園芸用品は、最も危険な殺虫剤や殺鼠剤、除草剤などが区分されており、またこれら薬物には家庭内や庭、散歩コースなどに溢れています。
これらの薬系薬剤の中で、特に注意が必要な薬剤は、動物や昆虫が好むように誘引剤が入っている、いわゆるベイト剤と言われるもので大量摂取になりやすく重篤な中毒に至る場合が多いです。
代表的な薬剤として有機リンやカーバメイトが存在します。
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農薬系薬剤は非常に多く、農水省に登録された農薬のみでも7600を超える製品があります。
いくつかの農薬系薬剤が1製品中に配合されていることがあるため、必ずしもシンプルな毒性を示さずそれらを併せ持った複雑な中毒症状示します。
本記事では、犬の有機リン中毒の病態、症状、中毒量、治療法に至るまでを獣医師が徹底解説します。
この記事を読めば、犬に有機リンを与えていけない理由と対処法が分かります。
犬にとって危険な物を知りたい飼い主必見です。
限りなく網羅的にまとめましたので、有機リンが犬に与える影響をご存知でない飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
» 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】
✔︎本記事の内容
犬に殺虫剤、除草剤は危険!有機リン中毒の怖さとは?!
この記事の目次
犬が有機リン(除草剤、殺虫剤)を食べてしまった時に起こる病態
これらの薬剤は、消化器、皮膚、眼球などから吸収され、速やかに分布し、コリンエステラーゼを阻害し神経シナプスのアセチルコリン濃度を上昇させることにより毒性を発現します。
それにより、副交感神経が刺激されムスカリン様作用やニコチン様作用を示します。
- 有機リン中毒は不可逆的なコリンエステラーゼ阻害作用で、血液-脳関門を通過し、脳のアセチルコリン受容体で多数を占めるムスカリン受容体に作用します。
- カーバメイト剤は可逆的な阻害で、血液-脳関門を通過しません。
そのため一般的に有機リン剤の方が重症化する傾向にあります。
犬が有機リン(除草剤、殺虫剤)を食べてしまった時の中毒の症状
発症は通常12~24時間以内に起こるとされています。
症状として、縮瞳と流涎が特徴的で、嘔吐、下痢、呼吸困難、頻尿などのムスカリン様作用を呈します。
また筋肉の振戦や麻痺などのニコチン様作用、沈鬱や痙攣などの中枢神経症状を呈します。
草むらなどで犬を離した後に痙攣などの症状を呈したとの主訴が多く、その場合には何の毒物かが不明ですが、有機リン中毒は症状が特異的(縮瞳)であるため薬物が特定できないまでも速やかに治療に取り掛かることができます。
また殆どの有機リン剤は着色されていますので、嘔吐物や便の色が緑色や青色を呈することからも、その中毒を疑うことができます。
犬が有機リン(除草剤、殺虫剤)を食べた時の対処
対処法は3つに大別されます。
動物病院では、まず胃の内容物を吐かせて外に出し、その後、胃の洗浄をして、活性炭や下剤を投与するといった治療がおこなわれます。
中毒の症状や原因となるものを、体外に排出することが最優先されます。
- そのまま様子を見る(勝手に吐く、あるいは、便で出るのを待つ or 毒物なら点滴して希釈する)
- 吐かせる
- 点滴などの対症療法
摂取後2時-4時間以内であれば、催吐薬の投与を行い吸着剤の投与を併用します。
催吐の効果が認められられない場合には、胃洗浄を行うこともあります。
しかし摂取後時間が経過している場合は催吐薬の投与、洗浄は行わずに吸着剤の投与を行います。
時間が経過している場合は催吐、並びに胃洗浄は体への負担が生じるだけで効果が認められません。
多くの中毒と同様に嘔吐による脱水、電解質の補正のための輸液などの対処量を行います。
犬が有機リン(除草剤、殺虫剤)中毒を起こした時の治療
解毒が最も重要な治療手段です。
縮瞳や流涎が認められた場合は速やかにアトロピンを投与します。
必要に応じて、この治療3-6時間ごとに繰り返します。
中毒物質の経口摂取の場合、症例の状態に対して可能であれば再度処置を行います。
皮膚暴露の場合は症例を温かい石鹸水で完全に洗い、長毛の場合は毛刈りも行います。
早期であれば、有機リン中毒において治療薬であるプラリドキシムヨウ化物を筋肉内または皮下注射、もしくは1-2時間かけて静脈内投与を行うことでコリンエステラーゼの活性を戻すことができます。
筋肉の振戦、呼吸麻痺等を強く示す場合はジフェンヒドラミンの皮下もしくは筋肉内注射を8-9時間ごとに投与します。
痙攣が起こっている場合は抗けいれん薬の投与を行います。
呼吸停止が起こる場合があるため、緊急処置に対応できる準備を行う必要があります。
経口投与が可能な状態になれば吸着剤としての活性炭1-4g/kgを経口投与します。
犬が有機リン(除草剤、殺虫剤)を食べてしまった時の応急処置と対処法
原則は病院の受診です。
病院で安全な催吐処置をしていただくことが最善です。
しかし、周りに病院がない場合、離島などで病院受診が困難な場合は自宅で吐かせるしかありません。
自宅でできる催吐処置は元々非常に危険で、それが原因で命を落とすこともあり、うかつに行うと危険です。
- 炭酸ナトリウム 小型犬:0.5g/頭 中型犬以上:0.5-1g/頭 口腔内投与
- 3%過酸化水素(オキシドール) 1-2ml/kg
上記はあくまでも参考です。
決して気軽に自己判断で行わないでください。
農薬系薬物を摂取し摂取後すぐ(できれば1時間以内)で、意識が清明であれば催吐を検討しても良いです。
しかしこれらの薬物は有機溶媒を含んでいることが多いので、誤嚥にはくれぐれも注意が必要です。
摂取した薬物が液体であった場合には特に誤嚥性肺炎を生じることがあるので催吐しないほうが無難な場合もあります。
また催吐が禁忌である場合もありますので摂取したものがわからない場合には催吐の判断を慎重に行います。
酸・アルカリ性の薬物、石油系の薬剤は催吐禁忌であり、また犬猫の意識障害があっても催吐は禁忌です。
犬が有機リン(除草剤、殺虫剤)中毒を起こした時の予後
摂取した中毒性物質やその量、摂取から治療までの時間、治療内容等に左右されます。
農薬系薬剤は重篤な症状が出る位の量を摂取した場合、死亡する可能性も十分に考えられ、一時的に回復しても、腎不全、盲目、意識障害などを合併することもあります。
症状は数日間続くことが多く、症状が喪失した後もコリンエステラーゼ活性はのままであり、その回復はさらに時間(数週間ー数ヶ月)を要すると言われています。
コリンエステラーゼ (ChE : cholinesterase)
血清コリンエステラーゼは、コリンエステルを分解する酵素の総称で、非特異性コリンエステラーゼと呼ばれることがあります。
コリンエステラーゼは肝臓の蛋白合成能と相関するため、動物では殺虫剤や農薬中毒の診断にも用いられることがあります。
検査のときに気をつけること
ChE の参照値(単位:IU/L):三菱化学メディエンス
犬 2~12
猫 5~15
検査によってわかること
ルーチンで行われる検査ではなく、獣医領域では肝機能評価に用いられている報告はほとんどないです。
しかし、獣医領域で広く用いられている殺虫剤(ノミ駆除薬等)の なかには、強いコリンエステラーゼ阻害作用を有する有機リン製剤を主成分とするものがあります。
一般薬局で売られているノミ取り用の首輪では通常の使用で血中酵素活性の低下はみられないですが、誤飲などが疑われる場合には測定します。
中毒時には酵素活性の著しい低下がみられます。
ポイント
現在、動物病院で処方されるノミ取り用の薬剤(例:フロントライン、アドバン テージ)はコリンエステラーゼ阻害作用をもたないです。
阻害作用をもつ有機リンやカーバメート系薬剤を獣医療領域で使用することは少なくなってきています。
しかし、有機リン製剤は農薬(殺虫剤)として広く使用されています。
- 首輪や農薬の誤飲で有機リン中毒が起きる可能性があります。
- 症状として縮瞳や徐脈がみられます。
- 治療は、誤飲後早期ならば胃洗浄や補液による希釈を行います。
- 必要に応じてプラリドキシムヨウ化メチル (PAM)やアトロピン投与も考慮します(カーバメート剤中毒では、PAM は投与しない)。
犬の有機リン(除草剤、殺虫剤)中毒の予防
犬を飼っている場合には、とにかく、これら農薬系薬剤を買わない、置かない事が重要です。
どうしてもそれら薬物を使用する際には、飼い主が危機意識を持ち、犬が誤食する可能性を十分に考え、絶対に犬が立ち入らない場所に設置します。
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