齢以降 |
犬パルボウイルスの臨床症状
免疫のない子犬のパルボウイルス感染症の症状
- 急性ないし甚急性経過
- 潜伏期後、食欲・元気消失し数時間後に幅吐、多くの場合出血性の下痢
- 下痢の発現後3日以内に、85%の症例で、汎白血球減少
白血球の減少は、骨髄壊死による産生低下や腸管粘膜炎症部への移動による末梢血中の減少 - 発熱と脱水が顕著
- 腸管粘膜の破壊により腸内細菌が侵襲し、エンドトキシンショック(低体温、播種性血管内凝固(DIC)、黄疸)を発症
- 幼若齢の子犬では死亡
(治療例の致死率は7-10%、成犬では1%程度) - 6ヶ月齢以上では軽症あるいは無症候で経過する場合が多い
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子犬の臨床症状発現に影響する因子
子犬のパルボウイルス感染症の臨床症状発現に影響する因子
1 )すべての年齢の犬が感染しますが、1歳齢以下の犬で発病率が高い
2 )臨床痕状の激しさを左右する因子
- 移行抗体(〜12週齢頃)
- 予防接種歴
- ストレス(密飼い、衛生状態)
- 他の消化器病原体の存在(犬コロナウイルス、サルモネラ菌、カンピロパクター菌、
クロストリジウム菌、腸内寄生虫など) - ウイルス血症の程度(暴露ウイルスの毒力と暴露量)
3) 「Gut stress」
新しい環境に移されてストレスに曝されている子犬は、腸粘膜細胞の入れ替わり頻度(腸陰窩における細胞分裂速度)が低下しています。
しかし環境に順応するにつれて一転、食欲が改善すると、腸陰窩における細胞分裂速度が上がり、腸内が犬パルボウイルスの増殖に適した環境になって重症となります。
犬パルボウイルスの標的への到達
ロタウイルス、コロナウイルス、カリシウイルス、ノロウイルスなどの下痢症ウイルスは、汚染された食物と一緒になって消化管を下行し小腸に達します。
腸絨毛先端の粘膜細胞が感染標的となり絨毛を破壊、正常な消化吸収能を阻害して下痢を起こします。
絨毛粘膜膜細胞の供給源である腸陰窩が感染破壊されることは少ないです。
そのため、先端が破壊されても通常通りに新しい腸細胞が腸陰窩から供給されてくる。
出血も少なく、数日で原状に戻ります。
一方、犬パルボウイルスの場合は全身感染の一環として、主にウイルス血症によって小腸に到達します。
腸管粘膜で盛んに分裂を繰り返しているのは腸陰窩であるため、犬パルボウイルスの標的となり破壊されます。
結果として出血と粘膜の破壊が広範に起きて血便が顕著となります。
破壊された粘膜からは腸内細菌が侵襲、特にグラム陰性桿菌の侵入感染はエンドトキシンショックの引き金となり、死亡する危険が高まります。
犬パルボウイルス感染だけで犬は死亡することはありません。
感染が引き金となりグラム陰性腸内細菌の二次感染が起こり、エンドトキシン血症を伴う敗血症を素因とした急性の「播種性血管内凝固 disseminated intravascular coagulation.:DIC」に陥ることによります。
犬パルボウイルス感染の診断
ワクチン接種歴を調べます。
特に子犬の場合、「ワクチンは接種してあります」という事実は必ずしも「ワクチン免疫で保護されている」ということを意味しません。
特に4 ~ 8 週齢に接種したワクチンは移行抗体のために無効なことが多いです。
初回免疫処置を済ませてある1歳齢以上の犬の場合とは解釈が異なることに注意が必要です。
まず臨床病理学的に診断します。
ワクチン未接種の特に幼若齢の個体が突然の発熱、食欲、元気消失、嘔吐、下痢などを呈し、
白血球数が3000個/μL以下であればパルボウイルス感染症と暫定診断可能です。
抗原検査
確定診断は病原学的に実施します。
すべての排泄物(特に糞便)中にウイルスが排出され、容易に検出可能です。
市販のイムノクロマトキットやELISAキットを用います。
病気の前期では信頼性が高いです。
病気の後期になると腸管内に「糞便抗体」が産生され、ウイルス粒子を被覆するために抗原検出キットには反応しなくなる危険性があります。
ウイルス分離、遺伝子検査
細胞培養によるウイルス分離やPCR法などは専門検査機関に依頼します。
血清学的検査
血清学的にも診断は可能です。
中和試験や血球凝集抑制試験による抗体の有意上昇の確認、IgM抗体活性の検出などで実施できます。
犬パルボウイルス感染の治療
確定診断前から対症療法(補液、輸血、二次感染の防止)を始めます。
発病後5日目くらいまでの間、すなわち血液中に中和抗体が出現し始めるまでを支持療法も並行してしのぐことができれば、血中抗体の増加に伴い急速に回復が期待できます。
犬のパルボウイルス感染症の治療に「猫組換えインターフェロン」が認可されています。
初期の適用で効果があります。
支持、対症療法で致死率は下がります。
感染性腸炎の基本的な治療
以下に感染性腸炎の治療法の基本
支持-対症療法により致死率は低下します。
- 脱水、敗血症、アシドーシス、電解質平衡障害の改善
- 消化のよい低脂肪フード(カッテージチーズ/ゆでた鶏肉+米/市販の低脂肪・蛋白フード)を与える。
- 抗菌薬、輸液(+デキストロース)は基本的に非経口投与します。
経口抗菌薬療法は腸内正常細菌叢を破壊するため望ましくないです。
広域スペクトルの抗菌薬(アンピシリンやゲンタマイシン)を選択します。 - 激しい失血、低蛋白血症の場合は、全血あるいは血漿輸血を実施します。
供血犬は犬コアウイルスに対して高度免疫してあると好ましいです。 - 吐物や糞便への血液の混入、発熱、 白血球減少、ショック、播種性血管内凝固(DIC)などの場合は細菌の二次感染の疑いが強いので、抗菌薬の全身投与を考慮します。
- パルボウイルス感染症および犬ジステンパー、サルモネラ感染症では、初期の血清療法が有効です。
犬パルボウイルス感染の予防
ワクチン
有効性の高い、犬パルボウイルス感染症予防用ワクチンが開発されていますので、適切に用いれば、本病は管理できます。
以下は予防接種実施にあたっての注意点です。
- 犬パルボウイルスCanineparvovirus(CPV:CPV-2)型を含む名種混合ワクチンを選択する。
- 高力価の移行抗体が長期存続するため、生ワクチンを複数回接種します。
6-8週齢で接種を開始し,2-4週間間隔で16週齢まで接種します。
10週齢以下では移行抗体が残存している場合が多いのでワクチン効果は得られないことが多いです。
そのため、多くの子犬で移行抗体がワクチンを干渉しなくなる14-16週齢時に必ず追加接種するようにプログラムする必要があります。
特にハイリスクな生活環境、犬の山入りが頻繁な施設などで飼育されている子犬では重要です。
- 7週齢以下の子犬に接種するときはレプトスピラが混合されていないワクチンを選択します。
レプトスピラパクテリンの副反応が強いため、実際には幼犬ではできる限り接種しないか、接種するとしたらなるべく11週齢からとすることが望ましいです。
- 6 -14週齢間のワクチン接種は、対象犬の免疫空白期間が不明なための「保険」的接種となります。
特に他の犬と接触する機会が多い子犬は、連続接種することで危険期間の短縮が期待できます。
分娩時の母犬の血中抗体価が分かれば子犬のワクチン接種時期をピンポイントに推定可能です。
- 6ヵ月またはl歳齢のときに再接種(ブースター)して「初回免疫処置」は終了です。
- ワクチン接種歴が不明の成犬(または16週齢以上の子犬)では、通常2-4週間間隔で2回接種します。
以後は必要に応じて追加免疫を、3年以上の間隔で一度追加すれば十分です。
犬パルボウイルス感染の消毒
犬パルボウイルスの消毒には塩素系消毒薬が推奨されます。
家庭用ブリーチを30倍に水道水で希釈し、有機物がない場合、10分以上放置すれば死滅します。
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