血清Ca濃度が11.5 mg/dLを超えたとき「高Ca血症」と呼びます。
高Ca血症の原因は様々です。
軽度(11.5~13 mg/dL 程度)の高Ca 血症は、それ自体が臨床症状を引き起こすことはなく、血液検査で偶然発見されることが多いです。
しかし血清Ca濃度がおよそ15 mg/dL を越えると神経・骨格筋症状が現れるようになり、腎不全のリスクも高まります。
高Ca血症の治療は基礎疾患に対して行うのが基本ですが、重篤な高Ca血症では腎不全を予防するために血清Ca濃度を低下させる緊急治療も必要です。
この記事を読めば、犬と猫の高Ca(カルシウム)血症の症状、原因、治療法までがわかります。
限りなく網羅的にまとめましたので、犬と猫の高Ca(カルシウム)血症ついてご存知でない飼い主、また犬や猫を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
犬と猫の高Ca (カルシウム)血症〜原因、症状、治療法〜
この記事の目次
犬と猫の高Ca (カルシウム)血症の鑑別診断
- 悪性腫瘍随伴高Ca 血症
- 原発性副甲状腺機能亢進症
- アジソン病
- 腎不全
- ビタミンD 中毒
- 悪性腫瘍の骨転移
- 猫の特発性高Ca 血症
- 脱水
- 肉芽腫性疾患(ブラストミセス症など)
- 骨髄炎
- 殺鼠剤中毒
- 若齢の動物
重度の高Ca 血症(>15 mg/dL)が引き起こされるのは、悪性腫瘍随伴高Ca 血症、原発性上皮小体機能亢進症、アジソン病
他の原因による高Ca 血症は軽度にとどまることが多いです。
悪性腫瘍随伴高Ca 血症
悪性腫瘍随伴高Ca 血症は、腫瘍が上皮小体ホルモン関連ペプチド(PTHrP)を分泌することで起こります。
PTHrP はPTH レセプターに作用し、高Ca血症と低P 血症を引き起こします。
高齢犬の高Ca 血症の大半は悪性腫瘍によるものであり、リンパ腫、多発性骨髄腫、肛門腺癌(アポクリン腺癌)が原因になりやすいです。
猫では犬より悪性腫瘍随伴高Ca血症の発生頻度が低いが、リンパ腫、扁平上皮癌が原因になりやすいです。
原発性上皮小体機能亢進症
原発性上皮小体機能亢進症は、上皮小体の腺癌、腺腫またはびまん性過形成により、PTH が過剰に分泌されて起こります。
犬では腺癌、腺腫によるものが多く、ときにびまん性過形成のものもみられます。
猫では原発性上皮小体機能亢進症はきわめてまれです。
アジソン病
アジソン病では、ステロイドホルモン不足と腎血流減少のため、尿へのCa 排泄が減少することで高Ca 血症になる。
アジソン病は犬でしばしばみられ、あまり意識されないが重度の高Ca 血症に陥っていることがある。
アジソン病でみられる高Ca 血症と高カリウム血症は、心電図の異常に直結する。
猫では自然発生のアジソン病そのものがまれである。
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犬と猫の高Ca (カルシウム)血症の症状
- 元気消沈
- 食欲不振
- 虚弱
- 振戦
- 神経過敏
- 多飲・多尿
- 嘔吐
- 下痢
- 軟部組織石灰化(高Ca、高P 血症のとき)
- 心室性期外収縮
高Ca 血症は神経・骨格筋に影響を与えやすいですが、現れる症状は非特異的です。
高Ca 血症は腎臓での抗利尿ホルモン作用を阻害するので、多飲・多尿も現れやすいです。
長期の高Ca 血症では腎不全となり、多飲・多尿が持続します。
ただし、原発性上皮小体機能亢進症以外の疾患であれば、高Ca 血症よりも基礎疾患(悪性腫瘍、アジソン病、腎不全など)による症状のほうが目立つことが多く、鑑別診断は比較的容易です。
犬と猫の高Ca (カルシウム)血症の診断・鑑別診断
犬で高Ca 血症を疑ったら、補正Ca を計算し、真の高Ca 血症であるか確認します。
猫ではこの式は使えません。
さらに、血液一般検査(CBC)、血清Na、K、P、BUN、クレアチニンなどを測定し、基礎疾患を鑑別します。
多くの場合、高Ca 血症はホルモン測定をする前に鑑別・確定診断できますが、必要があればPTH およびPTHrP を測定します。
高Ca・低P 血症であり、PTH が正常高値~高値、PTHrP が低値であれば副甲状腺機能亢進症と診断し、頸部の超音波検査で副甲状腺の腫瘍を探します。
PTHが低値であり、PTHrPが高値であれば悪性腫瘍随伴高Ca 血症と診断し、全身を検査(触診、直腸検査、画像診断)して悪性腫瘍を探します。
動物の基準値もヒトと同じく1.1 pmol/L 未満(測定限界未満)です。
高Ca であり、血漿PTHrPが1.1 pmol/L 以上の数値として報告されたら悪性腫瘍随伴高Ca 血症と診断します。
犬と猫の高Ca (カルシウム)血症の治療
高Ca 血症の治療の基本は、基礎疾患の治療です。
高Ca 血症そのものに対する治療が必要なのは、高Ca による明らかな症状があるときです。
- 血清Ca > 15 mg/dL のとき
- 血清Ca が急激に上昇しつつあるとき
- 血清Ca× 血清P(mg/dL)> 70 のとき
- 高窒素血症があるとき
- 動物が脱水しているとき
このような場合には、速やかに血清Ca を低下させなければ腎不全などの不可逆的な臓器障害に陥ります。
1) 輸液
生理食塩水を用います。
特別な禁忌がない限り、高Ca 血症を是正するためには生理食塩水の持続点滴が最も効果的です。
脱水があれば24 時間かけて補正するように流量設定します。
脱水がなければ維持量(3 mL/kg/hr)程度を点滴し、利尿を確認します。
2) フロセミド(ラシックス)
フロセミドは腎臓でのCa 再吸収を抑制します。
1~2 mg/kg を6~8 時間ごとに静脈内投与します。
フロセミドは必ず生理食塩水を点滴しながら使用します。
3) プレドニゾロン
プレドニゾロンも腎臓でのCa 再吸収を抑制します。
1~2 mg/kg, BID で静脈内投与します。
プレドニゾロンは高Ca 血症の是正に有効だが、使用することで基礎疾患(とくに悪性リンパ腫)の診断が難しくなることがあります。
4) ビスホスホネート(アレディア)
ビスホスホネート(パミドロン酸2 ナトリウム:商品名アレディア)は、悪性腫瘍随伴高Ca血症や、悪性腫瘍の骨転移による高Ca 血症にきわめて有効です。
ビタミンD 中毒による高Ca 血症にも使用できるとされています。
1 mg/kg を2 時間かけて点滴静注します。
作用は投与1~3日後に現れ、血清Caが徐々に低下します。
効果は数日~4 週間持続します。
腎機能が低下している動物ではまず1/4~1/2量で使用します。
5) エルカトニン(エルシトニン:旭化成)
エルカトニンはウナギのカルシトニンの誘導体です。
5~20 単位/ 頭を1 日2~3 回投与します。
開始直後は効果的に血清Ca を低下させるが、数日間で無効になります。
6) サケカルシトニン(サーモトニン:山之内)
合成サケカルシトニンであり、5~10 単位/ 頭を1 日2~3 回投与します。
開始直後は効果的に血清Ca を低下させるが、数日間で無効になります。
犬と猫の高Ca (カルシウム)血症の予後
基礎疾患によります。
基礎疾患の治療に成功しても、不可逆的な腎不全に陥った動物の予後は悪いです。
多飲多尿の判断とは?
1日に体重 × 50mL以上の水を飲む場合は注意が必要です。
個体差もありますので、個人的には60ml/kg/day(1日1kgあたり)までは許容範囲な感じがします。
では具体的にどれくらいの量を飲むと、異常なのでしょうか?
確実に病的な多飲としては体重 × 100 ml以上の水を飲む場合、水の飲み過ぎと判断して良いでしょう。
例えば、体重5kgであれば、5×100 = 500mL以上飲むと異常ということになります。
しかし、上記は目安なので、1日に体重1kgあたり80mlであっても、徐々に増加しているのであれば注意が必要です。
飲水量の計測
上記の体重×50mLという値は飲水 + 食事の合計量です。
5kgの犬猫のドライフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
ドライフード
ドライフードの場合は5kg × 50 = 250mL以上で水の飲み過ぎです。
ウェットフード
ウェットフードを与えている場合は、フードに含まれる水分も考慮しなくてはいけません。
5kgの犬猫が1日200gのウェットフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
多くのウェットフードに含まれる水分量はおよそ75%です。
つまり、200g × 0.75 = 150 mLの水分を食事から取っていることになります。
ウェットフードの場合は250mL – 150mL = 100mL以上で水の飲み過ぎということになります。
飲水量の測り方
置き水は飲む以外にも蒸発して減っていきます。
正確に飲水量を測る場合は、蒸発量を考慮に入れた以下の方法で測ると良いです。
通常の水入れの場合
- 同じ形の水入れを2つ用意する
- どちらにも同じ量の水を入れる
- 1つは普段通り自由に飲める場所に置く(A)
- もう1つは隣に飲めないようにして置く(B)
- Bの残りの水の量 – Aの残りの水の量 = 飲んだ水の量
これで正確な飲水量を測ることができます。
ペットボトルに入れるタイプで給水
この場合は、あらかじめ入れる量を計算すれば、蒸発を考える必要はありません。
もちろん体重 × 50 mlを超えていないかをチェックするのも大事ですが、水の飲む量には個体差があります。
1番大事なのは変化(増加傾向、減少傾向)です。
日頃から飲水量を測定しておき、増加していないかどうかチェックするのが良いでしょう。
排尿量の測り方
水を多く飲むということは、「尿の量が増えて喉が渇く」ということです。
多飲:多く水を飲むということは体が水を欲している脱水状態であり、必ず排尿量も増えます。
飲水量以上に排尿すると脱水になりますし、飲水量よりも排尿量が少ないとむくんでしまいます。
なんだか最近水を多く飲むようになったなあと思ったら、飲水量を測ると同時におしっこも確認して見ましょう。
- 量や回数が増えていないか?
- おしっこの色が薄くなっていないか?
また、自宅で簡単に尿検査ができるペーパースティックを使用して、血統、鮮血、pHを測定することも大事です。
ペットシーツを使用している場合、ペットシーツの重さを測ることで尿量を測定することができます。
勝手に飲水量を制限してはいけません
飼い主さんの中には、水を飲み過ぎていると、心配になって飲水を制限してしまう方がいらっしゃいます。
しかしこれはやってはいけません!
なぜなら、水を飲むということはすでに脱水状態にあるため、脱水状態が悪化してしまうから。
水を飲み過ぎてしまう場合は、水を制限せずに早めに動物病院を受診しましょう