【獣医師解説】無麻酔での歯垢・歯石除去、スケーリングによる合併症・危険性

最近、犬の歯石・口の匂いが気になる・・・

犬の歯石除去、スケーリングは全身麻酔?無麻酔?・・・

本記事では、無麻酔の犬のスケーリング・歯石除去のデメリット・問題点・危険性・弊害についてお話しします。

  • 様子、経過を見てくださいと言われたけど心配...
  • 検査してくれなかった...
  • 病院ではよくわからなかった...
  • 病院では質問しづらかった...
  • 混乱してうまく理解できなかった...
  • もっと詳しく知りたい!
  • 家ではどういったことに気をつけたらいいの?
  • 治療しているけど治らない
  • 予防できるの?
  • 麻酔をかけなくて治療できるの?
  • 高齢だから治療ができないと言われた

もしくは、病院に連れて行けなくてネットで調べていた という事でこの記事に辿りついたのではないでしょうか?

ネット上にも様々な情報が溢れていますが、そのほとんどが科学的根拠やエビデンス、論文の裏付けが乏しかったり、情報が古かったりします。

中には無駄に不安を煽るような内容も多く含まれます。

ネット記事の内容を鵜呑みにするのではなく、 情報のソースや科学的根拠はあるか?記事を書いている人は信用できるか?など、 その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。

例えば...

  • 人に移るの?
  • 治る病気なの?
  • 危ない状態なのか?
  • 治療してしっかり治る?

これを読んでいるあなたもこんな悩みを持っているのでは?

現在、人とともに暮らす犬や猫の約80%以上が歯周病に罹患していることが明らかになっています。

動物損害保険会社の最近のデータでは、

犬の手術理由および入院理由のなかで最も多い疾患は歯周病であり、

他の皮膚疾患や消化管内異物、乳腺腫瘍、膝蓋骨脱臼、子宮蓄膿症、腫瘍外傷よりも多く、
犬の入院理由においても膵炎、消化器疾患、慢性腎臓病、弁膜症よりも多いという結果でした。

 

しかし、これほど多い疾患にもかかわらず、日々の診察のなかで歯周病に対して適切な治療やデンタルケアが行われていないことが少なくないです。

たとえば、日々の診療のなかで、

  • 歯面に付着した歯垢・歯石を無麻酔下で市販されているハンドスケーラーを使用して治療し、
  • 歯や歯肉、あるいは他の部位に外傷や機能障害などを引き起こしたり、
  • 市販されているデンタルケア製品に起因した歯の破折や咬耗

などに遭遇することがあります。

今回、これらに起因して引き起こされた併発症をまとめました。

この文章は消さないでください。
日本小動物歯科研究会では、無麻酔での歯垢・歯石除去をすすめていません。

今回の記事が多くの飼い主にとって明日からの歯科診療とデンタルケアの一助となれば幸いです。

タイトル
  • 無麻酔による歯科処置の弊害
  • 無麻酔での歯垢・歯石除去とデンタルケアを目的とした製品による歯の併発症に関するアンケート結果
  • 無麻酔での歯垢・歯石除去による併発症を考える
  • おやつやデンタルケアを目的に与えた製品による歯の併発症を考える
  • 適切な歯周病治療とデンタルケアの概要

この記事は、無麻酔の犬のスケーリング・歯石除去のデメリット・問題点・危険性・弊害が気になる飼い主向けです。

この記事を読めば、無麻酔の犬のスケーリング・歯石除去のデメリット・問題点・危険性・弊害がわかります。

限りなく網羅的にまとめましたので、無麻酔での歯垢・歯石除去とデンタルケア商品の危険性・合併症に関するアンケート結果について詳しく知りたい飼い主は、是非ご覧ください。

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✔︎本記事の信憑性

この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、 論文発表や学会での表彰経験もあります。

今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。

臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!

記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】や詳しい実績はこちら!

✔︎本記事の内容

無麻酔での歯垢・歯石除去、スケーリングによる合併症・危険性

はじめに

近年、歯垢・歯石を除去することに伴うトラブルが報告されてきてます。

それも無麻酔で、とくに犬に対して行う歯垢・歯石除去による問題が散見されます。

一般的に無麻酔での歯垢・歯石除去は完全な治療になっていないばかりか、反対にこの行為により個体にダメージを与えてしまっている場合も少なくないです。

実際に、日本小動物歯科研究会では、2015年と2019年に歯科研究会会員に向けた「無麻酔下歯石除去ならびにデンタル製品等によるトラブルに関するアンケート」の結果において、様々な有害事象に遭遇したり、みたり、きいたりした経験が報告されています。

通常、大多数の犬と猫は、何らかの歯もしくは口腔疾患があります。

これらの疾患は、

  • 生活の質
  • 栄養状態
  • 動物の幸福の状態

に多大な影響を与える重度の疼痛と炎症を生じることがよくあります。

したがって、無麻酔下での歯垢・歯石除去の危険性を理解すると同時に、麻酔下で正しく歯垢・歯石除去を行う必要があります。

本ブログで、無麻酔での歯垢・歯石除去の問題を考えるきっかけにしていただければ幸いです。

 

2019年アンケート結果からみる無麻酔での歯垢・歯石除去による併発症

2019年度の当研究会のアンケート結果によると、無麻酔での歯垢・歯石除去の実施件数を場所別にみると、

  • トリミングショップ132
  • 動物病院98
  • ペットショップ77
  • ホームセンター22
  • イベント会場20
  • ドッグカフェ7

でした。

また、実施者別にみると、

  • トリマーが110
  • 獣医師が86
  • 動物看護師が30

でした。

回答を寄せてくれた獣医師のなかで、この無麻酔での歯垢・歯石除去を行うことは

  • 「いけないことと思う」と回答した獣医師は140件(回答者の83%)
  • 「症例により問題ないと思う」27件(16%)
  • 「問題ないと思う」1件(1%)

でした。

また、医療従事者でない人がある種の資格を取得して無麻酔で歯垢・歯石除去を行っていることについては、

  • 「よくないと思う」153件(92%)
  • 「症例によりよいと思う」13件(8%)
  • 「よいと思う」1件(1%)

でした。

さらに、無麻酔での歯垢・歯石除去を自宅で飼い犬に行うことについては、

  • 「よくないと思う」114件(72%)
  • 「症例によりよいと思う」34件(21%)
  • 「よいと思う」11件(7%)

でした。

無麻酔での歯垢・歯石除去で以下のトラブルや事故になったということをきいたことがあるかという質問に関しては、

「ある」97件(58%)

「ない」71件(42%)でした。

この「ある」という回答のなかで具体的にどのようなトラブルや事故であったかに関しては下記にまとめました。

●歯科領域関連 106
・歯周病が改善しないか悪化した 27件
・口腔周囲を触らせなくなった 23件
・口腔内粘膜の損傷・出血 19件
・下顎骨の骨折 18件
・歯の破折 12件
・口腔鼻腔を発症 4件
・歯の脱臼 3件
●歯科以外の領域 26
・股関節脱臼・椎間板ヘルニアなど 13件
・処置後心不全の症状、腎機能の低下、食欲不振 4件
・処置中、処置後翌日に死亡 3件
・誤嚥性肺炎、細菌性肺炎 2件
・処置後攻撃的な性格になった 2件
・異物(破損したハンドスケーラー先端)を誤飲 1件
・眼圧上昇 1件
●無麻酔での歯垢歯石除去による動物の事故の部位(みたり、きいたり、経験したこと) 65
・臼歯 15件
・脊椎・四肢 13件
・下顎骨 12件
・犬歯 10件
・歯肉・口腔内粘膜 8件
・死亡を含むその他 7件

 

犬の歯周病の実態

この文章は消さないでください。
2~3歳齢ですでに犬や猫の歯周病の罹患率は7085%です。

また、1歳齢未満の体重5kg以下の犬の90%はすでに歯周病であり、X線検査で歯槽骨の吸収が認められると報告されています。

したがって、小型犬では、1歳齢未満ではほとんどすでに歯周病と診断できます。

歯周病は、歯の表面に付着した、ねばねばした歯垢中の細菌が原因で歯周組織(歯肉、歯根膜、歯槽骨、セメント質)に炎症を引き起こす疾患です。

口腔内には、500800種類の細菌が存在して、これらの細菌が最初、歯肉にのみ炎症を引き起こします。

これが歯肉炎です。

これを放置すると次第に歯肉を含んだ他の歯周組織にも炎症をおこす歯周炎になります。

多数ある口腔内細菌のうち、約10種類は歯周炎を引き起こすことが知られています(これを歯周病原性細菌という)。

歯肉炎と歯周炎を総称して歯周病と呼称しています。

犬や猫は、口腔内がアルカリ性であるために歯垢がわずか数日で唾液中のカルシウムやリンを取り込んで石灰化して歯石となります。

 

歯が脱落すると歯周病は消退しますが、その状態にいたるまでの長い期間、様々な症状を示します。

臨床症状として、

  • 歯垢・歯石付着
  • 口臭
  • 歯肉の発赤・腫脹
  • ポケットの形成
  • 歯肉の腫脹あるいは退縮
  • 歯の動揺
  • 歯の喪失
  • ポケットからの出血や排膿
  • 根分岐部の露出
  • 歯槽骨の吸収
  • 歯根膜腔の拡大

などを示します。

 

歯周病の進行に影響するもの

歯周病の進行の背景には、

  • 歯肉炎が放置され、歯肉が少なくなる病態
  • 歯並びが悪い
  • 歯列がよくない
  • 食物が歯に挟まっている
  • 乳歯が残っている
  • 歯の形の異常

などにより歯周炎に進行しやすくなります。

人では、

  • 免疫機能障害
  • 血液疾患
  • 糖尿病
  • 腎機能障害
  • 加齢
  • 栄養障害

などが関与したり、生活環境のなかでの喫煙などが関与すると歯周炎のリスクが高くなってくることが明らかにされています。

いっぽう、動物では、これらの全身性因子による歯周病の進行程度への影響は現時点では不明ですが、

そのいくつかが歯周病のリスクを上げている可能性があると考えられています。

 

歯周病のチェックポイント

歯周病のチェックポイントとして、

  • 歯肉の炎症程度
  • 歯垢・歯石の付着程度
  • 歯の動揺の程度
  • 根分岐部病変
  • アタッチメントロスおよび歯肉や歯周ポケットの深さ

などが挙げられます。

これらについて、

  • 肉眼による検査
  • 歯科用X線装置と歯科用X線フィルムを用いたX線検査
  • 歯周プローブや探針(エキスプローラー)による検査
  • CT検査

を行い歯周病の程度を判定します。

中程度~重度に歯垢・歯石が蓄積している場合は、

歯冠部の歯垢・歯石を除去してから根分岐部病変の診査と歯肉や歯周ポケットの深さの測定を実施します。

また、口臭も歯周病の重要な判定検査です。

通常口臭は主に歯垢・歯石中に含まれるアミノ酸が歯垢中の細菌によって分解されて産生された
揮発性ガス(硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイド)を原因とします。

 

実際の歯周病の程度は肉眼的なみた目と異なる

犬アトピー性皮膚炎の症状と食物アレルギー性皮膚炎の問題点

歯垢・歯石の付着が重度でも、実際は歯槽骨の吸収がほとんど認められなかったり、

反対に歯垢・歯石の付着がほとんどみられない症例において抜歯を余儀なくされることもあります。

ここでは、これらの症例を紹介します。

 

【症例1】歯石の付着が重度の症例

ヨークシャー・テリア、雄、12歳齢。

ドライフードを常食としており、毎日、デンタルジェル(天然酵素入りの歯磨きペースト〈デンタルジェル〉)をなめさせていた。

歯周病の治療を目的に来院した。

口腔内肉眼所見では、重度の歯石付着と歯肉縁の発赤・腫脹を認めた。

すべての歯に対する歯周プローブを用いたポケットの深さや根分岐部の検査および口腔内X線検査では、重度の歯石付着のわりに歯周病の程度は、ステージ12であった。

したがって、治療は歯垢・歯石除去とポリッシングであり、一部でルートプレーニングも行った。

本症例では、歯石の付着は重度であったが(歯石は歯周病の悪化誘引にはなるが、歯石のなかの細菌は歯周病の直接的原因とはならない)、炎症を引き起こす歯垢の付着がほとんど認められなかったことが軽度の歯周病のステージ分類になったと考えられた。

 

【症例2】毎日、硬めの歯ブラシとフロスで歯磨きを行っている症例

ミニチュア・ダックスフンド、12歳齢、去勢雄。

症例は、毎日硬めの歯ブラシとフロスで歯磨きを行っていたが、3年前から鼻汁とくしゃみを認めるという主訴で来院した。

肉眼的に口腔内をみるかぎり、歯垢・歯石の付着と歯肉の炎症は確認できなかった。

しかし、歯周プローブを用いた検査で口腔鼻腔瘻と診断し、治療にいたった。

反対側の左上顎犬歯部も同様な所見であった。

本症例は、他の歯はほとんど完璧にケアされていたが、上顎犬歯口蓋側面のみ歯磨きの磨き残しがあったものと考えられた。

以上のように、肉眼的な口腔内所見において、みた目と実際の歯周病の程度は異なることが理解いただけたと思われる。

全身麻酔下で丁寧に口腔内検査を行って、歯周病の程度を判定してから歯周病のステージに応じた治療を行うことがきわめて大切であることがわかる2症例であった。

 

歯周病が進行した結果の行く末

よくあるトラブルとして、飼い主が動物の口臭や歯垢・歯石の治療を獣医師に依頼しても、

獣医師側から「歯では死なないから、まだ麻酔下での治療は必要ない。抗生物質で様子をみましょう」といわれ、

それを信じていたが、通常の口腔検査を行うと歯を支えている歯槽骨が重度に吸収され、抜歯を余儀なくされることが少なくないです。

歯周病が進行すると下記のように顎の周囲の疾患全身性疾患を引き起こす恐れがあります。

顎の周囲の疾患

歯周炎が進行すると、根尖周囲病巣を引き起こし、さらに、炎症が進行して眼の下の皮膚や顎の下の皮膚に穴が開いたり(外歯瘻)、口腔粘膜に穴が開いたりします(内歯瘻)。

犬や猫の口腔と鼻腔を隔てている上顎骨の厚さは、わずか12mm程度のために、上顎の歯の歯周病により上顎骨が破壊すると、鼻と口がつながってしまうこと(口腔鼻腔瘻)もあります。

くしゃみ、鼻汁、鼻の上をよくなめるしぐさをするなどの症状で口腔鼻腔瘻が原因であることが多いです。

また、重度歯周病に起因した骨髄炎や深い歯周ポケットのなかに認められる細菌が根尖三角を通って歯髄腔に侵入して

歯髄壊死を生じるタイプ2歯内歯周病変(深い歯周ポケットに起因して根尖から歯髄に炎症が生じること)にいたることもあります。

さらに、小型犬では、歯周病による下顎第1後臼歯部や下顎犬歯などの歯槽骨の重度の吸収により、歯周病による下顎骨骨折を認めることも少なくないです。

 

全身性疾患

歯周病が全身疾患に与える影響については、人においては炎症性介在物質が早期低体重児出産のリスクを高めたり、

糖尿病になりやすくななど歯周病に関係する様々な物質が全身疾患のリスクを増加させる原因となっています。

獣医学領域においても歯周病に関与する細菌、内毒素、炎症性介在物質が口腔粘膜から全身循環に入り、全身性に影響を与えることも示されています。

歯周病に罹患した犬で、末梢血中に歯周ポケットのなかの細菌と同種の細菌が確認された報告や、心臓、肝臓および腎臓において炎症性細胞浸潤を認めた報告があります。

僧帽弁閉鎖不全症の犬の遺伝子検査においても、僧帽弁から高率に歯周病原性細菌と同じ細菌が認められています。

 

歯科処置を行う際のWSAVAのコンセプト

この文章は消さないでください。
最初の検査や麻酔剤の投与の際には、動物にストレスを与えないように、とくに猫は優しく取り扱うことが求められています。

獣医師や動物看護師は診察室に入ってきたときから動物に優しく声をかけて、飼い主も一緒にそばにいてもらい、動物が安心できるように人道的に接することが必須です。

適切な麻酔をせずに歯科治療を行うことは病巣を評価できないばかりか、最も重要な歯肉下の治療ができません。

このことにより感染、炎症、疼痛が持続します。

これは、動物の福祉の理念や動物の生活の質に反するために
WSAVAWorld Small Animal Veterinary Association)では、
適切に動物を扱うことを強く主張しています。

 

動物の歯科疾患における疼痛

この文章は消さないでください。
健全な生活の質を維持するために歯周病の犬や猫に対して歯周病の治療と日常的なデンタルケアを施すことが必要です。

適切な治療が行われないとその部位の疼痛と炎症、さらには全身疾患にまで移行し、健全な身体の機能が果たせなくなるために、局所のみならず顔面の自然な動きが妨げられるようになります。

動物は歯科疾患があっても疼痛があるのかないのか判断しにくく、平静を装っているようにみえますが、

実は、口腔内や歯の痛みは、人と同様に存在します。

現在、個体が歯科疾患の痛みと関係する可能性があると観察できる変化は下記のとおり示されています(WSAVA Global dental guideline 2019)。

したがって、これらの行動やしぐさがみられたら何らかの歯科疾患があると判断できます。

  • 流涎
  • 攻撃的になる
  • 人に寄ってこない
  • 睡眠ができない
  • グルーミングの減少
  • 採食時の行動の変化
  • 硬いフードから軟らかいフードへの好みの変化
  • フードを丸呑みする
  • 一方の側でのみ咀嚼する
  • 唇を鳴らす
  • 歯をガチガチいわせる
  • とくに猫で歯を磨滅させる
  • 口腔外で舌が下垂する
  • 遊びの行動の変化
  • フードや水の容器に血液が付着
  • 鼻からの血液の分泌
  • 顔をこすったり、前肢で顔をぬぐう
  • 口腔周囲の脱毛
  • 猫で愛情表現のための頬を擦る行為をしなくなる
  • 食器の外にフードを落とし、咀嚼を嫌がる

 

歯周病のステージ別治療法

AVDC(American Veterinary Dental College)の歯周病のステージ分類は、主にX線検査で評価するものであり、

  1. ステージ1は、歯肉のみの炎症で、いわば歯肉炎の段階であり、X線検査上の変化はないです。
  2. ステージ2では、アタッチメントロス(歯槽骨の喪失の程度)が25%未満の初期の歯周炎です。
  3. ステージ3では、アタッチメントロスが2550%の中程度の歯周炎、
  4. ステージ4では、アタッチメントロスが50%以上の重度の歯周炎です。

治療は、

  1. ステージ1の個体には、主に歯垢・歯石除去とポリッシングを行います。
  2. ステージ2では、主に歯垢・歯石除去とクローズドルートプレーニング、ポリッシングを行います。
  3. ステージ3では、歯周外科治療や歯周再生治療が主体となります。ステージ2よりもさらに深い部位の歯垢・歯石除去、歯肉粘膜フラップを作成したオープンルートプレーニング、歯肉縁下掻爬、ポリッシングを行います。
  4. ステージ4では、主に抜歯がすすめられます。

しかし、実際は、歯磨きが可能か、歯磨きできる部位、歯磨きの方法、個体の基礎疾患の有無や程度、
定期的に通えるか否かなどを考慮・加味して治療法が決定されることが多いです。

 

 

無麻酔での歯石除去に対する日本小動物歯科研究会の見解

本来、麻酔下での歯垢・歯石除去を行いますが、

そのために最初に麻酔下での治療が可能か否かの身体検査

  • 血液検査
  • 血液生化学検査
  • 血液凝固系検査
  • 胸部X線検査
  • 超音波検査
  • CT検査
  • 心電図検査など

を行ってから麻酔下での検査・治療が可能と判断された症例が適応となります。

そして、歯周病のチェックポイントで述べた歯周病の検査

  • 肉眼的検査
  • 歯周プローブによる検査
  • 歯科用X線装置と歯科用X線フィルムを用いたX線検査など

を行ってから、正しく歯周病の程度を判定して原則としてそれぞれのステージに応じた治療を行います。

この麻酔下での治療のための口腔内検査は必要不可欠です。

しかし、この検査も無麻酔では臼歯や歯の舌側部などを観察することは困難であり、動物に疼痛や不快感、
あるいは、歯肉や口腔内軟部組織からの出血を生じさせてしまう恐れがあります。

 

以下に、日本小動物歯科研究会の無麻酔での歯垢・歯石除去の危険性に関する見解を参考にしてまとめました。

日本小動物歯科研究会ホームページ  sa-dentalsociety.com/

 

歯垢・歯石除去は歯面を傷付ける

この文章は消さないでください。
歯周病の原因は歯垢中の細菌ですが、歯垢が数日で歯石に変化すると歯石のなかの細菌は死滅するため炎症を引き起こす力がなくなります。

したがって歯周病の直接の原因は歯石でありません。

しかし、歯石の表面は凹凸であるためにその上に歯垢が付着しやすくなるため歯石はいわば歯垢の付着の誘因となり、2次的に歯周病を引き起こしやすい環境となります。

歯垢・歯石を除去することは訓練を受けた人でないと難しいです。

実際、歯垢・歯石除去は、ハンドスケーラーや超音波スケーラーで歯冠部の歯垢・歯石を除去することが多いです。

超音波スケーラーを用いる場合

  • スケーラーのチップの先の当て方の角度(チップの側面先端12mmの部分を歯面に対して15°以内にあてる)
  • あてる時間(超音波スケーラーでは1本の歯に15秒以内、できれば5秒以内)
  • 動かし方(超音波スケーラーでは通常スイーピングストロークといって、常に細かく動かしながら軽度〈4090gの強さで〉に歯面にあてて操作すること)

に注意します。

 

その後、歯冠部の歯垢・歯石除去では、超音波スケーラーを用いたのちに細かい歯垢・歯石除去にハンドスケーラーのシックル型(鎌型)スケーラーで歯垢・歯石を除去することが多いです。

このスケーラーは、三角形の断面で先端が先鋭であるためにとくに隣接面の歯垢・歯石除去に適しています。

スケーラーのカッティングエッジの先端を歯面に8085°の角度で適合させて主に引く方向にプルストロークすることで効率よく歯石を除去できます。

歯根部の歯垢・歯石除去には、最初に歯根部用の超音波スケーラーのチップを用いて歯垢・歯石を除去してから、ハンドスケーラーであるキュレット型スケーラー(両側が刃部であるユニバーサルキュレットより片側だけ刃部であるグレーシーキュレットを使用すると安全)で取り残した歯垢・歯石を除去します。

その際、キュレット型スケーラーのカッティングエッジの先端を歯面に対して70°以上(8085°)の角度であてることで最もよく歯垢・歯石を捉えることが可能となります。

ルートプレーニングを行う場合は、歯面に対するフェイスの角度は70°以下(6570°)にして操作します。

グレーシーキュレットは、ターミナルシャンクを歯面に平行にあてることで歯面と歯面フェイスが70°となります。

これらのスケーラーを操作する際の支持点(フィンガーレスト)を薬指もしくは中指、あるいは、その両者を使用します。

その操作法は、手首と前腕の筋肉を使用して円弧を描くようにする「ロッキングモーション」と親指と人差し指を伸縮させて中指の側面をこするようにストロークする「フィンガーストローク」の方法があります。

強固な歯石には前者を、歯肉縁下や根面には後者が有効です。

後者は、術者が疲労しやすいために、できるかぎりストロークを短くすることがすすめられます。

 

以上のように歯科用器具の適切な使用法は器具によってそれぞれ異なり、
これらの器具を適切に行わないと適切に歯垢・歯石が除去できないばかりでなく、歯面や歯肉を傷つけたり、
超音波チップであれば、温熱刺激により歯髄炎や歯髄壊死にいたる恐れもあります。

 

また、歯垢・歯石除去のみならず、その後、ポリッシング(歯面研磨)といって、

荒研磨剤を付けたポリッシングブラシによる研磨ののちに、仕上げ用研磨剤を付けたラバーカップにより歯面を研磨して歯面を平滑にすることが大切です。

ポリッシングを行わないで歯垢・歯石除去のみで終わらせると、より一層歯面に歯垢・歯石が付着しやすい状態になる可能性が高いです。

したがって、単に無麻酔でのハンドスケーラーのみで歯石を除去することは歯面の手入れが不完全な状態のままとなります。

ハンドスケーラーは刃物である

この文章は消さないでください。
歯の中心部には歯髄があり、そのなかには神経、血管、リンパ管が入りこんでおり、歯面の歯石を除去している際にも歯面にその振動が伝わります。

また、無麻酔での場合、動物が動いたり、スケーラーの扱いに慣れていないと誤ってスケーラーがずれて、

歯面のみならず歯頚部や頬粘膜、歯肉や歯槽粘膜、舌、唇、皮膚にもスケーラーがあたったり、傷つけてしまう恐れが高いです。

また、歯石除去に抜歯鉗子などを用いて歯石を割って除去することがありますが、

無麻酔でこれを行い、動物が動いたりすること

  • 一緒に歯を破折させてしまい、
  • 歯髄を露出(露髄)させてしまったり、
  • 歯根を残したまま歯冠部で破折する

こともあります。

さらに多く遭遇するケースでは、歯周病が重度の場合、歯槽骨の垂直骨吸収を認めた症例において
無麻酔下でハンドスケーラーを用いると、医原性に歯槽骨に力が加わり、
顎の骨の骨折を引き起こしてしまうことが少なくないです。

 

また、歯石片が咽頭に詰まることもあります。

歯肉や歯槽粘膜を傷つける

この文章は消さないでください。
歯周病が進行すると歯肉が退縮して歯根が露出し、歯肉縁下ポケットがつくられ、炎症のために歯肉やときには歯槽粘膜が赤くなり、脆弱になっています。

ここにスケーラーが触れただけでも歯肉や歯槽粘膜に医原性の外傷を生じさせ、出血や疼痛を感じるようになります。

また、歯肉縁上に使用するシックル型スケーラーを歯根がみえている部位に作動させることで

歯冠表面より組織的に軟らかな歯根表面のセメント質が傷付けられ、疼痛を感じるようになります。

本来、歯根部には、歯根部専用のスケーラー(キュレット型スケーラー)を使用します。

したがって、このような行為により、動物は、スケーリングを行っている人に対して恐怖心を抱く結果となり、ひいては人を傷付けるようになる可能性もあります。

前述のごとく、適切に麻酔下でフィンガーレスト(支持点)を置いて正しいスケーラーのもち方と操作を行うことがきわめて大切です。

当然、無麻酔での歯科処置では、このポケット内の治療ができないので、歯冠部は、一見、歯垢・歯石が少なくみえますが、

歯根部の歯垢・歯石付着はそのままとなっています。

 

このことは、歯周病の治療を行っていないことと等しいこととなります。

 

【症例3】外見的にケアされているようにみえても実際は歯周病治療が必要であった症例

ミックス犬(チワワ×ミニチュアダックスフンド)、避妊雌、56ヵ月齢。

動物病院で1ヶ月に1度無麻酔でハンドスケーリングを行っていた。

全体的に上下顎臼歯部を中心に軽度から中程度の歯垢・歯石が付着しており、歯肉の炎症は軽度であった。

歯周プローブにより多くの臼歯舌側の深いポケットを認めた。

口腔内X線検査では、多くの臼歯において根尖周囲あるいは歯根周囲のX線透過性の亢進が認められた。

治療は、右上顎第12切歯、左上顎第3切歯、左右上顎第3前臼歯、左上顎第4前臼歯、左右上顎第1後臼歯、左下顎第3切歯、左右下顎第4前臼歯、左右下顎第1後臼歯、左下顎第23後臼歯の合計15本は抜歯適応と判断し、抜歯にいたった。

この症例の場合、飼い主はハンドスケーリングをはじめ、肉眼的にみえる部位のみのケアを行ってはいたが、実際は歯周病が歯根周囲まで進行していたため多く抜歯せざるを得なかった。

 

歯磨きができる部位は限られる

この文章は消さないでください。
犬の歯周病では、最も歯垢・歯石が付着しやすく、歯周病になりやすい歯は上顎第4前臼歯や第1後臼歯です。

この部位は上顎の後部に存在するために開口状態でないと歯垢・歯石の除去は不可能です。

この部位の直上の歯槽粘膜には、頬骨腺と耳下腺から排出される唾液腺開口部が存在するために、無麻酔での歯垢・歯石除去ではこの粘膜を傷付ける恐れがあります。

また、上顎歯の口蓋側は、歯垢・歯石が付着しやすいために、この部位の歯石をスケーラーで無理やり除去しようとすることにより深いポケットを作成し、ひいては容易に鼻腔に貫通させてしまう、いわゆる医原性の口腔鼻腔瘻を作成してしまいます。

この文章は消さないでください。
この上顎犬歯部以外でも上顎第3切歯、第123前臼歯、上顎第4前臼歯近心口蓋根も口腔鼻腔瘻を形成しやすい部位です。

また、下顎歯では、とくに下顎第1後臼歯が大きく、とくに小型犬の場合は、根尖が下顎骨皮質骨内まで入り込んでいる場合も少なくないために、この部位の垂直骨吸収を認めた場合は、この部位で医原性骨折を引き起こす危険性が高いです。

さらに無麻酔での下顎の舌側の歯石除去は、絶えず舌が動くため、下顎歯の舌側にスケーラーを到達させることは困難です。

また無麻酔では、動物が動くことで舌下粘膜に存在する単孔舌下腺や下顎腺の開口部や導管や舌下粘膜に走行している血管を傷つける恐れもあるのでこの部位へのアプローチは不可能です。

 

最も大切なことは家庭でのデンタルオーラルケアである

この文章は消さないでください。
歯周病予防で最も大切なことは、毎日のデンタルホームケアです。

歯周病の原因は歯垢中の細菌ですが、

歯垢・歯石を適切に除去したのち、わずか数時間で歯垢が新たに歯面に付着して歯肉に炎症を引き起こす現実を考えると、

毎日の歯垢の除去と新たな歯垢・歯石が歯面に付着しないように歯ブラシを用いたケアを行うようにすべきです。

理想的には、歯みがきは「楽しいこと」と位置づけられれば最高ですが、これはなかなか難しいので、少なくとも痛みを伴う行為は避けるべきです。

 

海外における無麻酔での歯垢・歯石除去の考え方

AVMA(American Veterinary Medical Association)、AAHAAmerican Animal Hospital Association,EVDSEuropean Veterinary Dental Society)、AVDCWSAVAなど海外の多くの団体では、

「動物の歯科疾患の状態を適切に評価して治療するには気管挿管した全身麻酔が必要である」とコメントしており、

「無麻酔での動物の歯垢・歯石除去は、多くの理由により不適切であり、動物の少しの動きでさえ、損傷を与えかねず、術者が噛まれる恐れもある」

と提唱しています。

AVDCでは、「歯肉縁下領域に対するアクセスは無麻酔では不可能である」としています。

さらに、気管挿管には、3つの利点があります。

  1. 動物を協力的にできること、
  2. 動物の協力により検査と治療の際の疼痛をなくすことができること、
  3. カフの付いた気管チューブの挿管により気道を確保することで誤嚥から肺や気道を保護できること

です。

AVMAの麻酔における獣医歯科処置のポリシー

AVMAでは、

  • 歯周プローブでの検査
  • 口腔内X線検査
  • 歯垢・歯石除去
  • 抜歯

などの処置は、口腔検査による診断を確定するうえで不可欠であり、それらは麻酔下で行うべきであるとしています。

鎮静剤、精神安定剤、麻酔剤あるいは鎮痛剤は、歯科処置の間、動物の疼痛や苦しみを減少させるために一般的に使用されています。

口腔あるいは歯科の疾患の肉眼的およびX線学的検査、プローブを用いたポケットの測定による歯周組織の健康状態の正確な評価は、鎮静や麻酔を必要とします。

 

気管チューブは超音波スケーラーでの歯科治療や高速歯科ユニットが使用されている間、放出される多量の水滴から肺を守るために設置するものです。

術前の鎮静、局所あるいはその領域の手術中の鎮痛は、必要な麻酔剤の投与量を減少させ、円滑な疼痛のない回復期を保証するという目的に沿って使用されます。

アメリカの法律は、安全で効果的な使用を保証するために免許のある獣医師による使用および規定に則った使用を定めています。

 

WSAVA におけるGlobal Dental Guidelinesのコンセプト

現在、WSAVAGlobal Dental Guidelinesのなかで、

この文章は消さないでください。
歯科治療の麻酔は、口腔および顎顔面の障害には、適切な医療およびX線検査と治療のために全身麻酔が必要であると述べています。

歯のクリーニングを含んだ専門的口腔ケアは一般的に軽度な疼痛を示し、さらにすすんだ歯周治療

  • 抜歯
  • 根管治療
  • 下顎骨切除や上顎骨切除
  • 顎の骨折の整復

のような口腔外科に対する侵襲的な治療は、

中程度から重度の疼痛を示すため、適切な麻酔と効果的な鎮痛は歯科処置で重要な役割を果たし

歯科疾患のある動物のための適切に行われるべきであると記されています。

そのゴールは、動物と飼い主に対して高い質の治療を提供することであるとしています。

したがって、「無麻酔での歯科処置」は、このコンセプトではないと断言しています。

また、このガイドラインのなかには、歯科治療に必要な麻酔、疼痛管理、気管挿管、輸液管理、モニタリング、麻酔装置、局所麻酔に関する事項が詳細に記載されています。

 

おわりに

以上のように、無麻酔での歯垢・歯石除去を行う問題は、動物の福祉と健康に関係してくる問題となり、奥が深いです。

 

正しい知識以外に病院の選び方も非常に重要です!

ネットで検索すると、いろんな情報が出てきて混乱して、 逆に不安になったことってありませんか?

ネット記事を読むときは、内容を鵜呑みにするのではなく、 情報のソースや科学的根拠はあるか?記事を書いている人は信用できるか?など、 その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。

とっても大事なこと

愛猫や愛犬のわずかな変化に気付き、守ることができるのは飼い主様だけです! 病気になった時も、獣医師がしっかり説明をして、飼い主様が正しい知識を理解をして、ペットを含め、3者がともに協力しないといい結果は得られません。

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no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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