甲状腺機能亢進症は、高齢の猫で多く認められる内分泌疾患のひとつです。
甲状腺の癌、腺腫あるいは過形成を原因としてサイロキシンが過剰に分泌され、全身的に様々な臨床症状を発現します。
症状(消化器症状、体重減少など)はしばしば非特異的で、診断にはサイロキシン(T4)のスクリーニング検査(後述)が有効です。
日本国内の猫では甲状腺癌を原因とするものが多く、外科手術が有効です。
この記事を読めば、猫の甲状腺機能亢進症の症状、原因、治療法までがわかります。
限りなく網羅的にまとめましたので、猫の甲状腺機能亢進症ついてご存知でない飼い主、また犬を飼い始めた飼い主は是非ご覧ください。
✔︎本記事の信憑性
この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
論文発表や学会での表彰経験もあります。
記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m
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✔︎本記事の内容
猫の甲状腺機能亢進症〜症状、原因、治療方法〜
この記事の目次
猫の甲状腺機能亢進症の疫学
8 歳以上の猫のうち2~3%程度が甲状腺機能亢進症と言われています。
これらの半数以上は片側性の甲状腺癌(carcinoma)で、次に片側性の良性甲状腺腫が多く、結節性過形成はほとんどみられません。
猫の甲状腺機能亢進症のシグナルメント
甲状腺機能亢進症は3~4 歳以上の猫で認められますが、大多数は8 歳以上です。
性差はなく、好発品種もとくに報告されていません。
猫の甲状腺機能亢進症の臨床症状
発現率の多い順に
- 体重減少
- 多食
- 食欲不振
- 脱毛
- 多飲多尿
- 下痢
- 嘔吐
- 活動亢進
- 元気消失
- 呼吸促迫
多食かつ体重減少する猫の鑑別疾患のトップ2 は消化管型リンパ腫と甲状腺機能亢進症であるという報告もあります。
猫の甲状腺機能亢進症の検査
身体検査
削痩、脱毛、皮膚脱水がよく認められます。
半数程度の症例では頸部の甲状腺腫を触知できます。
聴診では頻脈(> 240/min)、心雑音、パンティングが認められることがあります。
血液検査・血液化学検査
併発疾患がない限り、血液検査で異常を認めることはほとんどないです。
血液化学検査ではALP の上昇(> 60 U/L)がほぼ全症例で認められます。
猫でALP がALT(GPT)よりも著しく上昇する疾患は少ないので(他には肝リピドーシス、糖尿病など)、スクリーニング検査としてALP の測定は重要です。
画像診断
両側性の心肥大が認められることがあり、X線検査では典型的なバレンタイン・ハートを呈することもあります。
大動脈弓の突出や肺血管の怒張など、高血圧所見が認められることが多いです。
心臓の超音波検査では心室壁の肥厚、心室内腔の拡張、心房の拡張、血液の乱流などが認められます。
甲状腺機能亢進症による高血圧は容量負荷によるため、肥大型心筋症(心筋の求心性肥大)とは異なり、心室内腔は拡張します。
内分泌学的検査
任意の時点で採血した血清総サイロキシン(T4)濃度が5.0 μg/dL 以上を示せば甲状腺機能亢進症と確定診断します。
健康な猫のT4 が4.0~4.9 μg/dL の範囲になることはしばしばあります。
4.0~4.9 μg/dL はグレーゾーンとし、明らかな臨床症状がない限りは治療を開始せず、必要があれば後日再検査します。
血漿遊離サイロキシン(fT4)はT4 と比較して日内変動が少ないという利点があります
fT4 検査を第一選択としており、2.0 ng/dL以上であれば甲状腺機能亢進症と確定診断します(1.5~2.0 ng/dL はグレーゾーン)。
猫の甲状腺機能亢進症の治療
抗甲状腺薬による内科的治療と外科的甲状腺摘除の二通りの方法があります。
腫大した甲状腺が触知できる場合には外科的治療が第一選択となります。
甲状腺腫が触知できないのは甲状腺腫が小さい場合、あるいは前縦隔洞などに迷入した場合です。
このような症例の手術は難しいが、試験的手術で頸部を精査する価値はあります。
猫の甲状腺癌のほとんどは被膜に包まれており、局所浸潤や遠隔転移をすることはまずないです。
手術後に局所で再発することもあまりないため、手術によって腫大した甲状腺を切除できれば、猫の寿命の範囲で完治が期待できます。
良性の甲状腺腫も同様であり、手術の良い適応症です。
また、結節性過形成のほうが、複数の甲状腺が腫大している可能性が高く、手術が煩雑になることが多いです。
猫の甲状腺腫または甲状腺癌の摘出術は手技として困難ではなく、麻酔・手術時間も短いため、術前に生検をして治療方針を立てることはしないです。
猫の甲状腺機能亢進症の内科療法
猫の甲状腺機能亢進症に対する内科療法には3つの意味があります。
- 甲状腺ホルモン分泌を正常化し、猫の一般状態を改善して麻酔や手術
のリスクを低減すること - 隠れている腎不全の有無を明らかにすること
- 長期維持治療として継続すること
また、症例の一般状態をよりよくするために、おもに心血管系に対する補助療法も行います。
猫では、両側の甲状腺摘出術後でも甲状腺ホルモン補充療法が必要となることはまれです。
術中・術後の上皮小体の障害による低カルシウム血症には十分な注意が必要です。
抗甲状腺薬の選択
猫に投与できる抗甲状腺薬として、国内では下記が入手できます。
- チアマゾール(thiamazole)
- プロピオチオウラシル(propylthiouracil)
- ヨウ素酸カリウム(potassium iodate)
- ヨウ化カリウム(potassium iodide)
このうち、1 ヶ月以上の維持治療に使用できるのはチアマゾールのみです。
プロピオチオウラシルは、後述するように重篤な副作用が多く、選択する意義がないです。
ヨウ素酸カリウムやヨウ化カリウムはいずれも有効な期間が限られるため、チアマゾール不耐性の猫に対する姑息的治療や、甲状腺摘出術の術前管理に用います。
チアマゾール療法
フェリマゾール猫用(Thiafeline)
有効成分のチアマゾールを含有する猫用の甲状腺機能亢進症治療薬です。
甲状腺ホルモンの過剰な合成を抑えて、甲状腺機能亢進症を治療します。
最初は、チアマゾールとして2.5mgを、1日1回、2週間経口投与します。
フェリマゾール猫用(Thiafeline)2.5mg
フェリマゾール猫用(Thiafeline)5.0mg
1箱120錠
価格 4,289円(2.5mg) 5,129円(5.0mg)
チロノーム経口液剤30ml(猫用) 【1本30ml】
Thyronorm(チロノーム)は、有効成分チアマゾールを含有した猫用の甲状腺機能亢進症治療薬です。
チアマゾールは、甲状腺ホルモンによる過剰な新陳代謝を抑えるお薬です。
甲状腺において、ホルモンの合成に必要な酵素を阻害して、甲状腺ホルモンの過剰な分泌を抑えます。
液体タイプの経口剤です。甲状腺機能亢進症の長期治療のほか、腫瘍摘出前の症状安定化にも使用されます。
1日2回経口投与してください。通常、1日5mg(1mL)から開始されます。
1日20mg(4mL)を越えて投与しないでください。
1本30ml
価格 3,176円
1) チアマゾールとメチマゾールの関係
チアマゾールは中外製薬から商品名メルカゾールとして発売されています。
日本国内やヨーロッパの一部ではチアマゾールと呼ばれ、米国ではメチマゾール(methimazole)と呼ばれ、さらに代表的な商品名からタパゾール(Tapazole)であることから、これらは全く同一の物質です。
2) チアマゾールの作用機序
チアマゾールはおもに甲状腺ペルオキシダーゼを阻害することで甲状腺ホルモンの合成を抑制します。
一方、すでに合成・貯蔵された甲状腺ホルモンの放出は抑制しません。
甲状腺機能亢進症の猫では、腫大した甲状腺に蓄えられたホルモンが枯渇するまでに時間がかかります。
一般的に、チアマゾールを投与開始してから臨床的な効果が認められるまでには1~3 週間を要します。
3) チアマゾールの適応
甲状腺機能亢進症と診断された猫では、外科手術の予定の有無にかかわらず、まずチアマゾールを投与します。
猫では、過去に本剤やプロピオチオウラシルに対する過敏症があった場合を除き、とくに禁忌はありません。
4) 初期治療
チアマゾールの錠剤(メルカゾール錠5mg)を用います。
体重2.0kg 未満まで削痩した猫では1.25 mg/head, BID
それ以外の猫では2.5mg/head, BID を開始量にします。
血清T4濃度が重度に上昇している症例で、かつ腎障害、腎不全の兆候が認められない場合は、チアマゾールとして5.0mgを、1日2回、経口投与で開始します。
嘔吐やストレスのために経口投与が難しければ、注射薬(メルカゾール注10mg として発売されている)を皮下投与します。
注射薬の投与量は経口薬と同じです。
チアマゾールの効果が認められるまでには1~3 週間を要しますので、以下の副作用を観察しながら投与を続けます。
同時に、後述するβ 遮断薬やステロイド剤による補助療法も開始します。
5) 副作用とモニタリング
チアマゾールの副作用は少なくないです。
投与された猫の20~30%では何らかの副作用のために投与中止します。
猫に現れやすい急性の副作用として、沈うつ、食欲不振、嘔吐、顔の痒みや皮膚炎が挙げられます。
さらに、顆粒球減少、血小板減少、ALT(GPT)の上昇がみられることがあります。
血液検査の異常は治療開始から1~3 週間後に現れやすいです。
このため、チアマゾール療法を開始した1~2週間後にT4、CBC、血小板、血液化学腎パラメータ、尿検査を行います。
モニターは、最初の3ヶ月間は2週間毎に行い、その後は3~6ヶ月毎に実施します。
臨床的な副作用が認められず、CBCおよび血小板に異常がなく血清T4濃度が2μg/dL以上であれば、用量をチアマゾールとして2.5mgを、1日2回へ増量して、2
週間後に同様の検査を行います。
用量は2週間毎に1日2.5mgずつ増量して、血清T4濃度が1~2μg/dLの間になるように調節します。
これらの副作用が無視できなければ、チアマゾールを中止して他の治療法に変更します。
一般に、チアマゾール不耐性の猫はプロピオチオウラシルでも同等以上の副作用を発現するので、プロピオチオウラシルへの変更は意味がありません。
6) 治療効果のモニタリング
治療効果のモニタリングにもっとも有用なのは体重測定です。
治療開始から3~4 週間で体重が増加し始めれば、治療は成功しています。
治療効果のモニタリングとしての血清サイロキシン(T4)測定は行いません。
猫がチアマゾール療法中に甲状腺機能低下症になりません。
体重の増加がみられなければ、チアマゾールの1 回投与量を倍増し、効果と副作用のモニタリングを続けます。
7) 腎不全の観察
甲状腺機能亢進症の猫では、腎血流量が増加して過灌流(hyperpurfusion)の状態になっています。
このため、腎機能が低下していても高窒素血症が現れにくく、腎不全がマスクされます。
チアマゾール投与によって甲状腺ホルモンが正常化すると、3~4 週間かけて腎血流量が正常化します。
この段階で高窒素血症が現れ、腎不全が顕在化することがあります。
腎不全が顕在化した猫では、食事療法をはじめとした腎不全の治療を開始します。
チアマゾールを減量して軽い甲状腺機能亢進症の状態を保つことで、見かけ上は高窒素血症を改善できますが、腎臓の過灌流は隠れた腎不全を進行させます。
もし、腎不全の兆候があるか疑わしい場合は、チアマゾールとして2.5mg(0.5錠)1日2回にします。
もし、尿毒症が認められ明確な腎不全が認められる場合は、チアマゾールとして1.25mg(0.25錠)を1日2回にします。
8) 長期治療
チアマゾール療法が成功し、甲状腺機能亢進症の症状が消失し、体重が正常化したらその後の長期治療選択を考えます。
国内では放射性ヨウ素治療が行えないため、チアマゾール療法を継続するか、外科的な甲状腺摘出術を選択するかの二者択一になる。
年齢、腎機能、心機能を総合して麻酔と手術が可能であると判断できれば、甲状腺摘出術が推奨されます。
外科手術が成功すれば無病期間が得られるからです。
外科手術が不可能であるか、あるいは同意が得られなければ、チアマゾール療法を継続して2~4 週間ごとに副作用のモニタリングを続けます。
2021.09.08 New!!
今までの投薬方法は飲み薬のみであり、投薬が難しい猫ちゃんには、継続して飲む必要のある甲状腺の薬は非常にストレスがありました。
今回耳に塗るタイプの薬が発売されました!
一度発症してしまうと完治することはないとされており、外科治療により根治の可能性は望めますが、病状によっては生涯に渡って付き合っていかなければならない病気となります。
その中でも内科治療において、日本ではメルカゾールという商品が主に使用されています。
しかし、体調が悪くなり薬を受け付けない(飲みたがらない)猫が多く、経口での投与が難しい場合もありますが、
耳(耳介)に塗布することで簡単に治療ができるスポットオンタイプ商品の取扱いがあります。
【稀少性】国内で未販売のため入手困難
【利便性】耳介に塗布するだけなので投薬しやすい
【効率性】投薬失敗によるロスがなく確実に投与できる
猫用の外用甲状腺機能亢進症治療薬です。有効成分としてメチマゾール(チアマゾール)を含有しています。
耳に塗るだけで効果が発揮される画期的な商品です。
メチマゾールの錠剤は分割すると苦みが出てしまい投薬を嫌がる猫が多かったことから開発され、海外では既に動物病院で処方され良好な成果が得られています。
1日1回、1回あたり本剤0.1mL(10mg)を目安に耳介内側に塗布する。
飼い主は付属の指サックを着用のうえ塗布してください。毎日塗布する場合は、交互の耳介に塗布してください。
チアマゾール以外の抗甲状腺薬
ヨウ素酸カリウム
過剰なヨウ素により、甲状腺へのヨウ素取り込みが一時的に抑制され、甲状腺ホルモン合成が停止します。
甲状腺機能亢進症に対してヨウ素酸カリウムが有効なのは1~3 週間程度です。
長期投与は無効であるばかりか、ヨウ素中毒の原因となるため禁忌です。
チアマゾール不耐性の猫の術前管理にしばしば用いられます。
ヨウ素酸カリウムの代わりに、ヨウ化カリウム同じ用量で使用しても同等の効果が得られます。
ヨード系造影剤
T4 からT3 への変換を阻害し、甲状腺ホルモンの合成もわずかに抑制するため、猫の甲状腺機能亢進症に応用されています。
治療効果は体重増加で判定します。
文献的な奏効率は60%程度です。
血清T4 をほとんど低下させないため、血清T4 が著しく高い猫には不向きです。
また、2~3 ヶ月程度で無効になるため、長期治療には使用できません。
副作用はほとんどない為、チアマゾール不耐性の猫で、甲状腺摘出術の術前管理に有用です。
補助療法
抗甲状腺薬と併用して以下の補助療法を行うと、猫の全身状態を改善しやすくなります。
とくに、チアマゾールが効果を発揮するまでの初期治療中、チアマゾール不耐性の猫の術前管理には、これらの補助療法が有用です。
1) β 遮断薬
甲状腺ホルモンは交感神経を刺激します。
甲状腺機能亢進症の猫でみられる高血圧、頻脈、興奮は甲状腺ホルモンそのものの作用ではなく、交感神経刺激を介します。
したがって、この交感神経刺激を抑制するβ 遮断薬は、血圧、脈拍、興奮性を正常化させます。
甲状腺機能亢進症の猫に実績のあるβ 遮断薬はアテノロール(テノーミン:アストラゼネカ)です。
チアマゾール甲状腺機能亢進症の治療によって血行動態が大きく変化するので、数日ごとに血圧を測定して投薬量を調節します。
2) グルココルチコイド
グルココルチコイドは甲状腺のT4 分泌を抑制し、末梢での甲状腺ホルモン作用を阻害します。
グルココルチコイドによっていわゆるeuthyroidsick syndrome 状態を誘導し、甲状腺機能亢進症の症状を軽減できます。
高血糖、感染症、腎不全などの問題がなければ、プレドニゾロンを0.5 mg/kg, BID で投与します。
チアマゾールなど抗甲状腺薬の効果が現れれば、グルココルチコイドは中止します。
3) 総合ビタミン剤
甲状腺機能亢進症は消耗性疾患です。
治療初期の補助療法として、ビタミンB 群やビタミンCなどの水溶性ビタミン剤を与えます。
猫の甲状腺機能亢進症の外科手術
上記のような内科療法によってホルモン異常が是正され、猫の心血管系症状が改善され、腎不全が顕在化しなければ外科的甲状腺摘出術のチャンスです。
内科療法によって猫の体重が増えはじめたら手術を考えます。
片側の甲状腺を摘出する場合
- 術後の低カルシウム血症はほとんど問題にならないです。
- 手術翌日(退院前)と1 週間後(抜糸時)に、他の検査のついでに血清カルシウムを測定
両側の甲状腺を摘出した場合
- 術後1 週間、できれば毎日血清カルシウムを測定
- 術後の線維化や血流障害によって副甲状腺機能低下症になることがある
- 1 週間問題なければ、その後に問題がおきることはあまりないです
- 低カルシウム血症になったら、自然発症の副甲状腺機能低下症と同様にカルシウム・活性型ビタミンD 療法を開始する。
猫が甲状腺摘出後に甲状腺機能低下症になることもほとんどないです。
もし肥満、元気消失、被毛粗剛、脂漏症、低体温など甲状腺機能低下症の症状が現れたら、レボチロキシンナトリウム(チラーヂンS)の補充療法を開始します。
チロキシン(Thyroxine)0.4mg犬猫用 【1本100錠】
チロキシン(Thyroxine)0.4mg犬猫用は、有効成分のチロキシンを含有した甲状腺ホルモン製剤です。
犬・猫の粘液水腫やクレチン病、ホルモン補充療法に用いられます。
1本100錠
価格2,543円
治療に成功した症例では、1~2 ヶ月以内に体重減少、表情や行動の改善、発毛や毛質の改善が認められます。
充分な治療効果が得られた後は、1日1 回投与で維持します。
甲状腺機能低下症の是正によって代謝に変化がおきるので、投薬量は治療開始から4 週間後に血清T4 濃度を計測します。
レボチロキシン1 日2 回投与を行っている場合、服用4~6 時間後に血清T4 値が4~5 μg/dL の範囲にあれば良好です。
6μg/dL を超えている場合にはレボチロキシンを減量します。
猫の甲状腺機能亢進症の予後
猫の甲状腺機能亢進症そのものの治療は難しくないですが、患者が高齢であるため、予後は併発疾患によって大きく左右されます。
慢性腎不全が併発している場合、甲状腺機能亢進症を治療することで腎血流が減少し、高窒素血症が悪化することが多いです。
このような場合には慢性腎不全に対する維持治療をしっかりと行います。
多飲多尿の判断とは?
1日に体重 × 50mL以上の水を飲む場合は注意が必要です。
個体差もありますので、個人的には60ml/kg/day(1日1kgあたり)までは許容範囲な感じがします。
では具体的にどれくらいの量を飲むと、異常なのでしょうか?
確実に病的な多飲としては体重 × 100 ml以上の水を飲む場合、水の飲み過ぎと判断して良いでしょう。
例えば、体重5kgであれば、5×100 = 500mL以上飲むと異常ということになります。
しかし、上記は目安なので、1日に体重1kgあたり80mlであっても、徐々に増加しているのであれば注意が必要です。
飲水量の計測
上記の体重×50mLという値は飲水 + 食事の合計量です。
5kgの犬猫のドライフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
ドライフード
ドライフードの場合は5kg × 50 = 250mL以上で水の飲み過ぎです。
ウェットフード
ウェットフードを与えている場合は、フードに含まれる水分も考慮しなくてはいけません。
5kgの犬猫が1日200gのウェットフードの場合
必要な飲水量は1日で5kg×50mL=250ml
多くのウェットフードに含まれる水分量はおよそ75%です。
つまり、200g × 0.75 = 150 mLの水分を食事から取っていることになります。
ウェットフードの場合は250mL – 150mL = 100mL以上で水の飲み過ぎということになります。
飲水量の測り方
置き水は飲む以外にも蒸発して減っていきます。
正確に飲水量を測る場合は、蒸発量を考慮に入れた以下の方法で測ると良いです。
通常の水入れの場合
- 同じ形の水入れを2つ用意する
- どちらにも同じ量の水を入れる
- 1つは普段通り自由に飲める場所に置く(A)
- もう1つは隣に飲めないようにして置く(B)
- Bの残りの水の量 – Aの残りの水の量 = 飲んだ水の量
これで正確な飲水量を測ることができます。
ペットボトルに入れるタイプで給水
この場合は、あらかじめ入れる量を計算すれば、蒸発を考える必要はありません。
もちろん体重 × 50 mlを超えていないかをチェックするのも大事ですが、水の飲む量には個体差があります。
1番大事なのは変化(増加傾向、減少傾向)です。
日頃から飲水量を測定しておき、増加していないかどうかチェックするのが良いでしょう。
排尿量の測り方
水を多く飲むということは、「尿の量が増えて喉が渇く」ということです。
多飲:多く水を飲むということは体が水を欲している脱水状態であり、必ず排尿量も増えます。
飲水量以上に排尿すると脱水になりますし、飲水量よりも排尿量が少ないとむくんでしまいます。
なんだか最近水を多く飲むようになったなあと思ったら、飲水量を測ると同時におしっこも確認して見ましょう。
- 量や回数が増えていないか?
- おしっこの色が薄くなっていないか?
また、自宅で簡単に尿検査ができるペーパースティックを使用して、血統、鮮血、pHを測定することも大事です。
ペットシーツを使用している場合、ペットシーツの重さを測ることで尿量を測定することができます。
勝手に飲水量を制限してはいけません
飼い主さんの中には、水を飲み過ぎていると、心配になって飲水を制限してしまう方がいらっしゃいます。
しかしこれはやってはいけません!
なぜなら、水を飲むということはすでに脱水状態にあるため、脱水状態が悪化してしまうから。
水を飲み過ぎてしまう場合は、水を制限せずに早めに動物病院を受診しましょう