犬の赤ちゃん・子犬の投薬方法、安全な薬、輸液脱水、麻酔、下痢、強制給餌
この記事の目次
投薬法
経口
ただし、嚥下の際に吸引性肺炎の危険性があります。
特に子犬の場合は、まだ吸飲および嚥下反射が弱いので、この危険性が高まります。
薬剤の一部が吐き出されてしまうと、治療のための強力な効果が得られません。
さらに、胃内および腸内環境の特殊性によって、吸収が強められたり弱められたりします。
また、胃の中の母乳が一連の薬剤と反応を起こすこともあります。
筋肉内
筋肉が小さいため、薬剤の量がわずかであっても、特に刺激性の薬剤の場合、組織の損傷や壊死に至ることがあります。
2週齢からは筋肉への薬剤投与も少地であれば問題ないです。
低体温や脱水症状のある子犬の場合、吸収が遅れる恐れがある。
準備として、皮膚を70%アルコール液で清拭し消毒します。
適した部位は四頭筋と上腕三頭筋です。
皮下
体脂肪が少ないので、誤って皮下脂肪集積部に注射してしまう危険性がないです。
注射膿瘍は簡単に手当てできます。
筋肉注射の場合と同様、低体温や脱水症の子犬の吸収は遅れます。
静脈内
犬では頸静脈のみが注射に適しています。
しかし、この経路は、小型犬や脱水症状をおこしている犬ではみつけにくいです。
通常は、静脈上の被毛を取り除くと見通しがよくなります。
週齢の進んだ子犬では、前腕橈側皮静脈も使用できます。
注射や輸液が繰り返し必要になることが見込まれる場合は、早めに静脈留置針を刺入します。
- 輸液には23~25ゲージの静脈留置カテーテルが適しています。
- この場合、穿刺部位の被毛は必ず取り除きます。
- 注射部位は70%アルコール液で丁寧に清拭し消毒します。
- 少しでも動くと、血管壁穿孔や傍静脈注射につながるため、病犬をしっかりと保定することが重要です。
また、薬剤をゆっくり投与することも大切です。
腹腔内
したがってこの投与法は、静脈投与のできない新生子の場合に、非常に有効です。
- 子犬は仰向けにして、いくらか頭側が低くなるように支えます。
- 腸全体を少し頭側に動かすためです。
- 皮膚は最後部乳頭対の間の傍正中を70%アルコール液で清拭し消毒します。
- 腹壁はごく薄いため、カテーテルはほんの少しだけ刺し込みます。
- 膀胱に刺さっていないかどうかは、慎重な吸引によって確認できます。
- 注射内容はゆっくりと投与します。
これは体温と同温にしておきます。
骨内
骨はまだ比較的軟らかいので専用のカテーテルは必要ないです。
技術的に最も容易なのは、大腿骨への投与です。
- これを行うには、大転子をみつけ、注射部位を消毒して準備します。
- 静脈留置カテーテル(18~19ゲージ)を、転子窩へ骨の長柚方向と平行に挿入します。
- 注入速度は静脈投与の場合と同じです。
- 骨内への輸血も可能です。
注射または輸液には、どの骨も一度のみしか使用してはいけません。
吸入
発熱時には、粘膜はすぐに乾燥してしまうので、体温が高い間は、1日2回のエアゾール吸入も同様に有効です。
平均2μm以下の微小摘しか気道には到達しないので、これに応じた性能の蒸化器が必要です。
噴霧には水ではなく、0.45%食塩液を用います。
肺疾患の場合、特に吸引性肺炎の場合には、少なくとも1日3回、3日以上、10%アセチルシステイン液の吸入と交互に行います。
アセチルシステインは、粘液溶解性物質として作用し、酸化防止効果を持ちます。
胎子および子犬への薬剤の間接的作用
吸入麻酔剤や、ステロイド系麻酔剤、局所麻静剤、モルヒネ系鎮痛剤などがこれに属します。
この点は、手術分娩時の母犬の陣痛や、鎮静、麻酔などの際に考慮します。
帝王切開術では、子犬たちの娩出は計画的かつ迅速な処置によってなるべく短時間に行い、
子犬たちが摘出されたあと、薬剤の呼吸抑制および循環抑制の効果を相殺するために、拮抗剤を用います。
多くの薬剤は、犬の胎子毒性についてはこれまでのところ試験されていません。
したがって、妊娠犬にこれらの薬剤を用いることは、一定の危険性が伴います。
授乳期の母犬に脂溶性の薬剤を与えると、乳汁経由で子犬に摂取されます。
現在の知識に照らして、妊娠中の母犬に問題なく使用できる薬剤
アモキシシリン |
アモキシシリン/クラブラン酸 |
アンピシリン |
セファロスポリン |
クリンダマイシン |
クロキサシリン |
フェンベンダゾール(妊娠40日目から) |
局所麻酔剤の局所使用 |
オキサシリン |
パラセタモール |
ペニシリン |
プラジカンテル |
ピランテル |
チロキシン |
妊娠中の母犬に使用してはならない薬剤
アドレナリン作動薬(妊娠期最後の三分の一の期間は使用しない) |
アミノグリコシド系抗生物質(ゲンタマイシンなど) |
クロラムフェニコール |
ジアゼパム |
グルココルチコイド |
グリセオフルビン |
ジャイレース(酵素gyrase)阻害剤(エンロフロキサシンなど) |
吸入麻酔剤 |
カルシウム拮抗剤(妊娠期最後の三分の一の期間は使用しない) |
有機リン類(妊娠期最後の三分の一の期間は使用しない) |
オクスフェンダゾール |
フェニルブタゾン(妊娠期最後の三分の一の期間は使用しない) |
テトラサイクリン |
キシラジンおよびその他のα2受容体作動薬 |
子犬への投薬の原則
12週齢まではこれに注意する必要があります。
特に重要なのは生後3週間です。
この期間はなるべく薬剤の投与を避けるべきです。
それに加えて、多くの薬剤は、新生子への使用に関して試験されていません。
推奨されている使用法は、多くの場合、経験に基づくものであって、科学的な研究によるものではないです。
そのため、効果がなかったり、または有害であったりする危険性が高いです。
子犬における薬剤投与に関する基本的問題
注意点 | 説明 |
その薬剤の投与は本当に必要か? | 器官機能や身体構造の多くの特性のため、生後3週間の投薬はどうしても必要な小限度に抑えねばならない。 |
その薬剤の子犬への使用経験はあるか? | 成犬への投与は子犬には限定的にしか当てはまらない。 |
投薬前に脱水症は解決されねばならない。 | 体内水分含量は、薬理学上の多くの点に影響を与える。原則として、まず再水和を行い、投薬はその後である。 |
低体温症はどうするか? | 体温は、代謝機能の多くに影響を与えるため、薬剤の作用にも影響する。薬剤の投与の前に、体湿は正常化しておかねばならない。 |
反復投与は本当に必要か? | 代謝と排泄の諸特徴により、多くの薬剤について蓄積の危険性がある。抗生物質の反復投与はやめるべきでないが、非ステロイド系消炎剤の反復投与の必要性には疑問の余地がある。反復治療をしなければならない場合は、投与間隔が短くならないようにする。 |
過剰投与や過少投与を避けるため、体重は正確に測定する。 | 子犬の体重はすぐに変動するので、数日にわたる治療の際は、毎日投与量を調節しなければならない |
吸収の特徴
子犬は成犬に比べて胃内pH値が高く、胃液の分が少ないです。
そのため、経口投与では、酸で溶解されるべき物質は胃をそのまま通過してしまい、
吸収される前に低い胃内pH値の下で分解されていなければならない物質は、わずかしか吸収されません。
したがって、成犬に経口投与が可能であるという記載があっても子犬にはあてはまらないことがあります。
また、特微的なのは、生後24時間は、小腸において巨大分子が分解されずに吸収されることです。
これは、母犬からの初乳抗体の吸収の基礎となっています。
この一時的な吸収能力は、低ガンマグロブリン血症の場合に、抗体の経口投与に利用できます。
皮下および筋肉への薬剤投与の際は、吸収速度が局部の血液循環に左右されることに注意します。
これは、筋肉および皮下においては成犬よりも少ないです。
分布の特徴
体内の薬剤分布は、その物理的および化学的特性のほかに、身体構造、タンパク結合能、および生物学的界面への浸透性によって規定されます。
子犬は成犬に比べて、水分含量が多いです。
- 出生当日:体重の84%
- 14日齢:体重の77%
- 6週齢:体重の70%
- 1歳齢:体重の59%
細胞外と細胞内の水分の比率は2:1です(成犬では1:2)。
身体組成における脂肪組織の比率は成犬に比べて低いです。
この特殊な比率の結果として、親水性の作用物質は、見かけ上、より大きな分布容量を示します。
すなわち、これに対応する作用物質の濃度を達成するためには、体重あたりの処方量を、成犬の場合より多くします。
これに対して、親脂肪性の物質は、脂肪組織の蓄積容量が小さいため、より早く有毒な濃度に達してしまいます。
薬剤の多くは、吸収後、血漿タンパクと結合します。
この結合が効果を規定します。
それは遊離薬剤のみが期待される効果を発揮するからです。
子犬は血清アルブミンおよびα糖タンパクの濃度が低いので、この種の薬剤の効果は強化されます。
代謝の特徴
酸化による代謝過程は、まず第一にミクロソーム酵素によって行われますが、これは4ヵ月齢になってようやく成犬なみになります。
このため、肝臓において不活性化される薬剤は、蓄積の危険があります。
肝臓で初めて有効な形に転換される薬剤は、期待された効果を発揮しません。
この肝臓代謝の特徴の影響を受けるのは、以下のような薬剤です。
- クロラムフェニコール
- サルファ剤
- テトラサイクリン
- トリメトプリム
- フェノバルビタール
- ジアゼパム
- カフェイン
- アヘン剤
- 非ステロイド系消炎剤
- サリチル酸
排泄の特徴
腎機能は4週齢~8週齢で成犬のレベルに達します。
それまでは尿濃縮能力は低く、循環血液量も少ないです。
そのため腎臓経由で身体から排出される薬剤は、より長時間にわたる作用を示します。
たとえばゲンタマイシンの10日齢の子犬における半減期は80分ですが、20日齢の子犬では45分に短縮されます。
腎臓からの排泄遅延が該当するのは、以下の薬剤です。
- アミノグリコシド系抗生物質
- セファロスポリン
- ペニシリン
- サルファ剤
- テトラサイクリン
- トリメトプリム
子犬における個々の薬剤作用の特徴
薬剤によっては、子犬の発育段階に応じて、成犬の場合とは異なる反応を引き起こします。
子犬における薬剤作用の特徴
生理学的特徴 | 作用 |
血液脳関門の高い浸透性 | 成犬では血液脳関門を通過しない物質であっても、望ましくない重度の副作用を起こしうる。多くの麻酔剤の投与は少量に抑えねばならない。ジアゼパムは逆に興奮現象を引き起こす可能性がある。 |
交感神経系の未成熟 | βアドレナリン作動性物質は生後10週間は、成犬の場合に相当するような心機能の増進をもたらさない。 |
心臓の自律神経支配の未成熟 | 生後3週間は、抗コリン作動薬の投与による(成犬にみられるような)心拍の増加は期待できない。 |
高浸透圧液に対する高い感受性 | 高浸透圧液の投与はうまく補正されない。この種の重炭酸ナトリウム液やX線造影剤の静脈内投与後に(経口投与の場合も)、腸内出血および壊死性腸炎の発症が記録されている。 |
薬剤および薬剤群
去痰剤
主な用途は、新生子呼吸困難症候群や気管支肺炎(吸引性肺炎および原発性感染性肺炎)の補助的治療です。
気管支周囲の腺の分泌亢進によって去痰が促されます。
水分の多いさらさらした気管支粘液が多く産生されることで、閉塞性の気道疾患における気道抵抗が低減されます。
その作用は、エアゾール療法によっても高い効果が得られます。
さらに、全身投与を通して免疫グロブリンと抗生物質が気管支分泌液中に増加します。
去痰剤が作用するには、体が脱水状態にあっては危険です。
したがって、十分な水分補給に留意する必要があります。
吸入療法は作用を促進します。
ブロムヘキシンは、0.5mg/kg BWを筋肉注射または皮下注射します。
生後2週間は子犬への筋肉注射は避けます。
反復使用の際は、8時間の間隔をあけることが重要です。
鎮痛剤
子犬は成犬よりも鋭敏な痛覚を持ちます。
これは侵害受容システムの週齢に応じた発達段階によるものです。
肝臓代謝の特性のため、非ステロイド系鎮痛剤の反復使用は、蓄積の危険性があります。
子犬の鎮痛には、メタミゾールを20mg/kg BW投与します(筋肉、静脈、経口。人医用点滴薬 (Novalgin点滴用)を使用)。
この薬剤には鎮痛作用と鎮痙作用があります。
そのため腹部仙痛の治療に適します。
必要に応じて、8時間間隔で反復使用できます。
長期使用は避けます。
メタミゾールのほか、鎮痙剤ブチルスコポラミンの調合剤ブスコパン合剤Buscopan compositunも腹痛によく処方されます。
メタミゾールのみでもすでに鎮痙作用があるので、ブスコパン合剤の投与前に、メタミゾールによる治療で期待される効果が十分に得られるかどうかを確認する必要があります。
腹痛の持続的改善がみられない場合は、ブチルスコポラミンを0.8mg/kg BW皮下投与します。
必要に応じて8時間間隔で反復使用します。
解熱剤
類症鑑別として、子犬がうまく適応できないような高すぎる環境温度は除外します。
薬剤による解熱よりも重要なことは脱水症の予防です。
すでに脱水症状が出ているのであれば、薬剤治療のまえに再水和します。
どの解熱剤にも副作用の危険性があります。
抗生物質
細菌による感染性疾患はただちに命にかかわる状態に発展してしまうので、しばしば抗生物質による治療が必要になります。
その一方で、抗生物質は出生後の腸における細菌叢形成を妨げるので、成犬の場合と比べ、より急速に腸内の細菌叢不全および下痢をもたらします。
可能な場合は必ず、対応箇所のサンプルを取って、関与する病原体を検査し、抗生物質感受性試験を行います。
一連の薬物は、副作用があるため子犬には使用できません。
これらの投与が検討されるのは、病状の進行と薬剤拮抗性のために、他の製剤では代用できない場合に限られます。
子犬にとって負担が少ないのはペニシリン系です。
マクロライド系は胃腸内への副作用があり、セファロスポリンは腎機に対して有毒となる場合があるため、投与は限定的になります。
その場合、特に、アモキシシリンとクラブラン酸の組み合わせの有効性が実証されています。
子犬に対して望ましくない副作用のある抗生物質
薬物 | 副作用 |
アミノグリコシド | 腎臓における排泄遅延 耳への毒性 腎臓への毒性 |
クロラムフェニコール | 酵素期害 |
エンロフロキサシン | 軟骨損傷 |
フラン誘導体 | 限定的投与 |
ナリジクス酸 | 限定的投与 |
ポリミキシン | 限定的投与 |
サルファ剤 | 限定的投与 3週齢以降のみ使用可 |
テトラサイクリン | 成長阻害 歯のエナメル質形成不全 歯の変色 |
トリメトプリム | 限定的投与 |
輸液療法、脱水症
- 子犬はその高い水分含量によって、
- 腎臓の尿産生能の未成熱や皮膚からの比較的高い水分喪失率によって、
比較的すぐに脱水してしまいます。
1日の水分要求量は60~180mL/kg BWです。
8週齢未満の子犬の場合、1日あたり100mL/kg BWを基準に計算します。
脱水は、身体機能の直接的障害をもたらすばかりではなく、薬剤の効果を不十分なものにしてしまうことが多いです。
脱水の臨床的徴候は粘膜の乾燥と皮膚の弾力性の喪失です。
より成長した犬の場合、それに加えて、目を開くと眼球陥没が生じています。
成犬に比べて血液量過多の調整が難しいことに注意します。
そのため、水分を摂取しすぎると容易に肺水腫になってしまいます。
輸液中は呼吸困難の徴候に注意します。
嘔吐は血液量過多の最初の臨床的徴候となる場合があります。
水分摂取量の管理には、子犬の体重を繰り返し測定することが重要です。
体重の1日あたりの増加量が予想を上回っている場合、これは水分摂取過多の指標とみなします。
輸液管理のための尿検査は、腎機能が未成熟であるため、あまり意味がないです。
脱水の臨床的徴候が現れている場合、体重の少なくとも6%の水分喪失が生じています。
したがって脱水症状を示している体重250gの子犬の場合、15mLの不足が考えられます。
- 1日あたり100mL/kg BWの必要水分が想定される場合、1時間あたりの基本的必要量はおよそ1mLです。
- 12時間以上の輸液を行う場合、総量は27mL、したがって1時間あたり2.25mLが供給されねばならないです。
水分喪失の進行は考慮していません。
輸液は静脈内に23~25ゲージの静脈留置カテーテルによって、あるいは骨内に行います。
最初は、腹腔内または皮下に投与してもよいです。
輸液用の液は体温と同等に温め、等浸透圧にします。
子犬は高浸透圧の溶液にきわめて敏感である。
麻酔
それは麻酔剤の代謝と不活性化を含む器官機能がまだ成犬並みの成熟した段階に対応していないためです。
さらに、週齢により特徴の異なる器官構造や水分調節能にも注意します。
麻酔は可能な限り12週齢を過ぎるまで行わないほうがよいです。
麻酔剤の選択の際には、しばしば必要となる投与量の制約のほか、いくつかの特徴を考慮します。
原則として、その効果を制御しやすい薬物を使用します。
表に挙げた欠点はあるものの、比較的長時間の手術の際などには、有効性の実証された麻酔剤を使用します。
ただし、その際は使用に伴う危険性を念頭に置きます。
子犬の麻酔の際に注意しなければならない特徴
危険なポイント | 処置 |
腎機能が限定的であることによる、水分喪失に対する敏感性 | ●手術前に脱水状態を除去および補正する ●静脈輸液(場合によっては事前麻酔) ●静脈輸液が不可能な場合は骨内輸液も可 |
皮下死亡の欠如と、成犬に比べて体積に対する表面績の割合が高いことによる急速な体温低下の危険性 | ●手術中および覚醒期の十分な保温 |
4週齢までの血液脳関門の高い浸透性→モルヒネ誘導体に対する高い感受性 | ●投与量の制限
|
4週齢までの肝臓の未成熟による薬物代謝の遅延→術後睡眠期の延長の可能性 | ●投与量の制限
|
犬に比べて高い酸素需要と酸素消費 | ●麻酔剤注射時の、気管内への酸素チューブまたは頭部吸入マスク経由の酸素供給 |
高いエネルギー要求 | ●低血糖症の危険性。体重3kg以下の個体の場合、手術の1時間前に栄養補給を行う。 ●術後は、5%グルコース液(体重の4%)をいくつかの部位に分けて、皮下投与する。 |
子犬における麻酔剤の選択基準
危険なポイント | 処置 |
生理的な低血圧 | ●血圧を上げるか、血圧に影響を与えない薬剤の使用。(注意:吸入麻酔は血圧低下作用がある。) ●鎮静剤の前投与は、血圧低下の原因となるので行わない。 ●キシラジンは静脈拡張作用およびそれに伴う血圧低下作用があるので使用しない。 |
限定的な肝機能
| ●肝臓によって不活性化される薬剤は使用しない。(吸入麻酔剤など) |
少ない体脂肪含量
| ●脂肪組織への蓄積に作用を依存する薬剤は使用しない。(チオバルビツール酸など) |
吸入麻酔
イソフルラン(酸素100%につき2~3%)およびセボフルラン(酸素100%につき3~4%)を使用します。
子犬では抗コリン作動薬の前投与の作用が低減するのでアトロビンを投与します(0.04mg/kg BWを皮下または腹腔内に投与)。
心臓・時間・用量の効果的な調節は心拍数を測ることでのみ可能です。
血圧低下作用があるので、鎮静剤の前投与は行いません。
ステージ3第2段階までの導入には、頭部マスクまたは全身麻酔を利用します。
その後は気管チューブを挿入します。
死腔容量を縮小するため、市販のチューブは閉口部から気管までの長さに切って使用します。
チューブ挿入が不可能な場合は、マスクで麻酔を続けます。
注射麻酔
完全に拮抗が可能な麻酔剤、混合注射の場合は、
- オピオイド
- ベンゾジアゼピン
- α2作動薬
を筋肉、皮下、または腹腔に投与します。
これらの構成分はいずれも選択的拮抗が可能です。
拮抗剤も同様に混合注射で筋肉、皮下、または腹腔に投与します。
注射麻酔の場合、あらかじめ抗コリン作動薬を前投与します(アトロピン0.04mg/kg BWを皮下または腹腔内に投与)。
子犬において完全に拮抗可能な麻酔剤
麻酔剤の処方(体重1kgあたり) | 拮抗剤の処方(体重1kgあたり) |
フェンタニル0.01mg | ナロキソン0.02mg |
ミダゾラム1.0mg | フルマゼニル0.10mg |
メデトミジン0.03mg | アチパメゾール0.15mg |
下痢の治療方針
消化と吸収の障害、および腸における水分喪失の増加によって、
- 脱水/血液量減少
- アシドーシス
- 電解質不均衡
- エネルギー不足
などが容易に生じます。
さらに、免疫力が低下するために、生理的条件下では病因とはならない病原体によって、ときに命にかかわる全身感染が急激に生じる可能性があります。
治療の基本は不足成分の補充と合併症の回避です。
下痢の原因は、通常、最初の発症時には不明であるため、原因そのものの治療は最初は不可能です。
糞便検査によって、下痢について特定の病因の関与が判明した場合は、これに狙いを定めた処置を取ることができます。
以下の点について、生命を脅かす変調が生じます。
- 体液バランス
- 体温調節
- 酸・塩基平衡
- 電解質バランス(特にカリウムの喪失による)
- エネルギーバランスおよび栄養素バランス
不足を補充するために、可能な限り個別の変調を把握できるよう、対応する検査と診断が必要です。
しかし、残念ながら、幼犬の場合は、解剖学的構造と検査材料の少なさのため、それが不可能であることが多いです。
治療の最初に行うのは再水和です。
水分の供給は、緩衝材が含まれていなくても、循環の改善によって酸-塩基平衡によい影響を与えます。
留置カテーテルの挿入(常にこれを行うよう努力する必要がある)が不可能な場合は、体重の6%の量の乳酸リンゲル液を体温程度に温め、腹腔内に50%、皮下に50%投与します。
吸飲および嚥下反射が保たれている場合は、5%グルコース液を2~3mL経口投与します。
初の全身的再水和は、グルコース液で行ってはいけません。
アシドーシスがある場合、これを強めてしまうからです。
また、至適温度環境の維持も必要です。
子犬は多くの水分を皮膚経由で失ってしまうため、環境中には十分な湿度が保たれねばいけません。
罹患子犬が食事をしない場合、経口栄養補給または非経口栄養補給が必要になりますが、これには多様な製品が市販されています。
パルボウイルス症の治療の特殊性
バルボウイルス症の場合、いくつかの特殊性があります。
適切な治療を行うには、検査成績の管理と継続的な静脈内投与が欠かせません。
罹患犬の当面の病状にかかわらず、特にエネルギー供給および栄養素供給、また、体温調節の面で、さらなる不足状態が急速に生じることがあります。
- 飼育状況(特に気温)および食餌条件を最良の状態にするよう注意する必要があります。
- 感染の危険を軽減するために、便はすぐに取り除き、環境を清潔に保つよう注意します。
パルボウイルス感染による下痢の治療の要点
●再水和は最初は毎時3~10mL/kg BWの乳酸リンゲル液で行う。 再水和が完了したら、乳酸リンゲル液の投与は毎時2~3mL/kg BWに減らす。 |
●再水和後、抗生物質を静脈内に投与する(セファロスポリンなど)。 敗血症の臨床的徴候がみられる場合は、副作用の可能性があるものの、ゲンタマイシン投与の有効性が実証されている(2.2mg/kg BWを1日2回)。 |
●病犬が嘔吐している間は、経口での食餌および薬剤の投与は行わない。 |
●嘔吐がみられない場合は、経口でグルコース加電解質液による再水和を行う(WHO推奨の経口補水液など)。 給餌のタイミングは早すぎてはいけない。腸絨毛が破壊されているため、十分な消化吸収が不可能である。 |
●嘔吐に対する治療(たとえばメトクロプラミドなど) |
●低タンパク血症の場合、ワクチン接種後の犬の血漿を投与する。 |
●免疫血清の投与(スタグロバンStagloban)。これは血中にウイルス増殖がある場合に有効である。 |
●4週齢以降の子犬の場合、組み換えオメガ・インターフェロンの投与は、疾病の進行に対して有効である。 |
強制給餌
湿したカテーテルを、口腔を通して胃に導入します。
これはロの先端から尾側肋骨弓までの距離におよそ相当しています。
カテーテルの正しい位置は、超音波検査で調整できます。
投与される人工乳の量は、エネルギー要求量を基に計算します。