【獣医師解説】妊娠中の母犬の適切な食事、栄養管理:必要な栄養・エネルギー・カロリー・ミネラル・ビタミン

    妊娠中の母犬への栄養供給

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    繁殖期の栄養供給のゴールは、同腹子の数、母犬の妊娠維持能、分娩時の子犬の生存能を最善の状態にすることです。
    • 適切な栄養供給は繁殖成功率を高めます。
    • 反対に、給餌不足は繁殖能力を損なう可能性があります。

    妊娠初期においては、胚は子宮内の栄養に富む胚胎栄養液中に、初めのうちは自由に浮かんでいます。

    子宮壁への着床後にようやく、胎盤の血管を経由しての栄養供給が始まります。

    そのため妊娠初期の数週間は食餌内容の変更を避け、衛生的品質に特別な注意を払います。

     

    エネルギー要求量

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    雌犬のエネルギーおよび栄養素の要求量は妊娠初期の4週間は、通常の維持要求量と比べて変化はないです。

    ようやく妊娠第5週頃から、胎子の明確な成長により、要求が増大します。

    その結果、食餌の質だけでなく、与える量にも注意が必要になります。

     

    妊娠中および授乳期の母犬に推奨される1日あたりのエネルギーとタンパク質供給量(体重1kgあたり)

    母犬の体重妊娠中1)授乳期2)
    同腹子3以下同腹子4~6頭同腹子7頭以上
    体重(Kg)代謝可能エネルギー(MJ)可消化粗タンパク質(g)3)代謝可能エネルギー(MJ)可消化粗タンパク質(g)3)代謝可能エネルギー(MJ)可消化粗タンパク質(g)3)代謝可能エネルギー(MJ)可消化粗タンパク質(g)3)
    50.484.60.565.80.88.80.9210.0
    100.414.10.525.40.778.40.879.7
    200.373.70.475.00.738.00.839.2
    350.343.40.444.70.697.40.799.2
    600.313.10.414.40.677.50.778.7
    1. 1)妊娠5週目降
    2. 2)投乳開始1ヵ月目は維持要求量が高まっている。代謝可能エネルギー0.58MJ/kg BWを考慮する。
    3. 3)想定活用率70%

     

    分娩までに母犬は体重が20%増加します。

    これは、

    • 胚の成長
    • 胎水
    • 胎膜による増加分
    • 母犬自身の身体による貯蔵分

    からなります。

    この貯蔵分は分娩後に動員され、十分な泌乳のための土台となります。

    分娩障害(狭い産道、陣痛微弱)を防止するため、過剰な体重増(肥満)は望ましくないです。

    妊娠40日目から胎子の急激な成長が始まります。

    その結果、エネルギー要求量が著しく高まります。

    通常の維持量に比べて、同腹子数が少ない場合は約30%、同腹子数が多い場合には約50%、エネルギー要求が増加します。

    これを満たすために、エネルギー密度の高い食餌(乾燥重量100gあたり代謝可能エネルギー1.7MJ以上)が推奨されます。

    妊娠期最後の三分の一の期間にエネルギー摂取が不十分であると、グリコーゲンがわずかしか貯蔵できないため、子犬の体重不足や新生子の活力不足が生じます。

    エネルギーの絶対量のほか、エネルギー源も考慮しなければなりません。

    • 脂肪含有量が高ければ、一定量あたりのエネルギー密度は上がります。
    • さらに、食餌中のエネルギーの少なくとも20%は炭水化物由来でなくてはなりません。

    胎子には第一にグルコースで供給されるからです。

    炭水化物含有量が比較的少ない場合は、タンパク質の量を増やす必要があります。

    それにより、糖新生の経路で十分なグルコースが供給されます。

    これは特に自家製フードの場合に注意しなければいけません。

     

     

    栄養素の要求量

    妊娠中はエネルギー以上に栄養素の要求最が高まります。

    その結果、食餌中におけるエネルギー含有量に対する栄養素の比率も変化します。

    タンパク質要求量は小型犬種の場合で約40%、大型犬種の場合で約70%増加します。

    食餌中の推奨されるタンパク質/エネルギー比は、代謝可能エネルギー1MJに対し、可消化粗タンパク質約10gです。

    同様に、タンパク質の品質についても、必須アミノ酸の十分な供給が伴うよう注意します。

    タンパク質供給が十分でないと、子犬の生時体重が小さくなったり、免疫能が低くなったりします。

    植物由来のタンパク質のみを与えることは不適当です。

     

    ミネラル要求量

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    カルシウムとリンの要求量は胎子の骨のミネラル化によって、妊娠最後の35日間は維持量の約2倍となります。

    カルシウム/リン比は1.3:1から、2:1にします。

    給与量が不足しても、通常、母犬の体内貯蔵が動員され不足を補うため、胎子の発育上の支障はまったくないか、あってもわずかです。

    • しかし分娩経過および泌乳能力に悪影響を及ぼします。
    • 過剰なカルシウム補給も同様に避ける必要があります。
    • カルシウム代謝調節機構に障害をきたし、子癇が生じやすくなる場合があります。

     

    妊娠中および授乳期の母犬の1日あたりのカルシウムとリンの推奨量(mg/kg BW)

    ミネラル妊娠中1)授乳期
    同腹子3頭以下同腹子4~6頭同腹子7頭以上
    カルシウム165250425495
    リン120175290335
    1. 1)妊娠30日目以降

     

    微量元素とビタミン要求量

    微量元素とビタミンの要求量も同様に、妊娠中に増加します。

    鉄は胎子の貯蔵器官(肝臓)および鉄に富んだ初乳形成のために必要です。

    鉄要求量は妊娠中よりも授乳期のほうが大きいです。

    胎子の発育のために、特に微量元素であるヨウ素とセレンの十分な供給が重要です。

    ビタミンA、D、Eも同様です。

    ヨウ素欠乏は甲状原腫をもたらし、セレン欠乏は筋衰弱をもたらします。

    初乳および乳汁におけるこれらの微量元素とビタミンの含有量は、母犬の食餌に影響されます。

    したがって、食餌中の含有量が不十分な場合、出生後の子犬への供給は不完全となります。

    これらのビタミンは胎子に貯蔵されていないため、初乳および乳汁経由での十分な摂取が不可欠です。

    食餌が母犬の繁殖能力および健康に及ぼす影響について概要を示します。

     

    妊娠中および授乳期の母犬の1日あたりの微量元素の推奨量(体重1kgあたり)

    微量元素妊娠中1)授乳期
    鉄(mg)6.82.4
    銅(mg)0.160.67
    亜鉛(mg)2.45.4
    ヨウ素(μg)5050
    セレン(μg)55
    1. 1)妊娠期後半

     

     

    不十分な栄養摂取が母犬の繁殖能力および健康に対して及ぼしうる影響

    要因結果
    栄養不足(エネルギー不足)●同腹子数の減少

    ●生時体重の低下

    ●泌乳の減少

    ●新生子死亡率の上昇

    ●予防接種に対する免疫応答が弱い

    ●のちになって現れる母犬の受胎率の低下

    ●母犬の脱毛および体重減少

    肥満(エネルギー過剰)●排卵障害

    ●受胎率の低下

    ●無発情期の延長

    ●同腹子数の減少

    栄養過誤(タンパク質不足)●生時体重の低下

    ●新生子死亡率の上昇

    ●予防接種に対する免疫応答が弱い

    炭水化物を欠く食餌●生時体重の低下

    ●新生子死亡率の上昇

    ●流産率の上昇

    亜鉛欠乏●胎子吸収

    ●同腹子数の減少

    鉄欠乏●予防接種に対する免疫応答が弱い
    ビタミンA過剰症●先天異常

    ●同腹子数の減少

    ビタミンD過剰症●結合組織の石灰化

     

    適切な食餌

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    実際には、妊娠中の母犬には、高い消化吸収率(85%以上)を持つ市販フードを与えるのがもっとも簡単です。

    こういった食餌は通常、多量および微量元素やビタミンを、十分、あるいはそれ以上に含有しており、ほとんどの場合適切な供給が保証されます。

    ドッグフードに加えて、ミネラルおよびビタミンを強化した栄養補助食品を与えることは、
    内分泌制御系に支障をきたしうるため、意味がないどころか有害です
    (例:授乳期のカルシウム代謝調節。余分なカルシウム給与により亜鉛の働きを妨げます)。

     

    同腹子数が少ない場合、妊娠中の要求量の増加分を少なく見積もるよりは、むしろ過大に見積もっていることが多いです。

    栄養状態を定期的に検査し、時には食餌の量を調整することが大切です。

    自家配合した食餌を与えることも可能です。

    食餌の配合についての詳しい情報、給与量の指標、市販フードの適正検査などについては、下記の記事も参考にしてください。

    給餌量は妊娠期間後半に増やします。

    場合によっては、給餌回数を2回以上に増やしてもよいです。

    食餌の変更は、分娩後では負担になる場合があるため妊娠中期に行っておくことが推奨されます。

    それによってエネルギーと栄養素に富む食餌を授乳期も続けて与えることができます。

    妊娠最終週にはほとんどの場合、母犬の食餌摂取量は減少します。

    妊娠最後の数日間に腸機能の低下および便秘がみられる際には、便通を促す食材を補ってもよいです。

    たとえば、レバー、牛乳、または少量の小麦ふすまを用います。

     

     

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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