犬の赤ちゃん・子犬の画像診断:レントゲン検査:胸部・腹部X線検査、超音波検査
X線検査
新生子および若犬はX線学的に難しい対象です。
技術的に完全な撮影も、その解釈も難しいです。
- 撮影操作時、子犬はしばしば成犬以上に大騒ぎし、じっとしない傾向があります。
- 子犬にとっては検査のためにしっかり保定されることが非常に大きなストレスとなります。
- 飼い主でもなだめることはできず、この週齢・月齢では命令に従うこともできないです。
多くの場合、個体はたいへん小さいため、通常は撮影台上での保定がなされます。
病犬の正しいポジショニングとフィルムの適正な露光は、正しい診断のために必須です。
技術的に質の悪いX線画像は誤った解釈および誤診に直結します。
これは獣医師にとって、子犬のX線画像の撮影と解釈には、通常の場合よりも多くの時間と忍耐が要求されることを意味しています。
対象部位への正確な照射は、散乱線を減らし、X線画像の質を向上させ、検査者の被曝を軽減します。
通常、子犬の場合、X線撮影時の麻酔はしない方がよいです。
しかし、極端に落ち着きがなく、子犬自身が怪我をしたり検査者が過剰被曝するようなおそれがある場合、
少なくとも鎮静剤を使うか、麻酔をするかしなければなりません。
撮影する部位によっても、これと同じことがいえます。
たとえば、頭部や背骨、造影検査などの場合です。
6週齢以下の子犬の場合、麻酔マスクによるイソフルラン吸入(導入に3vol%、維持に0.8~1.5vol%)で動かなくなります。
胸部X線
胸部X線は少なくとも2方向から、特に以下の疑いがある場合に撮影します。
- 外傷(例:肺出血、無気肺、気胸、肋骨骨折など)
- 炎症(例:気管支肺炎など)
- 先天異常(例:動脈管開存、腹映心膜ヘルニアなど)
撮影されたX線画像は、ただ単に成犬を小さくしただけの画像として解釈してはならず、その独自特徴を知っておかねばなりません。
2週齢以下の子犬の場合、肺胞の面積は成犬の三分の一です。
したがって、分単位容積を高めるため、呼吸頻度が高いです。
この高い呼吸頻度は、大きくかつ速い胸郭の運動を伴うので、最良の胸部画像を得るための吸気の充満時をとらえるのが難しいです。
たいへん幼い子犬のX線画像は、明らかにこの呼吸運動のせいで、いくらか不鮮明になってしまう場合が少なくないです。
子犬の胸部の撮影は、肺内部の空気量が比較的少ないため、一般に成犬よりも間質の密度が高いです。
これを誤って疾病の徴候と解釈してはならないです。
他方、ウイルス感染も間質の密度の高さとして現れる場合があるので、これも考慮します。
頭側の縦隔は、子犬の場合、より厚く、軟部の密度が高くみえます。
胸腺は、背腹(腹背)方向の撮影で三角形の軟部の密な影(帆のような形状)となって、頭側左半胸郭に現れる場合が少なくないです。
肺胞容積が小さいため、胸部において心臓はより大きくみえます。
週齢が進むにしたがって、胸郭の大きさに対する心臓の大きさの比率は正常化します。
経験不足の放射線医の場合、過剰解釈してしまうことも少なくないです。
胸部撮影画像を先天性疾患の検査のために行う際は、まず肺の血管に注意しなくてはならないです。
動脈と静脈を比較すると、
- 静脈が拡大している場合(静脈うっ血)
- 双方が細い場合(肺循環不足)
- 双方が太すぎる場合(肺循環過剰)
などがみられます。
続いて、心室の大きさの変化に注意します。
腹部X線
2方向からの腹部X線画像は、子犬の場合、特に、
- 外傷(例:体液の流出に注意する)
- 炎症(例:胃腸炎)
- 腸閉塞(例:異物や腸重積による)
の場合に行います。
子犬の正しい腹部X線画像撮影のためのポジショニングは成犬の場合と同じです。
- 側方X線画像の場合、頭側の境界は最後部肋骨の背側と胸骨剣状突起の間です。
- 尾側の境界は坐骨突起までを撮影します。
- 2つ目の撮影は、腹背方向の撮影です。
- 腹腔の拡大が最大になったところを撮影するため、撮影は呼気の間に行います。
腹部直径が10cm以下の場合、撮影台上での保定を選択します。
子犬の腹部X線の診断における最大の問題は、細部の識別可能性の低さです。
細部の不鮮明は、主に以下の原因によります。
- 腹腔内脂肪の欠如
- 存在する腹腔液の増加程度の低さ
- 比較的高い体内含水率(成犬の60%に対して子犬は80%)
すなわち、腹腔内の個々の器官の大きさ、形状、位置などの判定は、明らかに困難であり、場合によっては不可能です。
非常に若い子犬においては、比較的少量の腹腔液の検証はX線画像では不可能な場合もあります。
胃腸領域においては、ガスあるいはX線に濃く写る摂取物により、診断が容易になります。
X線に濃く写る異物と完全な腸閉塞は、拡張子、ガスに満たされた長官ループによって識別可能です。
肝臓は幼若犬の場合、成犬よりもはっきりと大きいです。
肝臓重量の体重に対する比率は、週齢が進むと減少します(幼若犬では体重1kgあたり40~50g、成犬では20g)。
肋骨の石灰化がまだ進んでいないため、肝臓は助骨全体よりも大きくみえます。
細部の識別可能性は低いものの、肝臓の大きさは胃の位置に基づいて推定することができます。
- 幽門が尾背側に移動している場合、肝臓は肥大しています。
- 幽門が頭側に押しやられている場合、肝臓は小さすぎます(例:門脈シャント)。
腹部の細部識別可能性の低さゆえ、胃腸や泌尿器系(膀胱や尿道)の検査には、造影剤を使用する必要があります。
これには主に硫酸バリウムが使用されます。
しかし、超音波検査によって、X線造影剤の使用は限定的なものとなっています。
病犬にとって、排泄性尿路撮影、門脈撮影、心血管撮影の際の造影剤の静脈および動脈への投与が危険でなくなるのは、ようやく6週齢前後からです。
しかし、腎機能が完成しきっておらず、水分を保留する能力をまだ持たないため、この技術はどうしても必要な場合にのみ利用すべきです。
子犬には静脈内検査にも動脈内検査にも、非イオン造影剤の方が安全です。
骨部X線
X線画像がもっとも頻繁に用いられるのは、前肢または後肢です(外傷、または炎症の疑いのある場合。)。
子犬は、
- 一般に骨化の程度が低く
- 骨端線が開いており
- 関節軟骨が厚く
- 独自の骨化核(たとえば肘突起、脛骨粗面)
を持ちます。
誤った解釈を避けるために、これらの特徴をすべて考慮に入れます。
60日齢未満の子犬の骨は、まだ薄層構造を持たず、起伏を示します。
広い末端の骨幹端は直径部の減少して行く領域を伴っていますが、これが管状の骨を形成します。
表面はたいへん粗く、不規則です。
閉鎖前の骨端軟骨はX線画像では透視され、骨幹端と骨端の間の、たいへん幅の広い縁として認識されます。
これは、骨折線や関節として誤認されます。
関節は幼若犬の場合、軟骨部の割合が際立って高いため、たいへん幅が広いです。
軟骨部は、X線画像では、関節液および関節包と同じ濃度で写ります。
子犬の場合、四肢の外傷や感染は非常に頻繁に生じるので、特に軟部腫脹には注意します。
これは、しばしば骨部領域における損傷(たとえば軟骨損傷、骨髄炎、敗血性骨関節炎など。)の唯一の手がかりとなります。
必要があれば、軽度の異常を発見するために、健康な側との比較が役立ちます。
専門の文献には、第二次骨形成中心現象の週齢、骨端線の閉鎖する週齢を調べるための表が掲載されています。
超音波検査
超音波検査はもっとも重要な画像診断法のひとつです。
しかも、ある程度の条件に配慮すれば、新生子犬や子犬が怯えることもほとんどなく、それゆえ我慢がききます。
携帯用の超音波検査器なら、必要であれば家庭での検査も可能です。
すなわち「お産箱」の中でも検査できます。
技術的前提
今日獣医療で広く用いられているさまざまな超音波検査法の中でも、
ほとんどの場合、二次元超音波検査によって、診断を下したり、または臨床上の疑い症例を確定診新することが十分可能です。
循環器に関して特に疑いがある場合は、カラードップラー法またはパルスドップラー法で解明することができます。
さらに、カラー二重描出法は、エコーに乏しいまたはエコーのない構造物と血管とを素早く確実に区別することで、
超音波検査を容易にし、その時間を短縮してくれます。
子犬の先天性心疾患を検査するには、
- 一次元心エコー
- 二次元心エコー画像
- カラードップラー
- パルスドップラー
- 連続波ドップラー
と組み合わせます。
新生子および子犬の体は小さいため、周波数は7.5MHzか、それ以上が推奨されます。
これくらいの高周波数にしないと、小さな構造の判断に十分な広がりのある画像が得られません。
超音波探触子の皮膚への接着面が小さいことと同様、超音波探触子の近接部の詳細認識性が高いことが望ましいが、構造的にいってこの二点は矛盾するので、妥協が必要です。
最高の描出画像が得られるのは、比較的大きなリニア探触子です。
子犬の腹部、頸部、および四肢の超音波検査には、主に、リニアコンベックス、マイクロコンベックスの探触子が用いられます。
心エコー検査には、電子走査式のフェイズドアレイ探触子か、機械走査式のセクター探触子が最適です。
いくつかの技術的・方法的条件を考慮すれば、犬の新生子および子犬の超音波検査は、ほとんどの器官系が描出できる、
有用で示唆に富む臨床検査手法であるといえます。
後天性の疾患のほか、先天性疾患も発見できます。
しかし、多くの先天性疾患は、生後数週間は全身の健康状態に著しい障害をもたらさず明らかな所見が認められないため、
ようやく8週齢以降になって心エコー検査や超音波検査によって診断されます。
これは主に、費用の面を考慮して、明白な臨床症状が出て初めて超音波検査にかけるのが通例だからです。
検査手技
超音波検査を成功させるには、十分な検査時間が必要です。
その間、病犬はなるべくおとなしく、辛抱強くしていなくてはいけません。
子犬に超音波検査を我慢してもらうためには、新生子および子犬に特有の生理に配慮した、いくつかの予防策が必要です。
前提として、鎮静剤や麻酔剤は一般に用いてはなりません。
新生子や子犬は体表面が広く、皮下脂肪がわずかです。
それに加えて、末梢神経による血管収縮反応がほとんど生じず、反射性の震えも欠いているため、超音波検査中は体温の維持に重点をおく必要があります。
子犬が、たとえば冷却効果のある湿った検査用ジェルの塗布などによる過冷却に対して、落ち着きのない反応をし、
超音波検査を著しく困難にしてしまうことからも、この点は重要です。
3週齢以内の子犬は、検査の間、電気式のホットクッションの上に置き、さらに必要があれば熱源として赤外線ランプを使用します。
検査部位の剃毛は子犬の場合は基本的に行いません。
検査用ジェルは温めて使用します。
子犬が4週齢以上の場合は、体温調整能力が十分に発達しているので、ホットクッション、赤外線ランプ、検査用ジェルの加温などは必要ないです。
子犬によっては、若年や成犬の場合も同様ですが、検査用ジェルの塗布後、検査の際、タオルで覆ってやるとより落ち着きます。
特に新生子や1週齢以内の子犬であれば、満腹のほうがおとなしくしているため、成犬の超音波検査の場合とは逆に検査の前に乳哺乳は給餌を行うべきです。
胃の内容物はほとんど検査に差し支えないです。
3週齢以降の子犬は、それ以前の子犬に比べて敏捷で落ち着きがないです。
検査の前に、遊びのような形で運動させておくと、犬は疲れ、超音波検査時の扱いが容易になります。
この大勢、およびゆるやかな保定は、ほとんどの場合病犬をリラックスさせるのに役立ち、
そうすることで、場合によっては長時間にわたる検査を容易にします。
- 2週齢以内の子犬の場合、約30分間検査できます。
- それ以上の週齢の子犬の場合、約60分間の検査が可能です。
この検査時間の間に睡眠期と覚醒期が交互に現われるが、平穏期が優勢です。
この平穏期にのみ、超音波検査は成功します。
描出性の高い超音波画像を得るために、一般的な基本操作に注意します。
腹部器官の超音波検査
腹部器官の超音波検査は、成犬の検査時と同様、十分な範囲の器官を考慮に入れつつ、問題となる部分に焦点を絞ります。
すべての器官および関心対象の構造は、一般には直行する二断面において子細に調べます。
1. 完全な腹部超音波検査は膀胱の矢状面および横断面の抽出から始めます。
2. 腎臓は多数の縦・横の画像で確認できます。特に新生子と1週齢以内の子犬の場合、腎臓の現れ方はさまざまです。
典型的には腎臓は大きく、エコーに乏しいまたはエコーフリーの大きな髄質を伴って現れますが、髄質が比較的小さくエコーに富む場合もあります。
3. 脾臓は目立たず、成犬よりも小さいです。
脾臓は成犬よりも不均質に現れ、一様に小さなエコーに乏しい領域が混じっています。
4. 肝臓は比較的大きく、生後1週間は尾側に肋骨弓を超えてはみ出しています。
その実質は均質で、血管、特に門脈と肝静脈の分枝は大きくはっきりと現れる。
子犬の胃と腸の超音波画像は成犬のそれに対応しています。
厚くなった腸壁、エコーに富む腸粘膜、増加した液状の内容物、蠕動過多は、腸の炎症を示唆します。
腹腔リンパ節は特に隣接する小腸断面や血管との比較において、相対的に大きく現れます。
頭部の超音波検査
人の新生児と違って、犬のほとんどの新生子の場合には、泉門はすでに閉じられており、骨化しています。
ただし、トイ犬種は例外で、1歳でも軟骨状の泉門が確認される場合があります。
四肢の超音波
四肢の超音波検査で目につくのは、子犬にはまだ存在している幅の広い軟骨状の骨端間隙です。
これらは、エコーに富む骨の境界面の間に、エコーフリーの構造として現れます。
心臓の超音波検査
心臓の経皮超音波検査は、Thomasら(1993)、および米国心エコー学会(www.asecho.org/guidelines.php)によれば、
助骨下の傍胸骨右側および左側から、基準断面において行われます。