獣医師解説!猫がご飯を食べないのは危険!猫の肝臓リピドーシスとは〜原因、症状、治療方法〜

    猫がご飯を食べない・・・

    猫が食欲不振、どれくらい様子を見よう・・・

    本記事では、猫の肝臓リピドーシスについてお話しします。

    • 様子、経過を見てくださいと言われたけど心配...
    • 検査してくれなかった...
    • 病院ではよくわからなかった...
    • 病院では質問しづらかった...
    • 混乱してうまく理解できなかった...
    • もっと詳しく知りたい!
    • 家ではどういったことに気をつけたらいいの?
    • 治療しているけど治らない
    • 予防できるの?
    • 麻酔をかけなくて治療できるの?
    • 高齢だから治療ができないと言われた

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    ネット上にも様々な情報が溢れていますが、そのほとんどが科学的根拠やエビデンス、論文の裏付けが乏しかったり、情報が古かったりします。

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    ネット記事の内容を鵜呑みにするのではなく、 情報のソースや科学的根拠はあるか?記事を書いている人は信用できるか?など、 その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。

    例えば...

    • 人に移るの?
    • 治る病気なの?
    • 危ない状態なのか?
    • 治療してしっかり治る?

    これを読んでいるあなたもこんな悩みを持っているのでは?

    結論から言うと、猫の肝リピドーシスは特に太った猫で多いとされ、72時間の絶食で起こりやすいと言われております。

    体重超過の飼育猫を苦しめる一般的な疾患であり、潜在的に命に関わる胆汁鬱滞性症候群です。

    この記事は、愛猫の肝臓リピドーシスが気になる飼い主向けです。

    この記事を読めば、愛猫の肝リピドーシスの原因、治療法がわかります。

    限りなく網羅的にまとめましたので、ご自宅の猫の肝臓リピドーシスについて詳しく知りたい飼い主は、是非ご覧ください。

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    ✔︎本記事の信憑性

    この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、 論文発表や学会での表彰経験もあります。

    今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。

    臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!

    記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

    » 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】や詳しい実績はこちら!

    ✔︎本記事の内容

    猫の肝臓リピドーシスとは〜原因、症状、治療方法〜

    猫の肝リピドーシスとは?どんな病気?

    猫の肝リピドーシスとは?どんな病気?

    この文章は消さないでください。
    猫の肝リピドーシスは体重超過の飼育猫を苦しめる一般的な疾患であり、潜在的に命に関わる胆汁鬱滞性症候群です。

    大半の症例で、食欲不振や食事の消化、吸収不良を起こす障害がこの症候群に先行して発現します。

    病因病態発生学的因子によって、貯蔵脂肪の末梢から肝臓への移動、肝臓におけるエネルギー源といての脂肪酸の利用、リポタンパクとし拡散するトリグリセリドの間にバランスの不均衡が生じます。

    治療を成功させるには、確定診断を行って基礎的な原発疾患を治療することはもちろん、適切なバランスの代謝の調整不全(輸液、電解質、微量栄養素、場合によっては必須微量栄養素、ビタミンなど)を修正することが必要です。

    早期診断と積極的な指示療法で、罹患猫の>85%は回復します。

    猫の肝リピドーシス症候群を二次的に生じる疾患:原因、理由

    猫の肝リピドーシス症候群を二次的に生じる疾患:原因、理由

    • その他の肝臓疾患
    • 胆管肝炎:化膿性または非化膿性
    • 総胆管炎 肝外性胆管閉塞
    • 慢性化膿性肝炎
    • 門脈体静脈奇形
    • 胆管腺癌
    • 肝リンパ腫
    • 腫瘍(非肝臓性)
    • 膀胱の移行上皮癌
    • 転移性癌
    • 腸腺癌
    • 腸リンパ腫
    • 腎疾患
    • 慢性尿石疾患
    • 腎盂腎炎
    • 慢性間質性腎炎
    • 甲状腺機能亢進症、重度の貧血、子宮蓄膿症、心筋症、中枢神経疾患、薬物中毒、膵炎、糖尿病
    • 小腸疾患
    • 好酸球性腸炎
    • リンパ球、プラズマ細胞性腸炎
    • 慢性腸閉塞・サルモネラ腸炎

    猫の肝リピドーシスの診断

    猫の肝リピドーシスの診断

    この文章は消さないでください。
    肝リピドーシスになると肝機能不全により、患者は著しい死亡率や罹患率のリスクを負うことになります。

    猫では肝細胞にトリグリセリドが蓄積する傾向にあり、肥満猫が急速に体重を減少するとこのことがハイリスクとなります。

    当初は特発性の疾患であると言われていましたが、現在では肝リピドーシスの猫の85%以上が食欲不振や消化、吸収不良、急速な体重減少を生じる何らかの基礎疾患があることが明らかになっています。

    一旦この疾患が成立すると、健康状態は原発疾患よりもさらに複雑化し、
    本来なら原発疾患を検出できるはずの診断検査や治療が阻まれることになります。

    猫の肝リピドーシスの臨床的特徴、症状とは?

    猫の肝リピドーシスの臨床的特徴、症状とは?

    病歴は主に

    • 体重超過
    • 5~7日の食欲廃絶
    • 25%の体重減少(水和状態、ボディーコンディション、主に末梢組織からの貯蔵脂肪が喪失)
    • 様々な消化器症状(嘔吐、下痢、便秘)

    などが見られます。

    病歴におけるその他の特徴は、基礎疾患または原発疾患を反映しています。

    来院時、ほとんどの猫は黄疸を呈し、疼痛を伴わない輪郭の円滑な肝腫大が認められます。

    重度の電解質異常が生じている猫では、頭部、頸部の著しい腹側屈曲が認められます。

    ある猫では顕著な流涎を呈し、これは悪心もしくは肝性脳症によるものと考えられています。

    慢性経過や顕著な電解質異常(リン酸カリウム、マグネシウム)、チアミン欠乏に伴って重度の虚弱や横臥状態が見られるようになります。

    このような猫は、通常の診断手技や治療処置、犬の鳴き声、補綴などに耐えられません。

    猫の肝リピドーシスの際の血液検査

    猫の肝リピドーシスの際の血液検査

    肝リピドーシスは肝臓における壊死性炎症性障害を欠くため、血液学及び生化学的変化は主に基礎疾患や原発疾患を反映したもので、肝細胞へのトリグリセリド蓄積により重度の胆汁鬱滞が認められます。

    よく見られる血液学的異常は、変形赤血球と酸化障害によりハインツ小体を生じやすくなっている赤血球です(例えばプロピレングリコールを含有する薬剤、ビタミンKの投与量が多すぎるなど)。

    または、糖尿病、甲状腺機能亢進症、膵炎、他の肝疾患など、基礎疾患から二次的に生じる変化が見られます。

    白血球像は基礎疾患を反映した所見が得られます。

    アルカリホスファターゼ(ALP)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、
    アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)など肝酵素活性の上昇、
    脱水があるにもかかわらず正常もしくは軽度に低下したBUN(尿素回路の機能低下と推定)、
    総ビリルビン濃度上昇が多く認められます。

    基礎的に壊死性炎症性肝疾患を持つ猫(胆管炎、胆管肝炎など)や肝外性胆管閉塞(EHBO)、膵炎などがある猫では、一般にガンマグルタミントランスペプチダーゼ(GGT)活性の上昇を発現します。

    グロブリン、コレステロール、グルコースなどの値は原発疾患を反映します。

    クレアチニンキナーゼ(CK)の中程度の上昇は、筋肉異化作用、横臥、静脈カテーテル設置などからくるもので、

    さらに値が高い場合は、重度の電解質枯渇(リン酸)の横紋筋融解を示唆しています。

    電解質の不均衡は患者の死亡率と罹患率を高める重要な原因です。

    • 低カリウム血症と低リン酸血症は来院時点で明らかな場合もありますし、あるいは治療(輸液、再給餌現象)を開始した後に発現することがあります。
    • 重度の低カリウム血症と低リン酸血症があると赤血球溶血や筋虚弱、腸アトニーと嘔吐、頭頸部の腹側屈曲を起こしやすくなり、肝性脳症と見分けのつかない神経行動学的変化を表すことがあります。
    • 低マグネシウム血症によっても類似した症状や心不整脈を発症することがあります。

    猫の約50%は血液凝固異常(猫に最適化されたトロンビン時間と部分トロンボプラスチン時間を用いた)を発現しますが、突発性の出血を起こす事は殆ど無いです。

    血液凝固時間の延長は通常、ビタミンK1の投与に反応します。

    頸静脈穿刺、カテーテル留置、膀胱穿刺、尿道カテーテル留置、侵襲的な栄養チューブの設置などはビタミンK1を投与して少なくとも24時間経過するまでは差し控えます。

    薬物による保定も水和と電解質状態が補正されるまでは待った方が良いです。

    急性で重度の肝リピドーシスは代謝性肝不全を伴っているため、
    麻酔や外科処置の合併症を起こすリスクが極めて高いです。

    猫の肝リピドーシスの特殊な血液、尿検査

    猫の肝リピドーシスの特殊な血液、尿検査

    肝リピドーシスの患者は全般に黄疸を呈しているため、血清または尿中の胆汁酸を測定することに診断的有益性はないです。

    血清胆汁酸は、胆汁鬱滞を検出する上でビリルビンよりも診断的感度が高いため、この検査を行うのは過剰です。

    肝リピドーシスの猫ではすべて、ビタミンB12 (コバラミン)の濃度を評価すべきです。

    コバラミン欠乏によってさらに代謝異常が悪化し、肝臓にトリグリセリドが蓄積しやすくなるためです。

    ビタミンB12の欠乏はメチル化反応を障害し、また解毒作用を低下させ、脂肪酸の酸化を阻害して肝臓へのトリグリセリド蓄積を助長し、チオール(グルタチオンに代表される)の機能に関わるトランス含硫置換基移動経路に異常を引き起こします。

    またビタミンB12欠乏は、メチオニンからS-アデノシルメチオニン(SAMe)の異化産生を調整する酵素であるメチオニンシンデターゼの活性も抑制します。

    コバラミン依存性メチルトランスフェラーゼはアミノ酸代謝とメチル化反応に必須であり、これたは多数の中間代謝反応および生体内変化に不可欠である。

    そのため、ビタミンB12欠乏が生じると、蛋白摂取量が高く、アミノ酸分解が急速で、分解経路へのアミノ酸流出が行われる猫の中間代謝に幅広い影響を与える。

    更に、いくつかのアミノ酸はプロピオニルCoAからサクシニルCoAへのコバラミン依存経路によって分解される。

    血漿中のコバラミン欠乏は、血中または尿中のメチルマロン酸を検出する方法が最も感度が高いが、殆どの診断ラボではルーチンにビタミンB12/コバラミンを測定するのみである。

    しかし臨床現場にとっては迅速な結果が得られる。適切な長期治療は来院時における個体毎の状態と原発疾患の状況を知ることが必要なため、ビタミンB12を測定するには治療開始前の血漿を採集することが重要である。 

    猫トリプシン様免疫活性(TLI)物質が高濃度の場合は膵炎の診断を補佐するが、膵バイオプシーと血清TLI濃度の組み合わせで示されているように、この検査で膵炎の確定診断や否定はできない。この見解は幅広い臨床的経験によって支持されている。 

    アンモニアのモニターはFHLにおける肝機能不全の診断には通常用いられないが、実験的なFHLではアンモニア不耐性が関連していた。 

    画像検査 

    腹部X線検査では一般に肝腫大が認められ、基礎疾患や原発疾患の存在が認められることがある。 

    腹部超音波検査(US)では、肝組織のエコー源性を鎌状脂肪と比較することで、高エコー性の肝実質が明らかになるのが典型である。同時に腎尿細管にTGの蓄積があれば、腎のエコー源性も増強している。

    腹部超音波検査により、基礎疾患や原発疾患が明らかになることもある。

    CCHSの猫では例外があり、FHLによる実質の高エコー性が基礎疾患による変化を上回っている場合がある。FHLの猫では通常、腹水の貯留や、胆嚢や胆管構造の病変は認められない。

    膵臓の超音波検査も慎重に実施し、腺の腫脹、エコー源性の変化(低エコー性または局所性の高エコー性)、腫瘤病変、管の突出/拡張、高エコー性の膵臓周囲脂肪、低エコー性の膵臓周囲滲出液などの存在を検出する必要がある。

    これらの所見は膵臓疾患の存在を裏付けるが、認められなくても可能性は否定できない。 

    確定診断 

    超音波ガイドによる肝の針吸引が、肝臓への重度で瀰漫性のTG蓄積を確定診断するために利用されている。

    細胞診は、病歴、血液学、そして臨床病理学的な所見と併せて付加的に用いられている。

    肝臓のバイオプシーは、後述する適切な内科療法に猫が反応しない場合のみに実施する。

    侵襲的な肝バイオプシーをなるべく行わないのは、このような患者では麻酔、術後回復期/治癒期、肝組織の脆弱性、出血傾向に伴う致死的な医原性合併症を生じるリスクが高いためである。 

    治療 

    輸液療法 

    脱水を補正し喪失分を補正するには晶質輸液を用いる。症例によっては高い乳酸値が認められていることから、乳酸を含む輸液剤は用いないほうが賢明である。

    デキストロースを加えた輸液は、肝臓へのTG蓄積を助長し、糖不耐性と浸透圧利尿を生じて既存の電解質枯渇を悪化させるため、禁忌である。

    電解質異常は、診察の時点で認められるか再給餌現象から二次的に生じるが、これらを認知してカリウムとリン酸の注意深い経静脈投与を行い、血清電解質濃度も頻繁に再評価しなければならない。 

    一般的な栄養学的推奨法 

    栄養はFHLにおける治療および予防の基礎である。

    糖尿病の猫で行われた最近の研究結果と、FHLモデルの猫と減量させた肥満猫で収集された研究データによると、食事にはエネルギーの33~45%をタンパク質として含んでいることが望ましいことが示されている。

    幸いに、この蛋白レベルであれば数多くの市販製品にも含まれている。糖尿病の猫ではFHLになるリスクが高いため、高蛋白、低炭水化物食への反応を常に留意しておく。

    FHLの猫に脂肪と適切な蛋白を44~66%のカロリーで含むエネルギー密度の高い食事を与えても、有害性は認められていない、猫には、ヒトのために「考案」された食事ではなく、バランス良く猫の比率を満たした食事を与えるべきである。

    ヒト用の経腸液状栄養食の殆どは、猫にとって十分なタウリンやアルギニン/シトルリンが欠けている。

    そのような製品を使用する場合は、8flオンス(約227ml)あたり250㎎のタウリンと1gのアルギニンが含まれる食事が推奨される。 

    食事は、異化作用を起こさないよう十分なエネルギーを供給しなければならない。

    肝疾患を持つ猫が必要とする正確なエネルギー量は確定していないが、代謝エネルギーとして体重kgあたり60~80Kcalでうまくいっている。

    蛋白制限はHEに一致する症状で衰弱した猫のみに行うが、FHLの猫では極めて稀である。 

    給餌ルート 

    経口的な強制給餌でFHLの猫を救うことは殆どできない。猫をうまくなだめてシリンジ給餌を行える飼い主にはこの方法でもうまくいくことがあるが、「食事の嫌悪症候群」を早く誘発してしまう可能性がある。これは経口的な食物摂取に対して学習された回避反応であり、特定の種類あるいは製品への拒絶起こし、自ら栄養摂取できる回復を遅らせてしまうかもしれない。もっと効果的に経腸給餌が行えるルートが確立されている。 

    始めは患者の代謝状態が重篤で、治療開始から2~3日は出血の恐れがあるため、鼻胃給餌チューブを設置する(猫には5~8フレンチの大きさを用いる。

    注意:フレンチの大きさは、カテーテル外径のmmに3を乗じて求める)。細いチューブは液体の給餌にしか使用できない。

    この方法は、猫が不快を感じ(鼻と咽頭への刺激)、嘔吐によってチューブが反屈する可能性があるため、長期的な栄養支持には向いていない。

    水和状態、電解質、凝固異常が補正できたら、短時間麻酔で食道栄養チューブを設置する。

    極めて柔らかいシリコンチューブは嘔吐中に反屈しやすいため、10~12フレンチのチューブが好ましい。

    食道栄養チューブは迅速に挿入でき、比較的痛みを伴わず、管理や使用法が簡単で感染や反屈などの合併症は非常にまれにしか起こらない。

    胸部X線写真を撮影し、チューブの先が胃食道結合部より1~2㎝前方にあり、適切な位置に設置できていることを確認する。

    チューブの先端が胃の中に入ると、逆流性食道炎を起こす危険が高くなる。 

    獣医師によっては胃チューブを主に好んで用いることがある。

    これは、チューブが更に太いため(20フレンチ以上)もっと多様な食事を給餌できるようになるからである。

    このチューブは内視鏡ガイド下で経皮的に設置するのがベストであるが、盲目的な手技で経皮的に設置するか、試験開腹時に設置することもできる。

    胃チューブには更に深刻な合併症がある。例えば、早期の抜去(設置後2~3日以内)は腹膜炎を引き起こす可能性がある。

    これらの患者には代謝障害や、麻酔および外科的な合併症のリスクが高く、侵襲的手技からの回復も遅れるため、若者は胃チューブを外科的に設置することを推奨しない。 

    食道チューブおよび胃チューブは適切な部位に適切に設置すべきであり、皮膚穿刺部位は毎日清潔に保ち、3種混合抗生物質軟膏を少量塗布し、バンテージで覆って保護する。

    飼い主には患部の適切なケアーを指導しておく。チューブは給餌後あるいは1日3回、少量の微温湯でフラッシュ洗浄する。

    チューブの挿入部位はこまめに観察し、患者が掻いてしまわないよう保護しなければならない。 

    給餌方法 

    まず微温湯の給餌(15ml)から開始する。

    2時間毎に2~3回行い、嘔吐を起こさないか、また胃に運動性があるか評価する。

    食事の導入は2~4日かけて徐々に行い、平均的な大きさの猫で1日あたり250~400Kcalを摂取できるようにする。

    胃チューブを設置したら、胃の運動性が回復しチューブ挿入部位に創傷性シールが形成されるまで、最初の24時間は給餌を行わない。

    1日の食事摂取量は小分けにすべきである(4回以上)が、食事の注入にも耐えられない猫では、鼻胃チューブ、食道チューブ、胃チューブからの「点滴」あるいは持続的な注入なら受け入れることができるだろう。

    持続的または「点滴」による給餌法を使った場合は、胃アトニーをモニターしなければならない。更に腹部触診、X線検査、超音波検査も必要になるかもしれない。

    胃チューブでは、8~12時間毎に胃内容物を吸引し、胃の残留容量をモニターすべきである。

    その容量が毎時間の供給量の2倍を越える場合には、給餌を一時的に数時間中止し、腸アトニーに関連する電解質異常が無いか評価し、毎時間の注入速度を最低20%まで減少する。

    胃の残留容量が持続的に高い傾向が続く場合は、超音波検査もしくはX線造影検査を実施してチューブの位置を再評価することが必要である(レノグラフィンのように無菌水溶性造影剤を用いる)。 

    嘔吐の管理 

    給餌を開始する前から、一部の猫は単発的に嘔吐している。電解質異常(低カリウム血症、低リン酸血症)が無く、給餌チューブの合併症(チューブの折れ曲がりや反屈、設置部位による疼痛など)が無ければ、注射用の制吐剤/運動促進剤を投与する。

    最初はメトクロプラミドを0.01~0.02mg/kg/時間(1.0~2.0mg/kg/日)を定速点滴(CRI)するか、給餌の30分前に皮下投与する(0.2~0.5mg/kgをTIDまで)。

    メトクロプラミドの運動促進作用により、胃から十二指腸への液体送出が促進されることがある。

    更にメトクロプラミドは化学受容体引き金帯に関わる嘔吐を中枢性に抑制し、腸管運動に作用して胃停滞と嘔吐に先立ってみられる蠕動運動の逆流を防止することもある。

    過剰投与による副作用は、耳、顔面、体の筋肉の攣縮や、顔面の開口障害、痙攣(特にてんかんの犬では注意)である。 

    その他に使用できる制吐剤は、オンダンセトロンとブトルファノールがある。

    セロトニン受容体拮抗剤(5-HT3)であるオンダンセトロンは化学受容体引き金帯による悪心と嘔吐を制御し、メトクロプラミドほど副作用は強くないと思われる。用量は0.1~0.2mg/kg/6~12時間毎である。

    ブトルファノールは制吐作用に加えて鎮痛作用があり、他の制吐剤と併用することで補足的な制吐効果が得られる。

    制吐作用は0.2~0.5mg/kgの填椎イザイとしての用量に含まれているが、動物は鎮静してしまうかもしれない。 

    食欲増進剤 

    猫に十分なカロリー摂取を達成するという意味では、食欲増進剤(ジアゼパム、オキサゼパム、シプロヘプタジン)はさほど信頼できない。

    ジアゼパムは肝臓での生体内変化(グルクロニド生成)が必要であるが、猫では元来特定の薬剤に対しこの働きに限界がある。

    FHLによって生じた肝機能不全はこのような薬剤の代謝を低下させることがある。またジアゼパムには特発性劇症肝不全のリスクもある(非常に低いが)。

    治療歴と肝バイオプシー所見によれば、その他のベンゾジアゼピンで治療した猫と、シプロヘプタジンで治療した猫1頭にも見たところ類似した反応が観察されている。 

    水溶性ビタミン 

    ビタミンB複合体 

    肝臓は数多くの水溶性ビタミンの貯蔵と活性に重要であり、重度の肝疾患をもつヒトではビタミンBを消耗することが知られており、これらを考慮してFHLでは1日必要量の2倍の水溶性ビタミンの投与が推奨される。

    水溶性ビタミンは通常、経静脈晶質輸液に混合して毎日投与する:一般的には、輸液1Lに B複合体を2ml混合し、遮光して使用する。 

    チアミン(ビタミンB1) 

    チアミン欠乏症は、FHLの猫で回顧的に診断されている。

    これは、臨床症状から説明できるような重度の電解質異常を生じていない患者が、本剤の添加で劇的に改善したことに基づいている。

    B1欠乏症(ヴェルニッケ脳障害)を呈している猫では、虚弱、元気消失、反応低下した瞳孔散大、頭部/頚部の腹側屈曲、体位反射異常(骨盤を支えて体を持ち上げても足が台に届かず、むしろ丸めてしまう)、意識低下など、HEのような症状が認められることがある。

    残念な事に、まれにみられる筋肉内チアミンに対する血管迷走神経性反応が少数の猫で認められている。これは、ヒトではめったに見られない。

    従って、チアミンは水溶性ビタミンに混合するか(B複合体溶液50mg/mlが一般的な濃度で、輸液に混合して1日かけてゆっくり投与する)、経口投与(50~100mg/PO/BID)する。 

    ビタミンB12  

    長期的な食欲不振や腸疾患による消化・吸収不良で栄養不良を生じている猫の多くは、コバラミンの利用能力が低下しやすい。

    コバラミンは腸の細菌叢に影響を受けるため、FHLにおいてB12の血清濃度を持つ意義を解釈することは単純ではない。

    大多数の腸内細菌が内因子に結合し(遊離またはB12に結合)、あるいは代謝性にB12を利用するため、患者が利用できるコバラミンが減少する可能性もある。

    従って、著者が病院で診ている臨床患者の発表所見に基づくと、基礎疾患として腸疾患の疑いがあるFHLの猫は全て、コバラミンを補給することが推奨される。

    ただし、コバラミン投与を開始する前に診断的な血漿サンプルを確実に採取しておくことが重要である。

    一般的な用量は入院初日に1000μg/頭を投与する(獣医師によって250~1000μ/頭と幅がある)。

    測定したB12の血漿濃度を基に、コバラミン測定値が安定して参照範囲に入るまで、この用量を毎週もしくは週に2回の間隔で繰り返し投与する。

    基礎疾患や治療に対する反応を見て長期的な補給を行う。 

    ビタミンK 

    FHLの猫は全て、入院して24~48時間はビタミンK1を投与する。

    FHLの猫は胆汁酸の腸肝循環が低下していることが疑われるため、ビタミンKは注射で投与する。

    用量は、0.5~1.5mg/kgをSCまたはIMで12時間毎に3回投与する。

    過剰投与は酸化障害(肝組織への傷害と、ハインツ小体性溶血)を誘発する可能性があるため、用量は慎重に計算することが重要である。 

    ビタミンE 

    FHLの猫では肝臓のビタミンE欠乏が考えられるが立証されてはいない。ビタミンEの補給を推奨する根拠はいくつかあり、FHLでは明らかに胆汁酸の腸肝循環が低下していること、ビタミンKの投与によって証明された反応(脂溶性ビタミンの欠乏がある)、FHLでは肝臓におけるGSHが低下していること(酸化傷害のリスク増加を示す)、クワシオルコルに罹患した小児と非アルコール性脂肪性肝炎をもつ肥満小児ではビタミンEの低下(多くの点でFHLと類似している)が認められていることなどに基づいている。

    ビタミンEは脂溶性および水溶性細胞成分を酸化傷害から保護し、実験的には胆汁うっ滞や脂肪変性などによる数多くの様々な肝障害に対して抗酸化保護作用をもつ。

    一般的には、アルファトコフェロールを10IU/kg/dayの用量が推奨されているが、食事性魚油を補給している場合や、胆汁酸の腸肝循環が著しく低下している症例では、より高用量が必要になることもある。

    抗酸化剤として使用する場合、酸化傷害から多価不飽和脂肪酸(PUFA)を保護するにはPUFA1gあたり0.4~0.8mgのビタミンEが必要であり、特定の魚油はビタミンE要求量に対してそれぞれ異なる影響をもつため、ビタミンEの状態と食事性PUFA(ω-3)には複雑な相互関係がある。 

    L-カルニチン 

    FHLの猫には、いくつかの理由からL-カルニチン(CN)の補給が推奨されている。

    まず簡単な理由として、食欲不振の猫では利用できる基質が限られており、それだけでなく肝機能不全が重いことから、CNの合成が低下している。

    FHLの猫では、脂肪酸参加のために最適なCNを供給し、肝臓へのTG蓄積を緩和するためにCNを必要なレベルまで適切に分散する能力が不定である。

    しかし、同時期に行われた幾つかの研究では、CNの補給が疾病予防とFHLの猫の回復に役割を果たすことが実証されている。

    重度のFHLに罹患した猫(肝細胞の>80%に波及)に、下記に示す処方でCNを補給したところ、著者の病院では生存率が改善した。

    用量は250mg/頭/日である。製品によって生体内利用率がかなり異なるため、医療用のCNを用いる。 

    タウリン 

    FHLの猫では血漿中のタウリン低下が証明されているため、最初の7~10日は1日あたり250mgの補給が推奨される。

    猫ではタウリンが胆汁酸抱合に必須であり、この理由から、これが短期的な補給の基礎になっている。

    タウリン抱合は腸管における胆汁酸の溶解性と消化機能を高め、腸からの受動的な取り込みを抑えて、回腸終末部からの能動的取り込みを促進させる。またタウリン抱合は細胞膜溶解性胆汁酸の毒性を緩和すると思われる。

    このほか、FHLに重要と考えられる多数の生理学的および代謝性過程にも影響を与える:例えば、カルシウムイオン流入、膜安定化、解毒反応、抗酸化性保護作用などである。

    猫におけるタウリンの食事性要求量は、食事性蛋白の質と量、そして腸管での蛋白処理に依存している。

    腸管に未消化蛋白が存在すると(異なる疾患や抗菌治療によって生じる場合がある)、胆汁酸結合(糞便中に喪失する)やタウリンの微生物学的異化作用の増加によって、タウリンの必要量が高まる可能性がある。

    現在、市販の缶詰フードで健康な猫に適切なタウリンを補給するには、食事1kgあたりタウリン2500㎎が推奨されている。 

    チオール抗酸化剤の補給 

    食欲不振により、システインとアミノ酸前駆体の欠乏が生じるため、循環血中および肝臓中のGSHとSAMe濃度が枯渇することが知られている。

    飢餓は、肝臓のミトコンドリアの酸化傷害や活性酸素の発生を助長し、肝細胞がTGによって膨張し洞様毛細血管を圧迫して生じたと思われる還流低下に対し、組織の感受性を高める事が知られている。

    飢餓状態が長く続くほど、受ける酸化傷害は大きくなる。FHLと共通点の多いクワシオルコルは、酸化還元状態の異常や脂質の過酸化促進と関連している。

    飢餓は脂肪肝の動物におけるミトコンドリアの機能を変化させ、コバラミン欠乏(細胞のGSH濃度の低下)によって酸化傷害を悪化させることが実験的に立証されている。FHLの猫の肝臓はGSHの濃度が低いことが証明されており、これがチオール補給を推奨する主な根拠となっている。

    しかし、著者の病院では、循環赤血球GSH濃度の低下も一部のFHLの猫で認められている(Center、未発表データ)。

    ハインツ小体性溶血を呈するFHLの猫や、その他の重度な器官系障害をもつ猫は酸化傷害を生じるリスクが高いとみなし、まずN-アセチルシステインで治療する。

    このときの用量はヒトや動物のアセトアミノフェン中毒で推奨されている量を使用する。

    その後、重篤な数日間が過ぎたら、SAMeに切り替える。脂肪肝モデルで行われたNACとSAMeの実験から、それぞれの有益性が証明されている。初回にNACを140mg/kg(20%溶液を生理食塩水で1:4に希釈)で20分かけてIVする。

    その後70mg/kgを8~12時間毎で投与する。

    腸管での消化機能が安定したら、腸溶剤のSAMe投与に切り替える。

    食物はSAMeの生体内利用率を低下させるため、猫1頭に180㎎(約30~60mg/kg)をSid~Bidで経口投与する。SAMeをコーティングしている腸溶剤も、生体内利用率を損なわないよう、砕いてはならない、SAMeのこの用量はGSHの濃度を著しく上昇させ、赤血球GSHにも影響を与える。

    また食事性システインを補給すると、健康な猫では血液メチオニン、ヘモシステイン、GSH濃度が上昇することが示されている。 

    ウルソデオキシコリック酸 

    実験的に証明されているように、FHLの猫に蓄積する親水性胆汁酸は、TGを肝臓から運搬するのに不可欠なVLDLの形成を損なうことがある。

    合成親水性胆汁酸であるウルソデオキシコリック酸(UDCA)はヒトの胆石溶解の治療や、胆汁うっ滞肝疾患で蓄積する細胞膜溶解性胆汁酸の肝毒性を緩和する目的で使われている。

    UDCAは細胞保護作用、抗炎症作用、抗酸化作用、抗線維作用などの有益性があることが数多くの基礎研究で述べられている。

    しかし、肥満小児と脂肪肝の成人にUDCAを投与しても、脂肪肝の動物モデルと同じく、有益性はほとんど認められず、疾患の回復を促進することはなかった。

    肝脂肪症のヒトで最近行われた多施設前向き研究では、UDCAは投与後2年経過しても、単独治療剤として全く有用性が認められなかったことを示している。胆汁酸は全て正常な細胞過程を障害する危険性があるため、UDCAもFHLでは有害となる可能性がある。

    これらの猫では、既にEHBDOの場合と質も量も類似した血清胆汁酸濃度の上昇が顕著に起こっている。UDCAの短期投与がこの症候群に対し、有益性があることも無害であることも証明されていない。

    従って、FHLだけで黄疸を呈している猫には、著者はUDCAを使用しない。

    猫のその他の肝疾患は大半が壊死性炎症性病変によって胆汁うっ滞を伴うため、UDCAによる治療が適切であると考えられるが、FHLはこれらと違うことを忘れてはならない。 

    その他の注意事項 

    再給餌現象 

    再給餌現象とは、栄養不良の患者に再給餌(経口、経腸、非経口投与)を開始すると、本来の代謝異常に伴って電解質と液体が激しく移動し、潜在的に致死性となる状態と定義されている。

    FHLの猫では、ヒトのクワシオルコルと同様にそのリスクが高まると考えられる。

    再給餌症候群の基本的な病態機構は、純粋な異化状態(長期的な食欲不振)からインスリン放出増加、細胞によるグルコース、リン、カリウム、マグネシウム、水分の取り込み増加、蛋白合成促進といった状態への変化が関与している。

    栄養サポートは組織の同化作用を促進するため、アデノシン3リン酸(ATP)、2,3ジホスホグリセレート、クレアチニンの要求量が高まると共に、細胞のリン、カリウム、グルコース、水分の要求量も増加する。カリウム、リン酸、またマグネシウムさえも著しく枯渇する可能性がある。

    更に、炭水化物の代謝利用率が増加するため、チアミンを補給されていない動物では症候性の低チアミン血症を誘発することがある。 

    薬剤の用量&使用しない薬剤 

    体重超過のFHLの猫では、不注意な過剰投与にならないよう、薬剤投与量は推定した除脂肪体重に基づいて計算すべきである。

    適切な投与量は、ボディコンディションスコアと理想体重比率を推定して予測する。

    これらの患者では、傾向として肝臓へのTG蓄積の助長、肝臓代謝の低下、酸化傷が起こりやすいため、特に避けねばならない薬剤が数多くある:

    例えば、スタナゾロール、グルココルチコイド、テトラサイクリン、ベンゾジアゼピン、プロピレングリコール(薬剤中の担体もしくは半生タイプのフードやおやつ)、オニオンパウダー、セタカインやベンゾカイン製剤、プロポフォール麻酔薬などがある。

    更にビタミンKは適切な用量で投与するように注意しなければならない。

    これは、キノンが酸化物質として良く知られており、GSHの枯渇している細胞系では毒性が高まるためである。

    FHLの猫では、用量が適切でも投与回数が過剰な場合や(1日毎)、用量過剰の場合(12時間間隔で>1.5mg/kgを3回以上投与するなど)に、ハインツ小体形成による溶血反応が発現している。 

    結論 

    FHLはほぼ30年前に初めて報告されている。

    本症候群に対する臨床獣医師の認知度が高くなったことから、最も早期にこの代謝異常の進行を抑えることで症例の転帰は改善している。

    臨床症状を発現したばかり、あるいはごく中程度に罹患している猫なら、完全でバランスの良い食事を適切に摂取させるだけでも猫を救える可能性がある。

    しかし、重度の臨床病理学的変化を呈している猫や、肝細胞がTG蓄積によって>80%損なわれている猫では、ここに述べたような代謝の完全なサポートにより、猫を回復させる最良のチャンスが得られる。 

     

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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