獣医師解説!犬の心臓がドキドキ!?犬の心臓病〜雑音の原因、症状、治療法〜

愛犬の心臓がドキドキ、雑音がするので病院に連れて行ったけど、

  • 原因がわからないと言われた...
  • 様子、経過を見てくださいと言われたけど心配...
  • 検査してくれなかった...
  • 病院ではよくわからなかった...
  • 病院では質問しづらかった...
  • 混乱してうまく理解できなかった...
  • もっと詳しく知りたい!
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  • 治療しているけど治らない

という事でこの記事に辿りついたのではないでしょうか?

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結論から言うと、心雑音は様々な原因によって発生しています。

急性うっ血性心不全に起因する臨床徴候(呼吸促拍、呼吸困難、腹水、チアノーゼなど)を呈している場合、対症療法を行って動物の状態を改善させた後、原因疾患に対する根本的な治療を検討します。

病的に心雑音は音量が明らかに大きい(GradeⅢ以上)ことが多いですが、臨床徴候が伴わないことも多いです。

心雑音を呈している動物は臨床徴候が認められなくとも、原因疾患の確定診断や治療を行う必要があるかを判断することが重要です。

この記事では、愛犬の心臓がドキドキ、雑音がする場合について、その理由をアカデミックな面からまとめました。
この記事を読めば、愛犬の心臓がドキドキ、雑音がする際の症状、原因、治療法までがわかります。

限りなく網羅的にまとめましたので、ご自宅の愛犬の心臓がドキドキ、雑音がするところを見つけた飼い主は、是非ご覧ください。

✔︎本記事の信憑性

この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。

今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。

臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!

記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

✔︎本記事の内容

獣医師解説!犬の心臓がドキドキ!?犬の心臓病〜雑音の原因、症状、治療法〜

犬の心雑音の定義

犬の心雑音の定義

心音の聴診において心臓周辺で聴取される正常状態では発生しない異常な音のことを示します。

そのうち、正常な心臓から聴取されるⅠ音(房室弁閉鎖音)やⅡ音(半月弁閉鎖音)に類似した音は、Ⅰ音やⅡ音の分裂音または過剰心音(Ⅲ音あるいはⅣ音)として考えられ、異常ではありません。

したがって心臓周辺で聴取される正常心音とは明らかに異なる音と定義することができます。

同義語として、異常心音といわれることがあります。

犬の心雑音の分類と問題点

犬の心雑音の分類と問題点

心雑音はその強度、時相、音調などによって分類されています。

強度は、最も小さい音から大きい音まで主観的に6段階に分類されます。

  • 第Ⅰ度:注意深い聴診のみによって聴き取れる雑音。
  • 第Ⅱ度:聴診器を当てるとすぐ聴き取れるが弱い雑音。
  • 第Ⅲ度:Ⅱ度とⅤ度の中間で強度の弱いもの。
  • 第Ⅳ度:Ⅱ度とⅤ度の中間で強度の強いもので、耳に近く聴こえるもの。
    Thrill(+)では、心室中隔欠損、大動脈弁狭窄症などに認める。
    スリルがある(手で触って感じる心雑音)
  • 第Ⅴ度:聴診器で聴こえる最大の雑音で、聴診器を胸壁から離すと聴き取れなくなるもの。
  • 第Ⅵ度:聴診器を胸壁から離しても聴こえる強大な雑音。

時相は、雑音が聴取される心周期を倣って呼称され、収縮期性、拡張期性および連続性の3型に分類されます。

音調は、音質や出現中の音量変化、持続時間などによって分類され、

  • 駆出性(高音で漸増漸減型を示し収縮初期から中期に最大となる)
  • 逆流性(中低音で収縮期を通じて均一な音量を示す)

に大別されます。

さらに、心雑音が最も大きく聴診可能な部位によって、左側胸壁、右側胸壁、心基底部、心尖部などにも分類されます。

犬の心雑音の病理発生

犬の心雑音の病理発生

一般に、心臓に血管内の血流が層流(管内をほぼ平行に流れる血流)であれば雑音は発生しません。

しかし、急加速、逆流、折れ曲がりなどによって乱流あるいは渦流になると、周辺組織を共振させて雑音が発生します。

一般に原因となる血流の速度が速いほど中低周波の雑音が生じるようになります。

これらの原因となるのは、心臓の器質的な異常(各弁の機能障害、構造の欠損や異常短絡など)ですが、器質的な異常を伴わないもの(無害性あるいは心理的心雑音)もあります。

また、血液粘稠度の低下(貧血)も心雑音発生の一因です。

心雑音発生の原因となる器質的な異常は先天性と後天性に大別され、各疾患によってある程度特徴的な心雑音が聴取されます。

明瞭な心雑音は、先天性あるいは後天性心疾患を強く示唆する所見です。

犬の心雑音の対症療法

犬の心雑音の対症療法

心雑音は様々な原因によって発生しているために、心雑音に対する総括的な対症療法は存在しません。

心雑音を呈している動物が、急性うっ血性心不全に起因する臨床徴候(呼吸促拍、呼吸困難、腹水、チアノーゼなど)を呈しているなら、対症療法を行って動物の状態を改善させた後、原因疾患に対する根本的な治療を検討します。

病的に心雑音は音量が明らかに大きい(GradeⅢ以上)ことが多いが、臨床徴候が伴わないことも多いです。

心雑音を呈している動物は臨床徴候が認められなくとも、原因疾患の確定診断や治療を行う必要があるかを判断することが重要です。

犬の心雑音の診断の進め方

犬の心雑音の診断の進め方

心雑音を呈する動物の鑑別診断に必要な検査は、以下の6種です。

動物に心雑音が聴取されたら、これら検査所見を組み合わせ総合的な診断を実施すべきです。

◎身体検査

ACVIMの指針 ではStageB2-Treatmentの段階からは投薬が必要です

動物が落ち着いた状態で実施した身体検査所見により、以下の項目を確認します。

  • 視診:可視粘膜、呼吸様式、浮腫、静脈の拡張などを評価。
  • 脈診:大腿動脈圧の確認、心音との関係、脈圧の性状などを評価。
  • 聴診:心拍数、心調律、心音量、呼吸数、呼吸音など評価。
  • 触診:複数個所(頭側と尾側)の可視粘膜色、毛細血管再充満時間、胸壁の振戦、水和状態(皮膚つまみ検査)などで評価。
  • その他:動物の年齢、既往症、最近の手術歴(歯科処置など)、体重の変化。

◎胸部X線検査

 

良好な体位で撮影した胸部X線側面像、胸部X線背腹像において、

  • 心陰影の形態
  • 心臓椎体総計(VHS)
  • 肺野透過性
  • 後大静脈径と走行
  • 気管径と走行
  • 気管分岐部位置
  • 横隔膜形態

などを評価します。

◎心電図検査

動物が安静な状態で右側横臥位にて記録した心電図において、

  • 心拍数
  • 心調律
  • 平均電気軸
  • 各波形の変化
  • R-R間隔変動係数(CVR-R)

などを確認します。

また、必要に応じてホルター心電図(24時間心電図)の実施も検討します。

◎心音図検査

動物が安静な状態で起立位あるいは犬坐位にて記録した心音図において、心雑音の性状を客観的に確認します。

上述した心雑音の強度、時相、音調などを確認します。

小動物では高周波域で良好に記録できることが多いです。

◎心臓超音波検査

動物が安静な状態で記録した心臓超音波検査において、心臓の形態、機能および血流状態を確認します。

特に、心雑音発生の部位、病態および重症度を客観的に評価できるため、本検査は鑑別診断のうえで重要な検査として位置づけられています。

心雑音の発生には異常血流の存在が不可欠であり、それらは乱流かつ高速であることが多いです。

したがって、異常血流の検出には二次元断面抽出に加えて、カラードプラ法による心臓内の血流抽出を精査し、各弁口の通過血流、動脈内血流などを確認することで異常血流が確定診断されます。

心雑音の原因となる異常血流はカラードプラ法ではいわゆる「モザイク状」に抽出されるため検出は容易ですが、検出が難しい場合には超音波造影検査を行う場合もあります。

◎心カテーテル検査

前述の心臓超音波検査の発展に伴って、標準的な検査で認められないで、心臓超音波検査でも確認することのできない各心腔の観血血圧測定や血液ガス検査、および心血管造影検査が可能になりました。

また、体格に制限があるものの、カテーテル経由で心筋生検を行うことで病理組織学的検査も実施することも可能です。

しかし、上述までの検査に比較して、全身麻酔および血管への外科的侵襲などを伴うため、小動物への実施には制約が多いです。

犬の心雑音の特徴

犬の心雑音の特徴

心雑音の好発品種、性差、年齢などは、各心疾患のそれと同様です。

心雑音の原因として若齢犬に多く認められるのは、動脈管開存症、肺動脈弁狭窄症、大動脈弁下狭窄症などであり、

成犬に多く認められるのは僧帽弁逆流症、三尖弁逆流症、拡張型心筋症などです。

いずれも純血犬種、トイ種、ミニチュア種に多く認められますが、

大動脈弁下狭窄症や拡張型心筋症は中型から大型犬種に発生が多い傾向があります。

心雑音の原因として若齢猫に多く認められるのは、心室中隔欠損症や房室弁異形成などであり、成猫に多く認められるのは、肥大型心筋症です。

いずれも純血猫種に多く認められ、肥大型心筋症は、アメリカン・ショートヘア、メインクーン、ペルシャなどの猫種に好発し、雄に発生が多いことが知られています。

犬の心雑音の高頻度の疾患

犬の心雑音の高頻度の疾患

犬と猫それぞれに好発する先天性および後天性心疾患で、心雑音を発するものは以下のとおりです。

◎動脈管開存症

小型犬の先天性心疾患で最も多く認められます。

左側心基底部を最大とする連続性雑音が聴取されます。

心雑音は比較的大きい(GradeⅣ~Ⅴ)ことが多いですが、限局性に聴かれることもあるため心基底部の注意深い聴診が必要です。

左心室容量負荷の増大に伴って僧帽弁逆流症を併発すると、左側心尖部において収縮期逆流性雑音も聴取されることがあります。


結紮前の状態                     結紮後

術前と術後の超音波検査

術前                        術後

        

術後には逆流がなくなっていることがわかります。

◎肺動脈弁狭窄症

左側心基底部を最大とする収縮期駆出性雑音が聴取されます。

心雑音は高周波で大きい(GradeⅣ~Ⅴ)ことが多く、左側胸壁に広く放散するために聴診は比較的容易です。

三尖弁機能の障害に伴って三尖弁逆流症を併発すると、右側心尖部において収縮期逆流性雑音も聴取されることがあります。

◎大動脈弁下狭窄症

左右心基底部を最大とする収縮期駆出性雑音が聴取されます。

心雑音は比較的大きいことが多く、心臓から頭側に向けて放散するため、前胸部や頸動脈などでも聴診が可能なこともあります。

僧帽弁機能の障害に伴って僧帽弁逆流症を併発すると、左側心尖部において収縮期逆流性雑音も聴取されることがあります。

◎僧帽弁逆流症

小型犬の後天性心疾患で最も多く認められます。

左側心尖部を最大とする収縮期逆流性雑音が聴取されます。

心雑音の音量、音質は様々で、高音で笛様に聴取されることもあります。

左心室から左心房へ向けて心雑音が放散されるため、心尖部に加えて左背側で聴取されることもあります。

加齢性に生じる僧帽弁弁尖の変性や腱索断裂に起因して生じる以外に、左心室容量負荷や左室流出路狭窄などから二次的に生じることもあるため、発生の原因を確認することが重要です。

治療前                 治療1週間後             治療2週間後

心臓のサイズ、肺の白さ(X線透過性)の改善が認められる

大動脈に対して拡張した左心房が確認できる

  

左心房領域にモザイク状の血流が認められる。

◎三尖弁逆流症

右側心尖部を最大とする収縮期逆流性雑音が聴取されます。

心雑音の音量、音質は僧帽弁逆流症と同様あるいはより小さいことが多いが、病態によっては非常に大きな音量(GradeⅤ~Ⅳ)で聴取されることもあります。

加齢性に生じる三尖弁弁尖の変性や腱索断裂に起因して生じる以外に、犬糸状虫感染や先天性形成不全などで生じることもあるため、発生の原因を確認することが重要です。

◎拡張型心筋症

大型犬の後天性心疾患最も多く認められます。

心雑音の原因は、本疾患に続発する僧帽弁逆流や三尖弁逆流であり、疾患そのもので明瞭な心雑音が認められるわけではないです。

左あるいは右心尖部を最大とする収縮期逆流性雑音が聴取されます。

著しい心臓拡大に伴って胸壁に心臓が近接するために心雑音が強大となったり、病態進行により収縮力が低下して心雑音が小さくなったり様々に変化します。

診断には心臓超音波検査、病理組織学的検査が不可欠です。

◎心室中隔欠損症

猫の先天的心疾患で最も多く認められます。

右側心尖部を最大とする収縮期逆流性雑音が聴取されます。

心雑音は高周波で大きい(GradeⅣ~Ⅴ)ことが多いですが、欠損孔の大きさにより低周波になることもあります。

左心室容量負荷の増大に伴って僧帽弁逆流症を併発すると、左側心尖部において収縮期逆流性雑音も聴取されるようになります。

◎肥大型心筋症

猫の後天性心疾患で最も多く認められます。

心雑音の原因は、本疾患に続発する僧帽弁逆流や左室流出路狭窄であり、疾患そのものが明瞭な心雑音を呈するわけではありません。

左心尖部あるいは左心基底部を最大とする収縮期逆流性雑音や駆出性雑音が聴取されます。

病態進行により心拍数が増加し、時相や音調が判別しにくくなる傾向があります。

また、病態の進行に伴って奔馬調律(ギャロップリズム)が聴診されることもあります。

診断には心臓超音波検査、病理組織学的検査が不可欠です。

犬の心雑音のまとめ

犬の心雑音のまとめ

心雑音とは、正常状態の心臓では発生しない異常心音です。

心雑音を聴取したら、原因となっている心疾患を診断し、動物の予後について評価しなくてはなりません。

ただし、ヒトと異なり心拍数の速い小動物の心雑音は、時相や音調の評価が難しいため、適宜心音図検査や心臓超音波検査などを組み合わせて評価することが有用です。

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no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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