獣医師解説!猫が吐いた!〜嘔吐と吐出〜原因から治療まで

    猫が吐いた!

    吐き戻しは遭遇する機会が非常に高い症状です。

    実は、この吐いたには、嘔吐と吐出の2種類があり、全く別の症状です。

    また、それにより対処法や疑われる症状、行う検査も異なります。

    この違いを病院で教えていただくと、非常に診察もスムーズになり、自宅で判断できると対処法も分かります。

    自宅での猫の吐き戻しが嘔吐なのか吐出なのか、緊急性の有無が分かるのは非常に大事です。

    猫は新しい物への好奇心が旺盛で、部屋の中に新しく飾ったり置いたりした物に興味を示して噛んだり舐めたりして確認します。

    そのまま誤って飲み込んでしまったり、飼い主に見つかり注意されることで飲み込んでしまうことがあります。

    また、それ以外にも様々な病気で吐き戻しは見られます。

    本記事では、『猫の吐いた』について解説します。

    この記事を読めば、猫の吐きの原因、症状、対処法、緊急度から治療法までがわかります。

    限りなく網羅的にまとめましたので、猫の吐きについて、ご存知でない飼い主、また愛猫が吐いていたのを見つけた飼い主は是非ご覧ください。

    ✔︎本記事の信憑性
    この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
    論文発表や学会での表彰経験もあります。

    記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

    » 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

    ✔︎本記事の内容

    猫が吐いた!〜嘔吐と吐出〜原因と治療まで

    猫の嘔吐と吐出とは?

    猫の嘔吐と吐出とは?

    嘔吐とは中枢神経系の反射運動です。

    様々な要因により延髄の嘔吐中枢の興奮が起こると、まず悪心、むかつきが発現します。

    悪心は嘔吐が起こるかもしれない不快感のことで、流涎、頻脈など自律神経症状が主体です。

    徴候としては不穏なそぶりを示し、舌祇めずりをしながらしきりに唾液を嚥下するか流涎がみられることが多いです。

    これに続き空嘔吐が見られることもあります。

    空嘔吐は声門を閉じて横隔膜と腹壁の発作的で連続的な動きが特徴的で,吐き出しを伴わない嘔吐の試みです。

    これに引き続き、さらに胃の強い逆蠕動の収縮が起こり、胃内容物が食道に押し上げられて口から出る現象を嘔吐といいます。

    むかつき、空嘔吐および嘔吐はー連の反射運動です。

    しかし、吐出は嘔吐と異なり咽頭、胸部食道の内容物を受動的に吐き出すことで、両者を明瞭に区別する必要があります。

    猫の嘔吐〜急性と慢性〜

    猫の嘔吐〜急性と慢性〜

    急性

    嘔吐を発現してからの経過が1週間以内

    猫で最も頻繁に認められる兆候

    急性胃炎のように自己限定的で良性疾患によるもの

    急性膵炎や胆嚢疾患、腸閉塞、急性腎不全、肝不全のような集中治療、外科的治療が必要な重篤な疾患

    慢性

    嘔吐症状が1週間以上継続

    上部消化管の機能的または器質的障害、また消化管以外の疾病の存在

    猫の嘔吐〜吐いた内容物〜

    猫の嘔吐〜吐いた内容物〜

    嘔吐

    吐物は食物、消化管の分泌液 ( 唾液、胃液、十二指腸液、胆汁) からなります。

    ときに食物以外の異物が含まれることもあり、異物摂取が嘔吐の原因になっている可能性もあります。

    胃、十二指腸の出血、また口腔内出血を嚥下した場合など、吐物に血液の混じるものを吐血と言います。

    線状、斑状、血餅、コーヒ一様残渣などは、出血量や胃内停留時間により様々です。

    また噴射状の嘔吐がみられる場合、幽門狭窄や十二指腸狭窄などが疑われます。

    食後12時間以上経過した吐物中に未消化物が認められた場合、機械的または機能的閉塞(イレウス)の可能性があります。

    吐出

    吐出の場合は急性、慢性、内容物はあまり重要ではありません。

    pHがアルカリ性であれば、強酸性の胄液が混じっていないことから、嘔吐物ではなく吐出物である可能性が高いです。

    嘔吐の原因

    嘔吐の原因

    嘔吐は大脳皮質、小脳を介した中枢、及び末梢からの様々な刺激が延髄にある嘔吐中枢を興奮させて起こります。

    また嘔吐中枢の近傍にある化学受容体引金帯(CTZ)は血液中に存在する物質の刺激を受け嘔吐中に興奮を伝達します。

    消化管に対する刺激

    • 過食(胃の急速かつ著しい膨満刺激)
    • 炎症
      胃炎、腸炎:細菌性、ウイルス性、寄生虫性、異物、炎症性腸疾患
      腹腔臓器の炎症:膵炎、胆嚢炎、腎盂腎炎、腹膜炎
    • 通過障害: 幽門狭窄、異物、腫瘍、腸捻転、重積
    • 上部消化管潰瘍: ステロイドや非ステロイドの薬による胃粘膜障害が大部分
    • 咽喉頭の刺激:激しい連続する発咳、咽喉頭の異物

    催吐作用を示す薬物

    • 抗癌剤、抗生剤、強心配糖体など

    消化器系以外の原因

    • 内分泌疾患: アジソン病、猫の甲状腺機能充進症、糖尿病性ケトアシドーシス
    • 腎不全:尿毒性物質、消化管潰瘍
    • 肝不全:消化管潰瘍、肝性脳症、乳酸アシドーシス
    • 中枢神経系の疾患:頭蓋内圧の上昇:腫瘍、頭部外傷
    • 乗り物酔い(動揺病):三半規管から小脳へ伝わった刺激

    吐出の原因

    吐出の原因

    蠕動運動が低下した巨大食道または狭窄した食道内に嚥下した食物が停滞貯留し、体動により受動的に口から排出されます。

    器質的異常による通過障害

    様々な異物:異物の閉塞部位は頸部から胸部への移行部、食道裂孔部、心基底部が多い。

    猫は摂食行動が極めで慎重で犬と比べて発生率が低いですが、ヒモ状異物が多いです。

    管外性病変による狭窄

    • 右動脈弓遺残などの血管異常
    • 食道周囲の腫瘤
    • 心基底部の腫瘤
    • リンパ節の腫大
    • 肺の腫瘍
    • 膿瘍

    管内性病変による狭窄

    • 扁平上皮癌の様な口腔内腫瘍
    • 運動機能異常によるもの
    • 先天性巨大食道
    • 特発性:グレートデーン、ジャーマン ・ シェパード、アイリ ッシュ ・ セター
    • 先天性重症筋無力症:アセチルコリン(Ach)受容体の先天欠損
    • 成熟動物の巨大食道
    • 特発性:全ての猫
    • 神経筋疾息に続発するもの:重症筋無力症、全身性エリテマトーデス( SLE) 、多発性筋 炎、 ジステンパーなど
    • 中毒薬物: 鉛、殺鼠剤のタリウム、ボツリヌス毒素、コリンエステラーゼ阻害薬
    • 内分泌疾患: アジソン病、甲状腺機能低症など

    猫が吐いた時に自宅で出来ること

    猫が吐いた時に自宅で出来ること
    嘔吐は生体にとって有害な物質を排除する防御反応です。

    頻繁、多量の嘔吐があると、脱水、電解質異常(低ナトリウム、低カリウム、低塩素)、酸塩基平衡異常(代謝性アルカローシス、代謝性アシドーシス)が合併します。

    特に幼若動物は、水分構成比が高いため嘔吐による脱水の影響が著しいです。

    適切な輸液療法とともに嘔吐を抑制する必要があります。

    ただし嘔吐に対する制吐薬は対症療法であり、原因を是正すると言う根本的な治療を組み合わさなければなりません

    吐出は、胃液を含まず上記の様な脱水、電解質異常になる頻度は低いですが、慢性的に起こることで、食物摂取量不足による低栄養が問題になります。

    猫が吐いた時に使える内服薬

    猫の吐き気止めの定番!セレニア

      セレニア

    嘔吐すると、ぐったりしたり、逆流性食道炎、電解質喪失、脱水、誤嚥性肺炎を起こす可能性があります。
    セレニア(Cerenia)は、犬用の制吐剤ですが猫ちゃんにも使えます。

    嘔吐は、具体的に胃の内容物が食道を逆流し口から排出される症状ですが、この原因はある刺激が嘔吐中枢に伝達する事から起こります。

    有効成分・マロピタント(Maropitant)は、嘔吐の原因となるニューロキニン1(NK1)受容体とサブスタンスPの結合を阻止する働きがあります。

    その結果、嘔吐中枢に直接働きかけるため、嘔吐を抑制および予防をすることができます。

    また、セレニア(Cerenia)は、投与後はおよそ1時間で効果が現れます。

    体重別に下記参照

    • 1.0kg以上~1.1kg未満  8mg
    • 1.1kg以上~1.6kg未満  12mg
    • 1.6kg以上~2.1kg未満  16mg
    • 2.1kg以上~3.1kg未満  24mg
    • 3.1kg以上~4.1kg未満  32mg
    • 4.1kg以上~6.1kg未満  48mg
    • 6.1kg以上~7.6kg未満  60mg

    猫が吐いた時の胃薬!
    ファモチジン

    ファモチジン
    上記のセレニアに加えて、万が一吐いてしまった時のお薬です。

    胃粘膜上の胃酸分泌に関係する特定部位を遮断することにより、

    胃酸やペプシンの分泌を抑え、犬・猫の胃潰瘍や十二指腸潰瘍を治療します。

    有効成分のファモチジンは、H2受容体拮抗剤です。

    胃粘膜上の胃酸分泌に関係する特定部位(H2受容体)を遮断することにより、胃酸やペプシンの分泌を抑え、潰瘍や胃炎、出血などを改善します。

    体重1kgあたりファモチジンとして、0.5~1.0mgを1日1~2回、経口投与します。

    食物制限による嘔吐の治療

    急性胃炎のような良性疾患では12~24時間にわたる絶食が極めて効果的で、治療的な診断につながります。

    24時間以上、嘔吐が認められなければ給与を再開します。

    食物中の脂肪は食物の胃内滞留時間を延長するため、易消化性で低脂肪のものが好ましいです。

    鶏肉やカッテージチーズ、粥または市販の療法食から開始します。

    2~3日間は刺激の少ない易消化性の食物内容にし、2、3日かけて徐々に戻していきます。

    吐出に対する対症療法

    猫の食道下部は平滑筋であるため、猫ではメトクロプロミドがある程度有効性を示すことがあります。

    食道の運動機能異常による巨大食道を伴った吐出あるいは器質的異常による吐出でも、完全閉塞の例を除き、起立位で摂食させる管理が必要です。

    動物を直立ないしそれに近い角度に立たせて液体状のものを与えます。

    食後は10分以上直立させた状態で保持することにより、胃に食物が重力によって落下移送されることが期待されます。

    長期にわたる吐出により栄養状態が著しく悪い例では胃チューブを設置する必要があります。

    嘔吐の検査

    嘔吐の検査

    一般検査

    • 舌下にヒモ状異物がないかの確認
    • 腹部の圧痛や、腹腔臓器の触診、直腸検査でリンパ節や前立腺の触知

    臨床検査

    • 脱水や電解質異常の確認
    • 膵臓(膵特異的リパーゼ)、甲状腺(T4)の値
    • 尿検査で腎盂腎炎の確認

    X線検査

    • X線不透過性の異物
    • 閉塞、腹腔内の腫瘤性病変
    • 臓器の大きさ、形状、X線不透過性の異常を評価

    超音波検査

    • X線透過性の異物、腸重積、消化管の腫瘍、幽門部粘膜過形成などの消化管疾患の確認。
    • 腹腔臓器異常による嘔吐の場合、膵臓、肝臓、腎臓、前立腺、子宮などの確認に有用。

    内視鏡検査

    • 咽喉頭、食道、胃、近位十二指腸であれば検査可能
    • 粘膜面の生検や異物の除去が可能
    • 肉眼的な異常がない場合でも、組織学的に重度の変化が認められる場合も多い

    吐出の検査

    吐出の検査

    • 異物による閉塞、器質的異常による通過障害では頸部、胸部のX線検査(造影検査)が有用
      巨大食道症、重症筋無力症
    • Ach受容体抗体価、テンシロンテスト
    • アジソン症、甲状腺機能低下症
      電解質、甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンの値計測
    • SLEや中毒
      中毒物質摂取の有無や抗核抗体、鉛の血中濃度、タリウムの尿中濃度

    よく遭遇する疾患

    よく遭遇する疾患
    嘔吐

    胃炎、十二指腸炎

    ストレス(気温、環境)や食事の変化、誤食など

    急性、慢性膵炎

    猫の膵炎は十二指腸炎、胆管肝炎を併発することが多いため、合わせての治療が必要

    吐出

    巨大食道症

    重症筋無力症と併発が多く認められるが、特発性も多いです。

    経過を見ていい嘔吐

    経過を見ていい嘔吐

    手術や検査のために動物が食抜き

    離乳期の子猫を育てている母猫の嘔吐

    散歩中にイネ科植物を食べて直後に嘔吐

    猫の吐物に被毛

    ポイント

    頻度の低い徴候である吐出と圧倒的に頻度の高い嘔吐を鑑別できる飼い主はほとんどいないです。
    つまり飼い主の主訴はすべて「吐く」です。
    吐出との診断点は「吐き出し」に先立ち、悪心と空嘔吐のしぐさを欠くことです。

    嘔吐、吐出の予防

    嘔吐、吐出の予防

    様々な原因で起こる猫の吐き戻しですが、唯一予防できまた、多いのが異物、誤飲、中毒です。

    無防備な状態で猫が届く範囲に物をおかないよう注意が必要です。

    猫を飼っている場合には、とにかく、猫の手の届かない所に置かない事が重要です。

    猫が誤食する場合の殆どは、防ぐことのできる飼い主の不注意ですので、常に口にしてしまう可能性を十分に考え、絶対に猫が立ち入らない場所に設置します。

    もしもの時のために必要な常備薬

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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